AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Bacchus / WOODLINE
BacchusやMomose、STRといったブランドで知られる国産ベース/ギター・メーカー、ディバイザーによる大商談会。個性豊かな限定モデルが一堂に会すこの見本市は、年々その規模と注目度が拡大し、業界から熱い視線が注がれる一大イベントとなっている。今回は5月23日より開催される2023年度の大商談会モデルより、主要ブランドである“Bacchus”のベース・モデルをフィーチャーし、フラッグシップ・シリーズ“WOODLINE”から注目モデルをピックアップ。製作を手がける飛鳥工場より2名を迎え、今回のモデルに込められたこだわりを聞いた。
ここでは株式会社ディバイザーの関連会社であり、同社楽器の製作を手がける飛鳥工場より、代表の八塚悟氏とビルダーの梶田恭正氏にインタビューを敢行。今回の大商談会におけるBacchusのベース・モデルに込めた思いとこだわりを語ってもらった。
――まず今回の商談会モデルでもあり、Bacchusのベース・モデルを代表するフラッグシップ・シリーズ“WOODLINE”とはどういったシリーズなのか、改めて概要を教えてもらえますか?
八塚 WOODLINEは20年ぐらい前にスタートしたシリーズで、Bacchusのベース・モデルで最も評価をいただいている国産のシリーズです。“木材本来の良さを塗装で見せたい”という思惑があり、基本的にはオイル・フィニッシュがスタンダードで、シリーズ名のとおり“木らしさ”を提示するというコンセプトがあります。
梶田 それに加えて今回のような商談会モデルだと、他社では取り扱っていないようなレアな木材を使ってみたりとか、珍しい特別感のあるモデルを目指していますね。
――では商談会におけるベース・モデルは、どういったコンセプトで開発を進めていくのですか?
八塚 今回のBacchusで言えば、以前発表した際にも好評だった木材に桜を使用したモデルがトピックで、今回は富士の枝垂れ桜を採用しています。加えて神代タモという1000年モノの希少材を初めて採用したモデルもラインナップしています。さっきも言ったように“WOODLINE”という名のとおり、“いかにウチらしい木材を見せられるか”という部分が根本にあります。
梶田 それぞれのモデルで、ボディ/ネック/指板といった、各木材の組み合わせでも楽しめると思います。あくまでも“木”へのこだわりは重要視していて、より木材を厳選した“WOODLINEらしさ”を出したラインナップになっていますね。
――枝垂れ桜の話もありましたが、“ディバイザーといえば桜”というイメージも定着しているように思います。桜を使用することへのメリットをどう考えていますか?
八塚 おかげさまで“ディバイザー=桜”ってイメージも定着しましたが、もともと桜を使い始めたのは10年前。10年間やり続けた結果だと思っています。でも単に桜を使うのではなく、桜の種類にもこだわって、特別感のある美しい木目のある桜を探したりだとか、デザインも毎年刷新したり、そういった努力を重ねた結果が現在の立ち位置につながったと思っています。
梶田 サウンドの傾向としてはわりとフラットというか、極端なクセがないことが桜の特徴ですね。だからベースにも合っていると思うし、プレイヤーにとっても使いやすい木材だと思います。
八塚 桜ってひと言で言っても、桜だけで何百種類もあるんですよ。一般的に皆さんが連想するのはソメイヨシノとかシダレ桜だと思うんですけど、それも産地によって特性が全然違う。基本的には化粧板としてトップ/バック材として使うわけですけど、しっかりとした硬さもあるので、ギターやベースといった弦楽器にも適していますね。
梶田 そう。硬いんですけど、程よい硬さというか、硬過ぎず柔らか過ぎずでちょうどいいところに落ち着くのが桜の使いやすいところなんです。
――今回の商談会モデル“WOODLINE SHIDAREZAKURA”はセミホロウ・ボディで、ボディ材にはアフリカン・マホガニーが採用されています。いわゆるJBタイプには珍しいセレクトですよね。
