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  • 魅惑のジャパン・ビンテージ Vol.6

Greco M900〜feat.稲葉政裕

Greco / M900(1978年製)

完成された主張というものは、時を経て尚、決して色褪せることはない。“古いのに新しい”──そんなものが、果たしてこの世にいくつ残されているというのだろうか。混沌の世紀を超え、幾度も見出される度に価値を高めてゆく国産ギターの名器たちを紹介する企画「魅惑のジャパン・ビンテージ」も、この度で第6回となる。検証する個体は、そのあまりにフェティッシュなシルエットにより熱狂的なファン層を持つGreco“M(ミラージュ)”シリーズから、トータライズされたサウンドで人気の“M900”をチョイス。奏でるのは、毎度鮮やかな指使いで豪放なリードもお任せの職人・稲葉政裕氏。記事では、話術の方も滑らかな稲葉氏の楽しいインタビュー・トークと共に、モデルの詳細なディテールも余さずご覧いただける。漲るロックの気風、それは、個性の時代の始まり。あまりにも唐突に手渡された自由と平等の精神が、東洋の果てで儀形を尊ぶ人々の心に触れた時、世界に認められたもうひとつのジャパン・オリジナルによる系譜……純国産変形ギターの正嫡 “M”は誕生した。今もまだ輝きを失わない、その鮮烈なスタイルから放たれる“幻惑”のトーンをご堪能あれ。

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美しい姿態で文化に根を下ろした、国産ロック・ギターのシンボル

 70年代中期というのは、日本におけるギター産業にとって、あらゆる意味で大きな変革が求められる時代であった。それは、すでに国内の有力なエレキ・ギター・ブランドとして広く認知されていた神田商会のグレコ(Greco)にとっても同様で、肝煎りだったオリジナル・ラインであるMRシリーズを軌道に乗せたばかりだったにもかかわらず、世の趨勢に常に敏感であらねばならない彼らにとってすでに看過できかねる課題が発生していたからである。そのひとつに、徐々に国内でもその勢力を拡大しつつあったハード・ロック・ブームの台頭があった。

 当時、商標問題の軋轢もあり、レス・ポールのコピー・モデルとして日本のニーズに適応していた“EG”シリーズの開発が停滞する中、既存のモデルだけでは対応しきれないこうした新しい音楽シーンに対して、国内用の独自モデルを用意する事が急務となるであろう事は火を見るよりも明らかであった。だが、各社が競うようにオリジナルの開発を進める段階にあって、その主流がフュージョンの流行とアレンビックに端を発した西海岸勢力──「スルー・ネック・スタイル」に傾倒していく情勢が、そうしたどちらかと言えばトラディショナル・スタイルの延長といったラインの開発に歯止めをかけたのは間違いない。すでに時期主力器と定めていた“GO”シリーズの開発を急ぐグレコにとっても、全くの同時期にオリジナルを含めたさらに局地的なスタイルのロック専用ギターを開発するには、あまりも時期が悪かったと言わざるを得なかった。

 だがそんな折、ひとつの転機が訪れる。1977年3月に来日を果たしたKISSのポール・スタンレーが、星野楽器のアイバニーズとシグネチャー・モデルを含むギター開発の契約を結んだのである。当時、星野楽器(アイバニーズ)と神田商会(グレコ)はその主力ギターの製造を富士弦楽器製造(現フジゲン)に委託していた縁で強力な提携関係を結んでいたことが、グレコにとって幸いした。そのポール・スタンレー監修による新しいギターが、すでに海外で評価を受けていたアイバニーズの既存モデル“2663”を元に作られるという情報を得たグレコは、他社の契約に乗じる形で、そのニュー・モデルを基軸にした国内専用モデルの製造・販売ルートを瞬く間に獲得したのであった。そうして、製造元を同じくする全く同一のボディ・シェイプを有したギターが、それぞれ別の会社によって並行開発されるという前代未聞の経緯をたどり完成する事になったのである。

 グレコは同年11月に、早速その第1弾となるモデル“M800”を、さらに翌年にはそれに連なる4つのラインナップを揃え、ついに国内市場に打って出る事となった。その結果、78年に“2663”から派生した新シリーズの名称を“IC(=通称「アイスマン」)”に統一し直したアイバニーズに対し、グレコのモデルは『蜃気楼』を表す“M(=通称「ミラージュ」)”と呼称され、双子のようなこれらのギターはその斬新なシルエットと共に日本の変形ギター史における金字塔として、その後も長く愛され続けることとなっていったのであった。国内大手ギター商社による特殊な契約が生み出した“M”……それは、幻影とはほど遠い、ファンダメンタルの力学が市場の原理を動かした、過渡期におけるジャパン・スピリットの“形”そのものだったのかもしれない。

