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ビンテージ・エフェクター特集 Vol.2 MXR Phase 90

ビンテージ・エフェクター特集 Vol.2

MXR Phase 90

大型機材だったフェイズシフターを一気に小型化
その後のフェイザーのお手本となった、元祖コンパクト・フェイザー

 長い年月を生き残り、現在でも多大な支持を集める“ビンテージ・エフェクター”。そのサウンドや特色を試奏動画と共に掘り下げていくのがこのコーナーだ。連載第2回は、回転スピーカーのフェイズ効果を超コンパクトなボディで作り出すことに成功し、圧倒的な支持を受け、その後のフェイザーのお手本となった元祖コンパクト・フェイザー、MXR Phase 90を取り上げてみよう。

  • ■MXR Phase 90/Marshall編
    【試奏1】ストラト+マーシャル:アンプが深く歪んでいる場合、ゴードをガーンと弾いている時に効果的なサウンドを得やすい。また、シングルコイルならではの繊細な音を必要とする場合は、ギターのボリュームを下げてプレイすると良いだろう。
    【試奏2】レスポール+マーシャル:ハムバッカーの特性を生かした低域を強調するフェイズ・サウンドを得る事が出来る。メタリックな刻みの速いフレーズでも、そのかかりはしっかり表現できる。うねりを強調したい場合はギターのボリュームを少し落とすのがポイント。

  • ■MXR Phase 90/Jazz Chorus編
    【試奏1】ストラト+JC120:やはりこの組み合わせはカッティングプレイで威力を発揮するだろう。SPEEDを遅めに設定した場合は、アルペジオ・プレイを引き立てるとても幻想的なサウンドが心地よい。また、リアとセンターのハーフトーンで得られるサウンドも特徴的だ。
    【試奏2】レス・ポール+JC120:太い単音によるミュート・プレイに是非使ってみて欲しい。フェイズ・サウンドはシングルコイルの方が相性が良いように取られがちだが、ハムバッカーとの相性も良く、力強いフェイズ・サウンドを得る事が出来る。繊細なフェイズ・トーンが必要ならばピックアップ・ポジションをセンターにしてフロント・ピックアップの音量を操作すれば適したサウンドが得られやすい。

MXR Phase 90〜その成り立ち

 1972年にプロトタイプの製造が開始される。その第1号機こそ、のちに「Phase 90」と命名されるエフェクターであった。そのプロトタイプは当時の地元のミュージシャンらに絶賛され、商品化されることになる。メーカー名もMXRと決定された。

 そもそも“フェイズ効果”とは、原音と位相をずらした音を混ぜて発生させる音響効果である。その位相差の周期とスピードがあの心地よいウネリの効果を生み出すのだ。レスリー・スピーカーなどの回転スピーカーによって広まったサウンドだが、何しろ回転スピーカーはスタジオにしか設置されないような、大型の高級機材だった。

 そのためシンエイのユニヴァイブやマエストロなどが電気的にフェイズ効果を生み出すエフェクターをリリースしたのだが、小型化されたとはいえと言えども、これらの機材もエフェクターとしては大型であった。その高価かつ大型の機材をこのPhase 90は一気に手のひらサイズに詰め込んだのだ。格段に小型化されたとはいえ、サウンドと耐久性は非常に優秀なものであった。その夢のような道具が、フェイズ・サウンドに魅了されていた当時のミュージシャンの手に渡れば、爆発的に広まったのは当然の結果と言えるだろう。

 また、筐体のオレンジのカラーの由来は、当時のフォード社の車のカラーからインスパイアされた。このポップなカラーリングも購買意欲を十分に刺激したに違いない。

  • MXR Phase 90

MXR Phase 90〜その特色とメカニズム

 Phase 90が世に出現した事実は瞬く間に世界のエフェクターメーカーに多大な影響を与えた。70年代といえばファンクやクロスオーバーがもてはやされた時代であった。それらのジャンルにはフェイザーは必要不可欠であったのだ。

 日本でも75年ごろからPhase 90の販売が開始されるが、MXR社のエフェクターはどれもが高価でアマチュアミュージシャンには高嶺の花だった。その隙間を埋めるかのごとく、日本でも数多くのフェイザーが登場する事になるが、そのどれもがPhase 90をお手本にしていたことからも、その完成度の高さが窺われる。それほどまでに洗練された設計だったのだ。

 余談だが、70年代後半に第1期「自作エフェクターブーム」が巻き起こるが、当時のギターキッズの多くがフェイザーの製作にトライした。それほどまでに手に入れたいサウンドだったのだ。その直後にエディ・ヴァン・ヘイレンがMXRを使用した斬新なフェイズ・サウンドを披露し、他メーカーの追従をよそに、確固たるMXRのフェイズ・サウンドはより幅広い音楽に浸透して行ったのである。

