クワイアン探訪
- 2024/11/15
QUIAM UKULELE
サウンドはもちろん、北海道産材を用いたウクレレや、コロンとした可愛いデザイン、そしてウクレレでは少数派の“ 白い” ボディのみのラインナップなど、さまざまな特徴を持つことで注目を集めている国産ブランド、クワイアン(QUIAM)。各種イベントに出展するたびに、すぐにブースにひとだかりができるほど、ここ数年で一気に知名度を上げている。次々と斬新なアイディアを盛り込んだモデルを発表したり、近年楽器業界で外せないテーマとなっている環境問題へのとり組みなども含め、ウクレレ・シーンに新しい風を吹かせ続けるこのウクレレ・ブランドの“ 源泉”を探ってみよう。
クワイアンのウクレレ作りは北海道ですべて行なわれている。
今回は札幌市内にある工房に加え、特別に製材風景の他、郊外にある木材倉庫の様子をお届けしよう。
1 ~ 4 :丸太の状態のアカエゾマツは北海道の林産地で製材されている。5 :札幌市内の工房とは別に、北海道産の木材を保管している倉庫がある。ここはクワイアンが半導体の事業でも使っていた建物とのこと。木材は丸太で仕入れることもあり、それを製材してフリッチ(おもに丸太を製材した状態)の状態で積まれていた。中央はエゾマツの板材だ。6 :倉庫には2階も作られ、エゾマツ以外の材料も置かれていた。7 :まだ皮が付いている木材は、北海道産のシラカバ(シラカンバ)の木。クワイアンでは北海道産のさまざまな木材を用いて楽器製作を試みている。
8:札幌市内にある工房。ボディの成型などは外注しているため、大型工作機械はほぼ置かれていなかった。各工程を分業することで、効率良くウクレレを製作している。9:トップの切り出しやサウンド・ホールに付ける飾り彫りなどを行なっているレーザー加工機。セットすれば、他の作業ができるため効率が上がる。10:トップはタップ・トーンを聞き、ブレイシングの削りなどを調整している。11:ブレイシングの削りはルーターではなく、手作業で丁寧に行なわれていた。これは社長のご子息、優樹さんの担当だ。12:ソプラノと、コンサート・モデルのシンプルなブレイシング。
13:ネックとボディが一体になっており、ボディ内部がくり抜かれた独自の構造。この状態までOEM で作ってもらうことで、製材効率を高めている。14:トップとボディの接着は、写真のようなクランプを使って圧着されている。15:サンディングはかなり丁寧に行なっており、クワイアンのウクレレを手に取ると自然と手に馴染む感覚が得られる。16:指板にも北海道産の材が使われる。写真は、クランプでネックと指板を接着する工程だ。17:木材の種類やモデルこごとにあらかじめ加工済みのブリッジなどが入れられた引き出し。これも効率を高めるための施策だ。18:フレットは1本1本、丁寧に手作業で打たれている。作り方は独特だが、音や演奏性にとって重要な工程は手作業がほとんどだ。19:フレットまで打たれてから、指板&ブリッジ部をマスキングして塗装が施される。20:塗装後のウクレレたち。塗装後はブリッジを装着し、順次、調整をしていく。
【Others】
1:フレット専用ヤスリなど専門的なものをはじめとした、使用している手工具の一部。2:左が指板とブリッジの接着位置を書き込むためのジグで、奥がトップを接着する際に使うジグ。3&4:指板やトップも一度に加工しておき、モデルやサイズごとに、すぐに取り出せるように整理されていた。5:卓上ボール盤にドリルやヤスリを付け替えて、ブリッジの穴あけをはじめ、さまざまな用途に用いている。6:“蝦夷桜”というモデルで使われる、桜の透かし彫りが施されたサウンド・ホール・カバー。
クワイアンのさまざまなモデルの中から4本のウクレレをフィーチャー。それぞれのポテンシャルをお伝えしていこう。
クワイアン・ウクレレの大きな特徴のひとつは北海道産へのこだわり。ウクレレに使われているエゾマツ、トドマツ、エンジュといった材はすべて北海道産で、製作も札幌の工房で行なわれている。ネックとボディが一体成型となったスルーネック構造を採用していることもポイント。通常、弦楽器はネックとボディを接合して作られるが、クワイアン・ウクレレはひとつのエゾマツ・ブロック、もしくはトドマツの集成ブロックから、ネックとボディの両方を削り出している。それによって小ぶりなサイズながらも、しっかりとした音の芯が感じられるサステインの長い響きが楽しめるようになっているのだ。トドマツの集成ブロックは森林保護の観点から、間伐材を積極的に活用しており、個体によっては節が目立つこともある。しかし、工房で時間をかけて処理を行なうことで、楽器として問題なく扱えるように加工が施されている。そして何と言っても、産地の雪深い北海道を思わせる純白のルックスが目をひく。ウクレレは白系のカラーリングが少ないので、その意味でも大きな存在感を放っている。マット・フィニッシュによるしっとりとした独特の手触りも特徴のひとつと言えるだろう。
