“ONE DAY GUITAR SHOW”で発表された桜モデルの注目機種を総ざらい!
- 2025/01/07
Martin
2025年1月27日発売のアコースティック・ギター・マガジンVol.103の表紙&特集は『伝説のマーティン』。音楽史に名を刻む名器のエピソードを紹介するほか、国内名手へのインタビュー、さらにナザレス工場の最新レポートをお届け! 今回のMartin Timesでは、本特集の制作に先駆けて2024年4月に行なわれた、レジェンド=クリス・マーティン4世へのインタビューをお送りしよう。
──まず、マーティン社の現状をどのようにご覧になっていますか?
コロナ禍の間は、あらゆるギター・メーカーが売り上げを伸ばすブームが起きました。このブームは終わらないと思い、大幅に規模を拡張したメーカーもありましたが、ブームは去り、規模を拡張したことが問題になりました。特に中~低価格帯の市場が飽和状態になってしまったのです。
マーティン社でも、ナザレス(アメリカ)製のギターは需要が安定していましたが、ナヴァホア(メキシコ)の製品は熾烈な競争にさらされました。しかしそれは、本来のビジネス形態に戻ったとも言えます。
競争はビジネスの一環で、何をやっても大丈夫というコロナ禍の状況が特別だったというだけのことです。コロナ禍が去っても状況は多少荒れ気味ですが、私はそういった状況に慣れていますから。
──会社が大きな困難に直面していた1986年に30歳という若さで社長に就任なさったクリスさんとしては、すでに鍛えられていたわけですね。ナヴァホア製のギターの売り上げ改善の方策は立てていらっしゃいますか?
ナヴァホア製のギターは、製品寿命(編注:カタログ・モデルとしてラインナップされる期間)が短いです。D-28は開発当初、同じモデルがその後100年間も製造され続けるとは誰も思っていませんでしたが、今の私は、もう100年は製造され続けるだろうと確信しています。
ナヴァホア工場の製品は、より頻繁に新しいモデルを開発する必要がありますが、今のナヴァホアは技術も進歩して、10年前には難しかったであろうクオリティの製品が作れるようになっています。
ただ、新製品と言っても新しい“シェイプ”のモデルを作るのは、とても高くつくということはご理解いただきたいですね。製造に必要な工具や治具も新規に用意しなければならず、良いアイディアを思いついても、10本ぐらいしか売れる見込みがなければ、製品化は無理です。
──トラディショナルなシェイプが確定して以降の新しいシェイプは、MやGPCぐらいで、構造的にもトラディショナルなものを踏襲していたのに対して、2020年に発表されたSCは、非対称のボディや仕込み角が調整できるヒールレスのボルト・オン・ネックやエレアコが前提の設計など、従来とはまったく異なる新製品ですね。
SCの開発のきっかけはヒールの問題でした。ハイ・ポジションが弾きやすいギターへの需要が高まっていたので、カッタウェイ付きでヒールのないデザインを採用したのです。構造も従来のものとは違い、ボディも非対称です。
先ほど治具の話をしましたが、対称型のボディなら、サイドの右側と左側で同じモールドが使えます。しかし非対称だと、左右で違うものが必要です。また、木工技術の進歩もSCの開発に寄与していて、ネック・ポケットの加工はCNCマシンでなければできません。ノミを使った手作業でも可能ですが、それだと時間がかかり過ぎます。
──SCは、手の届きやすい価格帯のモデルから始めたという点も画期的だと思いますが。
そこが肝腎なところです。従来のお客様なら、自分には向いていないと思うかもしれませんが、若い人たちは伝統にはとらわれていませんし、このギターで新しい奏法が生まれるかもしれません。
──いっぽう、D-300のようなアニバーサリー・モデルの企画も進んでいるようですが、そうした特別限定モデルには従来、ボディにブラジリアン・ローズウッド(以下ブラジリアン)が使われてきたと思います。環境保護が叫ばれて、輸出入の制限も厳しいブラジリアンは、D-300にも採用されるのでしょうか。
D-300の仕様はまだ確定していません(※1)。ブラジリアンはEUの規定で、アメリカで仕入れた材を使ったギターはヨーロッパに輸出できないので注意が必要です。ブラジリアンに最も近いマダガスカル・ローズウッドも、10年前にマダガスカルからまとめて仕入れたのが最後です。
そのいっぽうで、私たちはFSC(森林管理協議会)認証のサスティナブルな材を買い集めています。
※1:2025年1月にアメリカで発表。アディロンダック・スプルース・トップにブラジリアン・ローズウッド・サイド&バックで、華美なインレイをあしらった豪華なルックスを公式HPでチェックしてほしい。
https://www.martinguitar.com/guitars/custom-special-editions/10D300.html
──あと、2024年4月のトークショウでも紹介なさっていた、HGモデルについても少しお話しいただけますか?
HGは、ギター・ミュージックの歴史に対する私の探求心から生まれたモデルです。ドレッドノートはカントリーやブルーグラスのために開発されたと思われていますが、私は1920年代のハワイアンの流行に注目していて、いろいろと調査する過程で、ギブソン社がハワイアン用に作ったHG20というギターをオークションで手に入れました。そのボディ形状に魅力を感じた私は、会社のデザイナーに相談して、HG20を基にこのHG-28を試作してもらったのです。
スロープ・ショルダーで14フレット・ジョイントというのは、同じくギブソンのL00を基にしたCEO-7とも違う、ありそうでなかった形状です。Dタイプよりもボディ幅が狭く、座って構えた時にも体への負担が少なくなっています。秋頃には限定モデルとして発表する予定でいます(※2)。
※2:O'ahu HG-28として2024年10月にアメリカで発表。
https://www.martinguitar.com/oahu.html
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アコースティック・ギター・マガジンVol.103(2025/01/27発売)の特集は『伝説のマーティン』。ウィリー・ネルソンの永遠の相棒“トリガー”N-20、エリック・クラプトンがMTVアンプラグドで手にした1939 000-42など、音楽史に名を刻む名器のエピソードを紹介。
さらに、米ナザレスの最新工場レポートでは、一新されたというカスタムショップの詳細や、重要人物たちへのインタビューも掲載。
また、本連載Martin Timesでお馴染みの斎藤誠を始め、小倉博和や福山雅治らが“マーティン愛”を語った『だから私はマーティンを弾く』も収録。
価格:¥286,000 (税込)