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- 2024/11/16
AMPEG / HERITAGE 50TH ANNIVERSARY SVT
大型真空管アンプの代名詞的存在であり、世代やジャンルを超えて愛用されている、ベーシストにとっての王道アンプ・ブランド=Ampeg。本連載では、第一線で活躍するAmpegユーザーたちに、それぞれのAmpeg観を聞くとともに、注目のAmpegギアをチェックしていく。第6回は、日本が誇る3ピース・ハードロック・バンドであり、そのおどろおどろしい独特のサウンドが世界でも話題となっている人間椅子の鈴木研一が登場だ。新たなるフラッグシップとなるHERITAGE 50TH ANNIVERSARY SVTをチェックしてもらった。
デビュー当時は機材について何も知らなかったので、アンプはスタジオにあるものを適当に使っていました。でも、なんか違うなと思っていて。自分としてはもっとガリガリッとした音が欲しかったんですけど、どんなアンプを買えばいいのかわからなくて事務所の人に相談していたら、“DEAD ENDのリハに行ってみろ”って言われたんです。そして、“CRAZY”COOL-JOEさんに“ゲディ・リーみたいな音を出したいんですけど”って相談したんですよ。ゲディ・リーは指弾きで僕はピック弾きだけど、そんなことも気にせずに(笑)。そうしたらJOEさんが“SVTちゃうん?”って。もう大先輩が言うならきっとそうなんだろうと思って、“なるほど。じゃあ買います”っていろいろ探して、今も使っているSVTを代々木かどこかの中古楽器屋で買ったんですよね。
実際に弾いてみたら、ゲディ・リーみたいな音にはならなかったんですけど(笑)、すごく気に入ったんです。僕が使っているBCリッチ・イーグルの、このModel PピックアップとAmpegの組み合わせっていうのは、もう最高だなって。最初の時点でこの組み合わせだったっていうのは幸運でした。もし違う組み合わせだったら、こんなにSVTにハマらなかったかもしれないですね。それ以来、30年以上同じものを使い続けています。故障も少なくていいんですよね。アルバム22枚の録音をずっとこれでやってきたから、“病室の窓から見える葉っぱが落ちたとき”じゃないけど、このヘッドが壊れたときに自分も死ぬんじゃないかなって(笑)。本当の相棒ですね。
今、レコーディングはSVTで、ライヴではV-4Bを使っています。最初はライヴもSVTでやっていたんですけど、大きい会場だとちょうどいいものの、ツアー先では200人くらいの小屋もあるわけで、そういうところではSVTは音がデカすぎて。V-4Bを買ったのは、シン・リジィのプロモーション・ビデオかライヴ・ビデオで、フィル・ライノットが使っているのを観たからなんですけど、ライヴで使ってみたらちょうどよかった。V-4Bは小さいヴォリュームで歪むんですよ。デカい会場だとしても、ライヴのやりやすさで言えばステージの中音は大きくないほうがいいと思うし、歌いやすく、お客さんがうるさくなく、PAの人が作りやすいヴォリュームにするのならばV-4Bがよかったんですね。V-4Bは歪みがすごく出るんだけれども、それがいい。やっぱり歪みが少ないと、3ピース・バンドではベースがちょっと引っ込むというか、特にギター・ソロのバックはベースでリフを弾いてギター・ソロを盛り立てるところがあるので、歪んでリフが下品に伝わるほうがハードロック・バンドにはいいと思うんです。
あとはMICRO-VRも持っていて、あんなに小さくて軽いのに音はV-4Bとほぼ同じなんですよ。小さいスーツケースに入れて飛行機でも手荷物で持っていけるから、例えば僕らで言えば、沖縄でライヴをやるときに、自分の音を作りたいっていうときには使いますし、海外公演なんかもいいと思います。ドイツやロンドンって、日本よりもはるかに音量に厳しいんですよ。どこに行っても会場の人に“音をもっと下げてくれ”って言われるし、あのアンプは海外のライヴでも重宝すると思います。
