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- 2024/11/16
Tsubasa Guitar Workshop
国産ギター/ベース・ブランドにおける“最高峰”と謳われたFullertone Guitarsを率いた鬼才ビルダー田中千秋氏が、2020年に創設したTsubasa Guitar Workshop。ヴィンテージという“概念”に現代のエッセンスを注入したモデル群は、耳と目の肥えた玄人プレイヤーを中心に着実に支持を獲得。月間生産本数はわずかながら、要注目の国産ブランドとして業界内にその名を轟かせている。今回は、同社のベース・モデルに秘められたこだわりの数々を、田中氏へのインタビュー、そしてtatsu(LÄ-PPISCH)による試奏レビューからひも解いていく。知識・経験・技術の集大成となる“Tsubasa”の本質に迫っていく。
Tsubasa Guitar Workshopを主宰する田中千秋氏は、30年以上の長きにわたりギター/ベース製造やヴィンテージ楽器の修理を手がけてきた経験・知識を生かした、老舗楽器店ミュージックランドKEYのプライベート・ブランド“Fullertone Guitars”の製作者としても知られている。
田中氏は2007年からプロ・アーティストたちのために、各個性に応じた楽器製作を開始した。そのモデルの噂と評判が次第に広まり、同様のクオリティを持った楽器を一般にも提供してほしいという希望に応える形で2020年に発足させたのが、Tsubasa Guitar Workshopだ。“一般向け”と言っても、製作される個々の楽器はどれも材の選定から最終仕上げに至る全工程を氏自らが担当するため、オーダー主はアーティストのみに提供されていたものと実質的に変わらないクオリティの楽器が手にできる。
Tsubasaの大きな特色のひとつは、氏が選定した材の特性を最大限に生かす方針に従って製作されるという点にある。そのため、同じモデルで木材などの仕様が同じであっても、1本ずつ個性の違うサウンドの楽器に仕上がるということだ。さらに、氏がピックアップも独自開発しているというところからも、求めるサウンドを実現するための並々ならぬ熱意のほどがうかがえるだろう。
本企画では、ロック・バンドLÄ-PPISCHのベーシストで、サックスとのデュオなどでも活動しているtatsuに、The hopperの4弦モデルを試奏してもらった。tatsuは、普段から同社製のオリジナル・モデルを愛用し、ブランド創設時からアドバイザー的に同社の発展に携わってきた。JBタイプの本モデルは、アルダー・ボディ、メイプル・ネック、ローズウッド指板、ラッカー仕上げという60年代の王道仕様で構成されており、田中氏が得意とするリアルなレリック加工も施されている。フレット数はヴィンテージの“20”ではなく“21”を採用し、シャープ系のキーでも使いやすい仕様となっている。ヴィンテージを真似るだけではなく、現代音楽に対応したスペックを備えた楽器作りという点で、こだわりを感じる一本だ。
同社製オリジナル・モデルを愛器に据えるtatsu(LÄ-PPISCH)にThe Hopperの実力をチェックしてもらった。
僕はもともと1968年製のフェンダー・ジャズ・ベースを愛用していました。Tsubasaの楽器は、最初に試奏させてもらった“The Loose”が気に入ったので、このモデルでシグネイチャーを作ってもらっています。ピックガードを好みのデザインに変更してもらったり、ピックアップもオリジナルでカバーを白にしてもらったり、ロゴ・マークに翼を描いてもらったりと、田中さんと相談して試行錯誤しながら、いろいろカスタマイズしているんです。もう1年以上使ってきて、かなり馴染んできたというか、角の取れた音になってきました。
今回の“The Hopper”ですが、サウンドはモダンで硬質な感じとヴィンテージのこなれた感じのバランスがとても良いと思います。ヴィンテージには存在しない“モダンな良さ”を感じますね。“ベースは重いほうが良い音が出る”という考えの方も多いようですが、この個体はTsubasaのほかの楽器と同様、軽いのに低音もしっかり出るのがすばらしい。重量バランスも良好だし、そして圧倒的に弾きやすい。ネックはこのタイプとしてはやや厚めかもしれませんが、僕の68年製のジャズベのネックはそれほど細くないので、違和感はありません。もちろん、弾きやすさという意味では断然このTsubasaの勝ち。弾いているのが楽しくなる一本ですね。
個性豊かなTsubasaのベース・ラインナップより3機種を厳選して紹介しよう。
JBタイプ“The HOPPER”の5弦モデル。ヴィンテージより1フレット多い21フレット仕様で、それに合わせてボディもハイ・ポジションへのアクセスを改善するデザインとなっており、楽器としての機能にも配慮した設計が心憎い。ペグには軽量なゴトーGBR640Lを採用。コントロール部分はパネルを使用せず、裏側から仕込む構造を採用している。