 リリース時は、Vol.1で取り上げたDistortion+同様、筆記体ロゴのデザインでスタートする。後にそのロゴの表記がブロック体に変更される。また、ブロック体モデルの時期にLEDが搭載され、3.5mmの電源供給のジャックが追加される。コマンドー(COMMANDE)シリーズの大幅なデザイン変更の時期に、それまでのデザインが一時期消滅するが後に再生産される。再生産の初期は電源供給に3.5mmジャックが搭載されるが、後に現在スタンダード化しているDCジャックに変更される。

 現行モデルは最初期に比べ基板のパターンが変更されているが、基本回路に大幅な変更はされていない。どちらかと言うと耐久性と生産性を重視した変更である。

 初期から中期にかけてのモデルは、基板をショートから保護するために薄いスポンジで包まれていたが、現在はIN/OUTジャックやフットスイッチを用いて筐体に固定し、耐久性を向上させ、事故から堅く守られているのが特徴だ。確かに初期モデルとはサウンドに違いはあるが、経年変化による個体差が大きな違いと推測される。電子部品を多用するエフェクターの特性上、新しいモデルを購入した方が個体差の少ないサウンドを得れるはずだ。

 MXRのフェイザーには、Phase 45、Phase 90、Phase 100の3種類が存在するが、簡単に説明すると45はマイルドで薄いかかり。90はスタンダードなフェイズ・サウンド。100はかかりを細かく設定できるモデルと考えるといいだろう。

 ちなみに、45は2段、90は4段、100は6段式の位相回路を搭載している。一見すると、段数が多いほど良い音が出そうな気がするが、それぞれのモデルにサウンドの柱がしっかり存在するので、購入の際はご自身の耳でしっかり好みのフェイズ・サウンドを選んで頂きたい。

  • MXR Phase 90

MXR Phase 90〜サウンド・インプレッション

 そのサウンドは、これぞフェイザーと言えるものだ。“THE STANDARD”とでも表現すればいいのだろうか……それほどまでに確立された音が特徴である。ギター本来の音をしっかり太くまろやかにうねらせてくれる。現在ではアプローチの違う様々なフェイザーがリリースされているが、かかりの良いフェイズ・サウンドが必要ならばPhase 90はマスト・アイテムだ。

 現代の若いギタリストはPhase 90のルックスに戸惑うかもしれない。エフェクターの効き具合を決めるツマミが1つしかないからだ。ツマミが多いほうが細かなセッティングが出来て便利……そう思うのは当然かもしれない。しかしPhase 90には「SPEED」と書かれたツマミ1つだけ……そう、スピードしか変化しないのだ。操作はそれだけで十分に心地よい効果が得られるという設計者の自信の表れだろう。SPEEDを遅めに設定すれば、幻想的で広がりのあるサウンドが得られる。速く設定すれば、リードプレイでトリッキーなサウンド・アプローチも出来る。曲調により的確な設定を迅速に行なえるのだ。

 Phase 90はクリーン系も歪み系も相性が良いサウンドを放つ。クリーン系に接続すれば一般的なウネリがわかりやすいフェイズ・サウンドだ。歪んだアンプに接続しても音の輪郭は比較的良好で、そのかかりはしっかりしていて太い。繊細なウネリを必要とするならば、アンプのセンド/リターンにセットしても良い。

Brand History〜About MXR

 1970年代、アメリカに発足したエフェクター・メーカーであるMXR。その後の世界のエフェクターに大いなる影響を与えた老舗ブランドである。 その影響力の源泉は、第一にそのサイズであった。積極的に集積回路の部品を用い、ルーチン化した部品を多用することで一気に基板面積を狭くする事に成功し、筐体は当時の他のエフェクターと比べて1/3程度にまでコンパクト化されることになった。
 また、それまではシルバーや黒が基調になっていた筐体のカラーもカラフルに色分けする事で見た目も素敵に仕上がったのである。そしてその多彩なサウンドと高い耐久性は信頼性を呼び、世界のギタリストがこぞって使用されることになる。その血統は現在も色あせる事無く脈々と世界のギタリストを魅了し続けている。

試奏に関して

 サウンドの特色を分かりやすくお伝えするため、シングルコイル・ピックアップ、ハムバッキング・ピックアップのギターと、真空管アンプ、トランジスタ・アンプの代表的なモデルを使用した。

・ギター:ストラトキャスター・タイプ、レス・ポール・タイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000、ローランドJC-120

動画ではマーシャル編、JC120編のふたつに分け、それぞれストラトタイプ→レス・ポール・タイプと試奏を進めている。

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