Le Fayは1985年にドイツで創業し、これまでにファンド・フレット(フレットに角度を付けることで各弦に最適なスケールを実現する構造)を取り入れたり、ユニークなヘッドレス・タイプや多弦モデルなどを製造している工房系のメーカーだ。そんな同社のラインナップの中で比較的ベーシックな4弦のモデルがSingerで、そのフレットレス・モデルが本器となる。
製品名の“32”はスケールを表しているが、実際に弾くとミディアム・スケールっぽい物足りなさも無く非常に弾きやすい印象。セット・ネック構造のジョイントは非常に滑らかな仕上がりで、特にハイ・ポジション部分のカッタウェイが絶妙で手にしっくりと馴染む。それに加えてヘッド部分に弦を落とし込む加工あたりからも、同社の木工技術の高さがうかがえる。カーボンを仕込んだネックにトラスロッドが見当たらないのも、剛性には絶対の自信があるのだろう。
ピックアップはぱっと見たところ、1ハム&1シングルだが、実際には3シングル構造になっている。コントロール類はアクティブ/パッシブの切り替えのほか、2バンドEQ(ブーストのみ)に加えて6段階のピックアップ・セレクター。パッシブ用のトーンも付属しており、エレクトロニクス面も非常に充実している。
演奏してみると、とにかく弾きやすい。弦高のセッティングも低めで、ロー・ポジションからハイ・ポジションまでのバランスが良く、繊細なピッキング・タッチにもしっかり追従するという、まさにハイエンド工房系のような完成度の高さを感じられた。また、ポジション・マークはネック上部のほか、指板にもラインが入っているのでポジションを見失いにくい。全体的なサウンドはサステインが長く歯切れの良いトーンなので、良い意味でフレットレスっぽさを意識せずに弾けるのもポイントだ。
フレッテッドがメインのプレイヤーがフレットレスに移行するのに最適なのはもちろん、テクニカルなプレイヤーをも満足させるポテンシャルの高さを秘めた楽器と言える。
ヘッドに弦を落とし込んでいる部分。同社の木工技術の高さを感じられる。
独特の形状をしたピックアップ。1ハム+シングルに見えるが、実際には3ピックアップ構造。
コントロールは写真左から、マスター(アクティブ/パッシブ切り替えスイッチ)、6ウェイ・ピックアップ・セレクター、ベース、トレブル、パッシブ・トレブル・カットとなる。
指板にはフレットのラインが入れられているため、視認性も良く弾きやすい。