AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Marshall / Origin20C
60年代にイギリスで生まれ、ロック・ミュージックの発展に大きな役割を果たしてきたマーシャル・アンプ。本連載では、普段からマーシャルを愛用するギタリストに現行製品を試奏してもらうとともに、それぞれの“マーシャル・アンプ愛=マーシャルな訳”を聞いていく。第3回目は、長年1987と1960TVの組み合わせを愛用する人間椅子の和嶋慎治に、真空管コンボ・アンプのOrigin20Cをチェックしてもらった。
・00:00〜Opening Demo
・01:26〜First Impression
・02:27〜Clean Sound
・03:15〜Crunch Sound
・04:07〜Drive Sound
・05:28〜Sound Impression
・07:20〜Powerstem Check
・11:11〜Total Impression
パワー・リダクション機能により
シチュエーションを選ばず使える真空管アンプ
Origin20Cは、伝統的な真空管回路にセレッション製Vタイプ・スピーカー(10インチ)を1発搭載したコンボ・アンプ。オールド・タイプの真空管アンプはボリュームを上げないと気持ちの良い歪みが得られないが、本器はGAINツマミとMASTERツマミを搭載。GAINツマミのプッシュ/プル、または付属のフット・スイッチでのオン/オフが可能なゲイン・ブースト機能や、出力を20W/3W/0.5Wに切り替えられるパワー・リダクション機能も併用して、ビンテージ・ライクな温かいクリーンから鋭いクランチ、パワー管の歪みを活かしたハードなドライブまで、ライブから自宅練習まで、シーンに合わせた音量でセッティングできるのが本器の特徴だ。
EQはシンプルなBASS、MIDDLE、TREBLE、そしてPRESENCEという構成なので直感的にバルブ・サウンドを楽しむことができるが、TILTという独特のツマミが一番のポイント。このツマミを右に回していくと、1959のような4インプット・スタイルのマーシャルでいうチャンネルⅠ(HIGH TREBLE)側のキャラクターが足されていき、よりトレブルに寄った荒々しいサウンドに。逆に左側に回していくとチャンネルⅡ(NORMAL)側のキャラクターに変化し、サウンドがロー・ミッド寄りになるのだ。
Originシリーズは写真のOrigin20Cのほかに、50W出力のOrigin50Cや、ヘッド・タイプ、さらにはキャビネットもラインナップしている。
プレキシ・マーシャルの音が
このサイズでもちゃんと出ています。
僕は普段、1987っていうビンテージの50Wのアンプを使っているんですけど、上手く弾けば上手く聴こえるし、ちょっとしくじると、そのしくじりがそのまま出るんです。このOrigin20Cは本当にそれに近いというか、マーシャルの古いアンプそのまんまだなと思いました。弾いた感じがすごく近い。人によっては歪みが足りないと思うかもしれないですけど、いわゆるプレキシ・マーシャルの音がこのサイズでもちゃんと出ています。
使い勝手も良いですね。昔のアンプはマスター・ボリュームがないので、けっこう使いづらいんですよ。良い音を出すにはアンプのボリュームをフルにしなくちゃいけなくて、それで音量がものすごくデカくなっちゃうんですけど、これはちゃんとGAINツマミに加えてMASTERツマミがある。しかもGAINツマミをプルするとゲインがブーストされて2段階で歪みの幅を変えられるので、とても使いやすいですよ。
TILTツマミで、いわゆる4インプット仕様のビンテージ・マーシャルのチャンネルⅠとチャンネルⅡの質感をバランサーのように変えられるっていうのは、すごいと思いました。これは良いですね。このTILTツマミはいわば、あらかじめチャンネル・リンクさせているような状態なんですよ。僕は基本的に1987のチャンネルⅠ、つまりHIGH TREBLEのインプットのみで音を作っちゃうんですけど、曲によってはNORMALとチャンネル・リンクさせたい時もあるんです。リンクさせるとロー・ミッドが出てきて音に深みが増すので、クリーン・トーンやクランチ気味の音をレコーディングで出す時に使うんですけど、その音決めで何時間もかかっちゃうんですよ。それがやっぱりすごく難しいんだけど、これは手軽にやれるので良いと思いますね。
僕、実際に使ってみたいと思いました! Origin20Cをヘッドとして使って、別のキャビネットから音を鳴らすこともできるらしいので、それを試してみたいですね。そうすると箱鳴りもしつつ、大きい音量を出せないライブハウスとかではワット数を20Wから3Wに切り替えてやれたりするので、すごく良いんじゃないかなと思います。
マーシャルというアンプは、1つの文化ですね。
──和嶋さんは70年代後半製の1987をずっと使用していますよね。数あるアンプの中で、なぜ1987を選んだのですか?