Greco / M900(Back)

M900とその系譜

 グレコ“M”シリーズは、同社オリジナル・ラインのフラッグシップである“GO”シリーズと同時期に発売されたモデル群である。最初にこのシリーズが正式に国内の広告に登場したのは77年の11月で、その時のラインナップは、まだ国内初となる「トリプル・コイル・ピックアップ」を搭載したM800だけであった。だが、翌年の78年になると、“M”は最上位モデルのM1000とそれに続くM900、さらに下位のM700、M600を加えた全5種のラインナップを揃えるようになる。それら初期“M”シリーズ最大の特徴は、その5つのモデルに全て異なるピックアップを搭載していた点で、ボディ・マテリアルの差別化以上に、それぞれのピックアップの音色がモデルの個性を分けていたとされる。

 また、それらはブリッジ&テイルピースをはじめとしたいくつかのパーツを“GO”シリーズと共通にしていた事で高いクオリティを保っていた。79年にはそのほとんどのモデルで細かなマイナー・チェンジが行なわれ(M1000は、発売後すぐにボディ材を含むいくつかの仕様変更がすでに一度なされていた。その際に、最初期にしか見られないバイオリン・カラーも廃止された)、その後はカタログ落ちを繰り返しながら、全てのモデルが82〜83年頃まで生産が続けられた。

 それから約10年後の93年に、“M”はチューン“オー”マティックを搭載したM-90と、フロイドローズ仕様のM-110FRとして復活を果たし、さらに95年にはボディ・サイズをひと回り小さくした新しい“M”であるMS-600、MS-700、さらに98年にはシリーズ初のバリトン・ギターとなる“MSB-1000”を登場させることとなる。そして生誕25周年目の2002年に、“M”はラインナップを再度一新し、78年製M900を採寸し直して誕生したM-120とその上位機種M-150という厳選機種にそのラインを絞り込んでいった。そして30周年の2007年にはリミテッド・エディションの“BLACK DIAMOND”が豪華な仕様で登場することとなる。

 一方、グレコ“M”シリーズの歴史の中で、実は、公式に「ポール・スタンレー・モデル」とされるのは78年にMUSIC LAND KEYがショップ・オーダーした100本限定のMK-780PSのみである。2007年の“BLACK DIAMOND”はKISSの曲名にもある通りのネーミングでいかにもそういった雰囲気があるが、グレコからそれがKISSもしくはポール・スタンレー・モデルであるとの正式なアナウンスは無い。ちなみに、グレコは、正式に“M”シリーズをラインナップする前の1975年頃、国内の楽器フェア用にすでにアイバニーズ“2663”とほぼ同形状のオーダー・モデルをプロトとして何本か卸している。これは、当時から個体形状をアイバニーズから流用するコネクションが出来上がっていたことを示す貴重な証拠である(当時のものは筆記体の「GRECO」ロゴ)。

*「ミラージュ」と「アイスマン」
 国内ではアイバニーズ“IC(アイスマン)”よりも圧倒的な知名度があり、KISSのポール・スタンレーの名とよく結びつけられがちなグレコ“M(ミラージュ)”だが、上述した通り、実は両者の間にはほとんど直接的な結びつきは無い。正式なポール・スタンレー・シグネチャーとしては、やはり78年から発売されたアイバニーズの“PS10(IC1100)”が本筋(近年、再びアイバニーズとポールの契約が復活し、新たなシグネチャー・モデル“PS1CM”、“PS10 BK”、“PS120 BK”をラインナップしている)と言えるだろう。そもそも“IC”シリーズ自体が、アイバニーズとポールの契約によって生まれたものであり、そのラインナップの音作りにはポール自身が多くのアイディアを寄せている事実がある。また、“M”の先駆的使用者と噂されるスティーヴ・ミラーだが、実は彼が使ったモデルも“M”ではなく、“IC”シリーズの元となったアイバニーズ“2663”である。そして海外のメーカーがオマージュしたのも、“M”ではなく“IC”の方だ。しかし、それは“M”が劣ったモデルだったわけではなく、元々海外向けであったアイバニーズのラインの方が、最終的に知名度で上回っただけにすぎない。ミュージシャンとの提携による知名度で輝かしい実績を残した“IC”と、国内で数々のフィードバックを得ながら新たな可能性を模索し続けた“M”。それはまさに光と影、故郷を同じくする表裏一体の存在なのである。

