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  • 話題のブティック・ベース・アンプ“City Bass”の実力を徹底検証!

SHINOS&L City Bass × ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)

SHINOS&L/City Bass

  • 制作:ベース・マガジン文:山本彦太郎(製品解説) 写真:星野俊 動画撮影・編集:熊谷和樹 録音:石崎祥吾

東京に拠点を構えるブティック・アンプ・ブランド、SHINOS AMPLIFIER COMPANYとLee Custom Amplifierによるコラボ・ブランド“SHINOS&L”から2021年に発売された、ベース・アンプ・シリーズ“City Bass”は、発売以降、多くの本格派ベーシストから支持を獲得し続け、その名をベース・シーンに轟かせている。今回、“試行錯誤を繰り返し作り上げた、究極のベース・アンプ”と銘打たれた本機の実力を、ユーザーでもあるトップ・ベーシスト、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)によるレビューとともに徹底検証。洗練されたサウンド・デザインの裏側に迫る。

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SHINOS&L City Bass × ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)

SHINOS&L City Bassの正体

エンジニアのプライドが結集した、究極の“使いやすさ”

 

 ギター・テクニシャンとして多くのアーティストをサポートしてきた篠原勝氏が、2006年にスタートさせたハンドメイド・アンプ・メーカーSHINOS AMPLIFIER COMPANY。VOXのチーフ・エンジニアとして、amPlugシリーズや新型真空管Nutubeを搭載したミニ・アンプMV50シリーズを開発してきた李剛浩氏が、2018年に興したLee Custom Amplifier。現場で求められる・通用するサウンドを知り尽くした2名がタッグを組んだブランドがSHINOS&Lだ。

 SHINOS&Lが昨年発表した“City Bass”は、ギター・アンプ・シリーズ“ROCKET”に続くコラボレーション第二弾で、初となるベース・アンプ。アンプ・ヘッドは、345(W)×248(D)×223(H)mmというサイズで、6.5kgという可搬性の高さを保ちながら600Wの大出力を備えている。その大出力を生み出すパワーアンプ部はクラスD(デジタル・アンプ)だが、プリアンプ部は12AX7、12AU7、12AX7という3段の真空管回路となっており、ヴォリューム・ノブのプルによってゲイン・アップできるほか、最後段の12AX7が疑似パワーアンプ管のような働きをすることで、一般的なクラスDアンプでは得られない有機的な歪み感なども再現可能となっている。

 スタンバイ・スイッチにより出音の正相/逆相を切り替えられる機能もライヴ現場を知るSHINOS&Lならではだが、バック・パネルのアッテネーターによりスピーカーの出力切り替え(600W/300W/150W)やミュートが可能で、ライン・アウトやDIアウトによる宅録にも重宝する点も見逃せない。音色の拡張に役立つセンド/リターンも、リターン端子が接続されない限りはループ回路がバイパスされ、クリーンな信号が出力されるという手の込んだ設計。ベーシストの要望をしっかり反映させた即戦力アンプと言えるだろう。エミネンスのBasslite s2012スピーカーを採用したハンドメイド・キャビネットCity Bass speaker212と同112もラインナップしており、そちらも要チェックだ。

City Bass HEADのフロント・パネルには、ヴォリューム・ノブのプル/プッシュで、ゲインをブーストさせた真空管オーバードライブを作り出せるほか、スタンバイ・スイッチの切り替えで波形の位相をアンプ側で切り替えることも可能だ。またサウンド・キャラクターを変化させる、ディープ/ブライト・スイッチなど、シンプルな使いやすさのなかにも独自のこだわりが垣間見える。

バック・パネルのDIアウトはプリ/ポストの切り替えが可能で、プリは初段真空管のみを通った信号、ポストはプリアンプ、センド/リターンなどをすべて通った信号を出力する。アッテネーターはフル、1/2、1/4、ミュートに切り替え可能。マスターを上げめ、アッテネーターを下げめに設定し、3本目の真空管をより歪ませることができる。

レザー調でシックな雰囲気を醸し出す、エミネンス製Basslite s2012のスピーカーを2発搭載したCity Bass speaker 212。筐体に共芯の合板を用いることで、600Wの出力を備えつつも20kgという重量を実現している。

