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- 2024/11/16
Marshall Re-Issue Pedals
創業60周年を迎えたMarshallが、その輝かしい歴史に名を残すペダル4種を復刻した。The Guv'nor、Drivemaster、Bluesbreaker、Shredmasterという伝説の歪みペダルたちは、Marshallアンプの個性をペダル・サイズで再現しながら、各モデルごとに違ったフィーリングを得られるチューニングが施されている。オリジナルが発売されていた80年代後半〜90年代のサウンドに精通する村田善行に、これらのリイシュー・ペダルのレビューを行なってもらった。
1988年に発売されたディストーション・ペダルの復刻モデル。Marshallアンプが持つキャラクターをペダルに継承し、適度なコンプレッション感を持つ歪みが得られる。
Specifications
特に40代以上のギタリストにとって、Marshallのペダル=The Guv'nor(アクセントは“ガ”で!)というイメージが根強いと思う。憧れのMarshallブランドのエフェクター、しかもイギリス製……これだけで当時の演奏家/ギタリストの触手はビンビンと伸びたことだろう。
ロックがまだ“骨っぽい”時代……90年代中期くらいまでの荒っぽいサウンドにうってつけだったMarshallアンプ。中でも時代のサウンドを作り出していたのが名作JCM800シリーズだ。The Guv'norはそのJCM800のサウンドをそのまま足下で再現したようなペダルとなっている。ザラリとした質感で、中高域にピークを持つ噛み付くようなサウンドは、当時主流だったハイパワー・ピックアップ(高域が抑えられて中域が強い)との相性もあって広く市場に受け入れられた。
今回リリースされたThe Guv'norは当時と同じスチールの筐体でレトロなデザイン、そしてその個性的なサウンドを見事に復刻している。後年に登場するThe Guv'norをリスペクトして作られた他ブランドのペダルもあるが、その多くは音色のピークを抑えて低域をプッシュしており、それでは面白くない。この突き抜けるような中域とスピード感、これこそがThe Guv'norの醍醐味だ。
オリジナルThe Guv'norを知る皆さんはどうぞ安心してほしい。この復刻版The Guv'norには使いやすい音色のアレンジなどは一切施されていない。まごうことなきThe Guv'norサウンドがここにある。
The Guv’Norをベースに、ビンテージからモダンまで幅広いサウンドを生み出せるようにカスタムされたペダル。よりアンプライクなドライブ・サウンドを提供してくれる。
Specifications
The Guv'norの後継機種として登場したDrivemaster。The Guv'norの個性である突き抜けるような中高域はそのままに、歪みの質感をアレンジしたサウンドが特徴。強いて言えば、The Guv'norがJCM800 2203だとすれば、DrivemasterはJCM800 2210というイメージ……と言っても異論は唱えるオヤジさんはいないだろう。
The Guv'norと同じように低域はスッキリとしており、歪みを深くしても音にスピード感があるのでハードロック・スタイルにも完璧にハマる。特に90年代以降のアメリカン・ハードロックにおけるMarshallサウンドを好む皆さんにはマストなペダルだと言えるだろう。
ザラリとしたMarshallサウンドでありながら刺々しすぎず、音の芯がくっきりと感じられる。このクランチ・サウンドはミレニアム以降のディストーション・サウンドとは一線を画しながらも、現代的な音楽の中でも間違いなく必要とされるサウンド。ゲインを決めてロー・コードを1発鳴らせば、その無敵のMarshallサウンドに歓喜すること間違いなしだ。
同社のコンボ・アンプ、1962“Bluesbreaker”のサウンドをペダル・サイズに凝縮。歪みは控えめながら、その滑らかなドライブ感が多くのギタリストに支持されてきたモデルだ。
Specifications
Marshallのペダル・ラインナップ中、最もゲインが抑えられたモデルがこのBluesbreakerだ。1962“Bluesbreaker”の原型となるJTM45を連想させるクリアなドライブ・サウンドが特徴で、比較的クリーンなアンプやアメリカン・アンプのユーザーであれば、すべてのコントロールをフル付近にセットして使用するのがデフォルト。ギター側のトーンやボリュームを操作して音を作るようなギタリストに好まれるペダルだと言える。
