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MXR Dyna Comp
サスティーンと独特のアタック感が放つ心地よいサウンド
カッティングでもリードでも使えるロング・セラー・コンプレッサー
長い年月を生き残り、現在でも多大な支持を集める“ビンテージ・エフェクター”。そのサウンドや特色を試奏動画と共に掘り下げていくのがこのコーナーだ。連載第3回は、独特なアタック感で70年代のウエストコーストやクロスオーバー系のギタリストから広まっていったMXR Dyna Compを紹介してみたい。
MXR Dyna Comp〜その成り立ち
Dyna CompはVol.1の「Distortion+」、Vol.2の「Phase 90」などと共に、MXRの最初期に登場した代表的ラインナップである。赤いボディに黒いプリント。この力強い色の組み合わせは未だに色あせずその存在感を放っている。リリース時期は他機種と同じく、もちろん70年代。当時のウエストコーストやクロスオーバーをプレイするギタリストの間で瞬く間に広まっていったのは有名な話である。
ES-335に代表されるセミアコ系やストラト等に代表されるシングルコイル・ピックアップを搭載したギターとの相性がとても心地よい。クルセイダーズ時代のラリー・カールトンやスティーリー・ダン作品への参加で知られているジェイ・グレイドンらのサウンドが代表例だ。また、国内ギタリストでは高中正義が代表格であろう。それらのサウンドは多くの名盤にも収録されているのでご存知の読者も多いと思う。
そんなDyna Compの魅力は、何と言ってもカッティング・プレイやリード・プレイに特に威力を発揮する点でだろう。最近のギタリストのコンプレッサー離れが目立つ中、今尚リリースされている理由はそこにあるのかもしれない。
MXR Dyna Comp〜その特色とメカニズム
コンプレッサーとは、無線やラジオ放送局からの送信機において、音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するために開発されたのが起源だろう。音響用のコンプレッサーとは、大きな入力を小さく抑え、小さな入力を大きくし、おおよそ均一の取れた音声信号に変換することによって様々な処理を容易にするための道具なのである。
簡単に説明すると、いくつものS字にうねった川があると仮定する。そのうねりのカーブの具合や川の幅も各所まちまちだとする。そうなると、当然ながら、水流のスピードがその部分部分で変わってくる。これでは、その川を進む船は安定したスピードで航行出来ない。コンプレッサーとはそんな曲がりくねった川幅を出来るだけ真っ直ぐにして安定したスピードで船を航行させているようなものだ。とお考え頂ければその効果とシステムを理解しやすいだろう。
コンプレッサーは音響的に実に重要な仕事をしているにもかかわらず、そのサウンドとしての表現/特色はかなり地味なものだ。音の信号の流れを良くするだけのデバイスだから、逆に音に変化があってはいけないのだ。
しかし、コンプレッサーを楽器用のデバイスとして使用した場合、魅力的な効果があった。それは、音声信号を圧縮するためにサスティーンの長さが、通常に比べ飛躍的に長くなるという効果だ。それゆえ世にエフェクターとして登場した時は“サスティナー”と表現されていた。当時の日本の音楽雑誌などでは“無歪みドライバー”と表現されることもあった。
Dyna Compはサスティーンに加えて、独特なアタック感がある音色を放つ事で人気を博した。俗に“高中サウンド”と呼ばれるシングルコイルのリアとセンターのハーフトーンで踏み込んだ時の、何ともいえない"パコーン"という心地よいサウンドがそれだ。Dyna Compが発表された当時に存在していた他のコンプレッサーでは、この"パコーン"という独特なサウンドは得ることが出来なかった。その後に続々と発表された国産コンプレッサーがこぞってDyna Comp風のアプローチだったのは、そのサウンドを再現しようとしたためかもしれない。
70年代から長きに渡り生産され続けている間に、多少の回路変更は見受けられるものの、現行モデルと比べてもそのサウンドにはさほど変化が見受けられない。筆者自身も、古いDyna Compを何台も使用してきているが、強いて言えば高域がやや抜けが良いような印象しかない。