スプリット・ピックアップを1基搭載したPBタイプだが、21フレット仕様で、最終フレットまで楽にアクセスできるように、PBのイメージを保ちながらボディの形状をごくわずかにオフセットさせているのがポイント。コントロール部分にはパネルを使用し、従来のPBタイプでは厄介な電装系のメンテナンス性が改善されている。
JG/JMスタイルのボディ・シェイプを採用した、個性が光る一本。ピックアップ構成にはJJとPJの2種類がラインナップし、コントロールは2ヴォリューム/1トーンというJBスタイル。このモデルのみフレット数は20となっている。Tsubasaでは最もユニークといえるデザインだが、The HOPPERとほぼ同じく、快適な弾き心地を提供してくれる。
最後に、ブランドを主宰し全モデルの製作を担当する田中千秋氏に、 Tsubasaに込められた思いを語っていただいた。
━━田中さんはこれまで、“国産最高峰”とも謳われたFullertone Guitars(以下、Fullertone)のモデルを制作し、2020年にTsubasa Guitar Workshop(以下、Tsubasa)をスタートさせました。Tsubasaを始動させた経緯のほか、ブランドのコンセプトを教えてください。
まずFullertoneはプライベート・ブランドになります。製造は私どもが担当しておりますが、提携店以外での販売ができない点に加え、オマージュ・コンセプトのブランドなので、その領域からは少しオリジナリティ方向に展開したい思いがあったんです。あと従来使用していたピックアップの供給が難しくなってきた、という問題もありました。Tsubasaではピックアップも自社製造としたことでほぼ外注や他社品の使用がなくなりました。木工、塗装、最終セットアップまで、少人数ですが自社で完結させています。“The Earth”で使用しているコントロール・パネルや5弦用のブリッジなども、自社設計のオリジナル・パーツを使用しています。従って、独自性や個性が強いブランドを目指していると言えるかと思います。
━━ベース・モデルの名前としては、“The Earth”、“The Loose”、“The Hopper”と個性的なネーミングとなっています。このような名前とした背景のほか、名前に込められた思いとは?
ペットに名前を付けるような感覚かと思います。親しみやすく、覚えやすいネーミングですね。例えば“Hopper”は、初号機のモデルが緑系だったのと、“飛躍してほしい”という願いを込めて名づけました。
━━アルニコ5マグネットを使用したピックアップは、いずれも自社で開発したオリジナルですが、どういったこだわりがあり、どのようなサウンドを目指したものなのでしょうか?
開発当初、国産ピックアップらしくないイメージを目指しました。基音が太く出せること、弦倍音がほどよくミックスされることのバランスにこだわり、フロントとリアでパラメーターを変更しています。手巻きが良いと思われがちですが、どうしても個体差が出てしまいますので、極力個体差をなくすべく最初から専用機でコイルを制作しています。かなり特殊な製作方法かもしれません。サンプルの段階で現場で使用するミュージシャンの方々に協力していただき、さまざまな意見をいただきました。特にtatsuさんからの要望は大いに取り入れ、完成品の基礎になっています。
━━ボディ・シェイプは一般的なJBタイプ/PBタイプと比較し、やや丸みのある特徴的なシェイプのように感じます。
両タイプともに21フレット仕様で設計しています。そのため、カッタウェイが深くボディを小ぶりにしたうえで、幅・全長・全幅はあまり変えず、やや体積を減らす目的で高弦側のホーンを短くしています。
━━Fullertoneの頃から、ネックへの強いこだわりを感じていました。改めてTsubasaのベース・モデルにおけるネックには、どのようなこだわりがあるのか教えてください。
ありがとうございます。Fullertoneについては、オマージュでありながらもロッドの仕込み、各寸法を独自のスペックで設計していますので、“完全再現”はしていないんです。ヴィンテージのリペアも非公式で相当な本数を担当していますが、定番の故障を引き起こしたモデルを寸法し変更することで、そういったトラブルができるだけ発症しないように考えています。また小さなこだわりですが弦長(スケール)は国産によくあるミリ規格ではなく、インチで切っています。グリップ、ヘッド、ネック総厚など、若干プラスすることで弦振動に寄与しています。
━━最後に、今後どのようなブランドになっていきたいか、抱負を教えてください。
Tsubasaとしての一般リリースは3年ほどになりますが、まだまだ認知度が低いようですので、今後とも魅力的な楽器造りに精進していきたいと思います。
価格:¥330,000 (税込)
tatsu
たつ●1967年2月7日生まれ、東京都出身。1984年結成のロック・バンドLÄ-PPISCHに1987年に加入。同年にシングル「パヤパヤ」でメジャー・デビュー。スカ、ニュー・ウェイヴ、ミクスチャーなどを昇華させた独自の音楽性で人気を博し、これまでに15枚のフル・アルバムなどを発表している。tatsuはその他、アーティストのサポート・ワークやセッションなど、幅広い活動を展開している。