“ONE DAY GUITAR SHOW”で発表された桜モデルの注目機種を総ざらい!
- 2025/01/07
YAMAHA / SC-1200(1970年代製)
香ばしき、愛と青春のビザール時代──遥か海の向こうの万機に憧れ凌ぎを削った、あの素晴らしき国産名器たちのサウンドを今に再現する夢の企画「魅惑のジャパン・ビンテージ」。大好評だった前回のGRECO MR1000に続き、連載第2回となるこの度は、老舗大手メーカーYAMAHAのオリジナル・エレキ・ギター“SC-1200”を取り上げる。60年代後半から80年代にかけて、海外の有名ブランドが企業買収や工場移転、コピー・モデル問題などで生産ラインに混乱をきたす中、メイド・イン・ジャパンの誇りをかけ、独自の発想と開発力で世界に真っ向から戦いを挑んだYAMAHAの「純血」。妥協しない事、そして、唯一無二である事……パーツ一つ一つに込められた、国産ビンテージを彩る優駿の記憶がそこにはある。SC-1200の多彩なサウンドを蘇らせるのは、実力派プロ・ギタリストの稲葉政裕氏。今回の試奏動画は、通常のデモンストレーション/サウンド・チェックに加え、特別にフェイズ・スイッチのバリエーション・パターンを別録りした豪華2本立て構成となっている。ヒストリー、スペック等の紹介記事も参照しながら、ぜひ、世代の深淵で光を放つこの放縦なトーンのルーツにも触れてみて欲しい。
19世紀の末から続く国内屈指の総合楽器メーカー「日本楽器製造会社(ニチガク)」が、ヤマハ(YAMAHA)ブランドとして正式にエレクトリック・ギターの開発チームを発足させたのは、若者にとっての最新流行の文化シンボルとして、また、経済的な製造・流通事業の一環としてのギター・カルチャーが最高潮を迎えようとしていた1965年の事である。
当時、国内にあった他のギター・ブランドの多くが、フェンダーやギブソンのような海外の有名メーカーのコピー商品やOEMにより、ようやくエレキ・ギターの生産ノウハウを蓄えようとしていた中にあって、ヤマハという生え抜きの国産ブランドの志は全く異なる次元にあった。それは、長年、自社のアコースティック・ギターやダイナミック・ギター(ペグやブリッジを強化し、サウンドホールにも独特のアレンジを加えた、スティール弦用のアコギ)の開発を通じて培ってきた技術を従来のソリッド・ギターの製法に融合させ、全く新しい解釈のオリジナル・エレクトリック・ギターとして市場に挑む事であった。
その「唯一無二」という孤高のマインドをひっさげ、ヤマハ・ブランドとして最初に登場した“ブルージーンズ・カスタム・モデル”、更に翌年の66年に量産を開始したSシリーズと旧SGシリーズは、すでに、パーツ・レベルから自社開発品を数多く採用するという完璧なオリジナル製品であった。加えて、旧来よりピアノやバイオリン等の木製楽器の製造を自社内で続けてきていたヤマハには、他のメーカーには無い独自の木材調達ルートがあった事が幸いした。どちらかと言えば国内のエレキ業界においては後発デビューとなったにもかかわらず、海外の超一級品のギターにも全くひけをとらない最高品質の材を惜しげもなくオリジナル・ギター用に投入できた事もあり、74年に登場するSX-125やSG-175(現SGシリーズの元祖)によってそのブランドの価値は飛躍的に高められていった。
そして、来たる1976年、ヤマハは、遂にエレキ・ギター事業の中軸となる名器、SG-2000の完成をみる。さらに、SGをメイン・ラインとした事でオリジナルのバリエーション・モデルの開発が急務となったヤマハは、翌77年12月、SGの脇を固める新たな二つのモデルをリリースするに至る。それが24フレット構造を持つSFシリーズと、ブランドのシングルコイル・ピックアップ搭載モデルを総括するSCシリーズだった。SCは、当時隆盛だったハムバッカー・スタイルを踏襲していた他のモデルとは異なり、フェンダーのストラト・タイプを強く意識したボディ形状と鋭角なシングル・トーンを持ちながらも、それを独自のパーツと加工技術で武装した、他では見られないスペシャルなバランスに支えられて誕生した寵児であった。それはまさしく、フェンダーという絶対的権威に頭打ちにされていた固定概念を打ち払うべく、「我々なら、ストラトをこう作る!!」──というヤマハの気概と反骨心を世界に知らしめた、誇り高きモデルなのである。
