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- 2024/11/16
Pro Co / RAT
長い年月を生き残り、現在でも多大な支持を集める“ビンテージ・エフェクター”。そのサウンドや特色を試奏動画と共に掘り下げていくのがこのコーナーだ。「デジマート・マガジン」の連載企画としてリニューアルしてお届けする第4回は、ザリッとした独特な歪み感で熱烈なフォロワーを持つPro Co RATを紹介してみよう。
1978年にプロトタイプが製造され、79年から量産されるようになる。俗に“ラージボックス”等と呼ばれるこの時期のモデルは、いくつかの仕様変更を経て83年頃まで製造された。いわゆるRATとして広く知られるようになった“スモールボックス”は84年から製造が開始される。このモデルもロゴの違いなど何度かの仕様変更を経てRAT2、Turbo RATなどへモデル・チェンジされることとなる。
ここでは、スモールボックスのRATを初期モデルからRAT2まで、4台をピックアップしてみた。“RATミステリー”とも言われる細かな仕様の変遷、一貫したRATのトーンを保ちつつも、微妙な違いを聴かせるサウンドを楽しんでほしい。
RATが日本で初めて紹介された時の衝撃がご記憶にある方には非常に懐かしいモデルではないでしょうか?この四角く重厚な筐体のエフェクターはミシガン州のカラマズーにある「ProCo Sound社」による製品です。現在、広く認識されている"RAT"の原型は1978年に製造されたのが初めてのようです。その当時の筐体は現在のイメージとは違い、ケースの穴加工も1つ1つ手で加工していたようです。しかも、当時は販売の予定がなかったらしく、12個(1ダース)しか生産されなかったそうです。最終的には1つをプロトタイプとして会社が保管し、残りの11台は販売されたようです。
さて、そんな長い歴史を持つRATですが、こちらは、おなじみのスモールボックス筐体に包まれた初期のモデルになります。日本で急に有名になったのは80年代の後半でした。それまで国内で流通していた小型エフェクターは、MXRやBOSSに代表されるようなサイズが主流だったので、このRATのデザインには不思議な感覚を覚えました。
また、市販価格も当時の国産エフェクターの倍ほどという設定もあり、ギタリストに対して凄まじいインパクトを与えました。「高価だけどサウンドはどうだろう?」。誰しもが思う疑問も、"ず太く歪むディストーション"と紹介されたこととジェフ・ベックも愛用という触れ込みから瞬く間にヒット商品となりました。
そのサウンドは、確かにとても歪みます。動画をご覧頂ければ納得頂けますね。DISTORTIONコントロールをMAXにすると、低域がグシュっと潰れるほどです。また、コントロールについて特筆すべき点はFILTERなるトーン・コントロールですが、通常は右に行くほど高域が出るモデルが多いのですが、これはその反対で、右に回すほど、高域を絞る設計になっています。
本家「ProCo Sound社」からリリースされている、RATシリーズには多くのバージョン/モデルが存在するのはご存知の通りですが、中にも最もミステリアスなモデルが日本にだけ存在すと言う伝説はご存知でしょうか?
それは通称「神田RAT」と呼ばれるモデルです。元々、初期のRATにはインジケーターが無く、ON/OFFの状態を確認することが出来なかったため、当時のディストリビューターであった神田商会がアメリカより入荷した後に自社でLEDの搭載と、電源ジャックを取り付け加工をしてから出荷されていました。その出荷台数は極めて少数と言うことしか情報は無く、出荷時期も特定できません。楽器/エフェクターならではのミステリーです。めったにお目にかかれない個体なので、出会った際は是非、実物のサウンドを体験してみてください。
さて、音の方はと申しますと、先出の初期RATと、ほぼ同じサウンドではありますが、心持ち、ソリッド且つタイトなサウンドが感じられます。これは経年変化による変化と個体差が悪戯しているのかもしれません。試奏では、ストラト・タイプとレス・ポール・タイプを使用しましたが、クリーン・アンプで単体使用する場合は歪みを強くするならば、ストラト・タイプの方が低域が綺麗に出るので向いているかもしれません。もちろん、潰れた感じの歪みが必要であれば、レス・ポール・タイプも十分に引き立ちます。
謎多き"神田RAT"。希少なモデルゆえ、エフェクター・ファンに夢を与えてくれますね。
初期のRATには筐体のプリントが2種類あるのはご存知でしょうか? 先出のモデルは、白地に抜きでロゴが黒く残されているもの(通称White Face)。それともう1つは黒い筐体に白文字でロゴがプリントされたモデルです(通称Black Face)。どのような意図でメーカーサイドがロゴのデザインを変えたのかは当時の担当者に聞くしか方法はありませんが、これもまた、RATミステリーとして楽しめるところです。
