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美しき杢目の世界 ディバイザー和材ギター

Deviser

ギター・メーカーのディバイザーは、早くから日本国内の木材に注目し、それらを使ったギターやベースを製作してきた。日本で育った木を使用した国内製ギター……この響きに惹かれる人も多いのではないだろうか。実際、自然豊かな日本で生育する木々には、見た目も音質も特徴的なものが多いという。そんな和材を使ったギター&ベースは、5月23日から開催のディバイザー大商談会でも多くお目見えする。製作を担当しているディバイザー飛鳥工場の代表、八塚悟氏に話を聞いた。

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産地によって違った印象を見せてくれるのも和材の面白さです。

——和材を使ったギター/ベースを製作することになったきっかけを教えてください。

 和材はちょうど10年ほど前から使い始めました。それまでは主に海外の木を扱う材料屋から仕入れていたのですが、ある時に日本の木を扱う材料屋に出会い、日本の木材の魅力に改めて気づいたんです。日本は小さい島国ですが、こんなに多くの木の種類が生育している国って世界的にも珍しいんですよ。南北に長い日本では土地によって気候がかなり違うので、地域ごとに採れる木の種類が違うんです。針葉樹も広葉樹も、さらにレアな木まであります。先述の材料屋でそれらを見つけて、とりあえず一度使ってみようと。そして第1弾として出したのがサクラを使った製品でした。それからメイプルの代わりにカエデを使ったり、アッシュの代わりにタモを使ったり、キルト・メイプルやトラの代わりにトチを使ったりと、“日本の木だけで楽器を作れないか”という考えを持つようになったんです。“日本国内にこれだけ素晴らしい木々があるんだ”ということを、世界の人に伝えたかったという思いもあります。

サクラを使用したHeadwayモデルの特設ページ。ディバイザーは長年にわたってサクラを使ったギターを製作しており、メーカーを代表する和材となっている。
https://www.deviser.co.jp/feature/2023-sakura

——国内の材を使ったギター/ベースが少なかったのは、どういう理由からでしょうか?

 ギターやベースはアメリカで誕生した楽器だから、というのが一番の理由でしょうか。日本製のギターとベースは北米メーカーのコピーからスタートしましたし、楽器=USAみたいな印象が長く続いていたのだと思います。国産材を扱う難しさも多少ありますが、和材ギターの製作はディバイザー製品のバラエティの豊かさにつながってきたと感じています。

——気候の違いから日本と海外の材では違う特徴があると思うのですが、乾燥などの工程に差は出てくるのでしょうか?

 日本の木であっても海外産と同じ科であったりするので、それに合わせて乾燥機で水分調整をしています。比重を見ながら乾燥機に入れて水分調整をしてるので、そんなに難しくはないですね。アコースティック・ギターに関しては曲げるなどのシビアな工程があるので、使える/使えない木があったのですが、エレキ・ギターに関してはほぼトップ材やバック材として使うため、含水率さえ落ちていれば加工上の問題は少ないんです。今まで色々な海外の木を扱ってきた歴史が弊社にあるので、和材もしっかり活用できたのだと思います。

——先ほど八塚さんが言ったように、様々な種類があるのも和材の魅力です。ギター/ベースのデザイン面でもメリットになるのでしょうか?

 そうですね。特にトチの杢目は美しいと思います。木地着色した際、メイプルのトラやキルトよりも杢目の出方が良いんです。トラっぽいもの、キルトっぽいもの、もっとうねったようなものなど、様々な顔があります。また、和材は産地でも違う印象を持っていたりするんです。そこも和材の面白い部分ですね。

——和材を仕入れる際は、八塚さんが直接見に行くわけですよね。どういった点を判断基準にするのですか?

 丸太の大きさや杢目、例えばサクラであれば年輪の細かさとか、外観上の部分です。丸太だと芯がずれていると良い材が取れなかったりするので、なるべく切り口の両サイドから見て芯が真ん中に来ているものを選んでいます。あとは割れやねじれですね。丸太を査定できる楽器メーカーの人はそこまでいないんじゃないでしょうか(笑)。

ディバイザー製品の国内生産を担当する飛鳥工場の代表、八塚悟氏。

国産材の魅力を大商談会を通じて広めたい。

——ここからは今年のディバイザー大商談会で出展予定の和材ギターについてお聞きします。まずはサクラを使ったギターについて教えてください。

 今回は静岡県富士市のシダレザクラをエレキとアコギに採用しています。スポルテッド風のラインが入った独特な見た目のものをMomoseのエレキとHeadwayのアコギに採用していて、SeventySevenとBacchusではプレーンな見た目のタイプを使用しています。やはりサクラを使ったギターはディバイザーとしても売りの製品ですし、毎年プレッシャーがあるんですが、今までと違った見せ方ができていると感じています。

——音はどういう特徴がありますか?

