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- 2024/11/16
Line 6 / Catalyst
Line 6の新しいアンプ・ファミリーCatalystは、これまでの同社のアンプ・シリーズとは異なる特長を持つ。初代AxSys 212はアンプ本体のみで細部のパラメーターまでコントロールできるうえに、デジタル・アンプとは思えない迫力とパワーを備えていた衝撃的なアンプだった。さらにFlextone、そして現在まで続くSpiderや時代を先取りしたAMPLIFiなど、Line 6は常にデジタル・アンプ界をけん引してきたと言えるだろう。
そのLine 6が2022年に打ち出したCatalystのコンセプトは「既存のアンプのモデリングでなくオリジナル・サウンドを持ったデジタル・アンプ」だという。出力別に60W/100W/200Wの3種類のラインナップから、ここでは60WモデルのCatalyst 60をチェックしていこう。
Catalystは、ゲイン/4バンドのEQ/チャンネル・ボリュームというアナログ・アンプと同様のシンプルなコントロール/インターフェースで、各コントロールの操作感も(おかしな言い方だが)非常にアンプ的だ。しかしながら、対象となるアンプの操作感やサウンドの変化を再現していた今までの「モデリング・アンプ」とは異なり、「このアンプだったら、こういう風に変化してほしい」というLine 6側の解釈が存分に反映されている。
例えば「CLEAN」というアンプ・タイプを選択してBASSを調整してみると、センター位置をフラットとすれば反時計回りで低域が減り、時計回りで低域が増加する。ここまでは普通の話。しかし、実際には低域というよりも「低域感」が変化している様に感じる。これは反時計回りで「小型コンボ・アンプの様な低域感」になり、時計回りで「大型アンプの箱なり感」に変化している、とも言えるだろう。つまり、同じ「CLEAN」というアンプ・モデルでもEQの設定次第で小型アンプのサウンドなのか、大型のスピーカーが鳴っているかの様なサウンドまで作り出せる。これはかなり強力なので、実際に試す機会があったら是非試してみてほしい。私の感覚ではEQの設定だけで数種類の印象の異なるクリーンサウンドを作り出せるアンプだ、と感じた。もちろんBOUTIQUEやCHIMEなど、ほかのアンプ・タイプでも同じだ。
またゲインの幅広さも特筆すべきもので、アンプ・モデルにかかわらずローゲインからハイゲインまで、どのポジションでも「おいしい」サウンドが得られた。得にクランチ・サウンドやハードなディストーション・サウンドでのレスポンス感、ダイナミクスはクラスオーバーな印象だった。
ブースターは、プリアンプ手前に置かれた状態で、心地よくプリアンプをプッシュしたり、特定のレンジをブーストしたりと、それぞれのアンプのキャラクターに寄り添うようチューニングされている。CLEANにはサチュレーションとコンプレッションを付加、CHIMEにはミッドレンジをブースト、HI GAINには低域を少しカットして音を前に押し出すブーストを…といった具合に、このセクションだけ見てもかなり「オタクな」スタッフが音作りを行なったのだと言うことが伝わってくる。
出荷状態では、エフェクト部分にディレイがアサインされている。このディレイは6種類から選択して使用することができる。また、エフェクトはディレイ以外にモジュレーション(コーラス、フェイザーやフランジャー)もしくはフィルター系(オクターバーやシンセ・サウンド)を任意に切り替えて使用することも可能。ディレイ/モジュレーション/フィルターエフェクトは同時使用できないので注意してほしい。これらエフェクトはLine 6のHXモデリングやレガシー・エフェクトでおなじみのサウンドだ。
リバーブは独立して用意されおり、ほかのエフェクトと同時使用も可能だ。そのサウンドは自然でまさしくアンプにふさわしい効果が得られる。リバーブも6種類から選択可能で、スプリングからホール、プレートなどおなじみのサウンドをアンプごとに切り替えて楽しめる。
チャンネルA/Bにはサウンド(MASTER VOLUME以外の設定)をプリセットして瞬時に切り替えることができる。また、別売のフットスイッチを使えば、チャンネルA/Bの切り替えのほか、エフェクトのON/OFFも足元でコントロールの可能だ。さらにUSB経由で(Catalyst 100と200はMIDI IN端子経由)MIDI信号を受信して、プログラムやパラメーターを制御できる。
リアにはモノラル出力のXLRライン・アウト端子が搭載されている。Line 6の実力を感じるそのサウンドはアンプのオマケ程度を連想するといい意味で裏切られるだろう。キャビネットおよびマイクのシミュレーション・オプションを搭載しており、ライブはもちろん、自宅やスタジオでもハイレベルなライン・レコーディングが可能となる。実際の音は是非、動画でチェックして欲しい。
同じく背面に、フルパワー、ハーフパワー、0.5W、ミュートとパワー・アンプの全体の出力レベルをコントロールできるアッテネート機能を搭載。ライブからレコーディング、ベッドルームなどで、任意の「扱いやすい音量」で演奏を楽しむことができる。MUTEモードはDIRECT OUTを利用したレコーディング時などで活躍してくれるだろう。
さらにCatalystには、もうひとつの大きな特徴として、パワー・アンプとスピーカーだけを使うことができるPOWER AMP INを搭載している。背面にあるFX LOOPのリターン端子を使用し、MODEスイッチをPOWER AMP INに切り替えると、モデリング系アンプやデジタル・プロセッサーのモニター・アンプとして使うことができる。動画では、HX Stompをプリアンプとエフェクト、Catalyst 60をパワー・アンプとスピーカーとして使ったデモを行なっているので、そちらもチェックして欲しい。
Catalystを操作する際に便利な専用エディターも用意されている。これは無償で提供され、USB接続でMac/PC/iOS/Androidから操作可能。また、同じくUSB接続により、24ビット、44.1/48kHz、4イン/4アウトのオーディオ・インターフェースとしても活用できるほか、将来的なファームウェア・アップデートにも対応する。
一般的なデジタル・アンプは、軽くて取り回しの良く便利な反面、ダイナミクスのない直線的な冷たいサウンド、ブーミーな低音やオーディオ・ライクな高音……という先入観を持つ皆さんも多いと思う。
今回(ギター側のコントロールを多用するなど)ややデジタル・アンプには意地悪なサウンド・チェックを行ったが、いかなる場面でもCatalystは「おっ?」と思わせてくれる反応で、良いサウンドを聞かせてくれた。
特に「DYNAMIC」というアンプ・モデルは非常にLine 6らしいのだが、同時にアナログ・アンプにも通じるサウンドでオヤジ世代のミュージシャンも納得の心地よい王道のギター・サウンドが瞬時に引き出せた。また、超クリーン・サウンドから地獄の様なハイゲイン・サウンドまでがこの音量感で瞬時に切り替えられるというデジタル・アンプならではの恩恵はまさに現代的なミュージシャンには不可欠な機能だろう。
26年前にAxSys 212を初めて弾いた時に感じた「次世代アンプの衝撃」を、このCatalyst 60を弾いて思い出した。このアンプは皆さんが想像する以上に「マニアック」にチューニングされていると思う。
価格:オープン
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。