僕たちが好きなブリティッシュ・ハードロック・バンドの“このギターの音良いな〜!”って思うギタリストは、だいたい古いマーシャルを使っていたわけですよ。当時はリアルタイムで売っていたモデルを使っていただけなんですけど(笑)。その音がとても良いなと思ったので、まずマーシャルを使いたいというのがありました。若い時は高くて買えなかったんですけど、90年代にデビューして印税が入ったので、“憧れのマーシャルを買おう”ということで中古楽器屋さんに行って、いくつか試奏した中で50Wが良いと思ったんです。歪みがきめ細やかというかシルキーな気がしたんですよ。100Wの1959はやっぱりドカーンとくるような感じで、“これは音デカいわ”と思って(笑)。僕はソロもマーシャル直の音で弾きたかったので、そうすると50Wの1987のほうがキレイに聴こえたんです。
──ビンテージのマーシャルは、個体によってはあまり歪まないものもありますよね?
そうみたいですね。今使っている1987を買った時、楽器屋さんに1987が3台くらい置いてあったんです。それを全部弾かせてもらって“これ欲しいです!”と選んだ個体を、店員さんが“いや、これはね〜……”ってすごい渋るんですよ。“こっちのほうがいいよ”って別の個体を薦められて。でも、そっちは歪みが足りないというか、音が固いっていうか、好みじゃなかった。なので店員さんが渋るほうを買ったんです。僕が思うに、店員さんはそのヘッドを自分で買うつもりだったんじゃないかなって(笑)。で、その店員さん曰く、僕が買った個体は“どうやらゲインを変えてるんじゃないか”みたいなことを話していましたね。だから僕の1987はちょっと歪むのかもしれないです。
──(笑)。それと和嶋さんはキャビネットもマーシャルで。
そうです。1960TVっていうやつですね。最初はヘッドだけ買って、キャビはライブハウスに置いてある普通の1960を使っていたんですけど、やっぱりキャビも欲しくなって違う楽器屋さんに行ったんです。そこの店員さんがすごく親切で、何度かキャビネットが欲しいと通っていたら、“オリジナルの1960TVが入荷したよ。これは君の1987にすごく合うと思う”って薦めてくれたんですよ。まだ1960TVが再生産される前だったと思いますね。そして自分のヘッドを楽器屋さんに持ち込んで1960TVを試奏したら、“これだ!”と思ったんです。キャビの背が高い分、ローが出るんですよね。それと1987が50Wとは思えないくらいの音圧になったので、すぐに買いました。それからはライブもレコーディングもずっと同じ組み合わせでやっています。
──最後に、和嶋さんにとってマーシャルとは?
ロックンロールがロックになって、ハードロック、ヘヴィメタル……時代が進むと音楽がどんどん過激さを求めるようになって、歪んだギター・リフ中心の曲が増えていくんですけど、歪んでないとリフってカッコ悪いんですよね。フェンダーのアンプしか世の中になかったら、たぶんハードロックやヘヴィメタルは生まれていないと思います。マーシャルの音があったからコードを弾かなくても成立したんですよ。つまり弦を1本、もしくは2本で弾いても音圧が出て、パワーのある伴奏ができるようになった。だからロック=マーシャルくらいに思っています。そもそも時代的にロックンロールで終わるのか、ロックという音楽形式に進化するのかっていう分岐点にマーシャルがいたからロックが生まれたと思うんですよ。それくらいすごいんです。マーシャルというアンプは、1つの文化ですね。
先日公開された“Ampegな理由”の第6回目は、同じく人間椅子から鈴木研一が登場! 和嶋も鈴木も新作『苦楽』に収録されている「杜子春」を演奏しているので、併せてチェック!
価格:オープン
和嶋慎治(人間椅子)
わじま・しんじ●1965年12月25日生まれ。青森県出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一と人間椅子を結成し、1990年にデビュー。最新作は今年8月にリリースした2年2ヵ月ぶりとなる22枚目のアルバム『苦楽』。