AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Greco BM900(1977年製)
唯ひとつのものは始祖と呼ばれる。しかし、それを伝説の域に高めるのは、あとに続くもの達の恐ろしいまでにピュアな“渇望”である──。半世紀もの時を越え、この島国に眠る古き良き国産エレキ・ギターのサウンドを訪ねる歴史プロジェクト「魅惑のジャパン・ビンテージ」。連載9回目となる今回は、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイだけが持つ世界で最もプライベートなハンドメイド・ギター“レッド・スペシャル”……その史上初の量産オマージュとして名を刻むGreco BM900を取り上げる。まだ、憧れと需要の距離が近かった時代。情報を越えた匠の執念が、この世に生まれるはずのなかった「2本目」以降の物語を加速させる。試奏動画でBM900に英国ロックの魂を注入するのは、飾り気のない笑顔が素敵なベテラン・ギタリスト、稲葉政裕氏。記事では、いつも通りのモデル・ヒストリーや詳細データはもちろん、稲葉氏による如才ないプレイ・インプレションも収録している。地球の裏から夢を運び、ファンを狂喜させたGrecoの錬金術。その“特別な紅”に秘められた全てをここに記そう。
グレコ(Greco)・ブランドの進化と発展をもたらしたものは、常に顧客のニーズを貪欲なまでに吸収する柔軟な対応力にあったと言えよう。米国ゴヤ社からグレコの商標を譲り受け正式にジャパン・ブランドとしてスタートする1968年よりも前から、すでにあの有名なバイオリン・ベース(VB)を限定とはいえ、生産、販売にこぎ着けていた点から見ても、その傾向は顕著であったと評価できる。また彼らは世相を読む術に長け、70年代に国内を席巻するであろう本格的なハード・ロックの潮流に乗るべく、他社に抜きん出る形で着々とラインナップの充実に力を注いだのであった。来たる71年、グレコは国産としてはほぼ初となる本格的なレス・ポール・コピー、EG-360の販売を開始する。それまでにも試作的な「レス・ポールっぽい」製品は国内に出回っていたが、それらはどれも精度を欠いた仕様の上、値段も高く、あまり一般的でなかった。それに対し、当時としては破格とも言える36,000円という価格設定と、一目見て誰もが納得のできるあの伝統の美しいシルエットを有したEG-360がユーザーの購買欲をかつてないほどに刺激したことは言うまでもない。事実EG-360は空前のヒット作となり、一躍グレコの名を国産エレキ・ギターのトップ・ブランドへと押し上げた。
そして、そんな折であった。メーカーにあるひとつの依頼が舞い込んだのは。それは、当時すでにトップ・ギタリストとして名を挙げていた成毛滋からで、楽器ショーで見たEG-360を自分に合うようにカスタマイズしたいという要望であった。グレコはそれを受け、単板削り出しボディにした特別仕様のEG-360にバック・コンターとブロック・インレイを入れ、セミ・オープン・ハムバッカーを搭載、さらにそれをセット・ネックで組んだ、最初の「成毛モデル」を完成させる。それは72年以降、EG-800(カスタム)として77年初頭までレギュラー販売されることとなるが、その仕様を見たユーザーから、グレコに、既存の他のレギュラー・ライン製品にも改造を施して欲しいという依頼がひっきりなしに舞い込むようになった。そうした要望にも当初は個別に対応していたグレコであったが、やがてその数が膨大な量に上るにつれ通常の生産体制を圧迫するようになってくると、彼らはその対策としてある画期的な生産スタイルを提案していくことになる。それが、「オーダー・メイド・システム(以下OMS)」である。数種類のパターンを雛形に、ユーザーが好みの仕様を指定できるそのかつてない生産システムへの反響は凄まじく、国内はおろか、海外からも注文が舞い込むほどであった。