僕は足下にエフェクターを並べて音を作ったことがないし、自分の好きなバンドはベースからカール・コードを直でアンプに挿して弾いていたから、それと同じように音を出したい。足下で音を作っている人には悪いけど、なんとなく、今風でイヤなんですよね(笑)。なんだかデジタルな感じがして。もうちょっとアナログにいきたい。デジタル音楽だったらいいかもしれないけど、やっぱりハードロックですからね。ベースから直で挿してバーンと鳴らすのがハードロックっぽいかなと思うんです。
ベースの音って、ベースを弾いている人にしか気づかない、もしくはベースだけに耳をそば立てて聴く人だけにしか気づかない、ガリッとした音が入っているんです。ラウンド弦をピックで擦るときの音というかね。Ampegは、それをほかのアンプよりも気持ちよく出してくれる。ただの“歪み”じゃないんですよね。このスティールな感じ、ガリッとした感じをカッコよく、ハイが効いてギラッと光ったまま出してくれる。それでいて、音の太いところが削られずにペケペケしなくて、クリーンなアンプにない気持ちいい歪みを出してくれる。それがAmpegの好きなところですね。
BCリッチ・イーグル、というよりはディマジオのModel PとAmpegの組み合わせに勝るものはない。これ以上カッコいい音を出すアンプがあるなら浮気してもいいですけど、多分ないんじゃないかな。ほかのアンプも弾いてみたいなっていう浮気心はあるんだけど、きっとSVTが勝つでしょう。これほどメタルっぽくもありつつ、古臭いハードロックっぽさも出しつつというオールマイティなアンプはないと思いますね。
1960年代、1970年代のアンプの音をリアルに再現していますね。リハスタで、これじゃない黒い布(フロント・グリル)のSVTシリーズのアンプを使って練習するんですけど、それはやっぱりメタルというかラウド系の人みたいな音になって、いまどきって感じがして僕はあんまり好きじゃないんですよ。70年代ハードロックの音にならないなと思って、いろいろゲインを工夫したりして音作りをしていたんですけど、これはそういう手間がなく、ヴォリューム1発でそういう古くさい音になるので、楽でいいですね。
チャンネル1は1969ということなんですけど、とりあえず、自分のSVTと同じようなセッティングにして弾いてみました。僕はウルトラ・ハイは使わずにちょっとだけトレブルを上げて、ミドル・レンジは800Hzで1時半から3時の間にするのが好きですね。そして、ウルトラ・ローをいつもプラスにして使います。ウルトラ・ローをプラスにした場合、ローがグワーっと出てくるので、ベースのつまみはちょっと削るというのが僕の使い方のポイントですね。セッティングを同じにしてみたら、古臭くていい音がします。特に70年代のハードロックを好きな人、例えば、AC/DCとかジューダス・プリーストとか、シン・リジィとかが好きで音作りをしたい人にはうってつけのベース・アンプだと思いますよ。
さっき説明したセッティングは、バックでギターを支える的な音なんですけど、ウルトラ・ローをオフにすると、例えて言うならばタンクとかモータヘッドに近い音が出るんじゃないでしょうかね。すっきりして中域が目立つ分、ベースの音が目立つっていう気がしますね。ミドルの周波数帯を220Hzにするとフィル・ライノットみたいな音になりますね、ちょっとモコモコした音。3kHzは……これで使う人いるのかな?(笑) ハイの効いた音が好きな人、もっと目立ちたい人、ギンギンにベースで歌の裏メロを弾く人にはいいかもしれないですね。ウルトラ・ハイはヴェノムをコピーするならいいかもしれないけど、これも誰が使うんだろ?(笑) でもドンシャリが好きな人で、使い方を工夫して、リッケンとかで弾けば、『ホワイト・アルバム』のポール・マッカートニーとかクリス・スクワイアみたいな音にもなるかもしれないですね。
