スイスのハンドメイド工房SOULTOOLのVenusを試奏してみた。なんでもEgon Rauscherさんという人が、たった一人で作っているらしい。まずは軽いクランチ系の音で、各ピックアップのサウンドをチェック。……これは、ストラト系以外の何物でもない。特にリアとセンターのハーフ・トーンの鈴なり感などは、キャリアのあるギター弾きにブラインド・テストをしたら全員がストラトだと答えるはずだ。
次に、ゲインが高めのセッティングで、トーンや弾き心地をチェック。驚いたのが、トレモロ・アームの使い心地の滑らかさ。こんな感覚のギターを弾いたのは、初めてだ。ダウン・アップの両方向に、実にスムーズに動く。
サウンドはストラトそのものだが、よく見るといろいろと、変わっている。ボディのシェイプはもちろん、ヘッドの形状、チューナー等々。指板もまっ平らで、まるでクラシック・ギターのようだし、そもそも指板の材が何か、よくわからない。フェンダー・ストラトキャスターという歴史に残る名機の子孫が世界中で育つ中で、孤島で独自の進化をしたストラト系モデルという印象。
このギターのアームをジェフ・ベックやチャーさんのような名手が使えば、これまで耳にしたことがない響きを聴くことができるだろう。スタジオ・ミュージシャンがストラトの音がする精度の高い楽器を求める場合にも、良い1本だ。ただ、無理を承知で言うが、できることならこれからギターを始める子供に最初の1本として持たせて欲しい。こんなギターで音楽を始める子は、10年後にいったい何を弾くだろう?
[SPECIFICATIONS]
■ボディ:スイス・アルダー ■ネック:スイス・メイプル ■指板:パーフェロー ■フレット:24 ■ピックアップ:GOOD TONE PICKUPSカスタムSセット ■コントロール:ボリューム、トーン、5ウェイ・ピックアップ・セレクター ■ブリッジ:トレムキング・ビブラート・システム ■ペグ:シャーラー製ロックタイプ ■カラー:ビンテージ・ホワイト
価格:516,600円
[試奏者PROFILE] 井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。