エミネンス製Basslite s2012のスピーカーを1発搭載したCity Bass speaker 112。300Wの出力を備えている。“2発と1発でサウンド・キャラクターが違うので、ぜひその違いも感じてほしいです(篠原)”。

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Comment by ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)

ベースを弾く楽しさに改めて立ち返ることができるベース・アンプ。

 僕がCity Bassを使い始めたきっかけは、バンドの楽曲と自分のベース・プレイの変化とともに、それをうまく表現できるベース・アンプを探していたとき、“SHINOSがベース・アンプを作るらしい”という情報を聞きまして。それは気になるなということで、実際にお借りして現場で試したところ、全弦の帯域をフラットに鳴らしてくれる、色づけのないナチュラルなサウンドで、まさに自分が求めていた音像でびっくり。それでいて600Wのパワーもある。悩んでいたポイントが解決された感じで、直感で気に入りました。自分がベース・アンプに対して、“こうだったらいいのにな”って思っていた部分をすべて兼ね備えていて、僕のプレイ・スタイルにもしっかりマッチしてくれます。

 普段のセッティングは基本的にほぼフラット。僕はジャズベやプレベのほか、ヘフナーも使いますけど、どんな楽器でも相性がいい。フラット・ワウンド弦でのピック弾きにもしっかり対応してくれます。必要以上のウルトラ・ローが出ないから現場でもコントロールしやすいし、何より輪郭がはっきり出てくれる。前に音が飛んでいく感覚で、細かいプレイのニュアンスも的確に表現してくれるので、弾いていて気持ちいいんですよ。キャビネットも出てほしい帯域がしっかり的確に出てくれるイメージで、イヤな鳴りが一切しないからすごく使いやすいです。あとヘッドは真空管を使っているのにすごく軽いし、キャビネットもひとりで運べる重量なので、スタッフからも感謝されています(笑)。ルックスもカッコいいので、ステージ上でCity Bassが自分のうしろに置いてあるのを見ると、プレイの士気も上がりますね。

 Ciy Bassは弾いている人間と楽器のポテンシャルをナチュラルにアウトプットしてくれる、ベースを弾く楽しさに改めて立ち返ることができるベース・アンプだと思います。どんなプレイヤーにもおすすめできるアンプなので、気になった人にはぜひ一度試していただきたいです。

【特別対談】
篠原勝(SHINOS AMPLIFIER COMPANY)×李剛浩(Lee Custom Amplifier)

City Bassを生み出した篠原勝氏と李剛浩氏にインタビューを敢行。
コラボ・ブランドSHINOS&Lについて、そしてCity Bassに込められた思いと製作の裏側を聞いた。

“真空管っぽいサウンドのクラスDアンプ”っていう理想的なモデルになった。(篠原)

――お互いのことをどのようなエンジニアだと捉えていますか?

篠原:李さんは天才ですね。現場の経験がすべての僕とは違って奥深いところまで理解していてとにかくすごい人。世界的にもなかなかいないタイプだし、経験的にも技術的にも日本国内では右に出るエンジニアはいないと思います。だから絶対敵に回しちゃいけない人物なんですよ(笑)。

:僕はメーカーでずっと設計を担当していたし、家に帰っても設計しているような“設計マニア”な人間ですから(笑)。篠原さんはとにかく“まっすぐで誠実な人”という印象で、変にPRに走ったりとかそういうものがないんです。僕が思うに、そういう姿勢とか人間性って製品とか音に出るんですよ。だから逃げ場を作らず真摯に向き合うってことは一番大事なことだと思っています。

篠原:僕は現場で生きているので、現場のことを第一に製品を考える。だから現場でのフィードバックを李さんと共有して具現化していくって流れが自然にできあがっているんです。

――City Bassの製作時は、両ブランド間ではどのように作業を分担しているのでしょうか?