チャンネル2は1975。これはミドル・レンジのつまみがない分、諦めがつくというか迷いがないというか、すごく音が作りやすいと思いますよ。ちょっと単純な音楽、プレベでパンクを弾くときにいいかもしれない。パンクスの人がミドル・レンジがどうのって言っている時点でパンクスじゃないでしょ(笑)。“俺はつまみは12時でいいや”って、ただシールドを挿して“ジャッ”て鳴らして、“おー、いいねぇ!”って感じになるのがいいところですよ、このチャンネルは。チャンネル2はチャンネル1と比べると深みがない、こだわりのない音になる。逆にそれは“ストレートな音”って言うことだから、悪いことではないと思いますよ。このアンプのストレートな音を鳴らしたいときにはいいかもしれない。なんだか、“チャンネル2”っていうだけで、みんなあんまり使わないと思うんですけど(笑)。やっぱり“2”って予備みたいな感じがして、みんな“1”を使いたくなりますけど、プレベならプレベで、そのベース独特の音ってあるじゃないですか。それを出そうと思ったら、チャンネル2のほうがいいかもしれない。それに対して、もうちょっと自分のバンドの曲に合わせて音を作り込むっていうときには、チャンネル1でちょいとしたこだわりを見せればいいんじゃないですかね。どっちもいい音がしますよね。
50周年モデル、なかなかいいですよ。自分の場合は、“いい歪み”が出るかどうかっていうのが、そのアンプの良し悪しを決めるポイントなんですけど、これは、“いい歪み”が出ています。人間椅子をカバーしたい人にはいいかもしれない。ちょっと音が大きくて、小さい小屋にはいまいちかもしれないけど、そこはやりようですよ。ライヴハウスのPAに“ベース、デケェよ”って言われがちですけど、“いや、僕はこのヴォリュームじゃないといい歪みが出ないんです”って、無理やり通してやるっていうのがね、SVTユーザーの大事なところです。
また、この布(フロント・グリル)の感じがいいじゃないですか。古くさくて。プラモデルのようなブルーのデカールもいい。やっぱり、音よりも何よりも、見た目が大事だし、“俺、オールドロック、70〜80年代ハードロックが好きだぜ”っていう主張を、この布で出しているんですよね。このアンプは、そこがいいところです。あとは、うしろに扇風機がついているんですけど、そうやって冷やさないと2時間もたないっていうね。僕らのライヴはだいたい2時間半くらいあるんですけど、最後の頃はとてもよくない音になるんですよ、SVTっていうのは。それを少しでも和らげようとうしろに扇風機がついているんです。やっぱり真空管ですから、長時間鳴らすと音がヘタるんですよね。ただ、ヘタってこその真空管アンプですから。みんな、そのヘタったときの音も楽しんでほしいんですよね(笑)。
ディマジオModel PとAmpegの組み合わせに勝るものはない。
ロック・アンプの代名詞と言えるSVTが誕生したのは1969年。その名称は“Super Valve Technology”あるいは“Super Vacuum Tube”の略だとされており、300Wというその大出力は、当時のベース界に強烈な衝撃とともに迎えられた。そのSVTの誕生50周年を記念したのが本機で、2019年のNAMMショウで発表され話題を呼んだモデルだ。
本モデルはデザインとアッセンブルがアメリカで行なわれ、妥協のない品質を追求した同社の最上位であるHeritageシリーズにラインナップ。最大の特徴は、青色のパネル表示から、通称“Blue Line”と呼ばれる1969年モデルの回路をチャンネル1に、1970年代半ばのMagnavox社時代の回路をチャンネル2にと、ふたつの時代のサウンドをひとつの筐体に収めていること。それぞれのチャンネルのインプット端子に接続して個別に使用するのはもちろん、チャンネル1と2のインプットをたすき掛けに接続することで、両者をミックスして使うことも可能だ。
さらにXLR DIアウトプット、プリアンプ・アウト、パワーアンプ・イン、スピコン・アウトプットなど、“現代のアンプ”としては必須の機能を搭載し、単なる“リイシュー”ではなく、現代に在るべく進化した、究極のSVTと言える。
“Marshallな訳”の第3回目は、同じく人間椅子から和嶋慎治が登場! 和嶋も鈴木も新作『苦楽』に収録されている「杜子春」を演奏しているので、併せてチェック!
鈴木研一
すずき・けんいち●1966年3月11日生まれ、青森県出身。高校の同級生である和嶋慎治(vo,g)と組んだバンドが人間椅子へと発展。TV番組“イカ天”で一躍注目を集め、1990年に『人間失格』でデビューする。英国的ハードロックとおどろおどろしい日本文学を融合させた世界観で評価を獲得。2019年には結成30周年を迎え、2020年にはドキュメンタリー映画『映画 人間椅子 バンド生活三十年』を公開した。2021年8月4日に通算22作目となるアルバム『苦楽』をリリースした。