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- 2024/11/16
Fender / Player Plus
今秋、フェンダーから新シリーズが発売された。その名は“Player Plus”。比較的リーズナブルだった前身の“Player”シリーズは、ステイホームで多くの人がギターを始める中、フェンダー製品を気軽に手に取るきっかけとなり、40万本以上のセールスを記録したという。その“Player”シリーズを、SNSを活用するデジタル世代プレイヤーに向けて進化させたのが、この“Player Plus”シリーズというわけだ。試奏者にBREIMENのサトウカツシロを招き、現代のプレイヤーのユニークな発想を刺激すること請け合いの本シリーズを紐解いてみよう。
パンデミック下の数少ないポジティブなニュースとして、ステイホームを楽しもうと楽器を始める人が増えたことがあげられる。同時に、近年はInstagramやTikTokといったSNSを通してネオ・ソウルのような新しいジャンルの音楽がムーブメントを起こしたのも事実。そんな中、多くの人のエントリー・モデルとして、また、SNS世代の発想を刺激するモデルとして大活躍したのがフェンダーが2018年にリリースした“Player”シリーズだった。
今回リリースされた“Player Plus”シリーズは、その“Player”シリーズの上位にあたるもの。モダンCシェイプのネックや2点支持トレモロ・ユニットといったスペックは受け継いでいるものの、さて、どのあたりが進化したのだろうか。
まず、ハム・ノイズを抑制しつつもクラシックなトーンを実現するPlayer Plus Noiselessピックアップの搭載があげられる。ハムバッカーを搭載したストラトキャスターHSSでは、開発者が“フロントからリアに切り替えても音量が不自然に大きくならない”、“シングルコイルが明るすぎたり、ハムバッカーがダークすぎたりしないようにポットを見直した”と語るなど、ベストなバランスを得るための入念な調整が行なわれたようだ。
また、12インチ・ラディアス指板やブロック・サドル付き2点支持トレモロ・ユニット、ロッキング・チューナー等の導入によりプレイアビリティが向上。さらに、各モデルともトーン・ノブをタップすることでピックアップの配線が切り替えられ、より多彩なトーンを実現している。
そして何と言っても、テキーラ・サンライズやベルエアー・ブルー、シルバー・スモークといった、ビンテージ・モデルでは考えられないようなグラデーション・フィニッシュがラインナップされたことが目玉だ。伝統的なフォルムと斬新なスペック&カラー……なんだ、この不思議な感覚は。往年のR&BがSNSという現代テクノロジーで甦ったネオソウルのイメージと重なるではないか! ついそんなフレーズを弾きたくなってしまうのは筆者だけではあるまい。
エレクトリック・ギターの代名詞的存在であるストラトキャスター。ピックアップ配列がSSSのこの伝統的なフォルムの銘器が、現代テクノロジーの粋によって進化し続けていることは素直に喜ばしい。今回紹介する4モデル共通だが、指板はボディ・カラーによってメイプルとパーフェロー(ボリビアン・ローズウッド)がある。まず、すぐに手に馴染むモダンCシェイプのネックとそのなめらかなロール・オフ処理は長時間の演奏でもストレス・フリー。また、3基のPlayer Plus Noiselessピックアップは、ハム・ノイズを抑制しつつ、“あの”クラシックなストラト・トーンを実現する。ストリング・ガイドはモダンなアメリカン・スタンダード・タイプだ。
【Specifications】●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●スケール:648mm ●指板:メイプル or パーフェロー ●フレット:22 ●ピックアップ:Player Plus Noiseless Strat×3 ●コントロール:ボリューム、トーン1(フロントPU、センターPU)、トーン2(リアPU)、5ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:2点支持トレモロ・ブリッジ with 6スチール・ブロック・サドル ●ペグ:デラックス・キャスト/シールド・ロッキング ●ケース:デラックス・ギグ・バッグ ●カラー:テキーラ・サンライズ(写真)、3カラー・サンバースト、オリンピック・パール、エイジド・キャンディ・アップル・レッド、オーパル・スパーク ●希望小売価格:137,500円(税込)
手がけっこう小さいんですが、握り込んでも引っかかる感じが全然ない
このカラー、テキーラ・サンライズっていうんですか! これはもう、パリピですね(笑)。メイプル指板との対比もいいし、グラデーションも凄くきれい。そして、持った時のネックのスベスベ感。僕、手がけっこう小さいんですが、握り込んでも引っかかる感じが全然ないです。ミディアム・ジャンボ・フレットにしてもロッキング・チューナーにしても、やはりプレイアビリティに特化した仕様ですね。アームって表現の幅を広げるツールなんですが、激しく使ってもチューニングが狂わない。音色のバリエーションも多いし、トータルのバランスが良く取れています。トーン・ノブをプルした時の太くワイルドになった音には深さがありますね。往年のストラトだけど、これは逆に新しいサウンドです。