トップ、ボディ、ネックのすべてに貴重なエゾマツを使用したカスタム・モデルのTNC カスタムF 200。こちらはそのf ホール仕様だ。ネックとサイド&バックはエゾマツ・ブロックから削り出されており、トップにはエゾマツ単板が用いられている。指板には北海道産のナラ材を使用。スルーネック・コンサートFと見た目はほとんど同じだが、抱えてみると、こちらの方はやや重みがある。サウンドの印象は明るくきらびやかな音色がする。同じようなデザインでも、材の違いだけでこれだけサウンドが変わるのかと思わされた。ヘッドにはカスタム・シリーズを象徴するペガサスのシンボルがあしらわれている。
スルーネック・シリーズのf ホール仕様コンサート・モデル。北海道産エゾマツ単板トップ、北海道産トドマツのネック&ボディといった材構成は、この次に紹介するソプラノと同じ。そちらよりもサイズがひとまわり大きくなっている分、音量も大きくなっており、スルーネックの音の特性を保ちながら、深みのあるサウンドになっている。トップには細身のf ホールがひとつ空いており、十分に前に音が飛んでいる印象。軽やかな音色と適度なリバーブ感を楽しみたいならソプラノのf ホール仕様、より広がりのあるサウンドが欲しい人や、ソロ・ウクレレにもトライしたい人はコンサートのfホール仕様がオススメだ。
ボディとネックは北海道産トドマツの集成ブロックから削り出し、トップには音響特性の高い北海道産エゾマツ単板を使用。指板とブリッジには北海道産のエンジュを用いた工房の定番モデル、スルーネック・シリーズ。こちらはそのソプラノ・モデルで、f ホールを備えた仕様だ。ボディ・サイドには弾き手にもしっかりと音が伝わるサイドホールを設けている。スルーネック構造になっているので、小ぶりなサイズながらも、サステインは伸びやか。ふたつのホールが空いていることで、独特なコーラス効果が生まれており、やや重層的な響きにも感じられる。しっとりとした材の手触りでフィット感が良く、しっかりとしたネックで握りやすい。
北海道産トドマツの集成ブロックから削り出されたワンピース・ボディに、ピックアップを載せたサイレント・エレキウクレレ“eleComCon(エレコンコ)”。ソリッド・ボディなので生音はとても小さく、音量を気にすることなく、静かに練習することができる。アンプにつなげてみると、アンプのつまみはフラットな状態のままでも、十分にバランスのいサウンドが飛び出してくるところはエレコンコというネーミングから連想されるイメージどおり、雪がしんしんと降り注ぐさまを思わせる優美な音色だ。ボディ幅はソプラノ・モデルと同じで、スケールの長さはコンサート・スケールを採用。ディレイやリバーブを活用したエフェクティブな使い方をしてみても面白いだろう。
以前はトラディショナルなウクレレとはひと味異なる新しい楽器という印象が強かった。しかし、今回試奏してみると、エゾマツや集成ブロックを使って楽器製作を続けてきた経験やノウハウが蓄積され、よりウクレレとしての完成度が高まっているように感じた。透きとおるような純白のルックスが実に美しく、しっとりとした材の手触りはクワイアン・ウクレレ特有のもの。まだ弾いたことのない人はぜひ一度手にとってもらいたい。新鮮な驚きがあるだろう。
ボディ材のチョイスや、スルーネック構造、そして可愛いデザインなど、
随所に斬新なアイディアをとり入れているクワイアン。
どのような経緯でこのブランドが生まれたのか、宮城英輔社長に話を聞いた。
ウクレレという幸せを運ぶ楽器を
大好きな北海道の木材で作りたい
特徴的な木目と色白な木地が美しく映える、クワイアンのウクレレ。エゾマツを筆頭に北海道産の木材にこだわって作られている。ウクレレは札幌市内にある工房で1本1本、手作業で組み立てられる。丁寧に面取りされたネックやボディは肌触りも良く、爪弾くと優しい音が心地好く響き、ずっと鳴らしていたい気持ちにさせてくれる。
そんなウクレレを手がける株式会社クワイアンは、異業種からウクレレ作りに参入した宮城英輔社長によって2011年に創業した。今回工房を訪ね、なぜウクレレ作りをはじめ、どのように独自の構造にたどり着いたのか、宮城社長にお話を伺った。
“ 株式会社クワイアンとして設立してから、すでに13年が経ちました。もともと僕が半導体のエンジニアで、半導体の会社として起業しました。でも半導体は、景気の波に左右されやすく、他に何か考えなければと。それで音楽が好きだったこともあり、趣味を生かす別の事業を立ち上げようと考えました。その理由は、人や自然に向き合う仕事をしてみたかったからですね。それで何ができるかなと考えた時に思いついたのが、ウクレレ作りでした。「ウクレレという幸せを運ぶ楽器を、大好きな北海道の木材で作りたい」という夢もありましたが、ビジネスとして成功するという自信もありました”。
