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- 2024/11/16
Warlus Audio/Badwater Bass Pre-amp and D.I.
先鋭的で洗練されたサウンド/アート・デザインを武器に、ギター・ペダル・シーンで圧倒的な支持を得るブランドWalrus Audioより、初となるベース用ペダル型プリアンプ/DI“Badwater Bass Pre-amp and D.I.”が登場した。ギター・シーンで名を馳せる同社が満を持してリリースした本機の実力を、ボカロやアニソン界隈を中心にその腕を振るう敏腕セッションマン・中村圭とともに検証していきたい。
Walrus Audioは2010年にアメリカ・オクラホマ州に設立されたエフェクター・ブランドで、2011年にリリースされたギター用オーバー・ドライブ“Voyager”を皮切りに、その洗練されたサウンドやアーティスティックなグラフィック・デザインなど、全製品に通じる“センスの良さ”が多くのギタリストを惹きつけ、瞬く間に“定番ブランド”として認識されるようになったが、ベーシストにとっての知名度は今ひとつかもしれない。それもそのはず、ベース用アイテムは今回紹介する“Badwater”が初製品となるからだ。ベーシスト界隈に殴り込みをかける本機の正体は“ベース用プリアンプ/DI”。ベーシストにとって登竜門的なエフェクターであり、同社の自信の表われでもあると言えるだろう。
本機のおもな機能はコンプレッサー、オーバードライブ、4バンドEQの3つ。コンプレッサーはオプティカル・タイプで本機の内部回路初段に位置。“sustain”のみのコントロールは絞り切りで効果は最小限となり、ノブを上げるほどコンプレッションされ直感的に設定できるだろう。ドライブ・セクションは、“drive”で全体の歪み量のコントロール、“blend”でクリーン・サウンドのブレンド、“voice”でブーストする帯域をハイ/ミドル/ローの3つから選択することで緻密なドライブ・サウンドを構築できる。4バンドEQはロー・ミッドとハイ・ミッドの中心周波数をシームレスに可変できるセミ・パラメトリックEQだ。サイド・パネルにはグラウンド/リフト機能を備えたXLRアウトがあり、DIとしても機能を発揮する。
ちなみに“Badwater”は北米でもっとも低い海抜−86mに位置する内陸湖。本機のイラストもその所在地である広大なデスバレー国立公園の風景をデザインしたものだ。アンサンブルの最低音域を支配するベースに相応しいネーミングとデザインだ。
After the RainやbuzzGを始め、多くのアーティストのサポートをこなす ロック・ベーシスト、中村圭に本機をレビューしてもらった。
一見ツマミが多く難しそうに感じるかもしれませんが、ツマミごとに音がハッキリ変化するので、見た目の印象よりもシンプルで使いやすく、直感的に音作りできました。
ミドルの周波数帯をツマミでコントロールできるので、より細かい調整ができますね。“lmf”は音程感やコシのあるサウンドメイクに、“hmf”は音を前に飛ばす押し出し感を担う印象です。ここでそれぞれ周波数を調整してからレベル・バランスを決めてあげるとスムーズですね。
ドライブ・チャンネルは“drive”と“blend”の組み合わせで、多彩な歪みが作れます。個人的にはドライブをブースト、ブレンドをカット気味にした音が好みで、音にふくよかさと厚みが出せました。“voice”スイッチは、ローのふくよかさ〜ハイのシャリっとした質感まで、簡単にレンジの可変ができる優れもの。“sustain”のコンプのかかり方も絶妙ですごくナチュラルな印象でした。
総括するとバイパスしてクリーンで使ったり、driveのレンジ可変により歪みも幅広く音作りができたり、さらにコンプ、DIと多彩な機能があるので、どのベーシストにもお薦めできる万能プリアンプだと思います。各奏法に合った音を直感的に作り込める使い勝手の良さがこのペダルの魅力だと思います。黒の筐体に緑のデザインっていうルックスもおしゃれでカッコいいですよね。
Walrus AudioでGMを務めるジェイソン・スタルス氏にインタビューを敢行。 本機に秘められた思いを聞いた。
――Badwater Bass Pre-amp and D.I.の開発に至ったきっかけとは?