梶田 以前マホガニー・ボディでWOODLINEのモデルを試しに作ったことがあるんですけど、ミッドがふくよかですごく良い音だったんです。アッシュとも違うニュアンスで、“これはアリかも”という感じで。トップ材の桜で硬く締めつつ、バック材のマホガニーでふくよかさを出すという、通常のJBタイプとは違った音が出せると思います。やっぱり世の中にないものを出すということが個性につながる部分だと思うし、レギュラー品ではなかなかできない特別なことも商談会モデルであれば試すことができる。この仕様って一般的には見ない形だとは思うんですけど、だからこそぜひ弾いてもらいたい。すごくおもしろいモデルに仕上がったと思います。
八塚 セミホロウにしたのは、マホガニーとの兼ね合いもあるけど、桜の花びらを形取ったfホールを見せたかったから。楽器として音はもちろんだけど、見た目の完成度も重要じゃないですか? だからこういった見た目も重要視していきたいんですよ。このfホールは海外からも人気があって、そういう意味で“ザ日本”という部分も世界に見せていきたいと思っています。ちなみにこのデザインは、ディバイザーの女性デザイナーに“枝垂れ桜”をテーマにデザインしてもらったものが原案。こういった女性ならではデザインを取り入れられるのも弊社の強みだと思っています。パープル・ハートの指板にも桜をモチーフにしたインレイが入っています。
梶田 このパープル・ハートもなかなか珍しい木材なんですけど、すごく硬い木で指板材として有効なんです。エボニーの質感に近いですね。あと“パープル・ハート”って名前だけに色もパープルで、そういう意味でも桜との相性がいいと思います。
――続いて神代タモを使用した“WOODLINE JINDAI”に関してですが、この“神代タモ”という木材は初めて耳にしました。どういった木材なのですか?
八塚 “神代”というのは1000年前の木材で、土や火山灰、川のなかから出てきた希少材です。通常だとタモは真っ白なんですけど、神代タモはやや緑がかった色味をしているのが特徴ですね。Bacchusブランドの製品で神代を使ったのは初めてなんですけど、やっぱり大量に出てくる材じゃないのでBacchusのようにある程度数を作るモデルに使うのは難しかったんですよね。でも木材の買い出しに出かけた際にたまたま手に入ったのでやってみようと。いろいろなラインナップが欲しかったし、希少材を皆さんに楽しんでほしかったので今までやったことがない木材にも挑戦してみました。
梶田 神代は年数が経っているだけあって、カラカラに乾ききっている。それもあって独特な質感が楽しめると思います。今回のモデルはバック材がアルダーなので音に関しては“アルダーの音”に近いというか、使いやすいサウンドに仕上がっていると思います。
八塚 神代は高価でなかなか手に入らないものでもあるんですけど、今回挑戦したことでWOODLINEがまた進化してワンランク上の楽器になったと思います。楽器で使っているのはウチくらいというか、世界で初めてじゃないですかね(笑)。楽器以外でもほぼ見たことがないくらい出回らない木材ですから。
――八塚さんが最初に神代タモを提案した際、社内ではどんなリアクションだったんですか?
八塚 “そんな木があるの!?”って反応でした(笑)。だって1000年も前の木ですからね。ロマンがあってお客さんはもちろん我々もワクワクするし、こういう独自なものを作っていったほうが楽しいと思うんです。神代はいろいろな条件が重ならないと採れないもので、私が買ったのは鳥海山という東北の山から出てきたもの。常に木材のアンテナを張っていて、材木屋さんとのコミュニケーションのなかでたまたま巡り会えたものなので、普通の市場では滅多に出てこないと思いますよ。
――それだけ希少な木材だと価格もかなりお高いのでは……(笑)?
八塚 それはみなさんのご想像にお任せします(笑)。でも多少原価がかかってもおもしろいものを作っていかないと楽器の可能性は広がっていかないし、そういう挑戦を見せられる会社でありたいんですよ。木材っておもしろいもので、同じ材料で10本作っても一本一本表情が違う。だから多くの人に視覚でも楽器を楽しんでほしいという思いもあります。
――WOODLINE JINDAIのボディ材にはアルダーがセレクトされています。先ほどの“桜トップ×マホガニー・バック”も含め、トップ材とボディ材の組み合わせはどのように選定しているのですか?