SCシリーズは、一般に、77年〜80年まで発売されたものを前期型、80年の12月以降(82年まではカタログ上で確認できる)のモデルは後期型とする傾向がある。前期型の特徴として、ピックアップのON/OFFを兼ねる3連のフェイズ(位相反転)スイッチと、バー・マグネットを採用したピックアップ、そしてアームの無いハードテイル・ブリッジの採用がある。中でもSC-1200は同時発売された前期型SCシリーズの中でも最高峰のモデルで、独特のスルー・ネック(ワンピース・ネック)構造を持つ高級機種。ミドル・クラスにはストラトと同様のデタッチャブル(ボルトオン)ネック仕様を採用したSC-1000とSC-800があり、SC-1000のみダイレクト・サーキット(プルアップ・バイパス=ボリュームとトーンをキャンセルしてストレートなサウンドを引き出す機構)を搭載する事で差別化を図っていた。また、その更に下に、エントリー・クラスとして指板がローズウッドになったSC-700が存在する。
後期型にはトップ・モデルのSC-7000(これのみスルー・ネック。他はセット・ネック)を筆頭にSC-5000、SC-3000といったモデルが存在するが、いずれも2点支持オリジナル・トレモロ・ブリッジの採用、フェイズ・スイッチの排除(ストラト・タイプの5ポジション式PUセレクターを採用)、バイサウンド回路を内蔵した6ポールピース・ピックアップの搭載といった大幅な仕様変更とともに、ボディ・シェイプ及びヘッド形状も一新し、全く新しい構成にアップデートされた。
国内のプロ・ミュージシャンの中では、何といっても速水清司(元ジプシー・ブラッド)がその代表格だろう。彼が萩原健一のバンド(Donjuan Rock’n’Roll Band)に参加していた時のアルバム「DONJUAN LIVE」で魅せたSC-1200による多彩かつ鮮烈な音色は、今でも語りぐさとなっている。また、海外においては、ハート時代のロジャー・フィッシャーも、ヤマハのカタログ内でその使用者として名を連ねている。
ヘッドまで貫通した、ヤマハ独自の美しい5プライ削り出し非対称ネックに、同シリーズでも前期型SC-1200にしか用いられなかったヤマハの真骨頂とも言うべき漆黒の黒檀(エボニー)指板がよく映える。ポジション・マークは、SC-1200及びSC-1000のみに採用された「スノー・フレーク」。ヘッドの表にはSCを表す「Super Combinator」のフェンダー風モダン・ロゴ、裏には薄くシリアルNo.及び生産地(MADE IN JAPAN)が刻印されている。ちなみに、前期型のヘッドストック形状がストラト型6in1なのに対し、後期型では全てのモデルが3:3形状のヘッドに改変された。試奏した個体にはタバコの焼け跡もあったが、歴戦の風合いを演出しており、独特の貫禄がある。
前期型共通のシングル・ボビンC-I(OPC-I)オリジナル・ピックアップを3機搭載。幅広のエスカッションを介してボディ・トップへ直接マウントするため、ピックガード・キャビティは不要。マグネットはバー・タイプ・ポールピースを採用し、ベンド時の安定的な再生に寄与する。フロント・ピックアップの上部に見えているのは、当時この位置に設置される事が珍しかったトラスロッド調整ボルト。
イナーシャ・ブロックごと埋め込む構造の、ヤマハ製ダイキャストによるOBC-Iハードテイル・ブリッジ・ユニット。サドルにはストリング・ガイド(溝)が切られている。バック側からはボディを貫通するブロックに直接裏通しされた弦のボールエンドを確認できる(写真下側)。
下が黒で上部が透明な仕様のOKS-Iオリジナル・ノブによる、1ボリューム、1トーン。そして、「Super Combinator」の名前の由来ともなった、各ピックアップの位相を切り替える3連(正相-Off-逆相)トグル・スイッチ(この原型とも言うべきジェフ・ベック所有のストラトには、シェクター製の位相反転回路が搭載されていた)により、実質13種類ものサウンド・バリエーションを切り替え可能(*後掲するカタログの表参照。試奏動画では内9パターンを実演)。
チューニング・マシンにも、ヤマハ純正のダイキャスト構造を持つOMC-Iを採用。トルク調整ができるこのチューニングはペグ・シャフトがやや長めの作りであるため、ヘッドストックには厚みを持たせている。前期型は1〜4弦にストリング・リテイナーのある水平なストラト型ストレート・ヘッドを採用しているが、80年のモデル・チェンジ後はヘッド形状の変更に伴いアングルが付くようになった。
スルー・ネック最大の恩恵である、滑らかなネック・ヒール部。カッタウェイにも丸みのある加工が施されており、最終21フレットまで楽々指が回る。6弦側のホーン・トップに取り付けられたストラップ・ピンは、SCシリーズ全モデルで共通する仕様。