しかし、この音の違いは、他のモデル同様、経年変化による影響が一番の原因と思われる。古いDyna Compでも、個体それぞれ多少の音の違いがあったからだ。以前にも書いたが、エフェクターに使用されているパーツはもちろん寿命がある。誰がどんな環境でどれくらいの時間使用したかで、その出音は変わってくる。"その個体"の出音が気に入った場合はその一台を購入するのが望ましいとは思うが、パーツ自体の使用期限がいつかわからないと言うリスクも伴う。高域の違いにさほどこだわりが無ければ現行品をガンガンに使って自分の音に仕上げるのもまた楽しいだろう。
Dyna Compのサウンドを決定付けるキーとなるパーツは、CANパッケージのICと言えるだろう。これを一般的なICに変更するとたちまち"別物"のサウンドが飛び出す。先にも触れたが、古いものは現行品よりややシャープな出音がするものが多く感じるという点も、実はこのパーツがカギを握っているからかもしれない。というのも、CANのICは湿気や温度の変化に敏感に反応するからだ。エフェクターという性質上、必ずIN・OUTのジャックが付いているが、そこから常に空気が入ってくるため、保管している場所の湿度や温度の影響を受けやすいのだ。どんなエフェクターでもそうだが、長期に渡り使用しない場合は、ビニール袋などに入れてホコリや空気を入りにくくした上で箱に入れ、高温・多湿の環境を避けた保管場所を考えて欲しいものだ。もちろん、電池は抜いておくように。
MXR Dyna Comp〜サウンド・インプレッション
コンプレッサーとして音色を出来るだけ変えずに使用する事ももちろん可能だが、Dyna Compを使用するなら音に変化が出るよう積極的に音色効果を楽しんで頂きたい。実は音が変わることを良しとしないコンプレッサーの世界なのに、音色に変化が出るのがこのDyna Compなのである。エフェクターというポジションで使うのであれば、音は変わった方が楽しいに決まっている。
コンプレッサーの機能として、大きい信号を抑えて小さい信号を増幅するという性質があるためだろうか、OUTPUTは3時位でバイパス時の音量と等しくなるように設計されている。推測だが、OUTPUTの音量をもっと大きく設定しなかったのは、小さな信号を大きくし過ぎてしまうのを防止するためなのかもしれない。ピックアップの信号には多かれ少なかれノイズが乗って来るという宿命ゆえ、そのノイズの部分も増幅してしまうのを避けたかったのではないだろうか。各自で絶妙なポイントを探そう。また、DnnaCompのみにノイズ除去をしてから次のエフェクターに信号を送るという手段もある。
歪み系との相性、クリーン系との相性などは、動画を見て(聴いて)判断して頂くのが最も良いかもしれないが、筆者個人の意見としては、クリーン系に使用した方がDyna Compの持ち味をより引き出せるような印象である。例えばJC120に接続する場合、Dyna Comp → DISTORTION+の順にセットすると驚くほどのロング・サスティーンを得ることが可能だ。以前、実測テストをした時、一度ピッキングをしてから16秒ほども音が途切れずに伸びたほどだ。逆に、歪んだアンプをDISTORTION+と見立てた場合もこの法則は実現できるのだが、最近のギタリストは、ブースターで増幅するという手法で似たような結果を得ているケースが多いようだ。クリーン系で使用した方が良いように感じるの理由はそこなのだが、是非コンプ・ブーストも試してみて欲しい。ブースターでブーストするのとは異なり、音が気持ちよく粘るのだ。
Brand History〜About MXR
1970年代、アメリカに発足したエフェクター・メーカーであるMXR。その後の世界のエフェクターに大いなる影響を与えた老舗ブランドである。その影響力の源泉は、第一にそのサイズであった。積極的に集積回路の部品を用い、ルーチン化した部品を多用することで一気に基板面積を狭くする事に成功し、筐体は当時の他のエフェクターと比べて1/3程度にまでコンパクト化されることになった。また、それまではシルバーや黒が基調になっていた筐体のカラーもカラフルに色分けする事で見た目も素敵に仕上がったのである。そしてその多彩なサウンドと高い耐久性は信頼性を呼び、世界のギタリストがこぞって使用されることになる。その血統は現在も色あせる事無く脈々と世界のギタリストを魅了し続けている。
試奏に関して
サウンドの特色を分かりやすくお伝えするため、シングルコイル・ピックアップ、ハムバッキング・ピックアップのギターと、真空管アンプ、トランジスタ・アンプの代表的なモデルを使用した。
・ギター:ストラトキャスター・タイプ、レス・ポール・タイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000、ローランドJC-120
動画ではマーシャル編、JC120編のふたつに分け、それぞれストラトタイプ→レス・ポール・タイプと試奏を進めている。