OMSを通じて作られる製品は高価ながら、極めて“一点もの”に近いプレミアムな完成度を備えていた。故に、生産に要求されるクオリティは、細部にまで目を光らせるユーザーの欲求を満たせるほどに高く維持されていることが不可欠となり、それは必然的に同ブランドのメーカーとしての技術力の向上を強く押し進める結果となった。そのことが、74年のRW-700にはじまり、75年には同ブランド初のシリーズ化を達成した“MRシリーズ”、さらには77年の“GOシリーズ”や“Mシリーズ”といった、国内メーカーとしては傑出した独自性を発揮する数々のオリジナル・ギターの名品を輩出する土壌となった事実は、歴史の証明するところである。また、コピー分野でも、OMSでリクエストの多かった仕様を1ロット40本にまとめて生産し、オーダー製品と同等の高い品質をより手に届きやすい価格で提供できるようにする「プロジェクト・シリーズ」が76年末から本格的に始動し、益々グレコの生産体制は充実していった。
そんな中、それまでの製品とは一風異なる深紅のギターが、開始間もない同シリーズにラインナップされたことで話題となった。それが、BM900である。元は、大阪のギタリストがOMSを利用して作ったレッド・スペシャルのワンオフ・コピー物であったものが、76年に刊行された「楽器の本(Player別冊)」で紹介されたのがきっかけであった。その、今まで誰も見たことのない完成度の量産型レッド・スペシャル・コピーの美しい姿に問い合わせが殺到したことを受け、急遽正式に生産が決定するという華々しいデビューを飾ったBM900は、たちまちプロジェクト・シリーズの顔として世間で認知されていったのであった。その成功は、“OMSとレギュラー・ラインの中間”というプロジェクト・シリーズ開始当初の位置づけを遥かに越え、追随を許さぬグレコ・コピーにおけるバリエーションの柔軟さ、そして、ファン心理を逃さないタイムリーな開発力を改めて世界に知らしめる結果となった。グレコが創立以来、高めることを怠らなかった「技術力」「リアル志向」、そして「需要へのレスポンス」。そのうちの何かひとつが欠けても達成し得なかった、70年代プレミアム・モダンの象徴──それこそが、BM900というギターなのである。
オリジナルの“レッド・スペシャル(Red Special)”は、英国のロック・バンド、クイーンのギタリストであるブライアン・メイがイチから手作りした、正真正銘の自家製ハンドメイド・ギターである。1963年、まだブライアンが16歳の頃に、ロンドン郊外のミドルセックス州フェルサムにある自宅工房で父ハロルドと共に製作を開始。材料は基本的に日用品やガラクタの寄せ集めを使用しており、指板とボディはオーク(樫)、ネックは100年以上前の古い暖炉の廃材(マントルピース = 暖炉枠部分だったと言われている)のマホガニーであった。それから約2年後の64年10月にレッド・スペシャルは最初の完成を見たが、その後も細かなマイナー・チェンジを繰り返し、仕様が固まるまでにはさらに数年の歳月を要したとされる。
ボディはフィードバックを得やすくするチャンバー(中空)構造で、トップ面上部にfホールを入れる予定であったが結局見送られ、今に至っている。ピックアップは当初、エクリプス社製の磁石に自家製のピックアップ・ワインダーで手巻きしたものを用いていたが、後にバーンズ製の3シングルである“トライ・ソニック”の中をエポキシ樹脂で固定したものに交換された。他にも、斬新な構造のトレモロ・システムや、ピックアップごとにオン/オフやフェイズ切り替え用のスイッチを装備するなど、あらゆる箇所にハンドメイド・ギターならではの個性的な仕様が見受けられる。
弦は、当初「.008、.010、.014、.024、.032、.042」という巻き弦とそれ以外では異なる組み合わせのゲージを使用していたが、今は.009〜.042というライトな標準セット(オプティマ・ゴールド弦ブライアン・メイ・セット2028BM「.009、.011、.016、.024、.032、.042」がデフォルト)を使用している。ネック・スケールが24インチなので弦のテンションはかなりゆるめになっており、それをブライアンはことのほか柔らかいピッキングで奏でたとされる。さらに、ピック代わりに6ペンス・コイン(後に、オーストラリアの5セント・コインも使っていた)を使用し、独自の音色を形成していた。オリジナルのレッド・スペシャルはクイーンのアルバムのほぼ全ての楽曲で使用され、今でもまだブライアン・メイ自身とともに現役である。