 ちょっと硬めの材で音的にはメイプルに近く、明るくてギラギラしているというよりは少し落ち着いた音です。エレキのトップ材はもちろん、アコギのサイド&バック材として長らく使用してきた中で好評をいただいています。

シダレザクラを使用したギターの製作中の写真。写っているのはMomose JGモデルだ。

こちらは着色後の写真。写っているのはMomoseのTLモデル。

Headwayのアコギにもシダレザクラを採用。サクラの杢目ラインと和を意識したイラストが映える。

——続いてトチについて教えてください。

 トチはこの材ならではの杢目があります。うねったような杢目はメイプルではあまり出ないんですよ。この見た目を活かすため、青いカラーでフィニッシュしています。音はメイプルよりも柔らかめ。材自体も柔らかく、そのイメージどおりですね。今回のギターはトップだけでなくバックにも使っているので、よりトチの個性を味わえるサウンドになっていると思います。中域の抜けが良く、歪みでも分離が良いです。磯貝一樹さんのシグネチャー・モデルにもトチを使っており、磯貝さんからは“ニュアンスが出しやすい”という意見をいただいています。見た目だけでなく、音的にも評価されるようになってきた材ですね。

トチを使ったMomose TLタイプの製作中の写真。独特な杢目が魅力だ。

着色後の写真。杢目を生かした青色のフィニッシュが施されている。

——ではタモはどのような木材でしょう?

 使っているのは鳥海山という山から採れた神代タモというもので、1000年くらい火山灰に埋まったタモなんです。色が少し緑色っぽくなるのが特徴ですね。もともとは真っ白なんですが、火山灰に埋まっている時にバクテリアによって変色するんです。エレキに関してはトップ材に使用しているので、音への影響はそこまで多くないと思います。ただ、アコギのサイドやバックに使うこともあり、その際は低域が豊かになる印象です。今回、ギターではDeviser Rosetta Vessel、ベースではBacchus WOODLINEに使用しています。見た目を重視した扱い方ですが、とにかくレアな木材なので、そのビジュアルを楽しんでいただければうれしいです。

神代タモを使ったRosetta Vesselのトップ材。火山灰に埋まっていたことにより、独自の色合いを見せる。

——屋久杉の製品があるのも珍しいですね。

 屋久杉はそもそも伐採禁止の材ですから、市場にあるのは台風や落雷で倒木したものなんです。だから神代タモと同じく非常にレアな木材ですね。針葉樹なのでスプルース系のイメージを持っていただくとわかりやすいと思います。これはRosetta Vesselに使用しました。

屋久杉の材の写真。伐採禁止の貴重なこの材はRosetta Vesselで使用される。

——クロエゾマツはどのような木でしょうか?

 名前のとおり、北海道の木材です。マツなので針葉樹で、スプルースの代替材のような感じで使われることもありました。できるだけ杢目の細かいものを選び、アコギのトップ材に使っています。シトカ・スプルースなどに比べると少し目が粗く、シトカとジャーマン・スプルースの中間くらいの見た目です。音はアディロンダック・スプルースに近いブライトな感じでしょうか。今回はHeadway HD-531に使用しています。

クロエゾマツを使ったHeadway HF-531モデルの製作風景。細かな杢目がボディ・トップに見える。

同じくHF-531モデルのバック。クロエゾマツが生育している山の風景が描かれている。

地産地消や地域活性化に和材ギターで貢献したい。

——最後はアカマツですが、“アカマツギタープロジェクト”という取り組みで使われていますね。

 松本市は松食い虫による被害が全国で最も多いんです。虫食いによって枯れてしまう松がたくさんあり、それをどうにか活用できないかという思いから、2017年にスタートしたのがアカマツギタープロジェクトのモデルです。最近はSDGsの取り組みとして、こういった地域の木材を使う目標も掲げています。地産地消の材として地域経済の活性化も含めて、年々生産数を増やそうと取り組みを行なっているんです。今まではBacchusで作っていましたが、今回は初めてMomoseから出すことになりました。ブランドが違う分、今までとは違った形を見せられると思います。やはり虫食いをアートとしてどう見せるのかが肝ですね。針葉樹なのでボディに使うのは耐久性的に難しい面があるのですが、ビスを打つ部分など負荷がかかるところはダボで対処しています。重量は軽く、サウンドもカラッとしている印象です。虫食いはそれぞれ見た目が違うため、ワンオフ感の強いギターになっています。

ディバイザーが取り組むアカマツギタープロジェクトについての特設ページ。虫食いによってやむを得ず伐採されたアカマツを使用したギターを製作している。
https://www.deviser.co.jp/jrpguitars/about

節のあるアカマツ材を使用した塗装前のMomose TLタイプ。これから仕上げを行なって商談会にてお披露目となる。

——国内の材を使い、国内でギターが作られるというストーリーを含めて、とても魅力的なラインナップになっていますね。

 日本の木の良さを見せられるのが一番ですし、まだまだ国産材を知らない方も多いと思いますから、ディバイザー大商談会を通じてもっと広めていければうれしいです。これからも良い材を発掘して、世界に誇れるギター/ベースを製作していきます。

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