オールラウンダー・ギタリストの必須アイテム、HSSのストラトキャスター。このタイプに関してフェンダーは“American Ultra”で1つの頂点に達していたが、よりライトな使用にも適うのが本モデルと言えそうだ。12インチ・ラディアス指板とミディアム・ジャンボ・フレットは弦落ちを気にすることなくアグレッシブなリード・プレイを可能とし、2点支持トレモロとロッキング・チューナーにより激しいアーミングも躊躇なく行なえる……そんなハードな使用に耐えうる一方、ピックアップのセレクト次第では繊細なサウンド・コントロールも実現。ハムバッカーをコイルスプリットし、シングルコイル・トーンに切り替えることも可能だ。
【Specifications】 ●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●スケール:648mm ●指板:メイプル or パーフェロー ●フレット:22 ●ピックアップ:Player Plus Noiseless Strat(フロント、センター)、Player Plus Humbucking(リア) ●コントロール:マスター・ボリューム、トーン1(フロントPU、センターPU)、トーン2(リアPU)、5ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:2点支持トレモロ・ブリッジ with 6スチール・ブロック・サドル ●ペグ:デラックス・キャスト/シールド・ロッキング ●ケース:デラックス・ギグ・バッグ ●カラー:ベルエアー・ブルー(写真)、コズミック・ジェイド、3カラー・サンバースト、シルバーバースト ●希望小売価格:140,800円(税込)
シングルからハムに切り替えてもパワーダウンした印象はまったくない
このハムバッカー、めちゃくちゃ良いじゃないですか! ローとトレブルがきちんと鳴るので乾いた感じになっています。シングルコイルから切り替えてもパワーダウンした印象はなく、凄く自然。PUレイアウト的にはモダンに見えますが、僕はトラッドな音楽もガンガンいけると思いますよ。ドライブをかけたコード弾きとかはロックにも使えますし、音のふくよかさはそれこそネオソウルなんかにも合うんじゃないかと。イナたい音も出るので、僕はブルースとかを弾きたくなっちゃいます。それから、激しくアームを使ってみましたけどやはりチューニングが狂わない。幅広くいろんな音楽に取り組む人に向いていますね。それにしても、このハムはいいですね。お歳暮とかで送って欲しいです。ハム違いか(笑)。
シンプルなフォルムに包まれた無限の可能性……ロックからブルース、シンガーソングライターのバッキング用等々、そのフィールドの広さからもテレキャスターの持つポテンシャルの高さがわかるが、本シリーズではさらに一歩進んだ印象だ。手にフィットするモダンCシェイプのネックとそのなめらかなロール・オフ処理がこれまで以上に弾き心地を向上させ、長時間の演奏でもストレス・フリー。また、甘いトゥワング・トーンを実現するPlayer Plus Noiselessピックアップは、トーン・ノブのタップにより両ピックアップをシリーズ(直列)モードで鳴らすことが可能で、これによりパワー感とふくよかさを加味した疑似ハムバッカーを作り出す。
【Specifications】 ●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●スケール:648mm ●指板:メイプル or パーフェロー ●フレット:22 ●ピックアップ:Player Plus Noiseless Tele ●コントロール:マスター・ボリューム、マスター・トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:6サドル・ストリング・スルー・ボディ ●ペグ:デラックス・キャスト/シールド・ロッキング ●ケース:デラックス・ギグ・バッグ ●カラー:シルバー・スモーク(写真)、コズミック・ジェイド、エイジド・キャンディ・アップル・レッド、3カラー・サンバースト ●希望小売価格:137,500円(税込)
こちらが意図した繊細なニュアンスをきちんと拾ってくれている
弾いてみて感じたのは、“ちゃんと鳴っているな”ってことです。こちらが意図した繊細なニュアンスをきちんと拾ってくれているのも感じました。やはりモダンな仕様がプレイアビリティを高めています。おそらく長時間弾いていてもストレスは感じないでしょうね。指板Rがやや平らな印象ですが、ネックも含めて安っぽい感じがしません。指板Rは音色に関わってくると思っているんですが、これはハリもちゃんとあるし、ペチペチしないので高評価です。クリーンでも歪みでもフィーリングが凄く良い。そして、このトーン・ノブをプルした時の、フロントとリアが直列で鳴る音が独特です。実用的でセンスも良し。あと、カラーも最高! こういうチャレンジングな姿勢にインスパイアされる人も多いんじゃないでしょうか。