程良いクランチが得られる真空管アンプを使っている場合はボリュームをフルに、ゲインを適正な位置にセットすれば音が濁らずに素晴らしい“ブリティッシュ・サウンド・ブースター”としても威力を発揮するだろう。特にブラック・ガードやセミアコなどの中域が豊かで適度にパワーのあるピックアップを搭載したギターとの相性は素晴らしく、Marshallならではのスピード感に加えて絶妙なコンプ感とサチュレーション感がある。ほかのペダルをプッシュするブースターとしての使用や、別のブースター・ペダルなどでこのBluesbreakerをプッシュしても良い結果が得られるはずだ。
このペダルの面白さは、90年代当時よりも今の方が断然理解しやすいかもしれない。そういう意味では早すぎたクリーン・ブースターであり、アンプライク・ペダルだったと言えるだろう。現代の名手がこのペダルを見つけたように、皆さんもこの“地味だけどほかにはないサウンド”を持つペダルをぜひ体験してみてほしい。
時代を象徴するハイゲイン・サウンドを生み出すペダル。Contourは中域のコントロールで、高域と低域にも影響があるという特徴的なパラメーターとなっている。
Specifications
ハードロック全盛の90年代を象徴するサウンドのShredmasterだが、その愛用者を見てみると意外にもヘア・メタル/ハードロック系の音楽とは異なる音楽性のミュージシャンが多いと感じる。その理由は、いわゆるグランジ・ムーブメント以降に広く好まれた“壁のような歪み”を生み出すことにShredmasterが優れていたためかもしれない。
ContourというパラメトリックEQ的なトーン・コントロールで全体のサウンドを決定するShredmasterは、ほかのMarshallペダルよりもスピード感という点では劣る。その代わりに音圧と低域のパワー、そしてプレゼンスにあたる超高域がより強く感じられるのが特徴だ。そのため当時の“シュレッド・ギター”演奏家は、音圧よりもスピード感とバイト感のあるサウンド……つまりThe Guv'norやDrivemasterを好んだのでは?と考えることもできる。
Marshall愛用者であるリッチー・ブラックモアやイングヴェイ・マルムスティーンがクラシックなMarshallサウンドを好んでいることを思い出してほしい。むしろShredmasterの“歪みの壁”はパワー・コードに最適だった。特に静と動を繰り返してシンプルなロックを演奏するイギリス周辺のオルタナティブ・ミュージシャンに好まれたのだろう。
ファズではなくディストーションでありながら中低域が荒っぽい独特の歪みは、特にシングルコイル・ギターとの相性が抜群。この復刻モデルでもその特徴は完全に再現されている。普段ファズを愛用しているが爆発力と音抜けに不満を持っている、というギタリストはぜひ試してみてほしい。
正直、“復刻ブームもここまできたか”といういささか冷めた目でこのMarshallのペダル・シリーズをチェックした。しかし感じたのは、“やはり名機は名機である”ということだった。当時も所有していたという事実/ノスタルジーも少なからず影響しているとは言え、70年代から続くロック・ミュージックはもちろん、現代の音楽においても少しも古臭さを感じさせないサウンドになっている。
4モデルすべてに共通するのは圧倒的な音抜けで、Marshallアンプのイメージそのものだ。その中で少しずつサウンドのチューニングに変化をつけてキャラクターを作り出しており、まさしくアンプ・ブランドならではの音作りとなっている。ビンテージのMarshallアンプがいつの時代でも受け入れられるのと同じように、このペダルたちもいつの時代においても必要とされる音を持っていると言えるだろう。10代の自分にはわからなかったこれらペダルの魅力を再認識しつつ、どのペダルを選ぼうか悩み始めている自分がいる。つまり、ただの“懐かしい音”ではまったくないということだ。
価格:¥27,500 (税込)
価格:¥27,500 (税込)
価格:¥27,500 (税込)
価格:¥27,500 (税込)
村田善行
むらた・よしゆき●ある時は楽器店に、またある時は楽器メーカーに勤務。国内外、新旧モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器/機材レビューを数多く行なっている。