ウイング材には上質なアルダーを惜しげもなく使用。裏側のコンターはかなり広角に入れられている。同様に、表側のエルボー・カットもセンター・ラインを越えるほど広くなだらかに施されており、当時のヤマハの職人達のこだわりのほどが垣間見える。
複雑な音色を切り替えるコントロール類も、全てヤマハ・オリジナル(OVS-Iコントローラー x 2、OSM-Iトグル・スイッチ x 3)。トーン・ポッドに473K50セラミック・コンデンサ(キャパシタ)が追加されているのを確認できる。キャビティ内は絶縁塗装されており、線材にはシールドされた上質なものをふんだんに使用。
1979年のヤマハ・カタログ「YAMAHA Electric Guitars Line Up」のP11〜12に掲載されているSCシリーズ。ナチュラル・フィニッシュのSC-1200の右側に、フェイズ・スイッチの組み合わせ一覧表が確認できる。キャッチ・コピーで謳われているように13通りのパターンがあり、試奏動画では1、2、3、4、5、7、8、9、11の9つのトーンをプレイしている。
いつでしたか……このSCと同時期に出ていたシリーズのデモ演奏がたくさん入ったカセット・テープを、ヤマハの人にいただいた事があったんですよ。その中で、鈴木茂さんだったと思うんですけど、SCを使って「シュイーン!」ってやっていたのを憶えています。でも、実を言うと、その後で実際に弾いてみた時に、「あれ?」みたいな感じがあって、当時はこの音を全然好きになれなかったんですよ。値段的にはとても高級な部類だったし、拘った作りなのはわかっていたんですが。ただ、今はその嫌いだった理由がはっきりしてる。問題はギターじゃなかったんですよ。当時のアンプってまだまだ非力で、このギターだとやたらチャラチャラした音にしかならなかったのが原因だったんです。きっと、時代の方がこいつが本来持っているポテンシャルを引き出すだけの環境を用意できていなかっただけなんだと思います。今のエフェクターやアンプなら……今回のテイクではあえてそうした音も作ったけど……そんな風にわざわざコンプとかをかけるまでもなく、シングルコイルのオーバードライブでも凄く音が伸びてくれる。ちゃんと、自然に気持ち良い音で鳴ってくれるんです。だからね、今はこの音、本当に好きですね。僕も、時代も、やっとこのギターに追いついたって事なのかな。
まず凄いのは、何といっても、アームが無い……ハードテイルだというところに尽きます。とにかくチューニングが安定していますよ、っていうのが当時の売りだったんでしょうね、きっと。スルー・ネックっていう事もあって、見た目にはやはり当時ではアレンビック、最近のもので言えばハミルトンみたいなイメージですけど、「ストラトのアーム無し」っていうのはやはり、思い切ったイメージがありますね。カッコ良いです! ネック・シェイプなんかも相当研究している感じがします。まあ、元々、日本のエレキ・ギターはどれも握り具合で変なのは無いんですけどね。材もとても贅沢です。さすがヤマハですね。このエボニーなんか今だったらいくらするんだって思わず考えちゃうくらい良い木です。インレイもちゃんと貝でアコギみたいに凝ってるし、パーツも丁寧に角が取ってあって怪我をしないようになっているところなんか、まさに「隙が無い」って感じ。このジェフ・ベック風なフェイズ・スイッチも、一見複雑そうだけど、使ってみるときちんと目視で今どんな音なのか判別できるし、なにしろ、どっちかに倒せばとにかく音が出る、みたいなちょっと乱暴なところも『ナウい』です(笑)。あと、このロゴ……なんでこうなっちゃってんでしょうね(笑)? 特に、モデル名のあとに“YAMAHA”って入っているところなんか、ヤマハの開発チームと会社の戦っている感じが透けて見えるようで、何とも言えないですね。ここに、この楽器に対するアツい想いが集約されている気がして、本当にスゴイですよ。
このピックアップの音色は素晴らしいですね。特に、フロントが太すぎるくらい太い。ストラトとはもう全然違う太さがあります。でも凄く個性があって、何の音にも近くない、どこか変わった音ですね。フェイズ・スイッチが逆相の時でもあまり引っ込んだ音にならないのは面白い感じがします。さらに、多彩な音色を楽しんではいるんだけど、使えない音っていうのがほとんどない。どのポジションでも、どのピックアップを使っても、ちゃんと『良い音』になるように追求されているのがわかります。ただ、だからといってこのピックアップを自分のギターに載せてみたいとは思わない。それは、このピックアップやフェイズで得られるサウンドが、SCっていうこのギターの材やパーツの組み合わせによるバランスの中でこそ力を出せるように、ちゃんと計算して作られているって事が、わかっちゃったからなんです。僕個人の見解としては、センター(ピックアップ)が逆巻きでハム・キャンセルできたら便利かな、とか、フレットが非常に低いので、もっと大きめのフレットが打ってあれば太い弦も張れるのに──なんて事を思わないではないですが、こればかりは音に対するバリューの話なので、このギターの適性を損ねる話ではないと思っています。今回合わせてみたようなベスト・マッチなアンプのある現代では、本当の意味でオール・ジャンルに使える凄いギターだと思いますね。
