AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Genzler / ACOUSTIC ARRAY PRO
ニューヨークのアンプ・ブランド=Genzler(ゲンツラー)が開発したアコースティック・ギター用アンプ、ACOUSTIC ARRAY PRO(AA-PRO)。独自のシステムによるクリアなサウンドを武器にした高品位モデルとして、界隈では評判のアンプである。なおかつ2イン×2チャンネル仕様でマイクとギターを同時出力できるため、弾き語りもこの1台で完結できる。そこで本コーナーでは、弾き語りの若手筆頭格=崎山蒼志を招いて、インタビュー形式でレビューしてもらおう。
弾き手の表現を忠実に再生する
クリアでレンジの広い注目機
Genzlerは、ベース・アンプで名高いGENZ-BENZを前身にしたブランド。創業者のジェフ・ゲンツラーは、GENZ-BENZ時代から“アンプ自身で色付けをしない透明なトーン”を追求し続けており、まさにその意志をアコギ用アンプに注入したモデルが本機AA-PROである。
鍵を握るのは、“アレイ・システム”と呼ばれるスピーカーの構造。10インチのウーファーの前面に2.5インチのコーン・ツイーターを同軸上に4つ配置し、厚みのある中高音域、迫力の重低音、垂直方向への音の伸びや広いレンジ、そして弾き手の繊細なタッチを忠実に再生する解像度の高い音質を実現した。また、2チャンネル仕様でそれぞれにマイク/楽器用インプットを装備しているため、この1台で弾き語りもお手のもの。150Wの高出力ゆえ、カフェのような場所から小ホール程度まで幅広い会場に適しているのもポイントと言えるだろう。
色んな可能性がある。
今っぽくてカッコいいアンプです。
──崎山さんはそもそも、こういったアコギ用アンプってけっこう試してきたんですか?
いくつか試したことがあります。アンプを使わずにラインで出してる人も周りには多いですけど、歌わずにアコギをメインで弾く人がアコギ用アンプを置いていたりして、“カッコいいな”と思って。ちなみに自分は、ライブではベース・アンプとラインの2つを混ぜて外音を作ってます。
──なるほど。ではさっそく、このアンプの音をチェックしましょう。最初はEQをすべて12時で。
1発鳴らして思ったのは、凄くファット。ベース・アンプで有名だったのがわかるような(Genzlerの前身はGENZ-BENZ)。それと、音に奥行きがあります。これ、箱そのものの奥行きもけっこうありますよね?
──たしかに、このサイズの一般的なギター・アンプと比べるとかなり分厚く見えますね(349mm)。
これも関与してるんですかね。太くて、奥行きがあるから、強く弾いてもまったく痛く聴こえないです。僕が普段使ってるオベーションをアンプにつなぐと、どうしてもキャリキャリと痛い音になりがちなんですけど、そこが出てこない。プリプリしてます。オベーションらしさを残したまま、音が温かいというか。凄い、良いアンプですね。
──そばで聴いていても、音の立体感と迫力を感じます。
まとまりがある低音が出てくれるんで、嫌な太さじゃないんです。曇りがないというか。ロー・ミッドもかなり魅力的。これ、オベーションじゃなくて、L.R.Baggsとかを搭載したマーティンでも試してみたくなりますね。ナチュラルで良い音が出そう。
──EQの可変幅はどうですか?
かなり幅広いですね。ツマミ次第でめっちゃ音が変わります。ローをフルにするともう、物凄い重低音が出てカッコいい(笑)。中に入っているウーファーがおもいっきり鳴ってるんでしょうね。
──CONTOURツマミは?
かかりが良いんで、これはもはやエフェクターみたいな感覚です。フルにするとキャリキャリのラインみたいな音になります。で、個人的に凄く気に入ったのが、ゼロに絞った音。ローファイ・ポップみたいなかわいらしい音になります。こういう風にあえてアコギっぽくない音にして、録音で使っても面白い。
──リバーブとコーラスも内蔵しているので、その音もチェックしてみましょう。
リバーブは深い音がします。横に広くて奥行きもあって、底から湧き上がっている感じというか……とにかく深い。
──ローファイ/ハイファイのどちらかというと?
