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- 2024/11/16
トーンベンダー系ファズ
エフェクター・ファンのバイブル『THE EFFECTOR book』(シンコーミュージック刊)。最新刊の“Vol.53 トーンベンダー特集”の中から「現行“トーンベンダー系ファズ”試奏」を紹介します。
米国製のファズ、マエストロ“Fuzz-Tone”に強くインスパイアされて開発されたものの、英国育ちの“Tone Bender”はその後、それとも違う独自の発展を遂げていった。そして今や、その遺伝子は世界中のファズに見つけることができる。シンプルな回路の中で織りなされるトランジスタの絶妙なハーモニー、それを軸に現代のビルダーそれぞれの解釈によるアレンジ&発展が加えられた製品は、往年の英国製ファズ・サウンドに大きなリスペクトを払いつつも、現代的な音楽にもしっかりなじむユニバーサルなチューニングが施されている。
そんな温故知新のデバイスをこだわり派ギタリスト、坂本夏樹が徹底分析!
[Specifications]
●コントロール:Level、Attack ●スイッチ:ON/OFF、Bias Switch ●端子:In put、Output ●サイズ:66mm(W)×133mm(D)×60mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9VDC ●価格:36,300円(税込) (問)042-519-6855/アンブレラカンパニー
クラシックなファズ作りに定評のあるマンライ・サウンド。本機は、レコードで聴ける“MK I”サウンドを実際に鳴らすことができるという逸品、“Tone Bender”シリーズの中でも特にコンプレッション感と押し出しの強い“MK I ”の特徴をよく再現しています。過激なサウンドの数々を経験している現代の耳でもってしてもパワフルに感じるのに、これが新製品として登場した1960年代当時は一体どんな衝撃を与えたのだろうと想像を掻き立てられる音色です。そんな力強さの再現度もですが、特に興奮させられたのが“MK I”ならではのゲート感。伸びやかなサステインと独特のブチブチ感の共存は“MK I”回路でしか表現できません。そして、ギター・ボリュームを絞っていったときにゲート感が変化していく感触は、クラシックなファズ作りを得意とする同ブランドだからこそ踏み込めた領域なのではないでしょうか。オリジナルが持つ雰囲気の再現度が高いモデルなので、クラシックな機材環境での演奏を前提に作られているのでは?と思われるかもしれませんが、“VINTAGE/MODERN”切り替えスイッチにより、現代的なアンサンブルへの対応もバッチリ。安心して使えます!
[Specifications]
●コントロール:Gain、Fuzz ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:67mm(W)×126mm(D)×57mm(H) ●電源:006P(9V電池) ●価格:open price(市場想定税込価格:35,851円前後) (問)info@lep-international.jp/LEP INTERNATIONAL
本機は、“GAIN”を全開にしなくとも初期段階から充分な歪み量があるので、ポジションによってさまざまな音色を楽しむことができます。“GAIN”=10時辺りの強いゲート感、13時辺りのスムースな凝縮感、そこから全開に向かうにつれて増していくオクターブ成分を含んだワイルドな響き。シンプルなだけに構築が難しい“MK I”回路の個体差を、バランスよく取り入れている印象です。また、高品質なパーツと厳選されたNOSパーツでの手作りにこだわっているブランドだけあって、現場での使用に安心感の持てる堅牢な作りを実践。ていねいに組み込まれているからこそ、音色にも一切の不安定さがなく、「ファズは使用環境に左右されやすそうで不安」と考えている方にこそ導入していただきたいモデルです。ビンテージ個体は、消耗などによるちょっとしたパーツ交換だけで音が激変することも多いですが、本機は消耗しやすいジャックなどが現代の高品質なパーツで組まれているので、長く使える上、仮に交換することになってもパーツ供給が安定しているので、お気に入りの音色が変わってしまうような心配もありません。ぜひ現場でガシガシ使っていただきたいモデルですね。
[Specifications]
●コントロール:Level、Attack ●スイッチ:ON/OFF、Bias Switch ●端子:In put、Output ●サイズ:66mm(W)×133mm(D)×60mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9VDC ●価格:31,350円(税込) (問)042-519-6855/アンブレラカンパニー
