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- 2024/11/16
BOSS / OD-1
ギタリストが追求し続けるサウンドのテーマである“歪み”。なかでもアンプのオーバーロードを再現するオーバードライブは、最も必要とされる歪み系エフェクターの一つだろう。連載第7回目は、ワールド・ワイド・ブランド“BOSS”のコンパクト・エフェクター第1弾として発売された、OVER DRIVE OD-1を紹介してみたい。大型アンプのオーバーロード・サウンドを再現したオーバードライブの元祖として人気を博し、90年代以降はチューブ・アンプのブースターとして再び評価を高めた日本製オーバードライブの名機である。
「BOSS」。この世界的なエフェクター・ブランドから最初に発売されたコンパクト・エフェクターは、黄色・緑・赤の小箱でした。赤はSpectrum SP-1、緑はPhaser PH-1で、いずれも高い人気を持つモデルですが、今回はその中から今でも根強い人気を誇るの黄色いボディのOVER DRIVE OD-1をご紹介しましょう。
BOSS社は1973年に大阪に発足しました。今やエフェクターを持つ者は必ず1つは持っていると言われるほどのワールド・ワイドのブランドに成長しています。そのサウンドや品質の高さが評価されたことは言うまでもありませんが、「BOSS=上司」を足で踏みつけるというブラックジョークも海外でも広く受け入れられた要因かもしれませんね。今やこのサイズのエフェクターの代名詞になっている“コンパクト”という呼び名もBOSSから発信された言葉です。コンパクト・エフェクター=BOSSなのです。
コンパクト・エフェクターの第1弾として市場に投入された3機種は、またたく間に人気を博しました。その理由として“フット・スイッチを踏んだ時にノイズが出ない”という画期的な発明があったからです。また、当時の機械式スイッチは強く踏みつける性質上、故障が頻繁にありました。ところがBOSSのフット・スイッチは10万回に及ぶ踏み込みテストに合格したという高い耐久性も併せ持っていました。それも大ブレイク理由の一つです。
OD-1の登場は画期的でした。それまでの歪みエフェクターといえば“ファズ”が主流でした。しかし海外のアーティストのギター・サウンドはファズとは違うマイルドで伸びのあるサウンドが主流になってきました。そのサウンドの理由は大型チューブ・アンプのナチュラル・オーバードライブだったのです。実は、発表直後のOD-1の販売店での受けはイマイチだったそうです。なぜならばエフェクターなるものはハッキリとした音色変化を求められたからだそうです。しかし、実は大型アンプのオーバーロード・サウンドを再現しているという情報流れた途端に猛烈に販売実績が上がって行きました。おしゃれなルックスと時代感がマッチし、あっという間にギタリストを虜にしたのです。
それまでに存在しなかった新しい音を生み出したOVER DRIVE OD-1はその後の数多くのOD系のお手本となっていることは事実です。それほど当時は衝撃的な音だったのかもしれません。しかし、そんなOD-1も発売開始の数年後、同じBOSS社から“TONE”コントロールが追加された「SUPER OVER DRIVE SD-1」が発表され、緩やかに世代交代を迎えます。トーンが追加されても当時の販売価格で1,000円程度しか差がなかったため、どちらかをチョイス出来たユーザーはSD-1を選んだ人が多かったのでしょう。
OD-1が再び高い評価を得るようになったのは90年代半ば頃からですが、その理由の一つにブースターとして使用した場合にとても伸びやかなリード・サウンドを得られることが挙げられます。発売当時は国内ではチューブ・アンプを使用出来る環境は非常に限られていて、多くのユーザーはクリーン・アンプで単体動作をさせていたケースがほとんどでした。それゆえより歪みの強いものを求めるユーザーはディストーションを使用していました。
しかし、時代は流れ、国内でもリハスタに行けば大型チューブ・アンプを使用出来る機会が増え、もともと歪んでいるアンプをオーバードライブでブーストするという手法がロック系のギタリストの間では一般化しました。その頃には、現在ほどではありませんが、多くのオーバードライブが存在していましたが、OD-1でブーストさせると群を抜いて艶のある伸びやかリード・トーンが得られ、エッジの効いたリフにも向いている事がアーティストの間で広がり、既に市場から姿を消していたOD-1が再クローズアップされたのでした。