ここで、後述するRAT2と初期モデルの見分け方をご紹介しましょう。非常に簡単です。現在の楽器店でよく目にするRAT2は筐体の表面に"RAT"とだけ表記されていますね。初期モデルはこれに対し、White Face/Black Face共にRATの文字の左側に“Proco”のロゴがプリントされています。のちに、このスモールボックスRATのリイシューも限定生産で復刻されました。
さて、ここでは神田RATに並ぶ“RATミステリー”をさらに駆り立てるべく(?)、あえて仕様の異なる、おそらくRAT2への移行期モデルと思われるWhite Faceを取り上げてみました。初期型White FaceはBlack Faceと同じく筐体がツルンとした金属の印象ですが、この筐体はRAT2の手触りに近い、いくぶんザラッとした感触です。同じ初期モデルとされるものでも、さまざまな違いはあるものです。それはサウンドにもありました。動画を見て頂くとわかりやすいですが、Black Faceに比べ、低域が少し削られていて、図太く歪ませても、RATならではの持ち味を生かす感じです。従って、こちらの方が、接続されるギターを選ばないという印象です。
RATの進化は回路の変更に伴うものかもしれませんが、RATらしさを損なわなず、出音を維持しているのは流石ですね。搭載しているオペアンプの製造メーカーが異なるものが混在しますが、LM308NがRATならではサウンドのカギを握っているのかもしれません。
中古市場で最も多く見かけるRATがこれだと思います。ご存知RAT2。1988年にリリースされました。ここに来て、1番の変更点がRATに施されます。それは、シルクスクリーンのロゴがLexan/Mylarの暗闇で光る蓄光加工になり、ON/OFFを知らせるLEDが追加されたことです。筐体にプリントされたRATの3文字の"A"の穴の部分が光るのです。このLEDパーツが搭載されることで、最強のRATが完成しました。
サウンドに関してですが、感覚的にはほぼ前述のWhite Faceモデルに近い印象です。基板の取り付け方が近いところからも推移が見受けられます。現在では、RATはDISTORTIONの開きを抑え、ボリュームを上げてブースターとして使用される例が多いようですが、非常に理にかなった使用法です。こういう具合にブースト目的で使用するのであれば、新旧を問わずにRATサウンドを手に入れられるはずです。
ところで、皆さん疑問に思ったことは無いですか? RAT2のLEDの部分ですが、光は認識できるのに多くの他社エフェクターの様に飛び出してませんよね。よ〜く見ると、LEDの上の部分が半透明になっているのにお気づきですか? あれ? RATエフェクターって鉄板で出来ているのでは? 半透明の金属? 不思議ですよね(笑)。実は、RAT2の表面の金属部分には印刷されたシートが貼り付けられているのです。元々半透明の材料に、LEDの部分だけ印刷していないものを穴の空いた鉄板に貼り付けることにより成立しているのです。素晴らしいアイデアですね。印象を壊さずにニーズに答える。長期に渡り人気を誇るモデルはこうした工夫があるからこそでしょう。今回はご紹介できませんでしたが、現行の筐体は傾斜の付いたデザインになっています。RATを所有されてる方は自分のがどれなのか確認するのも面白いですよ。
今や世界で愛されるRAT。これからも少しずつ進化を遂げ世に送り出されることでしょう。
長年、ディストーションとして紹介されているこのRAT達。筐体のコントロールもDISTORTIONと表記されていることや、BOSSのDS-1を意識した設計では?という説もあり、種別はディストーションと認識しがちですが、ギターのボリュームの可変に伴い、歪みが減衰することから種別は"オーバードライブ"になるでしょう。ブースターそして使用していい結果がもたらされる所からも容易に頷けます。初期のモデルは低域がやや潰れ気味ですが、回路の変更や部品の変更があるにも関わらず、一貫したRATサウンドが存在するのは間違いありません。この微妙な音の差異を楽しむのもまた良いものですね。
サウンドの特色を分かりやすくお伝えするため、シングルコイル・ピックアップ、ハムバッキング・ピックアップのギターと、真空管アンプの代表的なモデルを使用した。
・ギター:ストラトキャスター・タイプ、レス・ポール・タイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000
動画ではマーシャルをクリーンにセッティングし、ストラトタイプ→レス・ポール・タイプと試奏を進めている。