3基のPlayer Plus Noiselessピックアップを搭載しているが、センターがストラト・タイプというのが面白いモデル。テレキャスターならではの甘いトゥワング・トーンのみならず、ストラトキャスター的なハーフ・トーンも得ることができるわけだ。また、ピックアップ・ポジション1 & 2の場合、トーン・ノブをタップすることでフロントPUを常時ONにすることも可能……使いたいシチュエーションがどんどん浮かんでくるではないか! そしてP77の“Telecaster”同様、アッシュトレイ型ではないモダンな仕様の6連ブロック・サドル式Telecasterブリッジの採用により、優れたイントネーションとサステイン、そしてブライトさを実現する。
【Specifications】 ●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●スケール:648mm ●指板:メイプル or パーフェロー ●フレット:22 ●ピックアップ:Player Plus Noiseless Tele(フロント、リア)、Player Plus Noiseless Strat(センター) ●コントロール:マスター・ボリューム、マスター・トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:6サドル・ストリング・スルー・ボディ with ブロック・スチール・サドル ●ペグ:デラックス・キャスト/シールド・ロッキング ●ケース:デラックス・ギグ・バッグ ●カラー:エイジド・キャンディ・アップル・レッド(写真)、オーパル・スパーク、バタースコッチ・ブロンド、3カラー・サンバースト ●希望小売価格:140,800円(税込)
ファズをかけたらどうなるんだろうとか、いろんなことを試したくなる
様々なシーンで使い倒せるモデルです。トーン・ノブのプルを含めると全部で7種類のピックアップの組み合わせがあるので、ロックにもブルースにも、それこそカントリー的なフレーズなんかもいけるし、いろんな場面で使えそう。このピックアップ配列は、ナッシュビルのセッション・ミュージシャンが使っているというくらいなので、まさに職人的な、現場での実用性に特化したものなんでしょうね。僕だったら、ファズをかけたらどうなるんだろうとか、いろんなことを試したくなります。“ちょっと人と違うことをやってみたいな”っていう人にはうってつけかなと。また、単にバーサタイルなのではなく、1つ1つの音に説得力があるんですよ。センターのピックアップは、ちょっと膜が張っているというか、深い感じのハーフトーンも出せてこれまた個性的ですね。
“いかにこれからの時代を切り開いていくか”みたいなものをすごく感じた。
エントリー・モデルとして前身の“Player”シリーズがありましたが、これはそのグレードアップですよね。入門用のギターって世の中にいっぱいあると思うんですが、僕の印象だとネックがやや細くて弾きやすいというのが基本。この“Player Plus”シリーズは、そのエントリー・モデルの延長線上にありながらも、フェンダーの歴史をひしひしと感じるものでした。ピックアップにしても、伝統的な音が鳴りつつ、すごく進化している。鳴らし方を教えてくれるというか、ちゃんと鳴らせるようにできているんです。この価格でこのプレイアビリティとサウンド、そしてルックス……これはもうフェンダーにしか作れないですよね。凄く本格的でびっくりしました。
ロッキング・チューナーであったり、ピックアップの組み合わせであったり、随所にモダンな機能を備えている一方で、トラッドな音が出る。また、ストラトキャスターHSSのハムバッカーのレンジ感とか、めっちゃ良いなって思いました。ホント、普通にかなり使えるギターです。あと、ナッシュビル・テレキャスターのピックアップの組み合わせからは色んなインスピレーションを受けましたね。“僕が普段使ってるセッティングでもマッチするな”とか、“こういう新しい音色でもやれるんじゃないかな”とか。しばらく使ってみないとわからない面もありますが、きっと新しい発見があるんだろうという期待感すら抱きました。
いろいろ言いましたが、全体的にフェンダーが未来を見据えてるなっていう印象ですね。モダンな機能も突飛なだけじゃないっていうか。くり返しになりますが、往年のフェンダー・トーンなんだけど、それを残しつつ、“いかにこれからの時代を切り開いていくか”みたいなものをすごく感じました。特定の誰かに向けて作ってるわけではなくて──これもまた、凄いところなんですが──つまり、新しい可能性を模索してるという人にぜひ弾いてほしいですね。僕自身も常に新しいことをやり続けていたいなって思ってます。
ということで、この中から1本持って帰るとしたら……うーん、悩みますね。全部良いんだよな。僕、ステージでは黒いギターしか使わないって決めてるんで、このシルバー・スモークのテレキャスターをいただきます(笑)。
本記事は、10月13日(水)に発売されたリットーミュージック刊『ギター・マガジン 2021年11月号』にも掲載されています。表紙巻頭特集はChar。ぜひチェックしてみてください!
価格:¥137,500
価格:¥140,800
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サトウカツシロ
1993年11月30生まれ。BREIMENのギタリストとして活動する傍ら、Nulbarichのギタリストとして参加。その他様々なアーティストのレコーディングやライブに参加している。BREIMENの最新作は今年リリースされた『Play time isn't over』。メイン・ギターは1963年~1964年製をベースにしたフェンダーカスタムショップ製ジャズマスター。