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- 2024/11/16
PRS
1985年、ルシアーのポール・リード・スミス氏が設立したPRS。Custom 24やMcCartyなどのCoreシリーズを思い浮かべる読者も多いと思うが、それらと双璧を成す人気モデルがボルト・オン・シリーズだ。今年、そのシリーズへ新たにNF 53とMyles Kennedyが加わった。ビンテージ・ギターのサウンドを目指しながらも、現代におけるプレイアビリティを考慮して設計されたモデルとなっている。その特徴を解説すると共に、ギタリスト/SSWの森 大翔のインプレッションもお届けしよう。
まずはポール・リード・スミス氏に登場いただこう。これまで数多くのギターをデザインしてきたポール氏に、PRSのボルト・オン・モデル、そして新モデルのNF 53とMyles Kennedyについて語ってもらった。
—— ボルト・オン・モデルを作るようになった経緯は?
Coreシリーズのトップ材に使用するメイプルは、杢目が不十分で用途に困るものが膨大に存在してきました。その材を活かすため、Custom 24のボルト・オン版をメイプル・ネックで作ることになったんです。マホガニーと異なる強度を持つ木材なのでネジ穴がつぶれることがなく、CE 24を実現できました。
—— セットネックとボルト・オンでは、どういった鳴りの違いが生まれますか?
ボディとネックが完璧な接触面を保てなければ違いは生まれると思いますが、理想的な接触面であれば同じ結果になるでしょう。PRSでは接合部にペイントを施さず、しっかりとボディとネックが接触することに注意を払っていますね。ジョイント方式よりも、材の違いのほうが大きく影響すると思います。
—— セットネック・モデルとボルト・オン・モデルは、それぞれどういったプレイヤーにオススメですか?
どちらも仕事をするためのツールとして、ジャズ奏者にもブルース・プレイヤーにも隔てなくオススメできます。ネック材やボディ形状など、好みの音やスタイルに応じて選んでもらえれば幸いです。
—— NF 53を製作することになったきっかけを教えて下さい。
NF 53は53年製のシングルコイル・ギターにインスパイアされたモデルです。当時のシングルコイルにはきらめきや独特なトーンがあり、多くの人が思い描くトレブリーなサウンドとは異なります。ただ50年代初期のシングルコイル・ギターにはハムノイズが多いものもあり、アンプで軽く歪ませるだけで音が埋もれるくらいノイズが出てしまうこともありました。そこで、最高のサウンドでありながらノイズをもっと抑え、音楽的なトーンを持つギターを作りたいと考えたのです。
—— ネックは柾目ではなく板目を採用していますね。ネックの反りの対策も必要になると思いますが、工夫している点があれば教えて下さい。
柾目には構造上のメリットがあるのでマホガニー・ネックでは採用していますが、実はSilver SkyやNF 53で参考にしたようなビンテージ・ギターはすべて板目なのです。柾目でなければ使えないメイプル・ネックはそもそも品質に問題があると言えるでしょう。木材をしっかりと貼り合わせ、グッドなダブル・アクティング・トラスロッドを仕込んでいることが品質に貢献していると思います。
—— ネックの太さも53年製のビンテージ・ギターを参考にしたのですか?
そうですが、多くの変更も加えています。53年製のビンテージ・ギターはネックに厚みがありますが、私たちはそのほかのビンテージ個体を参考にしながらネック背面を少し削りました。またネック・エンドが若干広めになっています。これにより快適でモダンな握り心地になったと思いますし、ハイ・ポジションでの弾きやすさも向上しました。Myles Kennedyではマイルス・ケネディが好むネック・シェイプを考え、独自に製作しています。
—— NF 53とMyles Kennedyのピックアップの特徴を教えて下さい。
NF 53はビンテージ・サウンドでありながらもハム・キャンセリングさせたものとなっています。そのためハムバッカー構造になっているのですが、求めるシングルコイルのサウンドにするのは容易ではなく、実に14ヵ月もの時間を要しました。Myles Kennedyは、マイルスが所有するシングルコイル・ギターとPRSのハムバッカー・ギターの中間的なサウンドを目指しましたね。Narrowfield MKピックアップにより、音楽的な形でそれを実現できました。
—— ブリッジは2連サドルになっていて、これも特徴的です。
“2 sets of 3”と呼んでいて、3本ずつあるワウンド弦とプレーン弦がそれぞれ同じサドルに乗る構造になっています。従来の3サドル・タイプと比べてワウンド/プレーン弦ごとのイントネーションが良くなり、オクターブ・ピッチの調整がさらに正確に行なえるようになるんです。またブラスを用いることで、細かな調整機能と最高のサウンドを両立させています。
—— どんなプレイヤーにNF 53とMyles Kennedyを弾いてもらいたいですか?
シアトルよりもナッシュビル系のサウンドに合うかもしれませんね。もちろん、シアトルのプレイヤーにも好んでもらえるはずです(笑)。日本にもたくさんの音楽がありますが、ジャンルを問わず多くの方に気に入ってもらえると幸いです。
1953年製のビンテージ・ギターにインスパイアされたボルト・オン・モデル。ボディにはスワンプ・アッシュを採用し、豊かな響きを持ちながら軽さも両立している。
指板とネックは共にメイプルで、フレット数は22。ヘッド形状は伝統的なPRSスタイルで、ロック式ではなくビンテージ・スタイルのチューナーが備わっている。弦はボディ裏から通すのではなくブリッジ・プレートに引っ掛けるトップロード式で、ワウンド弦とプレーン弦がそれぞれ同じサドルに乗るようになっているのも特徴だ。
ピックアップは、ハムバッカーの構造でノイズを抑えながらシングルコイルのサウンドを出すことができるNarrowfield DDを2基搭載。DDはDeep Dishの略で、通常よりも深めのボビンを使用してコイルの巻き数を多くし、マグネット間に金属プレートを挿入することで、低域を失わずに音楽的に響く高域を実現している。
アルター・ブリッジのギタリストであるマイルス・ケネディ初のシグネチャー・ギター。NF 53に近い仕様ではあるが、マイルスの演奏スタイルや好みのサウンドに合わせてチューニングが施されている。
特筆すべきはピックアップで、ハムバッカーのパワフルさとシングルコイルのアタック感を兼ね備えたNarrowfield MKピックアップを2基搭載。ピックアップ・セレクターは5ウェイで、ハムバッカーとコイル・スプリットを組み合わせた多彩なパターンに対応する。また、トーン・ノブはプッシュ/プルが可能で、プル状態ではTREBLEピックアップ(リア)の高域をロール・オフさせたトーンとなる。
安心感のある演奏性で、太く抜けるサウンドです。
普段使っているTLタイプはコンターがないのですが、NF 53とMyles Kennedyはコンターがあるので、体にフィットします。ピックアップはハムバッカー構造でシングルコイルの音を出せるということもあって、ノイズが少なく太さと抜けの良さを持っているサウンドです。Myles Kennedyはピックアップ・ポジションの選択肢が多いので、サウンドメイクも楽しそうですね。
録音環境
価格:¥514,800 (税込)
価格:¥514,800 (税込)
森 大翔
もり・やまと●北海道・知床 羅臼町出身、20歳のSSW/ギタリスト。シングル「日日」(2021年)でデビューし、今年5月に1st『69 Jewel Beetle』をリリース。6月に自身初となるワンマン・ライブを東京Shibuya eggmanで開催しソールド・アウトさせた。11月には1stワンマン・ツアー“Mountain & Forest”を予定。