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- 2024/11/16
AMPEG / Venture V3
大型真空管アンプの代名詞的存在であり、世代やジャンルを超えて愛用されている、ベーシストにとっての王道アンプ・ブランド=Ampeg。本連載では、第一線で活躍するAmpegユーザーたちに、それぞれのAmpeg観を聞くとともに、注目のAmpegギアをチェックしていく。第9回は、14thアルバム『感覚は道標』をリリースし、ドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が公開中のくるりより、佐藤征史が登場! Ampeg新時代の到来を告げる注目の新モデル“Ventureシリーズ”の実力をチェックしてもらった。
くるりの2枚目(『ファンデリア』/1998年)を作るとき、理由は覚えてないんですけどB-15をレンタルして8割くらいそれでレコーディングしたんです。それでB-15を気に入ったんですけど、当時のディレクターさんから“レコーディングのたびに借りるのは高いから買ってほしい”と言われまして(笑)。その数年後にたまたま中古屋さんでB-15Nを見つけたので、購入して使い始めました。
4発入りのギター・アンプとかだと、そこで鳴っている音と、マイクで録った音をスタジオのスピーカーで聴くのとでは大きく違う印象があるんですけど、B-15Nは15インチ一発ということもあるのか、聴いている音とマイクで録った音が近いというのが一番好きなところです。そういうわけで自分のなかではB-15こそがAmpegのイメージだったので、SVTや810は自分のイメージとそぐわなくて使い勝手がいまだによくわからない面があります。でもレコーディングではHeritage B-15N以外にもHeritageのSVT(Heritage 50th Anniversary SVT)も使わせていただいたこともあるんですけど、それらは異常に好きなんです(笑)。
B-15Nにはチャンネルがふたつあるんですけど、“2”を使ったことはないですね。基本的にこのアンプが対応できるジャンルは非常に狭くて、わかりやすく表現すると60年代、70年代のロック系の現場に限られますし汎用性もありません。5弦(のロー)を鳴らそうとしても無理(笑)。でもくるりがやってる音楽はそれに近いし、例えばGLIM SPANKYさんの制作現場でも馴染む音がします。基本的にファットなんですけどローはあまり出ないのでBASSのノブは3時の方向まで上げて、ヴァイオリン・ベースのアタックを出したければTREBLEを上げて、あとはVOLUMEで歪み加減を決めるっていう、3つのノブだけのわかりやすいアンプです。出せる音色バリエーションはひとつですけど、楽器に沿うように調整してあげるだけの使いやすいアンプだと思っています。
最近のAmpegは“ちゃんと継投しているんだな”って思います。今回試奏したVentureシリーズはもちろん、近年の製品であるPF-20TやHeritageシリーズもそうですけど、昔のB-15やSVTが持っている素直なファットさがちゃんとあるし、“Ampegの製品を弾いている”という感覚は、現行のどの機種を弾いても感じられると思います。でもそのなかで筐体の軽さとか、新しい技術も取り入れているし、現代では再現が難しいモデルをあえて当時の仕様でリリースしている姿勢も素敵なことだなと思います。
自分にとってB-15とSVTはまったく別モノなんです。低音とベースの迫力で魅せるベーシストはSVTが合うと思うんですけど、歌モノやポップスに近いロックだとそういう音色は主張が強すぎると思うんですよね。SVTはメチャメチャ個性的な音でその虜になったベーシストは多いと思うし、単純にカッコいい音色だと思います。B-15はプラグインやマルチ・エフェクターとかのモデリングにも絶対に入ってるし、唯一無二の音色がありますよね。レコーディングで自分の次に来た別のベーシストがまったく同じB-15を持ってきたこともありますし(笑)。60年くらい使い続けられていて、2020年代になっても続いていて、これから先もっとデジタルな音が増えていったとしても、ひとつの軸として残り続けるんだろうなと思います。
1960年に発表されたB15は“PORTAFLEXシリーズ”として現在まで引き継がれるAmpegの代表的なモデルだ。技術者で副社長にも就任したジェス・オリバーによって設計され、当時流行した格納型の卓上足踏みミシンにヒントを得た“フリップトップ(キャビネット格納式アンプ・ヘッド)”が大きな特徴。キャビネットのトップ・パネルに固定されたアンプ・ヘッドをトップ・パネルごと裏返してキャビネット内に格納できるユニークな構造となっている。また、スピーカー・ユニットが取り付けられるバッフル板にはポートが複数設けられるなど、音響的な設計が図られている。
これによりアンプ・ヘッドを安全に運搬できるだけでなく、使用時にはキャビネット上に露出させることでノブをコントロールしやすく、熱に弱い真空管アンプを空冷しやすいメリットもある。またアンプ・ヘッドはゴム製のショック・マウントを介してトップ・パネルに固定されており、キャビネットの振動の影響を受けないように配慮されている。
