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- 2024/11/16
Maxon / D&SⅡ/D&SⅡ OD-802
好評「ビンテージ・エフェクター・ファイル」の第10回。前回取り上げたD&SとOD-801のPart2という感じで、D&S ⅡとD&S Ⅱ OD-802を検証してみよう。両モデルとも“DISTORTION & SUSTAINER”の名称を与えられながらも、筐体のデザインは大きく変更され、サウンド・キャラクターも明確な違いを持っている。前回のD&S、OD-801と併せて、Maxonの歪み系4モデルの個性を確認してみてほしい。
前回Vol.9でご紹介したD&Sにはそっくりな名称のエフェクターが存在します。その名もD&S Ⅱ。位置づけとしては後継機種なのか? バージョン違いなのか? 今となっては、当時の開発者にお聞きするしかなさそうですが、サウンドのキャラクターについてはじっくり検証できますね。D&S ⅡはD&S同様に、MXRサイズのモデルとキャラメル・スイッチ・モデルが存在します。70年代の発売当時のD&Sシリーズに対するキッズの印象は「色が良くない」という見た目への不満が多かったようです。サウンドを先に知っている場合はそんなネガティブ・イメージはなかったようですが……。しかし、価格的には「やや安め」という事もあり、人気があったのは事実です。
D&S ⅡとOD-802の外観上の大きな違いは、筐体のサイズとスイッチですね。特に電気的な視点からはスイッチでしょうか。当時の機械式スイッチは耐久性が現在の物に比べあまり良くありませんでした。切り替え時のアクション音も大きく、筐体に響く事もしばしば……それらの問題を解消するのに電子式スイッチに移行されたのでしょう。
D&S同様、D&S ⅡもMXRの流れを汲む、非常に小さく軽量なケースが取り扱いやすさをアピールしますが、OD-802の場合いきなりケース・デザインが変わります。これは一体どういうことなのか? なぜ この形になったのか……謎は深まります。ではどう違うのか変化を検証してみましょう。
・重量:軽い → 重い
・サイズ:小さい → 大きい
簡単に挙げられるのはこの2点です。この変更で感じるのは、大きくなって重くなった、ということですね。しかし、アタッチメントという呼称から考えるに、これらの変更では不利な点が多いのでは? となりますね。では、利点を考えて見ましょう。
・電池:ネジ4点止めの裏ブタを開ける → 電池BOXで容易な交換
・基盤:内部に接着 → ケース内に仕切りを作りユーザーが触れないように考慮
・内部:狭い → 広い(部品点数を増やせて多種の設計が容易に)
ここで、もう1つ見方を変えてみましょう 。
・重量:軽い → 重い……しかし、シールドに引きずられることなく安定性が増した
こう考えると、このデザイン変更に重要な意味が出てきますね。当時の設計者の方にお話をお伺いしたいくらいです。真相や如何に? こういう考察もビンテージ・エフェクターの楽しみかもしれません。
小型サイズのD&S Ⅱにはオペアンプ“1458”が搭載されています。1458は、741の2回路入り演算増幅器です。またクリップはゲルマニウム・ダイオードで行っています。そのためギター本来の原音を維持出来ている様です。替わって、D&S Ⅱ OD-802はオペアンプにJRCの“4558D”が搭載されています。この末尾の"D"というのはノイズ軽減の記号です。すなわち4558より4558Dの方がノイズが少ないと言うことです。また、D&S Ⅱ同様クリップはゲルマニウム・ダイオードで行われています。
現在の歪み系エフェクターのほとんどがクリップをさせていますが、このクリップというのは、入力された信号の波形の上と下を切り取り、押し出しのいい音を出力する作業を指します。わかりやすく説明するとホースから水が出ている出口の部分を指で挟むと勢い良く水が飛び出すのと似た性質です(音がタイトになりサステインが伸びる)。このクリップ(ダイオード・クリップ) がエフェクターのキャラクターを決定付ける意外に重要な役割を果たすのです。パーツに関してはダイオードという部品を使用しますが、大きく分けるとシリコン・ダイオード(ソリッドによく歪む音)とゲルマニウム・ダイオード(原音も感じるウォームな音)に分かれます。
まずD&S Ⅱですが、非常によく歪みますね。現代の歪みシーンでも十分に通用するサウンドです。接続する対象としてはクリーン・アンプが良いでしょう。リードを弾くにも十分な歪み量があります。シングルコイルでここまで強力に歪んでくれると創作意欲も変わってきますね。積極的な歪みを必要とするハードなシーンに対応しそうです。もちろんハムバッカーとの相性も申し分ありません。バッキングからリードまで安定した歪みを得ることが出来ます。クリーン・アンプ+エフェクターで歪みを作る場合に意外と難しいのが、バッキング・トーンは良くてもリード・トーンに粘りが少なくなる事ですが、マイクのセッティングさえマッチしていれば十分な粘りを引き出せます。
続いてD&S Ⅱ OD-802、こちらはツマミにDISTORTIONという表記があるゆえ発売当時は混乱を招いたのでしょう。「Maxonのディストーションは歪まない」。このOD-802が登場した頃は、より強い歪みが求められていた時代でもあったからです。現在の見方からすると、これは完全にオーバードライブに位置づけられるのは動画を見ても一目瞭然でしょう。チューブ・アンプをブーストする場合にもその魅力を発揮するでしょう。その際の注意点ですが、LEVELを持ち上げてDISTORTIONを控えめにセットする事です。エッジの効いたバッキングや伸びのあるリード・サウンドが手に入ります。これはあくまでも推測ですが、後に登場するTUBE SCREAMERの設計の原型になっているモデルがこのOD-802かもしれません。ぜひ1度ご自分の耳で聞いてみて頂きたいものです。
サウンドの特色を分かりやすくお伝えするため、シングルコイル・ピックアップ、ハムバッキング・ピックアップのギターと、真空管アンプの代表的なモデルを使用した。
・ギター:SSSピックアップ・モデル、レス・ポール・タイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000
動画ではSSSピックアップ・モデル→レス・ポールとギターを変更し、マーシャルをクリーンにセッティングし、試奏を行なった。