先に触れたフット・スイッチのノイズ除去や耐久性の向上などの他にも、BOSSの画期的発明はたくさんあります。それまで、裏蓋のネジを外して電池交換をするのが標準だったのを、ドライバーを使わずに電池交換を出来るようにしました。また、ごつい靴で踏み込んだ時にツマミが動くという問題もペダルとツマミの間に段差を持たせることにより解消。そしてその後のエフェクター事情を一変させたのは何といってもLEDインジケーターの搭載でしょう。しかし、もともとはON/OFFを目でチェックするための搭載では無く、電池の残量を確認するための搭載でした。従って、BOSSの初期モデルの一番簡単な見分け方はONにした時に一瞬だけLEDが光る個体と言うことになります。ONの間にLEDが光り続けないのは故障ではありません。この仕様のモデルはほんの数年しか生産されませんでした。理由は簡単で、その後の仕様変更の際に、現在と同じON/OFFの確認ができて、暗くなると電池残量が少なくなったとお知らせする機能に変更されたからです。
BOSSコンパクトの登場と共に出現したOD-1もその比較的短い製造期間に回路の変更なども行われていました。その違いは4種類存在すると言われています。どうやら最初期のモデルに搭載されていたIC自体の破損率が高かったようで、銘柄の違う同等のICに変更されているのが最初の変更のようです。後に、同等サウンドのままICをより入手性の高いパーツに変更もされました。これを機に、それまでのモデルよりほんの少しですが歪みが強くなっている印象です。
BOSSフリークの間では有名な話ですが、初期のモデルには通称"銀ネジ"と呼ばれるネジが、電池交換の際に回すネジの部分に使用されています。ただ、内部に関しては銀ネジの時期と現在も使用されている通称"黒ネジ"のモデルは混在しているようで、一括りに銀ネジと黒ネジは音が違うという判断にはなりません。しかし、絶対とは言えないですが概ね“銀ネジは原音成分が多めで高域がクリア”な印象。“黒ネジはやや高域にマスクがかかりほんの少し歪みが強め”と大別は出来るでしょう。もし、導入をお考えの際は、どちらも甲乙つけられないOD-1サウンドには間違いないので、自分の環境にマッチする個体を探してみるのが良いでしょう。
それまでの内外の多くのエフェクターは、ツマミのある部分から急激にサウンドに変化が出るというモデルがたくさん存在しますが、OD-1のツマミ移動による出音の変化は、動画をご覧頂くと一目瞭然、非常に美しく変化します。まさに動かした分だけ変化します。従って欲しいサウンドを一早く導き出す事が出来ます。これはエフェクターにとって非常に重要な事です。多彩な音を出せても、設定が大変なモデルは扱いも難しいですよね。
さすがに名機と言われるだけあって、ストラトにもレス・ポールにも非常に相性が良いです。あっさりした歪みなのでギター本体が持っている特色を壊さずに本来のエフェクターの使命である“効果”を得る事が出来るからです。また、回路上でクリップさせているので心地良い感じに高域と低域が削られ、単体使用の場合でもコンプレッション感を得る事が出来る点も、さまざまなギターとの相性を高めているのでしょう。
使用法はストラトもレス・ポールも同じで、クリーン・アンプで単体で使用する場合は、ON/OFFの音量を等しくなるようにLEVELを設定し、歪み量は任意で設定します。また、歪んだアンプにブースターとして使用する場合はLEVELをグンと持ち上げ出力を高くし、OVERDRIVEを9時前後を目安に設定すると良いでしょう。
出音の印象としては、銀ネジ・モデルは明るめのサウンドでヌケが良く、黒ネジのモデルはより中域にサウンドの中心が来るということを参考にしてください。もちろん個人個人の感じ方と求めるサウンドは同じではないので、是非、動画を参考にして、ご自身の耳で判断して頂ければ幸いです。
サウンドの特色を分かりやすくお伝えするため、シングルコイル・ピックアップ、ハムバッキング・ピックアップのギターと、真空管アンプの代表的なモデルを使用した。
・ギター:ストラトキャスター・タイプ、レス・ポール・タイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000
動画ではストラト→レス・ポールとギターを変更し、それぞれマーシャルをクリーン → クランチとセッティングを変えて試奏を行なった。