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▲創始者のビル・コリングス。1988年に自らの名を冠したギターの製作を始める。
▲テキサス州オースティンに構える工房。(写真提供:Collings Guitars)
コリングスの創始者/ビル・コリングスは、1976年から1988年まで、テキサス州ヒューストンでビンテージ・ギターのリペアに従事していた。その時期に、戦前のマーティンやギブソンなど現在ではミュージアム・クラスのビンテージ・ギターから名もないギターまで、あらゆるギターの構造を学び、使用材、トップやバックの厚み、ブレーシング等々がサウンドにどう影響するかを理解したという。
1988年に、自らの名を冠したコリングス・ギターの製作を開始。リペアからギター製作への移行に当たり、ビンテージ・ギター業界の権威であるジョージ・グルーンからのオーダーがきっかけで、コリングスの名が業界内に広まっていった。
1992年には“ライブ音楽の都”と称される、テキサス州オースティンに現在の工房を構える。世界最大の音楽コンベンションが開催され、ダウンタウン周辺に多数の音楽クラブを抱えるこの街に工房を構えることは、コリングスにとって、実力ある音楽プレイヤーからダイレクトにフィードバックを得ることのできる最良な環境といえるだろう。こうして音楽の街に根ざしてギター製作を続けるコリングスは以降、“世界で最も優れたギターを作る”という評価を不動のものとしている。
▲工房内に積まれた木材。
▲徹底した木材へのこだわりから最高の1本が生まれる。
ギターのトップにどんな木材が使われているか──我々は、カタログなどのスペックからのみ判断し、ギターに対して良し悪しの先入観を持ってしまうことがある。スプルースの単板トップだからどうこう──という具合だ。しかし、ビル・コリングスはこんな発言をしている。
「ただスプルースを手に入れるだけなら簡単だが、ギター用に使えるスプルースはそのうちの1%。そして我々が欲しいと思うスプルースは、その1%の中の10分の1しかない」
つまり、ただスプルース・トップであれば何でも良い音がするというわけではないのである。一口にスプルースといっても種類、グレード、伐採方法から保管方法まで様々だということだ。そしてこれはスプルースに限ったことではなく、コリングスでは全ての木材において最高のものを使用している。
ビル・コリングスは、木材へのこだわりについて、様々な発言をしている。
「他社は価格帯の低いギターも作るから、質の悪い材も使わざるを得ないだろう。我々は安いギターは作らない」
「競合他社より高いグレードの木材を入手するため、他社よりも高い金額を支払っている」
「木材のサプライヤーには、この種の材をこうやって切りだしたものが欲しいと細かく注文している。彼らが持ってくる材はどれも美しいが、美しいものが必ずしもいい音がするとは限らない。そこを見極める検証が重要だ」
▲独自構造のボルト・オン・ネック。
ビル・コリングスはリペアマン時代に多くのビンテージ・マーティンを扱った。特に戦前のマーティンに非常に魅力を感じるとする一方で、「いくつかの問題を感じた」という。そうした経験から、コリングスではビンテージ・ギターを再現することを目標にしているのではなく、改善すべきところは改善し、最高のギターを作ることを目標としているようだ。
その一例が、ネックジョイント。ネック・ヒール側にボルトを入れた独自構造のジョイント工法を採用している。これによって、演奏性に優れる小さいヒールを可能にしながら結合まわりが非常にタイトになる。コリングス・ギターの特徴である“全ポジションで音質が変わらない、ピアノのような美しい響き”の秘密の一端は、こうしたところにも隠されている。ぜひそのサウンドを、動画で確認してほしい。
こだわった独自構造の開発や、工法上の工夫はコリングス・ギターの高評価に直結している。
▲オプション塗装では実に約8週間をかけてフィニッシュ作業が行われる。(写真はアーチトップ・モデルのタンポによるヴァーニッシュ・フィニッシュの光景。フラット・トップ・モデルにはスプレーにてヴァーニッシュ・フィニッシュを施している。)
コリングスでは通常、UV塗装をシーラーとして使用し、トップ・コートにラッカーを用いる。一般的にはビンテージ・ギターのように木地からトップ・コートまでオール・ラッカーを施されることも多いが、気候の変化によるべたつき、経年変化によるクラッキングなどの問題が起こることも少なくない。
コリングスでは、伝統的なラッカー・サンディング・シーラーの工程をカットし、固く、より薄い塗装が可能なUVにサンディング・シーラーの役割をさせ、塗装膜をオール・ラッカーよりも薄くすることに成功している。UVによる楽器の長寿命化と、塗装膜を薄く保つことでサウンドの向上の両立を可能にしているのだ。さらに、カスタム・オプションとして“ヴァーニッシュ・フィニッシュ”を用意。これはサンディング・シーラーにシェラック(ラック虫の殻から作られる樹脂状の塗料)を、トップ・コートにはヴァーニッシュ(アルコール系二ス)を使用して、バフ以外の工程を一人の職人が担当し、約8週間の工程を経て行う特別な塗装だ。
ビル・コリングスはヴァーニッシュについて「特定の周波数をカットせず、特定の周波数のオーバートーンをプラスする」、「出音は硬くなく、丸みのある温かくファットな音」、「5年位でしっかりと硬化し、サウンドもどんどん良くなる」と発言している。
動画ではヴァーニッシュ・フィニッシュの個体も登場するので、そのサウンドを確認してみて欲しい。
美しい外観とボディの鳴りを追求したフィニッシュへのこだわりによってコリングス・サウンドが生まれる。
コリングスの徹底したこだわりの数々は、とてもここでは紹介しきれない。『アコースティック・ギター・マガジン』Vol.54(2012年Autumn)に詳しいので、そちらもぜひ参照してほしい。
<<< Part 1:コリングス・ギター 6モデルのサウンドを有田純弘がチェック!