篠原:スピーカーを組む工程はウチ、ヘッドはLee Custom Amplifierということで基本的には分かれています。なのでサウンドの根幹的な部分は李さんによるところが大きいですね。

:でも決して僕が好き勝手にやっているということではなくて、篠原さんのなかにあるイメージに当てはめつつ、それを具現化している流れです。

篠原:“こういうものを作りたい”っていう僕のイメージを形にしてくれるのが李さん。City Bassにはもともと、僕らのフェイバリット・アンプである、フェンダーのBassman135のようなサウンドを、軽い重量のアンプで出すっていうコンセプトがあるんです。だからパワーアンプはクラスD、プリアンプは真空管として、真空管も3本あるうちの2本はプリアンプ 、1本はパワーアンプのような回路構成を採用しています。“真空管っぽいサウンドのクラスDアンプ”っていう理想的なモデルになりましたね。

:自宅でいろいろ実験したり、いろいろなミュージシャンの要望に合うものを作っていくなかで、こう組み合わせればイメージのものになるっていう、City Bassを実現させるための要素の80%くらいは頭のなかに描けていました。だから残りの20%を実験しながらどこまで詰められるかっていう勝負でしたね。

――おふたりの好きなアンプだとはいえ、多くのベース・アンプが存在しているなか、なぜフェンダーのBassman135をモチーフとしたのでしょうか?

篠原:もともと僕はベースを弾いていたこともあって、いろいろなベース・アンプを鳴らしたことがあるんですけど、正直、どれもしっくりこなかったんです。自分の好きなベース・アンプに出会うことができないまま結局ベースは弾かなくなってしまったんですけど、プロの現場で仕事をするようになって、いろいろなアンプに出会うなかBassman135の音を現場で聴いたとき、衝撃が走ってしまいまして。でも内部を見てみると、ものすごく簡単な回路なんですよ。“こんな簡単な回路でこんな音が出るのか”ということに驚いて、そこからBassman135は自分のなかで一番のベース・アンプになったんです。

:実はBassman135は、僕自身も所有しているくらい好きなベース・アンプなんです。だからBassman135の良さをどう解釈して、そこから今の時代にもっと使いやすくするためにはどうすればいいかを考えていきました。だからベーシックな部分は似ていますけど、回路だけ見てもBassman135だとわからないようになっていたり、中身はだいぶ変わっていますね。例えば昔のアンプって、“トレブルのツマミが10時、ベースのツマミが2時でセンター”っていうものも多くあるんですけど、City Bassは全部12時で求める音が出せるように微調整しています。でもその微調整をすることで良い部分が失われることもあるので、そこの加減が難しいところでもありました。

ある程度の小さな音量でも真空管のナチュラルな歪みを出したかった。(李)

――ベース、ミドル、トレブルといったシンプルなEQに加え、Deep/Brightスイッチがあったりと、現場での使いやすさだったり、直感的な音作りができる点にフォーカスされたモデルだと感じます。

篠原:そのとおりです。まずベースって、ライヴ会場で鳴らすのが難しい楽器なんですよ。ローが出過ぎてほかのメンバーに影響が出てしまうこともあるし、だから“そんなに低音を出さないで!”みたいな感じで、現場的にはあんまりベーシストの味方にはなれないんです。でもCity Bassはそこをうまくコントロールできるようになっていて、実際にユーザー・ベーシストからも、“極端にローが出過ぎないからみんなに嫌がられないし、音量を出してもうるさがられない”って意見をいただくんです。それはまさに僕らが目指していたところだし、現場のPAさんからもすごく良い評判をいただいています。だから現場での使いやすさは一番に目指した部分ですね。

:僕は現場的な部分はわからないですけど、最初のとっかかりとしてBassman135の名前が出たとき、まず“使いやすさ”をイメージしました。現代のトランジスタ・アンプのような極点なレンジの広さとか、音量はデカいけど壁があるだけっていう、音が見えない印象にはしたくなくて、弾いたあとに音が転がっていく感じ、伸びたり縮んだりする真空管らしさを出せるようなアンプを目指しました。

――加えてバック・パネルにはアッテネーターがありますが、これは現代のベース・アンプでは珍しい機能ですよね。

:City Bassは真空管を贅沢に使うイメージで、3本目の真空管をパワーアンプとしてパワー菅のような役割を持たせていて、最大出力でクリップする前に3本目の真空管のみがクリップするように設計しています。でもそうすると、600Wをフルに出さないと3本目の真空管は歪まなくなってしまうので、3本目の真空管がギリギリ歪みながらも、音量を下げされるようにアッテネーターを配置しました。ある程度の小さな音量でも真空管のナチュラルな歪みを出したかったということです。