ミラージュの使用アーティスト

 残念ながらM900にはそれほど著名な使用者はいなかったようだが、その上位機種M1000の使用者として、チープ・トリックのリック・ニールセンがいる。彼は神田商会の故・奈良氏よりメタリック・ブルーの“M1000”を送られ、その後何年か気に入ってそれを使用していた実績がある。また、映画「スウィング・ガールズ」では、赤いM-120を女優の関根 香菜が演奏するシーンがある。

M900のディテールを見る


ヘッドストック

 独特の形状を持つ“M”のヘッドは、同時期のグレコ製ギターの中では最長を誇る。ヘッド・バインディングは白黒2層。83年頃までの初期シリーズのロゴは全て“M”シリーズ専用のトラスロッド・カバー上にゴシック体で記載されたが、その中には文字の細いタイプと太いタイプが混在していた。試奏器は「太ロゴ」仕様。ペグはグレコのオリジナルで、8角ポストが特徴的なMH-901C。オフィシャルなM900のカタログ・スペックには、マシンヘッドにMH-900C(横軸の角が丸くなく、直角なタイプ)が搭載されている旨が記載されているが、実際には、最初期以降、徐々にこのペグに移行していった模様。シリアル・ナンバーは先頭のアルファベッドを除いた次の2桁が、「19○○」年製を表す。


フィンガーボード

 厚めのネック・バインディングとジャンボ・フレットから、当時のロック・ギターの流行をよく表している。指板は、初期シリーズ全て共通の上質なローズウッドが使用されていた。ポジション・マークには白蝶貝の“パラレログラム(平行四辺形)”を採用。このインレイを持つのは、歴代“M”シリーズ全てを通じて上位機種のM1000とこのM900のみである。


ピックアップ

 “M”全シリーズ中、唯一デフォルトでフル・カバードのデザインを持つピックアップP-1を搭載していたのがこのM900だ(P-1は77年以降の後期型MR1000等にも採用されたグレコ製オリジナル・ピックアップ)。構造は4芯シールド・タイプで、配線次第ではコイルタップ等も可能であった。カバーはニッケル・カラーが基本だが、オプションでゴールド・タイプも存在していた。エスカッションは黒。


ブリッジ&テイルピース

 ブリッジには、10mmもの可動範囲(当時のチューン“オー”マティックは通常6mm程度の可動範囲しかない)を持つワイド・トラベル・タイプのBR-GOを採用。ブリッジ本体は2本のスタッドでサステイン・プレートの上に固定される。初期ラインナップの“M”には全てこのブリッジ(サステイン・プレート付き)が採用された。一方、テイルピースにはアイバニーズのジブラルタル方式によく似たクイック・フック・タイプのTP-GOを搭載。三角飾りもアイバニーズと酷似しているが、あちらが「雲型」と呼ばれたのに対し、グレコ製のものは「柊(ひいらぎ)型」と呼ばれており、微妙に形状が異なる。ブリッジ及びテイルピースにはそれぞれ“GO”の名が付く通り、これは元々当時のGOシリーズ(初代GO-1400等)用に開発されたものを流用している。ちなみに、これらのパーツにBG-GO、TP-GOという名称がついたのは1980年代からで、それまでは、「GO用ブリッジ」、「GO用テイルピース」などと呼ばれて使用されていた経緯がある。


コントロール

 わかりやすい2ボリューム、2トーン仕様。ノブは、こちらも“GO”シリーズに付けられていたものと同じ「ノンスリップ・ノブ」を採用。透明なハット・タイプの上部にのみ滑り止めのラバーを撒き、視認性と操作性を両立させた高性能なコントロールで、当時から高い評価を得ていたパーツである。アウトプット・ジャックはボディ・フロントに設置。


ネック・ヒール

 ネック・ヒール部は段差のあるレス・ポール風のオーソドックス・スタイルで、セット・ネック仕様(同時期の“M”ではM600だけがデタッチャブル・タイプ)。ストラップ・ピンはコピー・モデル等で使用されていたグレコ製の汎用タイプと同じもので、ジョイント部の中心位置よりほんのわずかに右側(上側)に打たれている。


ヘッド・サイド

 横から見ると、ヘッドの特殊形状に合わせて、ペグの設置間隔が均等でないのがよくわかる。初代“M”シリーズのヘッド角は全て14度。この時代お決まりのボリュートも健在。ちなみに、このM900を忠実に採寸してリイシューされたM120(2002年〜)にもボリュートは付けられている。ナットはインサート・ナットを採用(パーツ以外の構造寸はほぼそっくりにM900をコピーしたとされるM120だったが、このナット部分だけはライド・ナット・タイプに変更されていた)。ネック材はメイプル。