ちなみに、ブライアンは1975年の初来日や翌年のツアー時にも、当然、このレッド・スペシャルを携えてステージに上がり、日本のファンに演奏を披露している。BM900の元となったOMSのレッド・スペシャル・コピーを発注した人物にとっては、その来日はまさにタイムリーなイベントだったに違いない。
世界には数多くのレッド・スペシャル・コピーが存在するが、個人製作のものを除き、メーカーとして最初に製品化されたのが何を隠そうこのグレコBM900であると言われている。これの元となったOMSモデルを作る際、グレコの技術者達はもちろん世界で1本しかないレッド・スペシャルを細かく採寸する機会などなかったことから、その作製は、写真等から図面を起こして行なわれたとする見方が支配的である。それは、国産コピー黎明期には決して珍しくない方式ではあるものの、現代のように情報が手に入れにくい中、あれほどの精度でレッド・スペシャルのイメージを作り上げたグレコの成形技術には誰もが驚きを禁じ得なかったことだろう。
BM900はもちろんブライアンからは非公認であったものの、当時は他に有効な量産コピー品がなかったこともあり、「プロジェクト・シリーズ」が終了する80年のはじめ頃まで国内外を問わず売れ続けた。また、83年頃からは再販のリクエストに応える形で、ほぼ同じ仕様のままBM-80として、87年からはBM-90と名称を変えて販売を続け、コピー・モデルとしては例外的なロング・セラーを記録している。ブライアン自身は、当時、自身のレッド・スペシャルの予備器としてジョン・D製作の“ジョン・バーチ・コピー”を傍らに置いていたが、グレコからBM900が贈られた際にはそれを気に入り、「懐かしのラヴァー・ボーイ」のプロモーション・ビデオ内でそれを使用した記録が残っている。だが、後にブライアンは、自身のブランドを立ち上げる際に、BM900に対して批判的なコメントを残している。
公認のレッド・スペシャル・コピーのメーカーとしては、ギルド、バーンズ、ブライアン・メイ・ギター、さらにはガイトンなどが存在し、日本のケイズ・ギター・ワークスが2007年に100本限定で製作した“ブライアン・メイ・スーパー”も、ブライアンのツアーで使用されたことを受けオフィシャル認定されている。一方で、非公式のものに関しては、それこそ数えきれないほどのモデルが過去から現在に至るまで存在する。世界を見渡せば、アメリカ、カナダをはじめ、イタリア、イギリスからオーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、韓国など幅広い国のメーカーにそれは氾濫しており、国内では過去にグレコ以外でもESPやフレッシャー、キッズ・ギター、スターズなどが手がけ、今はセイ・ギターズ等が販売を続けている通り、レッド・スペシャルはもはやレス・ポール等と同じように、ひとつのコピー・“ジャンル”として広義に認知されつつある状況と言えるだろう。
ヘッドストックの形状はかなりこだわっているようだが、ネックのくびれは本物よりも緩やかに作られている。バインディング無し。ペグはグレコ・オリジナル“MH-804C”で、ロトマティック・タイプの3対3配列。オリジナルはほぼ弦が平行のままナットからペグに繋がれるが、BM900の場合は左右のペグ同士の間隔も心持ち広くとられ、センターからややハの字に開いてテンションを稼いでいるように見受けられる。ツマミはオリジナルがパーロイド製のものを多くの時期で採用していたのに対し、こちらは金属製となっており、かなりルックスの相違が目につく。トラスロッド・カバーは専用のもので、大ぶりの白黒2プライ。中心に金色の“Greco”ロゴが刻印されている。ナットはボーン製。
ローズウッド指板。こちらも、バインディングは無し。フレットは、この時期のグレコに多く採用されていたワイド・オーバル・タイプ(弦の接触面が広く楕円を描くようになっている)。ドット・マーカーは、オリジナルと同じように7と19フレット目が2ポイント、そして、12と24の場所には3ポイントが入れられている。