ベース用プリアンプの開発は長らく検討していましたが、挑む適切なタイミングを見いだせていませんでした。そのなかで2021年の暮れ、製品リリースのスケジュールにその余地があることに気づき、こういったスタイルのペダルの開発ならうまく実行できるだろうと考え、開発に着手しました。
――ベース用ペダルの最初の製品として、ベース・ペダル・シーンの最激戦区でもあるプリアンプを選んだ理由は?
今後予定しているベース用製品群の土台とするため、プリアンプから始めることに大きな意義を感じたからです。このペダルは多くの要素をカバーできる素晴らしいオールインワン・ユニットです。その一方、今後ベース・コミュニティで愛用してもらえるようなさまざまな製品を開発する余地も残しています。
――本機の開発におけるコンセプトを教えてください。
当初から、細やかなトーン・シェイピングが可能となる4バンドEQを搭載したいと考えていました。そこで必要に応じてトランジェント(立ち上がり/下り)をスムーズにさせ、サステインを与えるためのオプティカル・コンプレッサーを加えました。また、“サウンドにいくらかの粗さをもたらせる”というアイディアから、オーバードライブ回路を加え、フット・スイッチでバイパスできるよう設計しました。
――どういったドライブ・サウンドをイメージしたのでしょうか?
プリアンプ・ペダルであることから、ヘヴィなオーバードライブやディストーションといったアプローチは避けたいと考えていました。よって、軽〜中程度の粗さのドライブで、ユニークなカラーを持つサウンドを目指すことにしたのです。
――コンプレッサーの効果をもたらす“Sustain”のツマミを搭載した理由は?
コンプレッサーのコントロールは、当初検討していた形をそのまま採用しました。Sustainのツマミは幅広いレンジのサウンドを作り出し、コンプレッションを必要としないときは、完全に絞ることでコンプレッサーの効果を最小限にすることができます。この機能により、自由で幅広いサステインを提供することが可能となります。
――ロー・ミッド、ハイ・ミッドに“lmf”“hmf”を取り付けていたりと、本機からはミドルに重点を置いた考えもうかがえます。
ミドル・レンジのEQコントロールは、アンサンブル内で収まりの良いベース・トーンを作るうえで最も効果的です。ほかの楽器が存在する場所を邪魔しないよう、特定のレンジを抑えることを意識し、曲中でベースが前に出るよう、ふたつのミドル・レンジをブーストさせることも可能にしました。
――本機をどんなプレイヤーに使ってもらいたいですか?
自身のベースのダイナミクスとトーンをシェイピングする術を求めるベース・プレイヤーなら、誰でもBadwaterをエンジョイできると思います。多様なジャンルの音楽で効果を発揮するツールとなるでしょう。
――御社はギター・ペダル・シーンで人気ブランドとしての地位を築き上げましたが、今後ベース・シーンにおいてどのような存在になっていきたいですか?
我々が長年ギター・ペダルの世界で培ってきたイノベーションとデザインへの感覚を、ベース市場に持ち込みたいと考えています。クラシックなベース用のエフェクトを私たち流に解釈し、新たなデザインと直感的な捻りを加え、ベース・コミュニティから支持されるものを提供していきたいです。
――最後に、日本のベーシストに向けてメッセージをお願いします。
長年我々を誠実にサポートしてきてくれた日本の人々に心から感謝しています。私たちのベース・エフェクトが、今後新たなサウンド、曲、ミュージシャンたちをインスパイアさせるものであってほしいと心から願っています。
価格:¥49,500
中村圭
なかむら・けい●2011年にボカロPとして活躍するbuzzGのメジャー1stアルバム『Symphony』への参加をきっかけにセッション・ベーシストとしてのキャリアをスタートさせる。以降、三月のパンタシア、ナノ、東山奈央など、さまざまなアーティストのレコーディング/ライヴのサポートをこなしている。