クラシックなファズに興味が出てきたら、まずは試していただきたいのが本ブランドの製品。どのモデルもオリジナルの雰囲気を上手く汲み取っていて、かつ現代環境でも扱いやすいようにチューニングされています。よって、既存のシステムにビンテージ・サウンドを組み込みたいという場合にもオススメ。本機は“MK II”のサウンドを忠実に復刻して、切り替えスイッチにより、さらにゲート感の強い音色も選択できるようになっています。ビンテージ“Tone Bender”は個体によって低域が暴れすぎるものもありますが、本機は飽和感を醸し出しつつも、スッキリとしたレンジ感にまとめてあるのが特徴。さまざまなギター、アンプとの組み合わせで“MK II”風サウンドを楽しむことができます。高い汎用性を望むのであれば、右手のタッチやギター・ボリュームへの反応が良い“SMOOTH”モードをオススメしますが、個人的に面白かったのは“GATE”モード。これは、しっかり音量を出したチューブ・アンプでのみ生み出せるフィード・バックや歪みとの掛け合わせで使ってこそ真価を発揮するモードです。現行品では最もクラシック・ロック然とした音を奏でられるモデルなのではないでしょうか。
[Specifications]
●コントロール:Level、Fuzz、Tone、Bias(トリマー) ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:70mm(W)×114mm(D)×50mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9VDC ●価格:open price (問)03-5211-1537/トライサウンド
Vemuramと言えば“Jan Ray”がとにかく有名ですが、現場では本機“Shanks II”の方を目にする機会が多いかもしれません。音楽制作の現場で使いやすい、高音質で操作幅の広いローノイズ設計になっている同ブランドの製品の中でも、本機は特にプロに好まれる絶妙な歪み感とレンジ、そしてタッチへの俊敏な反応力を持ち合わせているからです。ゲイン幅がかなり広く、クリーンから“Tone Bender”然としたファズまで、どのポジションでも使える音色が確立されていて、シームレスな音選びが可能な点も魅力。もちろんしっかり歪ませるのもかっこいいですが、個人的にはゲインを抑えた張りのあるクランチ・サウンドを楽しんでいただきたいところ。クリアさの中に“Tone Bender”然としたゲート感をしっかりと共存させつつ、ここまでロー・ゲインを武器として成立させられるファズ・ペダルはなかなかありません。メーカー・サイトに記載されている「Fuzz Boost Pedal」という表記にも頷けますね。ギターやアンプ、そのほかエフェクターの個性をスポイルすることなくファズらしい存在感でもって音を押し出してくれるので、ほかの楽器との掛け合わせでさらなる効果を発揮してくれるでしょう。
[Specifications]
●コントロール:Level、Attack ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:76mm(W)×123mm(D)×61mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9VDC ●価格:open price(市場想定税込価格:34,531円前後) (問)info@lep-international.jp/LEP INTERNATIONAL
“Tone Bender”を再現、再構築するにあたって、現代環境で使いやすくするために低域にアレンジを施すモデルも多いですが、本機はそこをオリジナルに忠実にしてあるので、再現モデルの中でも群を抜いて迫力のある音色に仕上がっています。低域がかなりブ厚い分、使用環境や楽器の組み合わせによっては埋もれてしまいがちと感じるかもしれませんが、オリジナルよりも出力を高く調整してあるので、出音が力強く押し出され、音数の多いアンサンブルでも負けることはありません。“LEVEL”も音量がなめらかに上下する形でチューニングされているので、細かな設定がしやすく、そういう意味でもアンサンブルに強いモデルだと感じました。ギターのボリューム操作にもなめらかに追従し、しかも“MK1.5”回路のような反応とクリーンさも持ち合わせているので、全開から絞り切るギリギリまで、どのポジションでも使える音色として演奏することができます。オリジナルの忠実再現を謳ったモデルに対して、音色はかっこいいけど、もう少し器用であれば……と感じたことがある方は、僕以外にもきっといるはず。本機ならばもうそんなモヤモヤに悩まされる必要はありません。
[Specifications]