ピックアップはグレコ純正の“PU-90(PUC-BM9)”が3発搭載されているが、オリジナルの“トライ・ソニック”はポールピースが黒くもっと太いため、ルックス的にはあまり似ていない。エスカッションにもこの機種専用となるシルバー塗装された“BMエスカッション”を採用している(オリジナルでは、エスカッション部分がピックガードと一体化しているため、この部分もあまり精度が高いとは言えない)。BM900はストラトなどと同じく3つのピックアップは全て同じ向きで一般的なパラレル構成であるのに対し、オリジナルのレッド・スペシャルはセンターが逆巻き(ハム・キャンセル)であり、しかも全てシリーズ(直列)で組まれていた。故に、両者の間の音質はかなり差があったと思われる。……ちなみに、80年代には、このBM900のピックアップをディマジオ製のDP206(別名ブライアン・メイ・モデル。カバードの3シングルで、トップ面に「B.R.M.」と書かれていた)”に載せ替えるのが大流行した。DP206は80年代の半ばにあったギルド製レッド・スペシャル・コピーに搭載されていたモデルで、オリジナルを意識してかデフォルトでセンターが逆巻きになっていた。ただし、DP206はパラフィン加工(蝋漬け)がされておらず、ハウりやすかったと言われている。
ブリッジにはRW-700に採用されていたものと同じ大柄な“BR-SS6”(当然、オリジナルの様な“ローラー・サドル”ではない)を採用し、ピックガードの上から直接スタッド・アンカーで固定されている。トレモロは純正の“TP-BM”。グヤトーンなどが多く採用していた「シンパサイズ・トレモロ」と呼ばれるもので、構造はムスタングの「ダイナミック・ビブラート」に近い構造を持っていたが、レッド・スペシャルとはその構造がやや異なっている(トレモロ・ユニット写真を参照)。テイルピース部トップのブラック・カバーは5点止めになっているが、オリジナルではネジは1点のみであった。アームは、BM900純正のものはオリジナルと同じように根元に近い部分から曲がっているはずなので、この個体のアームはリプレイスメントされたもののようだ。
1ボリューム、1トーン……だが、オリジナルとは配置が逆(レッド・スペシャルのボリュームはボディ・エンド側)。この灰皿の様なシルバー・ノブもBM900専用パーツ。当時のグレコが、コストをかけてでもルックスの再現度を高めようとしていたことがこれらパーツの独自性を見るとよくわかる。ピックアップのオン/オフ、位相切り替え(動画を参照)用のスイッチ類は、オリジナルでは樹脂製のスライド・スイッチだったが、BM900ではピン・スイッチを採用している。ピックガードは豪華なべっ甲タイプが採用されているが、プロジェクト・シリーズの初期にはオリジナルと同じ黒色のものもわずかに作られていたようだ。このピックガードを黒にしなかった理由は明らかになっていないが、デリケートな権利関係に配慮した末の苦肉の策だと思われる。
セット・ネック構造で、オリジナルとほぼ同じ20フレットからのディープ・ジョイントを採用。接合部はサイドが滑らかになるように仕上げられている代わりに、接合部の中心は高く、強度を持たせる設計になっているのがわかる。BM900のネック・スケールはレス・ポールと同じミディアム(24インチ3/4)だが、実際のレッド・スペシャルはショート(24インチ)スケール。しかも、24フレットであることを考えると、オリジナルがいかに特殊な構造のギターであったかがわかる。
オリジナル・レッド・スペシャルのヘッド角が4度しかなかったのに対して、このBM900のヘッドは約14度ある。この違いが、両者の弦のテンションに決定的な違いを生んでいる。また、写真にある様なボリュートもオリジナルにはない。
ボディはマホガニー。フラット・トップで、バック・コンターは無し。かなり幅の広いバインディングが豪勢に巻かれている。本物のレッド・スペシャルはホロウ構造であったが、このBM900はピック・ガード下のザグリを除けば完全にソリッド構造のギターであった。その構造故に、後に現れる他社製の精度の高いコピーとは決定的に異なる、このギターにしか出し得ない音色が生まれたのもまた事実である。