梶田 “桜×マホガニー”に関しては、どちらかというと“特別なもの”ってイメージ。対して神代タモはオーソドックスなサウンドを狙うために、安定感のあるアルダーを選びました。あまりに特殊な組み合わせも先鋭的すぎるので、いいとこ取りになるよう選定していますね。指板に関してはWOODLINEの標準がエボニー指板なので、そこを踏襲しています。
――続いてヘッドレス・モデルの“WOODLINE HL TOCHI”に関してですが、バッカスのヘッドレスは2018年にリリースされたモデルで、JBのイメージが強かったバッカスでは特徴的なモデルとして当時話題にもなりましたよね。
八塚 ヘッドレスに関しては、実は発売するかなり前から頭のなかに構想だけはあったんですけど、パーツ類が不透明だったこともあってなかなか踏み出せなかったんです。だからヒップショットなどからヘッドレス用のパーツがリリースされたりと、パーツ関係が揃ってきたことも開発に至った要因になりますね。
梶田 30年くらい前にはディバイザーにもRiverheadと言うブランドのヘッドレス・モデルがあったんですけど、改めて“WOODLINEでしっかりとしたヘッドレスを作ろう”という話になり、パーツ類も揃ってきたことで開発がスタートしました。でもプロト・タイプを何回か作ってみてもずっと失敗続きで。みんなの知恵を合わせて、何度も試作器を作るなかで、やっと世に出せるものを完成させることができました。結果、予想以上に多くの方に評価していただくことができたんです。
八塚 ヘッドレスと聞くと特殊な形のベースを思い浮かべる人も多いと思うんですよ。だからあくまでも使いやすいヘッドレスというか、みなさんが見慣れていて持ちやすいものを狙った、JBタイプを踏襲したモデルを目指しました。ヘッドレスの新しいスタンダードになるようなモデルができあがったと思います。
――今回の“WOODLINE HL TOCHI”にはボディ材に国産材である“フレイム・トチ”が採用されています。これまた珍しい木材ですが、どういった特徴があるのでしょうか?
梶田 栃はこれまでにも何度か扱っている木材なのですが、程よい重量で扱いやすいのが特徴です。アッシュ/アルダーに変わる“第三のボディ材”になるほどの可能性を秘めた木材だと思います。
八塚 質感としてはアッシュとアルダーの中間のようなイメージ。ボディ材として扱っているメーカーは多くないと思うんですけど、推していきたい木材のひとつですね。こういった国産材の良さというか、日本の木材にもこんなにたくさんの種類があるんだぞっていうのを皆さんに知ってほしいんですよ。どうしてもアッシュ、アルダー、マホガニーってところに行きがちなんですけど、栃には栃にしかない魅力があるので楽器の新たな可能性という意味でも積極的に使っていきたいと考えています。
梶田 ちなみにWOODLINE HL TOCHIには“モダン・マルチレイヤー”と呼んでいる特殊な塗装が施してあるんです。マルチレイヤーというとエイジド加工のひとつのバリエーションと思われるかもしれませんが、通常のヴィンテージにはありえない色の重ね方をしています。かなりインパクトのあるルックスでこれもまたウチならではの塗装なので、そこも注目ポイントのひとつですね。おもしろいものを世に出したいという思いはビルダー全員が持っていますから。
八塚 エイジド加工はこれまでBacchusのモデルにはほぼなかったんですけど、ヘッドレスならではの遊び心と合わせてウチの技術を見せられる部分でもある。塗装・加工・組み立ての各セクションでウチの強みを提示できたらと思っています。各セクションのスペシャリストの技術が一同に会すというのも展示会モデルならではのおもしろい部分だと思います。
――“WOODLINE HL TOCHI”はアクティヴ・モデルで、ピックアップにはオリジナルのハムバッカーを搭載しています。どのようなサウンドを狙ったモデルなのですか?