●コントロール:Level、Tone、Dirt ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:61mm(W)×112mm(D)×51mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9VDC ●価格:39,600円(税込) (問)info@musette-japan.com/ミュゼットジャパン
近年のファズ復権の火付け役とも言えるフルトーンの大名機を、今一度ひも解いていきましょう。コントローラーの配置から分かる通り、本機は“MK III”がベースとなっている模様。ゲルマ仕様で最も扱いやすい時期のモデルということもありますが、ローからハイ・ゲインまで、どんなギター、アンプの組み合わせでも“Tone Bender”サウンドを繰り出すことができます。特に、ハムバッカーPUでは暴れずにシングルPUには豊かな低域、ハムバッカーPUではこもらずにシングルPUでは耳に痛くない高域を調整できる“TONE”が秀逸。ちょうど良い具合に真ん中なんですよね。どんなギターにも対応できる位置取りの妙技に改めて脱帽しました。こうした部分がフルトーン製品に共通する抜けの良い中域の要因なのかもしれません。どんな機材とのマッチングも抜群ですが、個人的にはハムバッカーPUの搭載されたギターとチューブ・アンプの組み合わせでの使用が最も好きでした。空気を震わせるロックなプレイが似合うエフェクターだと思います。この扱いやすさとサウンドを20年前にはもう完成させていたのですから、世界中で愛されるブランドになるのも当然ですね。
[Specifications]
●コントロール:Output、Tone、Fuzz ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:63mm(W)×112mm(D)×50mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9VDC ●価格:19,800円(税込) (問)03-3862-5041/モリダイラ楽器
さすがはMXR、ファズは扱いが難しいという先入観を一発で払拭してくれます。世界中の誰が使っても最高の音色が得られるように、という意気込みを強く感じました。“Tone Bender”といえばゲルマニウム・トランジスタのイメージが強いと思いますが、本機のようなシリコン・モデルの方が圧倒的に扱いやすいのは事実。よって、特に最初の1台には本機のようなシリコン仕様も必ず試してもらいたいところです。ファズは入り口が大事ですからね! さらに本機には“TONE”が備わっているので、シリコン仕様ならではの扱いやすさと相まって、オーバードライブ・ペダルと同等の感覚で、構えることなく使用することができます。元になったであろう“MK III”では調整幅の狭かったトーンも、約50年の時を経て、どんなポジションでも完璧に使えるようにアップデート。音色も“Tone Bender”に求められるブ厚い低域と鋭く抜ける中域を、どんなギター、アンプとの組み合わせでも再現できるようにチューニングされている印象です。伝統を重んじ、しかし操作性は大幅に進化。これこそ現代で求められる“Tone Bender”の1つの完成形と言って良いのではないでしょうか。
[Specifications]
●コントロール:Volume、Treble Bass、Fuzz ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:64mm(W)×121mm(D)×57mm(H) ●電源:9VDC ●価格:open price(市場想定税込価格28,600円)(問)0570-056-808/ヤマハミュージックジャパン
ルックスからも“MK III”の亜種として知られるパークの“Fuzz Sound”が元になっていることは一目瞭然。“MK III”を元にしているモデルは“TREBLE/BASS”コントローラーを使いやすく改良している製品が多いですが、本機はかなりオリジナルに忠実なチューニングになっています。一般的な“MK III”回路だと“TREBLE”方向に振り切ると極端に低域の薄い音色になってしまいますが、本機はオリジナルと比べファズの量が約2倍になっていて、“FUZZ”がどのポジションでも安定した飽和感が主張、“TREBLE”方向に振り切ったとしても、面白い音色として成立させられる個性を備えています。“TREBLE/BASS”を使いやすさ優先でまとめず、このチューニングが活きるようにファズの量を調整するという逆転の発想はさすがアースクエイカーデバイセス。極端なセッティングも個性として楽しむことができるので、かなり幅広い音色を作り出すことができるでしょう。ロー・ゲインで“TREBLE”方向に振ったゲート感の強いガレージな音色もかっこいいですが、せっかくファズの量が増強されているのですから全開で楽しんでいただきたいところ。バンドの中で大音量で鳴らしてください!
