AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Spector/NSシリーズ
1976年、ニューヨーク・ブルックリンにて発足したSpector(スペクター)。従来の概念をくつがえす革新的な技法でベース・シーンにいくつもの変革をもたらしてきた同社の遺伝子を凝縮し、生産されているコストパフォーマンス・モデルに新たに“NSシリーズ”が登場した。今回はNSシリーズの実力を、元SIAM SHADEのベーシストで、現在は数々のトップ・アーティストのサポートを務めるNATCHINとともに検証していきたい。
人間工学に基いた身体にフィットする楽器デザインと歯切れの良いサウンド・キャラクターで、世界中のベーシストから支持を得るブランド、Spector。本家のUSAを筆頭にEuro、Legend、Performerという4つのシリーズを持つ同社のなかの、ギター製造において定評のある提携工場で生産されるアジア製モデルに、新たにNSシリーズが登場した。NSシリーズにラインナップされるのは3つのモデルで、マルチ・スケール構造を搭載した“DIMENSION”、木材とフィニッシュにこだわった“PULSE”、Aguilarのエレクトロニクスを搭載した“ETHOS”となる。多様化する現代のベーシストのプレイ・スタイルにフィットさせるべく、どのモデルもそれにしかない個性的なスペックを備えているのが特徴だ。“新NSシリーズ”はまさに、スペクター社の伝統でもある“革新性”を表現するラインナップと言える。
NSシリーズのなかで、もっとも個性的と言えるNS DIMENSION。Spector社にとって初となるマルチ・スケールを採用した。低音弦は長く、高音弦は短くすることで適切なスケールを得られるマルチ・スケールは、適切な弦振動と豊かなサステインをもたらす。ネックはメイプルとウェンジを組み合わせた5ピース仕様でジョイントはスルーネック。ボディにはスワンプ・アッシュ(バック)とポプラ・バール(トップ)を組み合わせており、ウッド・マテリアルにもこだわりを感じさせる。ピックアップはFishman社Fluenceを搭載し、ナチュラルな楽器のトーンを引き出す。ステージでの演奏性を考え、サイド・ドット・ポジション・マークは蓄光仕様となっている。5弦/4弦モデルともに高級感のある、2タイプのフィニッシュから選択可能だ。
ベース・ソロを弾きたくなるような音
マルチ・スケールのベースは初めて弾いたのですが、斜めに打たれたフレットの見た目とは裏腹に、違和感なく弾けたことに驚きました。弦間ピッチもちょっと狭めだからか、4弦の延長のような感じで弾けます。それにネックも少し薄くて、左手の親指が安定するので非常に弾きやすいです。Fishmanのピックアップのキャラクターは僕が持っているEMGを搭載したスペクターと比べると少しマイルドで、僕はピックで弾きましたが、指で弾く人にも良いと思います。音の立ち上がりも良く、アンサンブルのなかでというよりも、リズムと合わせてベース・ソロを弾きたくなるような音ですね。僕はSpectorのルックスがすごく好きなんですが、この豪華な杢目の感じはたまらなく魅力的ですね。
DIMENSIONシリーズの4弦モデルは木材やエレクトロニクスなど、基本的なスペックは5弦モデルと同一だが、4弦モデルでは低音弦側が36インチ・スケールと、弦数に応じてスケールが調整されている。
もっともトラディショナルなスペクターに近いキャラクターを持つNS PULSEシリーズ。同社のトレードマークでもある立体的なカーブド・ボディには杢目を際立たせるサンドブラスト・フィニッシュを採用し、インパクトのあるルックスに仕上がっている。指板にはマッカーサー・エボニーを、ネックにはロースト加工を施したメイプルを使用。この加工によりネックの安定性に加えて、鳴りの良さを実現している。ジョイントはボルトオン方式を採用。ピックアップは同社お馴染みのEMG製で4弦モデルがPJ、5弦はハムバッキングを搭載し、プリアンプには同社オリジナルのTone Pump Jr.を採用した。ノイズレスかつ、立ち上がりの速いスペクターらしいサウンドを出力する。カラーは4弦/5弦モデルともにシンダー・レッドとチャコール・グレイの2種類から選択できる。
奏法を問わないオールラウンドさがある。