●システム:試奏器/YAMAHA“SC-1200”(ギター)→AT’S FACTOR“稲葉日和”(稲葉氏用カスタム・オーバードライブ+コンプ(ポスト))→SHIN'S MUSIC“Baby Perfect Volume”(ボリューム・ペダル)→MOOER“REECHO”(ディレイ)→TC ELECTRONIC“Mini Flashback”(ディレイ)→FENDER“’68 Custom Deluxe Reverb”(アンプ) *上記システムを基本とし、サブとしてMOOER“SOLO”(ディストーション)とMXR“Dyna Comp”(コンプ(プリ))を適宜追加しながら使用。また、ボリューム・ペダルからの分岐でモリダイラ“Bit Tune”(チューナー)を常設。スライドバー併用。
●マイク&レコーダー:マイクはSHURE“SM57”をオンマイク、コンデンサー・マイクをアンビ用として使用し、ZOOM“H6”レコーダーで収録した。
試奏手順は、まず、試奏器SC-1200の状態チェックを稲葉氏本人に行ってもらう事から始まる。アンプはクリーンな状態にセット(基本的にコントロールはフラット)。歪みは基本的にエフェクターで作る事とし、さらに収録するフレーズに合わせて空間系エフェクトとスライド・バーのサウンドをチェック。最後に、再度ギターの運指テストとピッキングの確認作業を行った後、録音作業の運びとなった。
音色が豊富な個体なので、1テイクごとに、稲葉氏主導での特徴的な音色の選択とそれに合うプレイ・テストが根気よく続けられた。指、ピックによるクリーン、クランチ、リードを平均的に試奏し、素の音だけでなく、エフェクトを深くかけたパターンや、スライド・バーによる奏法でジャンルを超えた多様性を積極的に引き出しやすくするため、収録チームからも意見を出す。そうして一通りのサウンドが揃った後、別録りとしてフェイズ・スイッチのバリエーション動画用の撮影に入った。稲葉氏は、異なる音色の連続を引き立たせるような、より厳密なフレーズ構成を模索しながら、ほんの数回のリテイクでバリエーション・パターンを完成させ、無事に収録は終了した。
中古からビンテージまでエレキ・ギター700本以上、エフェクター500点以上、さらに数多くのピックアップ、パーツ、小物等、圧倒的な在庫量を誇る、都内でも有数の中古/ビンテージ・ショップ、TC楽器。今回の試奏器、YAMAHA SC-1200はTC楽器の在庫からお借りしたものだ。国内外のブランドを問わず、ビンテージから中古楽器まで幅広いラインナップを扱うが、中でもジャパン・ビンテージの在庫を豊富に揃えているのは、ファンにはたまらないところだろう。2Fはアンプも大量に扱っており、気になったギターがあれば2Fの好みのアンプで試奏出来るのも同店ならではの嬉しい環境と言えるだろう。販売される楽器は専門スタッフの手により、完全に調整・クリーニングされ、詳細なスペックを調べた上で、その楽器に正当な評価をして販売されている安心のショップだ。
・TC楽器 1Fエレキギター売場
稲葉政裕(いなば・まさひろ)
1960年、大分県生まれ。ベテランにして、時勢にとらわれない磊落なサウンドで人々を魅了し続ける、国内屈指の職人ギタリスト。正確無比な技巧に裏打ちされた創造性豊かなフレーズ・ワークを活かし、小田和正をはじめ、吉田拓郎、渡辺美里、平原綾香など多くのアーティストのステージ・サポートやレコーディングで多大な実績を残す。また一方で、熱心なストラト研究家としても知られ、特にビンテージ・フェンダーに関する知識ではマニアも裸足で逃げ出すほどの博識で通っている。自身が所属する『Far East Club Band』をはじめ、都内を中心としたあちこちのクラブ・イベントやライブを精力的にこなし、セッション漬けの多忙な日々を送る。
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