研究に研究を重ね、多くのスタッフと多数のアーティストの協力で完成したPHX
●今回、PHXシリーズを制作するに至った経緯から教えていただけますか?
○これまでに、さまざまな種類のヤマハ・ドラムが生み出されてきましたが、4年程前、間もなくドラム製造40周年を迎えるというタイミングで、記念モデルの開発と合わせてPHXの開発がスタートしました。長年の集大成としての開発を進めるにあたって、“本当に良いドラムって何だろう?” とあらためて考えてみたんです。それを踏まえてアーティスト達に聞き込みをしていく中で、“音が大きい”、“音が太い”、“反応が良い”といった彼らがドラムに求める共通のキーワードが見えてきて。それを具現化するためのプロセスも、通常は1人の設計担当者が1から10まで設計して完成させるんですが、今回はラグ、シェル、マウント方式というようにドラムを構成する要素を分解して、それぞれに設計者を置きました。それぞれが一番良いものを作って、最終的に全体のバランスを取りながらまとめていくという開発形式を取ったんです。設計陣や現物を作り出す試作・製造スタッフは本当に良く頑張ってくれました。
●PHXの特徴として“ハイブリッド・シェル”が挙げられると思うんですが、このアイディアはどのように生まれたんでしょうか?
○ヤマハは楽器を総合的に開発している会社なので、ピアノに合う木材はこれ、ギターに合う木材はこれ、というように木材だけを研究している人がいるんです。これが他のドラム・メーカーと違うところなんですけど、その担当者が膨大な研究データの中から、“ドラムにうってつけと思われる木材”としてあたためられていた素材が“カポール”だったんです。そして100%カポールで実際に試作品を作ってみたらやっぱりすごく良かった(笑)。でもカポールよりもさらに堅い“ジャトバ”のような突出した個性を持つ他の素材も段々判明してくる中で、それなら複数の素材を組み合わせて、それぞれの個性が引き出せるような 仕組みを開発したいとみんなが思いまして。シェル設計者もただ材料を混ぜるだけではなく、構造から開発したいとアイディア をまとめ始め、そこから“ハイブリッド・シェル”という考え方につながりました。実際は25周年のときにも、メイプル+スプルース +メイプルというサンドイッチ構造のスネア・ドラムを商品化したことがあったのでそれを基礎にしながら。そこから同じ素材の間に何か別の材を挟むっていうトライを続けていくうちに、一番真ん中を堅くして外側に向かって少しずつ素材が柔らかくなっていく構造が、理想的なシェル振動をするという結果に辿り着いたんです。
●それぞれの材の良いところを引き出すという点が一番大変だったそうですね。
○素材の組み合わせ方や厚みを変えるだけで、まったく違うものになるので、そのバランスを取るのが本当に大変でした。最終的に音チェックをして……やっぱり楽器を作っているので、音の評価が良くなければいくらデータ上の数値が良くてもしょうがないじゃないですか。チェックを繰り返しながら、一番良いバランスを突き詰めていった結果が、製品に反映されています。
●そこには実際に試奏したプロ・ドラマーの意見も反映されているのですか?
○そうですね。やっぱりヤマハ・ドラムスの最大の財産は、先代も含め作り上げてきたアーティストとの関係だと思っていまして、かつ彼らがヤマハ製品を信頼して使ってくれているってことにあると思うんです。研究に研究を重ね、かつアーティストの耳と手を使ってやっと完成したセットが、このPHXシリーズなんです。実際に完成したPHXを叩いてもらったところ、反応は恐ろしく良かった(笑)。テストの一貫で、ハリウッドにあるスタジオを借りて、アーティストに自分が一番だと思うドラム・セットを持ち込んでもらってPHXと比較してもらったんですけど、全員が1発目を叩いた直後に“ワォ!”と感動(笑)。PHXは今、みんなが欲しい音、まさにレコーディングに使いたい音だってことで、“次世代のレコーディングカスタム”という表現をしてくれたアーティストもいました。 PHXの開発にはマーケティングや管理、製造をはじめ、本当に多くの人達が関わっていて、ヤマハ・スタッフみんなの力で完成したドラムだと思います。アーティストの協力なしでは当然作り込めませんでしたしね。PHXは値段も決して安くはありませんが、価格以上の音が得られるものと自負しています。とにかく叩いてもらえれば、その価値がわかると思いますので、ぜひ試奏会および店頭へお越しください(笑)。