まず見た目が美しい! そして、楽器を持ってみたらめっちゃ軽くてビックリしました。それでいて低音までしっかりと出るという……僕が楽器に対して持っていた“重い楽器=音も太い”という概念を覆されました。ネックの握りもちょっと薄めなのですごく弾きやすい。こちらはピックアップもEMGなので、自分にとっては慣れ親しんだスペクターらしいワイドレンジなサウンドで、奏法を問わないオールラウンドさがあります。特にスラップをしたときのハイの抜けも気持ち良いですね。それとこの楽器は力がいらないというか、軽く弾いても良い音が出るのが素晴らしいです。取り回しの良さに加えて、しかも軽いので、女性ベーシストの方にオススメしたいモデルですね。
PULSEシリーズの5弦モデル。4弦モデルとの違いとしては、5弦モデルではスケールが35インチに延長されているほか、ピックアップにはEMG製40DC×2が採用されている。
USAモデルを彷彿させるハイグロス・フィニッシュに加えて、エレクトロニクスに新たな個性を投入したNS ETHOS。スペクターの伝統でもあるスルーネック構造を採用し、ネックは3ピース仕様のメイプル、ボディはメイプル(バック)とポプラ・バール(トップ)を使用している。特筆すべきはピックアップ&プリアンプにAguilar製を採用している点で、4弦モデルはAG-PとAG-J-HCのPJ仕様、5弦モデルはDCB G4を2基搭載。いずれもプリアンプはOBP-2をマウント。効きの良いEQを含めて、ナチュラルかつバリエーションの広いサウンドを出力する。4弦/5弦モデルともにフィニッシュは目を引くインターステラー・グロス、シックなスーパー・フェイデッド・ブラック・グロスの2種類より選択可能だ。
いろんなバリエーションの音を作り込める。
これはカラーも派手でカッコいいし、フィニッシュもキレイですね。僕が持っているスペクターは渋い感じなので、正直これは欲しいですよ(笑)。あと、ネックがとても握りやすい。指板の幅も少し狭めなのか、ロー・ポジションで動きのあるフレーズを安定して弾くことができました。ピックアップとプリアンプがAguilarとのことですが、すごくパワフルで、ピックアップのミックス・バランスとコントロールを使うと、いろんなバリエーションの音を作り込めます。僕はいつもピックアップは両方ともフルテンですが、このベースはいつも使っている自分のスペクターと何ら変わらないパワー感があって同じようなフィーリングで弾けました。
ETHOSシリーズの5弦モデルには、ピックアップに同社製のDCB G4が2基マウントしており、プリアンプには4弦モデルと同じくAguilar製OPB-2が搭載されている。
僕とスペクターの出会いはスキッド・ロウのベーシスト、レイチェル・ボランでした。SIAM SHADEの録音でロスに行ったときにギター・センターでスペクターのベースに出会い……もうひと目惚れでしたね。レンジが広くてパンチがあるから、周りの音に負けない。僕がやっている音楽にはスペクターの音が不可欠でした。
今回のNSシリーズは、そんなスペクターの良さを残しながらも、マルチ・スケールを取り入れたり、EMGではないピックアップを載せたりと、より多くのジャンルのベーシストにマッチするラインナップだと思います。あとはクオリティの高さに驚きました。普段僕が使っているUSAモデルと比べても本当に印象が変わらない。韓国製のモデルと言われなければ気づかないくらいです。あと良いなと思ったのはネックの握り具合。どのモデルもちょっと薄めに仕上げてあってすごく弾きやすいし、あとは楽器が軽くて良いです。
そもそもスペクターってライヴで弾きたくなる楽器だと思うんですが、今回のNSシリーズはそんなスペクターの魅力をさらに高めてくれたように感じました。
NATCHIN
なっちん●1971年10月15日生まれ、東京都出身。1993年に結成されたロック・バンド、SIAM SHADEのベーシスト兼リーダーで、1995年に1stシングル『RAIN』でメジャー・デビュー。シングル16枚、アルバム9枚をリリースしている。2002年3月にバンドは解散するもその後、何度か再結成を果たし、2016年10月の日本武道館公演を以て活動を完結させた。吉川晃司、相川七瀬、谷本貴義、T-BOLANなどのサポート活動も展開している。