ギター・アンプ・シミュレーターの先駆けとして1997年に発売されると同時に世界的なベストセラーとなり、アンプ・モデリングという分野のメジャー化に大きく貢献したLine6 POD。「いろいろなアンプの音を手軽に再現できる」という基本コンセプトは、現在のようなコンピューターとDAWシステムによる自宅録音のスタイルが進化&普及するタイミングとも絶妙にシンクロし、プロ/アマチュアを問わず多くのユーザーを虜にした。その後、POD 2.0→POD XT→POD X3と新モデルが登場するごとに搭載アンプ/エフェクト数は増加し、各種機能も強化。特にPOD X3で搭載されたデュアル・トーン機能では、セッティングの異なる2系統を同時使用することができ、音作りの幅がさらに広がった。
PODといえば多くの人がイメージする、デスクトップ・タイプの赤いキャビネット(写真はPOD 2.0)。その後のPOD XT、X3でも基本的なデザインは受け継がれたが、今回のHDでは濃いグレーの外観に一新。進化の次元が今までとは違うことを象徴している。
そうした進化の流れを受けて登場した最新モデルPOD HDでは、HD=High Definition(高精細度/高解像度)という言葉のとおり、サウンド自体の質感向上に焦点が当てられている。全22タイプに絞り込まれたアンプ・モデルは、モデリング用のツールから新開発して練り直され、HDの名にふさわしいハイクオリティなものに変貌。古今東西の名機にインスパイアされたエフェクトは全111種類を搭載し、最大8個を同時に使うことができる。さらに、X3で好評だったデュアル・トーン機能も踏襲。使う上での利便性をとことん極めたPODが、最先端の技術でアンプ・モデリングの原点に立ち返り、品質の極みへと向かったのがPOD HDだと言っていいだろう。
今回はそんな同機の実力を確かめてもらうべく、HAWAIIAN6のギタリストYUTAに試奏を依頼。アグレッシブなギターの音作りに一家言を持ち、過去のPODシリーズやストンプボックス・シリーズといったLine 6製品のユーザーでもある彼の耳と目に、POD HDはどう映ったのだろうか。
―これまでにPODの旧モデルをはじめとして、いろいろなLine 6製品を使ったことがあるそうですね。
YUTA もともとHAWAIIAN6の『SOULS』っていう1stフル・アルバムのレコーディングで、プロデューサーがストンプボックスの青いやつ(MM4/モジュレーション・モデラー)を持ってきてくれて、初めて使ったんです。それで気に入ったので自分でもすぐに買って、翌年のレコーディングでも使いました。そのときにはPOD 2も買って使っていたと記憶してます。
―当時、どんなところが気に入ったのですか?
YUTA レズリーの音がすごくいいなと思ったんです。そのころは割と機材に疎くて、レズリーなんて知らなかったんですけど、とにかく音がいいなと。それまでは自分の持ってるエフェクターでどうにかしようという感じだったのが、これはもう次元が違うなと思いました。後にレズリーの実機を使う機会もあって、確かに実機の良さもあると思ったんですけど、ストンプボックスの方が全然実戦向きだし、よくできてるなという印象でした。
―PODに関してはどうですか?
YUTA やっぱり実機より楽だし便利ですよね。レコーディングでまず仮ギターを録るんですけど、そのときは必ずPODを使っていて...まずPOD 2.0を買って、その後POD XTとXT Proも一緒に買ったのかな。最初は「こういうものなんだな」と思って使っていたんですけど、自分の耳が少しずつ肥えてくると、シミュレーターと言っても境目はないんだなって感じるようになってきて、レコーディングでもそのまま使うときもありました。オブリものを録るときとか。
―POD XT とXT Proはどのように使い分けを?
YUTA XT Proは主にライブですね。ギターの信号をアンプとPODにパラッて、両方を混ぜてPAから出すんです。アンプの音だけだと、ドラムとかの音がカブッてきてちょっとファットになりがちで、逆にラインだとソリッドな感じになる。それを混ぜるとすごくいいですね。特に大きな会場とかフェスとかだと、その方が音量を出しやすいんです。加工もしやすいというか。
―それ以外のLine 6製品は?
YUTA ツアー先で曲作りをするのにオーディオ・インターフェース(TonePort)を使っていたことがあるのと、あと最近はM9も買って、よく使っています。ストンプボックス・シリーズは本当に何台買ったことか...今はM9に落ち着いていますけど、もう完璧ですね。あれがもう5台くらい欲しいです(笑)。
―そして今回、POD HDを使ってみた印象は?
YUTA 本当にびっくりしました。今まで普通にPOD XTを使ってきて、慣れ親しんだ音といえば確かにそうなんですけど、何かが違う気がして...気のせいかもしれませんけど、今まで以上にすごく「使えるな」と感じたんです。アンプ・シミュレーターというより、これはこれで1つの道具というか。
―今までのモデル・チェンジとは違って、モデリングのためのツールから新たに開発していて、アンプの情報も10倍くらい精度が上がっているそうです。
YUTA そうなんですか! 気のせいじゃなくてよかった(笑)。実は今までのPODって、けっこう使ってたんですけど、やっぱりアンプほどのガンッていうのが来ないというか、フルで弾き切っても「もうちょっと」っていう感覚があったんです。でもHDは、ヘッドフォンで一発音を出した時点で「これすごい!」って思いました。もう弾いた感じが全然違ったんですよね。演奏の細かいニュアンスもちゃんと出るし。
YUTA本人が言うとおり、感覚的に操作できるのもPOD HDの大きな魅力。「説明書は一応読みましたけど、読まなくても全然大丈夫じゃないかな。初期のPODよりはるかに使いやすくなっていると思います」
―使い勝手についてはどうですか?
YUTA 最初に見たとき、ツマミが多くて一瞬ウッと思ったんですけど、どれが何のツマミか全部(パネルに)書いてあるし、そのままの働きをするので、実はすごく簡単に使えるということもすぐにわかりました。「このボタンを3回押してからこっち」みたいなことがなくて、すごく感覚的に使えますね。でもやっぱり一番すごいのは、いろんなアンプとエフェクトが入っていて、ここだけで音作りを完結できてしまうところ。仮想現実の極みというか、もう抜け出せないですよ(笑)。
YUTA's Profile:
YUTA(安野勇太):1997年に結成されたメロディック・パンク・バンドHAWAIIAN6のギター&ボーカル。2002年に1stフル・アルバム『SOULS』をPIZZA OF DEATHからリリース。現在は、2007年に設立した自主レーベルIKKI NOT DEADに所属。2011年からは自身のソロ・プロジェクトThe Yasuno N。5 Groupも始動し、精力的に活動中。◎http://ikkinotdead.com ◎http://yasuno-no5.com
■サウンド:
・22種類のHDアンプ・モデル
・100以上のMクラス・エフェクト・モデル
・最大8同時エフェクト
・デュアル・トーン機能
・ルーパー
・内蔵チューナー
・USB 2.0
■入出力/1/4インチ入力、XLR入力、バランス1/4出力、1/4インチ・ステレオ・ヘッドフォン出力、S/PDIFデジタル出力、FBVフット・コントローラー・ジャック
■外形寸法/89(H)×279(W)×190(D)mm
■重量/1.4kg
■価格:オープンプライス