Portaflexシリーズは15インチ・スピーカー・ユニットを1機搭載するB-15のほか、12インチ・スピーカー・ユニットを搭載するB-12を1960年に、18インチ・スピーカー・ユニット仕様のB-18も1964年にリリースしている。スピーカー・ユニットの口径はモデル名からも判別しやすいが、アンプ・ヘッドの仕様や内部回路は頻繁に更新されており、型番からは仕様が判別しにくい。佐藤が所有するモデルは1961年から1964年頃に製造された初期のB-15Nで、2本の6SL7電圧増幅管で構成された2チャンネル仕様のプリアンプ・セクションはTREBLE/BASSの2バンドEQが独立している (最初期のB-15はEQが1系統)。また、電源部は5AR4整流管による整流回路で、パワーアンプ・セクションは6SL7電圧増幅管1本によるドライバーと自己バイアス方式の6L6GC電力増幅菅1ペアからなり、出力は25Wほどと控えめながら真空管アンプらしい厚みのある音色を出力する。
また、アンプ・ヘッド中央には下部からライトアップされるルーサイト・ロゴ(アクリル樹脂パネル)があり、キャビネットを傾けて設置する際に取り付ける“チルトバック・ロッド”を取り付けるためのネジ穴が背面に設けられているのも年代を象徴する仕様だ。佐藤のB-15Nはトランスが交換されており、スピーカー・ユニットも経年劣化で交換しているとのこと。それでもなお佐藤を魅了し続け、60年分の深みのある音色を繰り出す愛機だ。
どんなアンプでも最初は全部(ノブを)真ん中にして試すんですけど、このアンプはベースの素直な音がまず出てくる、ラインで聴くような音色がそのまま再現できる印象ですね。エフェクターをつないだとしてもそのカラーを素直に楽しめると思います。GRITをオンにすると昔ながらのベース・アンプらしい、ちょっと歪みが足された音色になりますけど、これだと自分のB-15NならBASS:10、TREBLE:0みたいな雰囲気なんですよ。そこでEQのTREBLEを上げることでかなり近い音になって、しかも雑味がなくてクリアな音色なので自分のより良いなって思いました(笑)。
EQのBASSを上げるとちゃんと低音域が伸びるので、パワフルな演奏をしたいときとか、歪ませないけどピックでアタック強めでゴリゴリ弾きたいときとか、そういうスタイルにも対応できるのはさすが現代の機材だと思いますし、日本の100Vで鳴らしてもEQの先が伸びていくというのは美しいなと思います。SVTの実機は、正直に言うと使い方が分からなくて、以前スタジオで湯川トーベンさんにお会いしたときに使い方をうかがったら“全部フルにしたら良いんだよ”っておっしゃっていたので(笑)、さすがに全部フルは無理だと思いますけど、「SVT」モードにしてウルトラ・ロー/ハイをオンにしつつ、ちょっとやってみますね……あ、やっぱりSVTやなぁ(笑)。実機のSVTはどれだけ暴れられるかが勝負のアンプっていうイメージがあるので、これくらいでも良いんじゃないかと思えますね(笑)。
自分がアンプを使うときはラインに近い音作りをする傾向がありますけど、SVTっぽさを出すならこれくらい極端なセッティングがカッコいいんじゃないでしょうか。「B15」モードはBASSを抑えつつTREBLEを少し上げてGRITで歪み成分を足すと使いやすいかなと思います。自分のB-15NはBASSを頑張って上げても芯の部分は上がらず、横にローが広がるみたいなイメージなんですけど、Ventureだとドシンと重心が落ちるところにローがある印象なので、例えば3弦2フレットと4弦7フレットのB音とか、弦による周波数成分の違いが少なく聴こえて、ラクに弾けるように感じますね。ウルトラ・ロー/ハイをオフにするとやっぱり素直です。正直、Ampegのなかで一番素直なアンプなんじゃないかと思いました。ドラムがいないギターとのアンサンブルなんかでベースの周波数レンジを狭くしたいときに楽器本体のトーンを絞ったハーフ・トーンにしたりするんですけど、そういう音色の雰囲気も嫌味な感じじゃなく素直に出せますね。
ツィーターを入れるとハイテクな音色っていうか、今まで聴いていた音よりも30年くらい若くなった音がしますね(笑)。現代的なキャビネットなんだと思います。演奏する音楽性によって使い分けられるのは良いことだと思いますけど、ヤンキーっぽい音色というか、金属的な響きに聴こえちゃうので自分はオフのほうが好みです。でもSVT-810とかのイメージはツィーターをオンにしたほうが近いと思うので、そういうのが好きな人は両方を試してみたほうが良さそうですね。
VB-115は自分のB-15NやHeritage B-15Nと同じ15インチ一発ですけど構造が違うからなのか、それらの15インチ一発のモデルよりも横に広がりのある音がする印象があります。自分のB-15Nはレコーディングでしか使わないですけど、VB-115ならケースの上に載せて自分のうしろに背負うようにセッティングすればライヴでも使えそうですね。まっすぐにしか音が飛ばないキャビネットはライヴでは使いにくいところがありますけど、ライヴハウスなんかではうるさすぎず、まわりにも広がって良いのではないかと思います。