このように語っていただいたが、事業を立ち上げるまでは楽器作りに携わったこともなく、音楽業界にツテもなく、完全にゼロからのスタートだったという。無謀な挑戦のように思えるが、宮城社長には当初から確固たるビジョンがあったようだ。
“半導体事業でもそうでしたが、人がやらないことに挑戦したり、開発することが好きでした。その経験を生かせば、ウクレレ作りもできるという自信がありました(笑)。それに半導体の世界では、20年ほど前から分業が当たり前。この方法をウクレレ作りに生かし、OEM でウクレレを作ることを思いつきました。だから最初はビルダーとの関係を構築し、考え方を擦り合わせていくことからはじめました。最終的には、ビジョンに共感してもらえる人に作ってもらうことができましたね”。
宮城社長のビジョンに共感したビルダーの協力もあり、ウクレレ作りを開始したクワイアン。当時のウクレレは現在と作り方は異なるが、北海道産の木材にこだわっている点は、その頃から変わっていない。なぜ、北海道産の木材にこだわったのか。
“ 最初から地元である北海道産の木材を使うことが前提でした。地産地消でウクレレを作りたい気持ちもありましたし、供給も安定していたからです。エゾマツはキラキラしたキレイな音が鳴り、音響特性に優れていることを知っていたので、最初はそれを使いました。スプルースの近親種でもあり、今でもトップはエゾマツです。それから5年ほど前からは、ボディにトドマツの集成材を使うようにしています。環境に配慮したウクレレ作りをするため、植林や間伐材を有効利用したいと思ったからです。他にも北海道のエンジュ、ナラ、タモ、シラカバ、クルミなど、多彩な材を試してきました。道産材にこだわったことで、産地のひとつである下川町とのつき合いも生まれ、新たなビジネスにもつながりました。それから町への恩返しも込めて、下川町の小学校にウクレレをプレゼントすることもできました”。
クワイアンではさらに、楽器作りでは使われない節のある材も使うなど、環境に配慮したウクレレ作りを進め、地域とのつながりまで生まれている。その話だけを聞くと順風満帆に思えるが、そこに至るまではかなりの紆余曲折があったという。なんと最初は完成したウクレレを、本場ハワイへ売りに行ったというから驚きだ。
“ ハワイで実績を作ってブランド力を高めてから、国内で販売しようと思いまして。ハワイには飛び込みでウクレレを持っていきましたが、皆さん先入観なく「良いウクレレだね」と評価してくれました。持参したものすべて置いてもらえ、それも自信につながりましたね”。
その後、国内の工場にもOEM を頼み、徐々に認知度を上げていったクワイアン。そして宮城社長のウクレレ作りに対するイメージが明確化する過程で、OEM に限界を感じるようになっていく。
“ 生産本数やモデル数をもっと増やしたい” と考える中で、OEM に限界を感じはじめていました。でも、技術も設備もないため、どうすれば自社で効率良くウクレレを作れるかを考えました。多くの方々に助けていただきながらスルーネック構造にしてNCルーターでボディをくり抜いて作る、現在に近い製作方法にたどり着きました。ただスルーネックは斬新過ぎて、最初は受け入れてもらえず(笑)。それが徐々に評価され、今に至ります”。
2019年には札幌市内に工房を構え、本格的に自社で製作するようになる。現在はソプラノ、コンサート、テナーの各モデルをラインナップし、月産で約40本前後作るほどにまで成長した。そんなクワイアンのウクレレ作りを力強く支えているのが、宮城社長のご子息の優樹さんだ。彼はブレイシングを含め、音や演奏性に関わる重要な工程を手がけている。さらにコロナ禍で経営がピンチになった時に開発した、サイレント・ウクレレ“エレボッコ”も追い風となった。
“ コロナ禍で大打撃を受けた際に端材の有効利用を考え、アイヌの伝統楽器トンコリをヒントにサイレント・ウクレレのエレボッコを開発しました。それが話題となりウッド・デザイン賞もいただき、ブランドの認知度も高まりましたね”。
クワイアンのウクレレは軽くて弾きやすいとか、毎日弾きたいといった評価を得ているという。ルックスや作り方こそ個性的だがクオリティは高く、今では鈴木智貴など演奏に定評のあるプロ奏者も使っている。
“楽器やメーカーは、長年続けているからこそ価値が高まります。だから漠然とした目標ですが、100年後まで続けられるブランドになりたいと思っています。まだ模索中ですが、より魅力的なウクレレを作り、手に取ってもらえる価格帯で販売し、多くの人にクワイアン・ウクレレの良さを知ってもらいたいですね。店頭でクワイアンのウクレレに出会ったら、ぜひ手にとって弾いてみて下さい”。
記事構成:編集部
*一部誌面と構成を入れ替えている個所があります。ご了承下さい。
価格:¥165,000 (税込)
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