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- 2024/11/16
BOSS / DS-1W
1978年に誕生したDS-1は、ディストーション・ペダルを代表する存在として多くのギタリストに支持されてきた。キレのある歪みは音楽ジャンルの壁を越えて重宝され、BOSSのコンパクト・エフェクターの中でロングセラー・モデルとしてトップに君臨している。そんなDS-1が、BOSSがクラフトマンシップの粋を込め、細部にいたるまでこだわって構築するシリーズ=WAZA CRAFTに加わった。DS-1Wと名付けられたこのモデルの実力をじっくりと見ていこう。
定番の魅力の再発見と同時に
提案する“新たな歪みの世界”
ディストーションの定番であり基準にもなっているロングセラーのDS-1をもとに、BOSSがこだわりを持って再構築した1台がWAZA CRAFTシリーズから発表された。このDS-1Wはフル・ディスクリート回路で設計されており、スタンダードとカスタムの2種を選択できるモード・スイッチを搭載。クラシックな歪みから、より現代的でパワフルな歪みまで広い領域をカバーできるモデルとなっている。
まずはスタンダード・モードからチェック。これはオリジナルのDS-1のサウンドを得られるモードだ。すべてのノブを12時方向にしてオンにするだけで、イメージ通りのディストーション・サウンドが飛び出してくる。歪みの粒はやや粗めで、心地良いワイルドさを醸し出す、ディストーション・サウンドの礎となったあの音だ! 注目のカスタム・モードは、スタンダード・モードより出力が高く(+6dB)、低域も出て“より太い音”になっている印象。また、ミドルがほど良くクリーミーで、上質さを感じる。音の重心が低く腰があるため、小音量でも存在感があり迫力のあるサウンドが得られる。
一方で、ステージやリハスタで大パワーのチューブ・アンプを使い、足下でブーストするような場合には、音を整理してくれるスタンダード・モードの音が手放せないという人もいるはず。どちらのモードもシングルコイル、ハムバッカーといったピックアップの種類を問わず、気持ち良く歪んでくれるのがありがたい。定番の魅力の再発見と同時に、新たな歪みの世界を見せてくれるWAZA CRAFTならではのモデルと言えるだろう。
伝統的なDS-1サウンドを生み出すスタンダード・モード。セッティングのポイントはTONEの位置で、上げていくとハイが目立つだけでなくローがカットされるので、これでジャリッとした質感を調整する。ここではTONEをわずかに上げてごく軽くローをカット(13時)、DISTもやや上げて(13時)、シングルコイルでも歪み、かつコード・ワークで使える音を目指した。
カスタム・モードでのセッティング例。ここでは、わずかにクランチした小音量のクリーン・アンプにつなぎ、DS-1Wだけで歌うようなリード・トーンを目指したサウンド設定にしている。DISTは思い切ってフルだが、音がつぶれないのは素晴らしいポイント! カスタム・モードは音が太く、出力も大きいため、TONEは12時、LEVELは11時ほどと少し下げている。
DS-1は、1978年にBOSS初のディストーションとして登場した。当時のモデルとしては深い歪みが新鮮で、エッジが効いているためファズのように音がつぶれることがなく、コード・ワークからソロまで使えるということですぐに大人気モデルとなる。その後も、アンプやギターのピックアップの個性を活かしたままでしっかりと歪ませることができる点や、LEVELを上げてDISTを絞りアンプをプッシュするブースター的な使い方などが広まり、その人気は不動のものとなった。
サウンドの良さに加えて、シンプルな操作性と、ツアーなど過酷な環境でも安心して使えるBOSSエフェクターの堅牢性も、多くのプロ・ギタリストに愛される要因だ。彼らが生み出すサウンドがキッズを虜にし、“ディストーションの定番”としての地位を獲得した。今でもDS-1のファンは多く、現行モデルが売れ続けている超ロングセラー・モデルだ。ディストーションの最初の1台としてオススメできるモデルでありながら長く使い続けられる、まさに名機である。
突き抜けるスタンダード・モード
音の壁が生まれるカスタム・モード
DS-1の魅力の1つは、音のキャラクターが強いのにもかかわらず、使っているギターやピックアップの違いがサウンドに反映されることです。ギター本来のキャラクターまでつぶれてしまうと、結局どんなギターを使っても一緒ということになってしまいますし、それはつまらないですよね。DS-1はダーティな歪みを作れますが、そのうえでギターのキャラを活かしてくれるんです。
世の中にはDS-1系のディストーションが色々とありますが、やっぱりオリジナルが良いと感じることが多いです。音が立っていて、爆音の中でも抜けてくる。それはDS-1自体の設計が良くできているからで、だからこそ何十年もロング・セラーになっているのだと思います。
もちろんDS-1が好みではないというギタリストもいますが、その人たちは中高生くらいの時に試した評価で止まってしまっているのかもしれません。ギターのキャラクターを活かすディストーションだからこそ、良いギターや環境でDS-1を試すことで、スティーヴ・ヴァイやジョー・サトリアーニ、カート・コバーンらがなぜこのペダルを使ってきたのかを理解できるはずです。
今回開発されたDS-1Wのポイントは、やはりカスタム・モードです。例えば1980年代のフュージョンのようなソロを弾く時、DS-1のTONEを絞ってメロウなサウンドにしようとするとレベルが足りなくなってしまう、ということがありました。しかし、DS-1Wのカスタム・モードでは出力レベルが上がっており、さらに中域がプッシュされた音になるので、より幅広いサウンドやシーンに対応できるようになったと思います。スタンダード・モードは音がギャリーンと突き抜けていく感じですが、カスタム・モードでは音の面が大きくなり、壁になる感じです。中域が押し出されることで、DS-1でクランチのセッティングにした時に感じる、“もうちょっと音に厚みが欲しいな”という部分が解消されました。
レガートにも追従してくれて
現代的なプレイでも重宝します
演奏におけるダイナミクスをしっかり出してくれることも魅力的ですね。多くのディストーションはどうしても音がぐしゃっとなり、強いピッキングに対しては良い歪みを作ってくれるけど、弱いタッチは上手く表現してくれないということも多いんです。DS-1Wは弱いタッチをそのまま出してくれて、強く弾いた時も音がつぶれずに前に出てくれます。ダイナミクスを活かした渋いプレイをする人はカスタム・モードがハマるでしょう。とは言え、やはり従来のDS-1サウンドのスタンダード・モードも良いんです。このストレートに抜けてくるスピード感はDS-1にしかない。新たにカスタム・モードが備わったことで、オリジナルの良さを再認識することができました。
今時のギター・プレイにもDS-1Wはピッタリでしょう。細かいフレージングではダイナミクスやタッチ感は重要ですし、レガートにもしっかりついてきてくれる歪みというのは重宝すると思いますね。フル・ディスクリート設計のためか、ヘッドルームにかなり余裕があります。パワーのあるモダンなピックアップでも受け入れてくれるディストーションです。
BOSSの歪みエフェクターの中でも、ここまで使えるシーンが多いペダルはないと思います。ブルースをやって、次はメタルを、と言われてもセッティングを変えれば対応できてしまう。パラメーターは3つのノブと1つのスイッチのみでシンプルですが、それだけで多彩な音を生み出せます。僕世代の人はもちろん、今のギタリストが弾いてみても納得できる、とても強力な歪みエフェクターです。
価格:オープン
村田善行
むらた・よしゆき●ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。