実は、オリジナルのレッド・スペシャルのトレモロは、ムスタングのような可動域の大きいフル・フローティング・タイプではなく、ゼロ地点(釣り合った状態)からではアーム・アップの可動域がほとんどないバランスとなっていた。オリジナルにはバックのスプリング・キャビティも存在せず、バネはボディ・エンド側に真っ直ぐ突き抜けた穴から長いドライバーを差し込んで調節するスタイルであった。それに対し、BM900はシンパサイズ式なので、トレモロ部分は“浮き”状態がデフォルトで、写真の通り前方に張ったスプリングで、ダイレクトに弦の張力と釣り合うように設計されている。こちらは、まるでストラトの様なバック・キャビティ構造を持っているため、スプリングへのアクセスはムスタングよりも遥かにやりやすい。
1978年発行、VOL9のグレコ・カタログ表紙と、34ページに掲載されたBM900。
とにかくこのルックスでしょ。いやー、これが出た当時、クイーンのファンは喜んだでしょうねぇ。確か、ブライアン・メイってすごい学者だったんですよね、天文学かなんかの。そんな凄いエリートがあのカーリー・ヘアーで演ってるってだけで、ものすごいインパクトでしたからね。そのギャップがある上に、ギターも今で言うところの“D.I.Y.”ってやつだし、怪しげなスイッチがいっぱい付いてるし……で、憧れちゃうのもわかりますよ。でも、私なんかは、ちょっと別の理由で執着してまして、ハイ。元のレッド・スペシャルって“暖炉の木”を使ってるって言われてたんですよね。だから「暖炉の木って一体どこの部分?」ってなことばかり気になっちゃいまして(笑)。だって、気になりません? 私、今でも凄く知りたいです。結局、それって詳しいことは本人にしかわからないことなんでしょうけど。色んな見方がありますけどね、やっぱり、このギターってどこか惹き付けられるんですよ。昔から“特別”なものだったんだなって印象はありますね。
このBM900はソリッド・ボディだから、中が空洞だった本物とはずいぶん違うんだろうけど、持った感じのバランスは凄く良いですね。そういえば、レッド・スペシャルのコピーものを使ってる人はみんなカール・コードを使うので、何でかなーと思っていたけど……もしかしたら、オリジナルみたいにホロウ構造のやつだとボディが軽くてヘッド落ちしちゃうのを安定させるためだったのかな。なるほど、そう考えると、このギターはソリッドで安定してるからカール・コードじゃなくても弾きやすくはありますね。それに、このネックも良いですねー。これだけ外してストラトに付けたいくらい(笑)。オリジナルのネックが太かったって言うのは、きっとトラスロッドとの関係で当時は太くないとダメっていうのがあったんじゃないかなぁ。弾きやすさだけで言えば、BM900のこの感じは、むしろオリジナルをそれほど正確にコピーできてなかったことが逆に良い方に出ちゃった気はしますね。あと、私はこのポジション・マーク、これ、グッド・アイディアだと思います。12フレットごとに3つドットって、他には見ないですよね? 私は24フレットって苦手なんですけど、これはホントにわかりやすい。全体的に見てもこのギター、70年代に作られたものとは思えないクオリティの高さがありますね。
ソリッドな感じだけあって、そんなにフィードバックはないかな。でも、硬貨で弾くと音がすぐハウるんで、ギター側の音量自体をあまり上げられない。まあ、オリジナルとはピックアップからして違いますからね。これはリアのパワーが思ったほどなくて、“割れ”て来ないんですよ。むしろ、フロントだけの方が断然に音がイイ。ブライアン・メイ本人は結構な割合で全部のピックアップをオンにしていたみたいだけど、このギターの場合、このままそれをやってしまうと歪みのバランスが悪いっていうか……コンプ入れても全体の底上げをしにくいっていうのは、手強いですねー。ただ、これは結構弦のテンションがあって、そこが本物とは違う気もしますから、一概には言えませんけどね。音はハイ上がり気味。ストラトを彷彿とさせるようなわりと枯れたサウンドで、カリンカリンします。ブリッジが多少浮き気味なんで、もうちょっと下げてやれたら、リアも扱いやすい音になっていた様な気もしますが。ひとつずつスイッチをオンにするピックアップっていうのは、当時はあまり無かったから、ただ見た目が派手なだけに見えるかもしれないですけど、こういうギターではやっぱりここから音を作っていくのがセオリーなんでしょうね。これでどのポジションにするかで結構音も変わりますから。