ボディ・サイド

 トップは、ほぼフラット(アーチというほどでもない微妙な傾斜がある)で、印象的なカギ状のホーンを形成するカッタウェイの最低部がフロント・ピックアップのすぐ横まで達しているのがわかる。バインディングは表側のみで、ヘッドと同じ2層タイプ。ボディはマホガニーで、程良い重量感を残すほどの厚みに保たれている。また、ここからは見えないが、バック・コンターは上側のみに薄く広めに入れられている。


アッセンブリー

 “M”のリア・プレートはプラスティック製で、メイン側はGO用の変形6角形タイプの黒、セレクター側にはEG用の三点丸形のアイボリー・バージョンがデフォルト。メイン・キャビティのグラウンド用にはアルミ箔が貼られており、サイドには導電塗装跡も見える。興味深いのは各ピックアップのボリュームとトーンで1つのキャパシタを共用している点。これでグラウンド・ループが発生しないのか、興味深い配線だ。


稲葉政裕’s インプレッション
「スタンダードなモデルに行きがちな時にこそ、手に取って欲しいギター」

●“M”発売当時の思い出

 すごくインパクトのある形ですよね! いわゆるファイヤーバードとかボディをカットしたクラプトンのエクスプローラー的な位置で、ステージでショーアップする時には絶対に映えるギターだから、憧れた人が多いのもわかる気がします。でも、これが出た78年頃って、私はギターに関して「もう、ロックはいいかな」みたいに凄く保守的になっちゃってた時代でして……エレキ冷戦時代的な(笑)。フライングVとかに憧れたもっと若い頃に出会えていたら、きっと好きになったギターじゃないかなって思うんですよ。せめてあと5年早くこういうギターが出ていてくれたらなぁ。元々、私のロックンロールはジョニー・ウィンターっていうところもあったので。まあ、今でこそKISSが好きな友達と演奏するのにレパートリーも何曲かありますし、そこまで苦手意識はないんですけどね。このギターのルーツにスティーヴ・ミラーがいるなら、もっとブルースなんかでもイケてたのかもしれないですよね。

●ルックス、演奏性

 変形ギターなのにバランスが凄くイイ。コンターもちゃんと入ってるし、持ちにくさみたいなのが全然無くて、思ったよりもスタンダードな要素を感じました。材の通り、ギブソンとフェンダーのちょうど中間って印象ですね。パーツもよく吟味されていて、ほら、やっぱりこのフルカバー(ピックアップ)、最高です! まさに、ロックって感じで。それにこのゴムの入ったノブも凄く回しやすくて好きですね。インレイは古いエピフォン(“Texan”等)みたいな感じで、これはこれで存在感あります。せっかく目立つギターなんだから、個人的にはテイルピースの飾りはもっと大きくても良かったかな。ライトにあててギラギラさせたいですね〜。気になったのは、ちょっと思った所にネックが来てない感じがする所かな。ヘッドが大きいからそう感じるだけなのかもしれないけど、ちょっとだけこう……手が「内側に戻っちゃう」っていうか。チョーキングすると“滑る”感じも独特だし、弾きこなすには少し慣れが必要かな。いずれにしても、こういうルックスなんで、「木造人形」みたいに華奢なロッカーがしゃなりと弾くには、すごく実用的でご機嫌なデザインだと思いますよ。

●サウンド

 ピックアップの出力自体はそれほどでもないんだけれど、ボディがマホガニーだからかな……ハイが凄くよく出る。特にクリーンでコードを弾くとトレブリーで、リアは結構音が前に出ちゃって耳に刺さってくる感じかな。そのおかげで“Orange Squeezer”との相性は思いのほか悪くなかったけど、必要に応じて上をちょっと下げてセンターに入れる事で、“痛い”部分を切る必要もあるかもしれませんね。ただ、オーバードライブはさすがにバッチリです! いくら強く弾いてもニュアンスがちゃんと出せて、歪みも分厚い。だから、こういうギターには小賢しい演奏は必要ないと思う。ダイレクトにマーシャルに入れて、8ビートなんかをゴリゴリ刻んでやると相当イイ感じになるはずです。……音楽と楽器のクオリティが上がってくると、スタンダードなモデルに行きがちじゃないですか。そういう時にこそ手に取って欲しい楽器だと思います。見た目は「お魚照り焼き風」で美味しそうだし(笑)。「魅せるギター」って、やっぱり、こうじゃなきゃいけないよね。