――キャビネットの“City Bass speaker”は、12インチ×2発のspeaker212ほか、1発のspeaker112もラインナップされていますね

篠原:大きいキャビネットのほうがいいっていう人もいれば、運ぶのが大変だから小さいほうがいいっていう人もいるので、そういう人たちのために1発も用意しました。でも1発と2発だと音が全然違うんです。同じスピーカーなんですけど、1発のほうが落ち着いた音で、2発のほうが前に出てくるような音になっています。ぜひ比べてみてほしいですね。

ーー最後に、今後のブランドの展望を教えてください。次なるベース関連製品も期待してよろしいでしょうか!?

篠原:ベース関連……どうでしょうね(笑)。City Bassをアンプだけで終わらせずにペダル型プリアンプにしてみたりとか? 今言えるのはそれくらいです(笑)。コラボレーションしているとおもしろいことってたくさん起こるんですよ。プラスなこととか相乗効果が生まれて、そういったことをすごく感じています。ウチだけでやっていたときとは明らかに違って、一度やったらやめられないというか、もう次にむけて李さんと水面下で話しているものがあるので、このプロジェクトは続いていくと思います。期待していてほしいです。

:このふたりだからこそ見えてくるものがあるし、それに真面目に向かい合えばまたきっとおもしろいものができると思います。とにかくまっすぐに、できないかもしれないものをなんとか力を合わせて実現させていくなかですごいことが起きるので、商売とかのことはいったん置いておいて、また新しいものを作れればと思います。ぜひ注目していてください。

ベース・マガジン2022年11月号(Autumn)発売中!

2022年10月19日発売『ベース・マガジン2022年11月号(Autumn)』では、篠原勝氏と李剛浩氏の対談の別内容を掲載しています。その他、特集『ベーシストのエフェクト・システム2022』を84ページの大ヴォリュームでお送りしているほか、待望の新譜大教典『BLOODIEST』を発布した聖飢魔Ⅱのゼノン石川和尚の特集、スラップ・フレーズ魔改造の手順など、さまざまな記事を掲載しています。ぜひチェックしてみてください! 

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製品情報

SHINOS&L / City Bass HEAD

価格:¥250,800 (税込)

【スペック】
●出力:600W(4Ω)●プリアンプ:12AX7、12AU7、12AX7●パワーアンプ:クラスD●コントロール:ヴォリューム、トレブル、ミドル、ベース、マスター、ブライト・スイッチ、ディープ・スイッチ、スタンバイ・スイッチ、アッテネーター、ヒューズ、グラウンド/リフト・スイッチ、プリ/ポスト・スイッチ、オン/オフ・スイッチ●入出力端子:インプット、ヘッドフォン・アウト、スピーカー・アウト×2、センド/リターン、DIアウト●外形寸法:345(W)×248(D)×223(H)mm●重量:6.5kg
【問い合わせ】
SHINOS AMPLIFIER COMPANY TEL:03-5941-9015 https://shinosamp.com/
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SHINOS&L / City Bass Speaker 212

価格:¥198,000 (税込)

【スペック】
●許容入力:600W(4Ω)●スピーカー:12インチ・エミネンスBasslite s2012×2●端子:スピコン、1/4インチ・フォン●外形寸法:502(W)×370(D)×893(H)mm●重量:20kg
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SHINOS&L / City Bass Speaker 112

価格:¥176,000 (税込)

【スペック】
●許容入力:300W(8Ω)●スピーカー:12インチ・エミネンスBasslite s2012×1●端子:スピコン、1/4インチ・フォン●外形寸法:507(W)×352(D)×531(H)mm●重量:13.5kg
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プロフィール

ハマ・オカモト
ハマ・オカモト●1991年、東京生まれ。中学生の頃よりバンド活動を開始し、2009年にOKAMOTO’Sに加入。バンドは2010年に『10’S』でデビュー。2021年9月発表の『KNO WHERE』を含め、これまでに9枚のオリジナル・アルバムを発表している。ハマはバンド活動以外に、星野源をはじめ数々のアーティストの楽曲にも参加。2013年には日本人ベーシストとして初となる、米国フェンダー社とエンドースメント契約を締結し、2本のシグネイチャー・モデルを発表している。

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