●システム:試奏器/Greco“BM900”(ギター)→MOOER“SOLO”(ディストーション)→Shin's Music“Baby Perfect Volume”(ボリューム・ペダル)→t.c.electronic“Mini Flashback”(ディレイ)→Fender“’68 Custom Deluxe Reverb”(アンプ)
*上記システムを基本とし、サブとしてG-Life Guitars“GEMINI BOOSTER”(ブースター)とMXR“Dyna Comp”(コンプ(プリ))、とARION“SPH-1”(フェイザー)、そして同じくARIONの“SCH-ZD”(コーラス)を適宜追加しながら使用。また、ボリューム・ペダルからの分岐でモリダイラ“Bit Tune”(チューナー)を常設。
●マイク&レコーダー:マイクはSHURE“SM57”をオンマイク、コンデンサー・マイクをアンビ用として使用し、ZOOM“H6”レコーダーで収録した。
試奏手順は、まず、試奏器“BM900”の状態チェックを稲葉氏本人に行なってもらうことから始まる。音量を調節しながらアンプを平時クリーンな状態にセット。歪みは基本的にエフェクターで作ることとし、“Dyna Comp”とアリオンのフェイザー、そして空間系エフェクトとの相性を続けてテストしていく。ピックアップの出力差を埋めるべく、歪みをブースターとして使いながら音を作っていくが、リアが絡むとハウるか歪みが足りないかの二極化になってしまうため、歪みはフロントをメインで組み立てることにして録音作業に入った。
いったん弾き始めると、ネックの状態の良さからか稲葉氏の運指は軽く、フレーズまわしも軽快そのものであった。ピックアップは相変わらずピーキーだったが、その分、本家のブライアン・メイのような強い歪みとは異なる、どちらかと言えばクリーンなフレーズ・ワークにあえて手を伸ばして、BM900サウンドの新しい可能性を次々と引き出していく稲葉氏。程良く収録も進んだところで、6ペンス・コインならぬ「100円弾き」に挑戦開始。6ペンスよりもかなり小さ目な硬貨であったが、稲葉氏はさすがの対応力をみせ、その音の引き出し方もすぐにマスターしてしまった。やがて「Brighton Rock」風のサウンドも飛び出したところで、気持ち良く収録は終了した。
中古からビンテージまでエレキ・ギター700本以上、エフェクター500点以上、さらに数多くのピックアップ、パーツ、小物等、圧倒的な在庫量を誇る、都内でも有数の中古/ビンテージ・ショップ、TC楽器。今回の試奏器、Greco BM900はTC楽器の在庫からお借りしたものだ。国内外のブランドを問わず、ビンテージから中古楽器まで幅広いラインナップを扱うが、中でもジャパン・ビンテージの在庫を豊富に揃えているのは、ファンにはたまらないところだろう。2Fはアンプも大量に扱っており、気になったギターがあれば2Fの好みのアンプで試奏出来るのも同店ならではの嬉しい環境と言えるだろう。販売される楽器は専門スタッフの手により、完全に調整・クリーニングされ、詳細なスペックを調べた上で、その楽器に正当な評価をして販売されている安心のショップだ。
・TC楽器 1Fエレキギター売場
稲葉政裕(いなば・まさひろ)
1960年、大分県生まれ。ベテランにして、時勢にとらわれない磊落なサウンドで人々を魅了し続ける、国内屈指の職人ギタリスト。正確無比な技巧に裏打ちされた創造性豊かなフレーズ・ワークを活かし、小田和正をはじめ、吉田拓郎、渡辺美里、平原綾香など多くのアーティストのステージ・サポートやレコーディングで多大な実績を残す。また一方で、熱心なストラト研究家としても知られ、特にビンテージ・フェンダーに関する知識ではマニアも裸足で逃げ出すほどの博識で通っている。自身が所属する『Far East Club Band』をはじめ、都内を中心としたあちこちのクラブ・イベントやライブを精力的にこなし、セッション漬けの多忙な日々を送る。
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