梶田 やっぱりヘッドレスだとアクティヴのほうが扱いやすいのかなって思うんですよね。このハムバッカーはアクティヴ・サーキットと、ヘッドレス構造から生まれるトーンとの相性の良さから採用しています。ちなみに商談会モデルではありませんがH.J.Freaksさんのシグネイチャー・モデルのヘッドレスには、本人の希望もあってJBタイプのシングル・コイルがふたつ載っています。
八塚 このハムバッカーはFami(LOVEBITES)さんのシグネイチャー・モデルに載っているものと同じものですね。実際評判もすごく良くて、使いやすいモデルだと思います。
――今回の商談会モデルを改めて見てみると、多くの国産ブランドに共通する“ヴィンテージを踏襲する”という考え方ではなく、あくまでもバッカスとしてのオリジナル・モデルを世に出したいという意思が感じ取れます。この“オリジナリティ”という部分にはどういった思いがあるのでしょうか?
八塚 もちろん我々にもヴィンテージ楽器へのリスペクトはあるし、そもそも60年以上形を変えずに作られているものってギター/ベース以外にはほとんどないですよね。でも木材が入手しづらくなった社会情勢において、新しい材料にもチャレンジしていかなくちゃいけないし、ウチ独自のスタイルを築いていかないとさらに上に行くことはできないですから。自分たちには45年以上の歴史がありますけど、今後も楽器の可能性を追求しながら世界一を目指していくメーカーでありたいと思います。そのためにはニュースタイルを貪欲に追求して、生み出していく姿勢が何より大事になると思っています。
梶田 もともとBacchusには“ハンドメイドらしさのあるオリジナリティを含んだ楽器を作りたい”という思いがあるし、ヴィンテージとは別に“WOODLINE”というジャンルを確立させたかった。その“らしさ”をどう表現するかをずっと追求しているブランドなんです。
八塚 もともとはウチらも“ヴィンテージの脱却”から入っているんですよ。その脱却における初手がWOODLINEであり、現在ではやっとその“らしさ”を確立できたのかなと思っています。“国産としてのプライドを見せたい”、これがWOODLINEにおける根本であり、大事にしているコンセプトでもあります。
――では改めて2023年度の大商談会モデルを振り返り、どのようなモデルが完成したと思いますか?
梶田 WOODLINEには“木材の追求”というコンセプトがあるんですが、それをしっかり体現したモデルに仕上がったと思います。枝垂れ桜や神代タモのような特殊な木材をどう料理するかは腕の見せどころでもありますけど、それぞれの木材の良さを最大限に生かした理想的なモデルができたと思いますね。
八塚 ヘッドレスの新作を出すことが久しぶりなのでまずは皆さんのリアクションが楽しみです。今回は“WOODLINEをもっと世の中に見せたい”という思いがあったんですけど、本当に気合いの入ったラインナップに仕上がったのでぜひ皆さんに見てもらいたいですし、正直、作った自分たちでもびっくりするぐらいの完成度なんですよ。ぜひいろいろな人に見ていただきたいです。
――最後に、来年に向けてどんなモデルを作っていきたいかなど、今後に向けた抱負をお願いします。
八塚 今までに使ったことのない材料を使ったりとか、今後も積極的にチャレンジしていきたいと思います。今回出た反省点を次回に生かしつつ、また新しい木材と商品にトライしていきたいですね。
梶田 “意外と世の中になかったもの”をピンポイントでやってみたり、“ありそうだけどこんなのなかったよね”って部分を的確に突きつつ、王道としてカッコいいものを毎回作りあげていきたい。そのうえでまずは作っている自分たちが欲しいなって思うものを毎回生み出していきたいと思っています。あとは材料次第というか、斬新な木材が入ればそれに対しての最適な料理方法を見出していきたいし、それが“のちの定番”になるぐらいのモデルが作り出すことが目標です。
※本記事にて取り上げている大商談会モデル“WOODLINE SHIDAREZAKURA”、“WOODLINE JINDAI”、“WOODLINE HL TOCHI”は取材時点では製作途中のため仮品番となります。正式品番は5月23日公開のディバイザー大商談会特設サイト公開にて発表されます。