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- 2024/11/16
BOSS / SG-1 Slow Gear
1979年からわずか3年弱しか生産されなかったBOSS SG-1スローギア。自動でバイオリン奏法/ボリューム奏法を再現するという、地味でもあり飛び道具とも言えるユニークなエフェクターだ。個体の少なさからサウンドを聴いたことのない人も多いはず。その効果を確かめてみたい。
ギターのボリュームをゼロにし、ピッキングをしてからボリュームを上げて音を出す。いわゆるバイオリン奏法(ボリューム奏法)をギターのボリュームを上げたまま自動的に行うオート・バイオリン機能も持ったエフェクター。それがこのSG-1 Slow Gearです。漆黒のボディに白字を配した渋い出で立ちのSG-1のデビューは1979年5月でした。ちなみに生産終了は1982年の2月と、かなり短い間しか生産されませんでした。すなわちあまり売れなかったということですが、ボリューム・ノブまでの距離が遠くてバイオリン奏法に不向きなレス・ポール系のギター・プレイヤーには非常に嬉しいエフェクト機能ではありました。
バイオリン奏法は一部のロック系ギタリストも、曲中にピンポイントでプレイすることもありましたが、やはりフュージョン系のギタリストの方が圧倒的に多かったのが事実です。この奏法を多用するギタリストはなんと言っても高中正義氏でしょう。1979年に発売されたアルバム『Jolly Jive』に収録されている「珊瑚礁の妖精」はSG-1的な効果のプレイが多数登場する幻想的な曲です。コーラスや複数のデジタル・ディレイを駆使した、とてもギターとは思えない美しいサウンドを聴くことができます。彼はこのサウンドを、ボリューム・ペダルを使って生み出していました。
SG-1が登場した頃、まさに人気絶頂だった高中正義のフォロワーが、ボリューム・ペダルを使ってコピーに勤しんでいた事は言うまでもありませんが、少しばかり壁があったんですね。それは、フレーズの実音を拍の頭に発音するには、毎音その手前でピッキングをしなければならないという問題があったのです。ペダルを閉じた状態でピッキングし、ペダルを踏み込んで拍子に合わせて音を出すためには、毎音やや「食い気味」のピッキングが必要になってくるわけです。
そこに、「恐怖の速弾きバイオリン奏法だぜ」(BOSSコンパクトエフェクター事典Vol.2より)というキャッチとともにカタログを見たら……もう買うしかありません(笑)。しかし、カタログにもあるように前の音を完全に止めてからでないと、その効果は得られないため、本当にスローなオート・バイオリン奏法しか演出しにくかったという問題もありました。その当時の“速弾き”とはどれほどのスピードを指していたかはわかりませんが、動画に出てくる程度のスピードならSG-1の効果を堪能することができます。ただし、前の音をしっかりと切ってからですが……。そして時代はヘヴィ・メタルの大旋風が巻き起こり、その地味な効果と使用頻度の少ないエフェクターは、新しい人気音楽シーンの出現と共に姿を消して行くのでありました。
次にバイオリン奏法がクローズアップされるのはイングヴェイ・マルムスティーンの超絶プレイが席巻する頃になります。この時、SG-1を思い出した人も多かったと思いますが、すでに幻のエフェクターとなっていました。
SG-1のエフェクトの原理は、ノイズゲートをイメージするとわかりやすいですね。入力された信号がだんだん減衰していき、ある一定のレベル以下になるとまさに門を閉ざして(ゲート)音を遮断するという手法です。SG-1はこの動作の反対を行なっていると考えれば理解しやすくなります。ピッキングにより信号を感知したら、ある一定のレベルに音量が下がるまで音を出さない、という仕組みです。非常にシンプルな手法なので、理屈より使ってみるのが一番近道ですが、幻となっている今ではなかなか試奏もできないと思いますので、ぜひ動画を参考にしてください。
SG-1のツマミは、SENSとATTACKという2つのコントロールから成り立っています。SENSの動作は音の立ち上がるスピードをコントロールします。セッティングのコツは左半分からスタートして、気持ちの良いフワァ~と音の出るポイントを探しましょう。ATTACKは入力レベルのコントロールです。強めにピッキングして、各音の出方をわかりやすく設定するにはツマミの位置を上げましょう。弱めのピッキングにも十分反応しますが、そのぶん効果は薄くなるので注意しましょう。
SG-1の魅力を存分に引き出すには、どちらかというと緩やかなフレーズが向いているでしょう。音数が少なく、1音1音が長めのフレーズだと効果をわかりやすく表現できると思います。また、コードには不向きなので単音のフレーズとの相性が良いでしょう。プレイにあたっての注意点ですが、1音1音をしっかり区切ってピッキングする事と、毎音のアタックを均一にする事です。そうすればエフェクト音も安定出力されるので、気持ちの良いかかりを得ることができます。
エフェクターとは「効果を与えるもの」なので使い方は自由ですが、アンプはクリーン系との相性が良いと思います。接続順ですが、一般的にはギターに一番近いところが良いでしょう。その後は通常のスタイルでいいと思いますが、併用するエフェクターはコーラス、フェイザー、ディレイ等があれば美しいサウンド・メイクができるでしょう。また、かかりの良いポイントが非常に狭いため、ピックアップによる個体差がかなり出やすくなります。そんな場合は、SG-1の前にバッファーやクリーンブースター等で、ほんの少しだけ信号を増幅すると音作りの可能性は飛躍的にアップします。ぜひお試しください。
サウンドの特色をわかりやすくお伝えするため、ハムバッキング・ピックアップのギターと真空管アンプの代表的なモデルを使用した。
・ギター:LPタイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000
動画ではマーシャルをクリーンにセッティングし、SG-1のみの試奏の後、ディストーションとデジタル・ディレイも加えた試奏も行なった。