[Specifications]
●コントロール:Gain Structure Input、Gain Structure Output、Master Volume ●スイッチ:Bypass、Dip Switch(内部) ●端子:Input、Output ●サイズ:130mm(W)×265mm(D)×70mm(H) ●電源:9VDC ●価格:37,290円(税込) (問)info@benten-distribution.com/Benten Distribution
JPTR FXの製品には、誰も体験したことのない音色が秘められています。約60年前、全く未知の音色であったファズに触れたミュージシャンたちもきっと同じような衝撃を受けたのでしょう。本機はメーカー・サイトにも書かれている「名機たちが残した慎ましやかな始まり」という一節の意味をよく理解できるモデル。動作を簡単に説明すると、「違った帯域にアッパー・オクターブ成分を含んだ2つのゲインを並行に混ぜ合わせる」となるのですが、その説明から想像する通りにはことが運ばず、予想もつかない音色が飛び出してきます。この音色に対する適切な表現が見つからず、自身の中に新しい音の概念が生まれていく快感を体感する貴重な機会となるでしょう。雷のような衝撃に打ち抜かれてください。そう書くと、扱いが難しそうに感じるかもしれませんが、そんなことはありません。確かに個性的ではありますが、内部にある3つのDIPスイッチにより、想像以上にアンサンブルにハマる音作りが可能です。まさに習うより慣れろ。とにかく使ってみればわかります。そして経年変化が起きやすい鉄製筐体も愛用する楽しみの1つ。オリジナルな音色と見た目を作り上げてみてください。
以前、某ペダル・コレクターに「どうしてエフェクターを集めているのか?」と尋ねたことがあります。そのときは「そこにエフェクターがあるから」と即答されました。まるでベテラン冒険家がドヤ顔で言い放ちそうな答えですが、名言だと思います。コレクターとして100点満点の回答でしょう。
さて、今回もそんなガチコレクターに会う機会があり、話の流れで何気なく「みなさん、どうしてそんなにも熱心に“Tone Bender”を探しているんでしょう?」と尋ねてみました。すると、考えをまとめるのに意外なほど戸惑っている様子。しばらく間をおいてから、「ん……なんででしょうねえ……希少だから……ですかねえ」と、なんとも歯切れの悪い返事が漏れ出てきました。ドヤ顔どころか困惑の表情です。
国内屈指のペダル・コレクターですら、“Tone Bender”を探している理由を上手く説明できないという事実。そこに驚かされました。ペダル収集に人生を捧げているような人でもそんな感じなのだから、その沼がいかに深いのか垣間見られます。つまりは、音が良いとか悪いとか、誰が使っているからとか、それ以前の問題。あまりにも希少なペダルであるため、“Tone Bender”を収集すべき理由を見つけるために“Tone Bender”を捜索し続けるという、なんとも恐ろしい状況にあるようです。底なし沼ですね。
ビンテージ“Tone Bender”の世界はそんな感じなので、60年代の個体こそが最高だとか、オリジナルを知らずして語っちゃいけない、なんて言うつもりは一切ありません。本物を入手しようと思ったら、めちゃくちゃな労力とお金、そして運が必要ですし、それなりの知識を持った上で臨まないと、フェイクを掴ませられる心配だってあります。だから、無理して本物に触れなくても構わないと思うんですよ。そういう危険な領域の探索は勇敢な冒険家たちにまかせて、我々は再現系モデルから試していくのが良さそうな気がしました。記事を作りながら、復刻機の方が扱いやすいかも?という感触すら抱きましたし。むしろ現代の機材と合わせるなら、選択肢として大いにアリです。
それでも「どうしても本物が欲しいっ!」ってなった場合、まずは英国の老舗楽器店、マカリス(Macari’s)のウェブ・ページにアクセスしてみてください。彼らこそが“Tone Bender”を作り始めたオリジネイターにして、現在でもソーラサウンド名義の本物の“Tone Bender”を作り続けている唯一のメーカーです。そこを入り口にして少しずつビンテージの世界へ沈み込んでいくのが良いのではないでしょうか。
と、今回は真面目に忠告しておきます。それぐらいこの沼は危険なので。下手に覗き込んだら飲み込まれちゃいますよ。いきなりビンテージではなく、現代の復刻機からじわじわ攻めてみてください! (下総淳哉/THE EFFECTOR book)
本記事はシンコーミュージック刊『THE EFFECTOR book Vol.53 BENDING& DISTORTED ISSUE 2021』での特集企画「現行“トーンベンダー系ファズ”試奏」を転載したものです。今号では、1960年代半ばに誕生したファズ、“Tone Bender”を大特集。1960年代半ばから末までに製造された、“MK I”から“MK III”までの“Tone Bender”ファミリー&派生モデルを一挙に掲載しています。
項数:112P
定価:1,980円(税込)
問い合わせ:シンコーミュージック
『THE EFFECTOR book Vol.53』のページ・サンプル
坂本夏樹(さかもと・なつき)
チリヌルヲワカ、She Her Her Hers、Over The Topでのバンド活動を経て、スタジオ・ミュージシャン、プロデューサーとして、Creepy Nuts、DE DE MOUSE、HOME MADE 家族、たんこぶちん、酸欠少女さユり、新山詩織など、数多のライブ、レコーディングに参加。