(持ち上げてみて)軽っ! VB-115は軽すぎて筋トレにならないですね(笑)。自分が“冷蔵庫”と例えられるれる810キャビネットを使わない理由は、自分では持ち運びが無理だし普段機材を運んでくれるテックさんの負担になるからでもあるんですけど、もし自分がこれに買い換えたらテックさんが泣いて喜んでくれると思います(笑)。V3も指2本で持てますし、今日電車で家まで持って帰れますね。どういう技術でこんなに軽くできるのか不思議です。階段しかないライヴハウスやリハスタにも自分の好みの音色が作れるアンプ・ヘッドやキャビネットをひとりで持っていけるのは、自分的には革命だと思いますね。
デジタルな音が増えていったとしても、ひとつの軸として残り続ける。
2023年10月25日、いよいよ発売となったVentureシリーズは、Ampegの伝統を引き継ぎながらも現代のベーシストが求めるモダンなサウンドと優れた機能性を実現した小型ベース・アンプ・シリーズだ。Ventureシリーズのアンプ・ヘッドで先行リリースされるのはV3とV12。どちらもオール・アナログ回路によるプリ・アンプとクラスDパワー・アンプで構成された小型軽量アンプ・ヘッドだ。
V3のフロント・パネルには中央下部に大型のLEDが装備され、スピーカー・オンで青、ミュート時は赤に点灯する。プリ・アンプは-15dBのパッド、ミドル周波数が無段階でコントロール可能な3バンドEQ、ウルトラ・ロー/ハイ・スイッチ、2種類のヴォイシング・モード(SVT/B15)を備えたSGT(スーパー・グリット・テクノロジー)ドライブ機能を備え、Ampeg伝統の骨太なロック・サウンドからモダンなクリア・サウンドまで幅広いサウンド・メイクを可能にする。ウルトラ・ローは-/0/+、ウルトラ・ハイは0/+の切り替えとなっており、機能だけでなくデザインもAmpegの伝統を受け継いでいる。
バック・パネルにはグラウンド/リフト、プリ/ポスト、0/-20㏈切り換え機能を備えたXLRバランス出力により万全のDIアウトを引き出せるほか、エフェクト・センド/リターン、AUX外部入力、ヘッドフォン出力といった入出力端子も充実している。V3のスピーカー・アウトはVentureキャビネットと同様、フォン・プラグも接続可能なコンボ・タイプのスピコン・コネクタ×2を搭載している(※Venture V7&V12はコンボ・タイプではなく、スピコン・コネクタ×2 *NL2タイプのみ)。出力300WのV3はギグバッグのポケットにも入るコンパクトな筐体(W231xD267xH65mm)に重量は1.8kgと超軽量。V12は出力1200WでV3と同様の機能に加え、コンプレッサーとエフェクト・ループのドライ・ミックス・コントロールが装備される。
Ventureシリーズのキャビネットは5種類ラインナップされる。スピーカー・ユニットは2008年に設立された新進気鋭のイタリアのブランドLavoce(ラヴォーチェ)によるカスタム・ネオジム・ウーファーと高域用ドライバーを搭載。新設計のキャビネットと組み合わせ、驚異的な軽さと堅牢性の高さを実現している。入力端子はフォン・プラグも接続可能なコンボ・タイプのスピコン・コネクタ×2で、バック・パネルにはオフ/-6dB/0dBを選択可能な高域用アッテネーターを装備する。
今回佐藤が試奏したキャビネットは15インチ・カスタム・ネオジム・ウーファー1基と高域用ドライバー1基を搭載するVB-115だ。ふたつの大型ポートを前面に装備するバスレフ構造となっており、驚異的な軽さと堅牢性の高さを実現しながらも、15インチ特有の低音域の量感や迫力ある音像はもちろん、ワイドレンジで現代的な音色再生も可能にしている。グリル・ネットは簡単に着脱可能だ。入力端子はフォン・プラグも接続可能なコンボ・タイプのスピコン・コネクタ×2で、バック・パネルにはオフ/-6dB/0dBを選択可能な高域用アッテネーターを装備する。なお、VB-115のインピーダンスは8Ωとなっており、V3を1台のVB-115に接続した場合の最大出力は150Wとなる。
本モデル以外には、12インチ・ウーファーを1基搭載するVB-112、10インチ・ウーファーを2基搭載するVB-210、12インチ・ウーファーを2基搭載するVB-212、10インチ・ウーファーを4基搭載するVB-410がラインナップされている。
価格:¥94,600 (税込)
価格:¥162,800 (税込)
佐藤征史
さとう・まさし●2月1日生まれ、京都府出身。高校に入学してからベースを弾き始める。その頃に岸田繁(vo,g)と出会い、くるりの前身バンドを結成。その後、立命館大学の音楽サークルでくるりとしての活動をスタートする。1998年にシングル「東京」でメジャー・デビュー。ロックを基盤に実験的な試みで新たなサウンドを模索し高い評価を得ている。2023年10月4日には、くるり14作目となるフル・オリジナルアルバム『感覚は道標』をドロップ。また、オリジナル・メンバーによる本作の制作現場に密着したドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が公開中だ。