試奏環境について

●システム:試奏機/Greco“M900”(ギター)→MOOER“SOLO”(ディストーション)→SHIN'S MUSIC“Baby Perfect Volume”(ボリューム・ペダル)→TC ELECTRONIC“Mini Flashback”(ディレイ)→FENDER“’68 Custom Deluxe Reverb”(アンプ)
*上記システムを基本とし、サブとしてDAN ARMSTRONG“Orange Squeezer”(コンプ(プリ)、70年代オリジナル)とARION“SPH-1”(フェイザー)、そしてMAD PROFESSOR“Sweet Honey Overdrive”(オーバードライブ)を適宜追加しながら使用。また、ボリューム・ペダルからの分岐でモリダイラ“Bit Tune”(チューナー)を常設。
●マイク&レコーダー:マイクはSHURE“SM57”をオンマイク、コンデンサー・マイクをアンビ用として使用し、ZOOM“H6”レコーダーで収録した。

 試奏手順は、まず、試奏器“M900”の状態チェックを稲葉氏本人に行なってもらうことから始まる。音出しを開始した早々、ギターのアウト・ジャックにガリが発生。テスト・ケーブルのプラグとの相性が良くなかったようで、シールドをプロビデンス製に交換し音を安定させる。続いて、音量を調節しながらアンプを平時クリーンな状態にセット。リアの音色を調整するため、通常はフラット状態のアンプをややハイ・カット気味にセット。歪みは基本的にエフェクターで作ることとし、“Orange Squeezer”とアリオンのフェイザー、そして空間系エフェクトとの相性を続けてテストしていく。最後に、再度ギターの運指テストとピッキングの確認作業を行った後、録音作業の運びとなった。
 最初は“M”独特のネック・バランスと指板の感覚に馴染まない様子だったが、収録が進むにつれそのプレイは次第に安定感を増していった。柔らかいタッチながら、マホガニー・ボディ独特の乾いた歪みを上手く弾き出すように押し引きを活かしたテイクを重ねていく稲葉氏。最終的には豪快なロック系のリフやリードもどんどんとハマるようになり、「ロックンロール・オールナイト」風のフレーズも軽快に飛び出したところで、70年代の熱い空気を残したまま録音作業は終了した。

TC楽器 1Fエレキギター売場

 中古からビンテージまでエレキ・ギター700本以上、エフェクター500点以上、さらに数多くのピックアップ、パーツ、小物等、圧倒的な在庫量を誇る、都内でも有数の中古/ビンテージ・ショップ、TC楽器。今回の試奏器、Greco M900はTC楽器の在庫からお借りしたものだ。国内外のブランドを問わず、ビンテージから中古楽器まで幅広いラインナップを扱うが、中でもジャパン・ビンテージの在庫を豊富に揃えているのは、ファンにはたまらないところだろう。2Fはアンプも大量に扱っており、気になったギターがあれば2Fの好みのアンプで試奏出来るのも同店ならではの嬉しい環境と言えるだろう。販売される楽器は専門スタッフの手により、完全に調整・クリーニングされ、詳細なスペックを調べた上で、その楽器に正当な評価をして販売されている安心のショップだ。
・TC楽器 1Fエレキギター売場

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製品情報

Greco / M900

【スペック】
※試奏モデルのスペックとなります。●年式:1978年 ●色:ブラウン・サンバースト(BS) ●マシンヘッド:MH-901C x 6 ●指板:ローズウッド ●フレット:22 ●ネック・スケール:ミディアム ●ネック材:メイプル ●ネック・ジョイント:セット・ネック ●ボディ材:マホガニー・トップ+マホガニー・バック ●ピックアップ:パッシブHH/グレコP-1 x 2 ●ブリッジ&テイルピース:BR-GO & TP-GO ●コントロール:2ボリューム、2トーン、3wayピックアップ用トグルSW ●発売時価格:90,000円
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プロフィール

稲葉政裕(いなば・まさひろ)
1960年、大分県生まれ。ベテランにして、時勢にとらわれない磊落なサウンドで人々を魅了し続ける、国内屈指の職人ギタリスト。正確無比な技巧に裏打ちされた創造性豊かなフレーズ・ワークを活かし、小田和正をはじめ、吉田拓郎、渡辺美里、平原綾香など多くのアーティストのステージ・サポートやレコーディングで多大な実績を残す。また一方で、熱心なストラト研究家としても知られ、特にビンテージ・フェンダーに関する知識ではマニアも裸足で逃げ出すほどの博識で通っている。自身が所属する『Far East Club Band』をはじめ、都内を中心としたあちこちのクラブ・イベントやライブを精力的にこなし、セッション漬けの多忙な日々を送る。
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