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- 2024/11/16
KORG / modwave
複雑な倍音を生成できるウェーブテーブル音源はソフトシンセ業界ではここ数年のトレンドになっています。そんなウェーブテーブル音源にユニークな機能を搭載したハードウェア・シンセKORG modwaveが誕生! 同社のウェーブテーブルの名機、DWシリーズの着想を得ながら現代の音楽制作にマッチしたシンセに仕上がっているようです。それではさっそく解説していきましょう!
ウェーブテーブルは、複数の1周期の基本波形の再生ポイントを変化させて波形のバリエーションを生成する音源方式です。modwaveは1985年に発売されたKORG DW8000をベースにしながらも、膨大なウェーブテーブルを搭載しています。その中にはDWやWS、VSなどの名前もあり、往年の名機のウェーブテーブルも引き継がれているようです。さらにmodwave Editor Librarian(後日リリース予定)を使用することで、ソフトシンセ“Serum”やウェーブテーブル自作ソフト“SynthTec WaveEdit“で作成したウェーブテーブルも読み込むことができます。
構成は1音色につき、2つのレイヤー。1つのレイヤーにはOSC1と2を内包し、各オシレーターには「ウェーブテーブルAのみ」「ウェーブテーブルA/B」「Sample(PCM)」が選択できます。さらに、30以上のモディファイアを使って基本的なキャラクターを変更したり、13タイプを使ったモーフィング機能も搭載されています。つまり、独立した変調やリアルタイム変化が設定できる最大4つのウェーブテーブルを32ボイスのポリフォニーで演奏できるという……。この説明で、modwaveが目眩するほど膨大な音色が作成できる非常に深い沼なのかは伝わるでしょうか。しかし、これでもまだオシレーターの説明のみ。まだ序章なのです!
フォルターにはコルグのシンセサイザーの定番、PolysixやMS-20をはじめとする強力なタイプが搭載。しっかり発振させることが出来ました。2Pole/4Poleのローパス、ハイパス、バンドパス等の基本的なラインナップに加え、コルグ独自のマルチ・フィルターも搭載しています。これらオシレーター、フィルター、ADSR、5つのLFOほか、すべてのパラメーターは1つのソースに対して、複数のモジュレーションをパッチング可能。1台完結ながらも、ソフトシンセやモジュラー・タイプのシンセをも凌駕する自由度があり、ハードウェア・シンセもここまで来たか!と感嘆しました。また、モジュレーションのパッチングの設定も音を止めずに簡単に設定できるので、インスピレーションも途切れません。
modwaveの目玉機能であるKaoss Physicsは、Kaoss PadのようなXY軸でエフェクト的変化が得られるものかと思っていたのですが、それだけではありませんでした。通常のLFOなどのモジュレーション・ソースは時間軸やテンポに同期された規則的な変化をもたらすものですが、Kaoss Physicsでは規則的な変化から開放し、物理演算を用いて緩急のついた変化を音色にあたえることができます。文章で説明すると小難しいですが、操作は簡単で、パッド上でフリックするだけ。ディスプレイに表示されているボールが摩擦係数や反射の設定により動き、その挙動が各パラメーターに影響します。これは、今までのシンセサイザーになかった概念で、ソフトシンセで表現するには相当な手間が掛かる経過時間で速度変化するモジュレーション表現をリアルタイムで自由自在に操作できます。
モジュレーション周期を時間軸から開放したKaoss Physicsに相対する機能として、モーション・シーケンシング2.0が搭載されています。これは、同社のWavestateに搭載されていたウェーブ・シーケンシング2.0を進化させたもので、タイミング、ピッチ、シェイプ、4つのステップシーケンスを用いてリズミカルな音色変化が可能です。本体でリアルタイムにパターン作成するだけでなく、エディター・ソフトを使えば詳細にプログラムするもできます。しかもアルペジエーターとも相互に作用するので、コード進行に追従したバッキングをDAWをシンクさせて作曲/編曲のアイデア作りにも使えます。
まだまだ魅力的な機能がたくさんありますが、とにかくウェーブテーブルのモーフィングによる音色変化やKaoss Physicsの機能の素晴らしさを体感していただきたいです。楽器店などで実際に触っていただくことをオススメします! 長らくシンセサイザーを集め、ハードもソフトもひと通り使ってきましたが、ここまでの可能性の広さと自由度の高さにおどろいたシンセサイザーは初めてです。個人的にはポスト・クラッシックやアンビエント・ミュージック、ドローン等でのリアルタイム・パフォーマンス、インスタレーションで大変強い武器になると感じてます。また、ハードウェアであることを最大限に生かし、マシン・ライブの上モノ担当として独自性を出すのも良いですね。シンセサイザーで新しい表現を探していた方は、是非modwaveを手に入れて下さい!
価格:¥110,000 (税込)
佐藤純之介
1975年大阪出身。松浦雅也氏の雑誌連載をきっかけに音楽活動を開始、YMOやTM NETWORKに憧れ90年代後期より音楽制作の仕事を始める。2001年に上京し、レコーディング・エンジニアとして活動した後、2006年、株式会社ランティスに入社。音楽プロデューサー・ディレクターとして、多数のアニメ主題歌やアーティストの音楽制作に携わる。シンセサイザーやオーディオ機器にも造形が深く新製品開発やモニターにも参加。現在、株式会社Precious tone代表。