ハイファイなほうですね。懐かしい雰囲気というよりは、クリアで新しいムード。最新の音源で聴けるような、今っぽいリバーブですね。
──コーラスはどうですか?
コーラス、めっちゃチルな音色です。こっちもクリアな感じで、近年の音楽に多用されているような音で。このアンプ自体の音の奥行きが凄いからでしょうけど、きれいにかかるんでもうずっと弾いていられます(笑)。気持ち良い。……あ、このコーラスをかけつつ、さっき気に入ったローファイな音にしてみよう(CONTOURをゼロにする)。
──おお、近年のベッドルーム・ポップみたいですね!
ですよね。洋楽のイントロで、やたらローファイな音から始まるのってあるじゃないですか? あの音が出せます(笑)。ローファイ・チル・ポップというか。
──プレイヤーによって多様なサウンドメイクができそうなアンプですね。
色んな音作りができますし、ツマミの効き幅が広くて音作りを追い込めるのは、このアンプの特徴だと思います。普通にツマミを全部12時にしておけば、シンプルに良いアンプの音がしますね。
──このアンプ特有の音の個性に関してはどうですか?
とにかくクリアで、弾きたいところ、出したいところを出してくれる。生音そのままのニュアンスもきちんと出してくれつつ、アンプらしい暖かみも同居しているような感じで。そこが魅力的ですね。
──アタック・レスポンスはどうですか? 崎山さんの場合、パーカッシブなバッキングが肝なので、気にする点ではないでしょうか。
めちゃくちゃ良いと思います。音が飛んでくる感じで、凄くダイレクトです。細かいタッチのフレーズにも全部反応してくれますね。でも、こんなにレスポンスが速いのに耳に痛くないのが、個人的に素敵だと思う。強く弾いた時に、バリバリと痛いところがないんですよね。
──マイクも別系統でインプットできるので、弾き語りも試してみましょう。
これ1台で弾き語りできるのは心強いですね。とにかく音に奥行きがあるアンプだからか、同じスピーカーからマイクとギターが出ていても変な被り感もないです。このアンプだけ持っていけば、機材がない会場でもライブができちゃうわけですよね? この奥行きのある音が公民館とかで鳴るのを想像すると、ロマンを感じます。
──1台のアンプで歌とギターを出力するメリットってなんだと思いますか?
自分でボーカルの音作りまでできることですね。ギターと被らないように音を棲み分けたりできますから。MIDのツマミがちゃんと2つ用意されてるので、この辺を細かくいじれば中域の出方を分けられるし、良い感じの抜けが作れると思います。EQの効きはボーカルになっても相変わらず良いですから。リバーブとかコーラスの効きは、歌のほうがナチュラルにかかる印象ですかね。
──もし自身でこのアンプを使うとしたら、どう活用しますか?
さっきやった、ローファイな設定でコーラスをかけた音が完全に気に入っちゃったので、あの音をレコーディングで使いたいですね(笑)。どうやったらああいう音が作れるか知りたかったんです。もしライブでこれを使うなら、ルーパーとかのペダルを駆使したような音楽をやってみたいです。エフェクトのノリが良さそうなので。さらにマイクにもエフェクターを噛ませてみたりして、色んな音が出る不思議な箱みたいにして使いたいです。
──最後に、本機はどんなタイプのプレイヤーに向いたアンプでしょうか?
海外のカッコいいシンガーソングライターが使っていそうですね。外部エフェクトも駆使して、凄くレンジの広いサウンドを出すような人に良さそう。あと、単純に上手い人。レスポンスが速くて、ハイもきちんと出るからリードが弾きたくなるんですよ。ジャズの人にも最高だと思います。それと、音が遠くに飛びそうだから野外で弾き語りたい人も相当良いですね。あ、あとバンドでアコギを鳴らす人にも向いてます。しっかり音が抜けて、アンサンブルで気持ちの良いところにいてくれそうなので……たくさんありますね(笑)。色んな可能性のある、今っぽくてカッコいいアンプだと思いました。
価格:オープン
崎山蒼志
さきやま・そうし●2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。現在21歳。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、そのパフォーマンスが一躍話題に。現在までに5枚のアルバムを発表しており、最新作は8月リリースの『i 触れる SAD UFO』。