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- 2024/11/16
Black Smoker/FUTURA-S LTD HH、FUTURA-S HH
長いキャリアを誇る職人の丁寧な仕事が評判を呼び、音楽シーンの最前線で活躍する気鋭ギタリストからも大きな支持を得る国産ギター・ブランド、Black Smoker。本特集では彼らが満を持して発表した最新モデルのFUTURAを軸に、工房レポートや製品紹介を通してBlack Smokerの美学に迫りたい。
まずはBlack Smokerが辿ってきた足跡を順に追いつつ、新モデル=FUTURA以外の製品ラインナップも紹介しよう。
標高3,000メートルを超える北アルプス山麓のふもと、長野県安曇野市に拠点・工房を据えるBlack Smoker。“ブラックスモーカー”とは海底火山から立ち昇る黒煙の呼称で、アンダーグラウンドなシーンをルーツにそこから浮上していくという思いを込めてブランド名に掲げたという。ブランドの立ち上げは2016年。ギター・メーカーとしては新進気鋭の部類とも言えるが、代表取締役兼シニアビルダーの黒岩真一氏は長きに渡り大手メーカーでギター製作に携わった熟練の職人。マスタービルダーの柳澤俊氏も同じく大手メーカーで木工・組立に9年間従事した経験を持ち、ともに楽器製作へのノウハウとキャリアは一流だ。
設立以来のラインナップとして、ギター製品ではTL系のDELTAとST系のSIGMAをラインナップ。オーソドックスなスタイルのギターだが、黒岩氏が選定する木材の質の高さとその加工精度、そして柳澤氏による組み上げ工程の緻密さにより、豊かなサウンドと高いプレイアビリティをあわせ持った楽器としてプロ・アマ問わず高い支持を得ている。さらに、昨年からはエイジド加工を施した新シリーズ、TRAD MASTER SERIESも始動した。
そしてこのたび、そんな彼らが満を持して発表したのが最新モデルのFUTURA(フューチュラ)だ。“未来=future”をモデル名のモチーフにしたFUTURAは、その名の通り次世代の音楽シーンを作り上げる若いプレイヤーへの提案として作り上げたという。次項のインタビュー、そして試奏記事でその真価を紐解いていきたい。
ブランドの創立者であり、シニアビルダーとして木工加工全般を手がける黒岩真一氏。非常に気さくに取材班を出迎えてくれた彼に、Black Smokerの矜持と、新モデル=FUTURAに込める思いについて聞いた。
──Black Smokerは2人という少数体制ですが、役割分担は?
木材の仕入れから加工全般と製作の日程管理は僕で、塗装投入から完成までの組み上げとブランディングは柳澤が担当しています。2人だけなんですが、月間では30本程度を基本に、最大で40本は作っています。こなす本数はなかなか真似できないと自負していますよ。
──ものすごいペースですね! 加えて、その1本1本で高いクオリティを維持しているのも特徴かと思います。ほかのギターと比べて、Black Smokerならではの強みはどんな点だと思いますか?
一番現場に行っているギター・メーカーかなとは思います。とにかくライブやレコーディングの現場に出向いて、そこからのフィードバックを取り入れているということですね。現場には色んなノウハウが落ちているんです。だからこそ、Black Smokerのギターは1本1本が現場で鳴っているプロの音と同じ音が出るはずだし、“現場にそのまま持って行ける”というのは大きなコンセプトなんです。
──そのノウハウには例えばどんなものがありますか?
うちのギターを使ってくれているギタリストには音楽シーンの最前線で活躍している人も多いんですが、そういう音楽はアレンジが凝っていて、もちろん鍵盤もいるし、最近では同期も鳴っているのが普通ですよね。その中でのギターの立ち位置って難しくて、なかなか音が抜けてこなかったりするんですが、そういう中でちゃんと聴こえてくるギターを作ることは意識しています。しかも音楽の傾向って常に変わるので、僕たちもそこをずっと追いかけるんですよ。だから最前線の音楽に一番ついていっている楽器のような気はしています。
──その最新形がFUTURAというわけですね。改めて、FUTURAのコンセプトについても教えて下さい。
まず、2ハムバッカーのギターで自分が欲しいと思えるカッコいいギターを作りたい、という思いからスタートしました。それを柳澤にも話したら、“24フレット仕様の2ハムを作ろう”という答えがパッと返ってきたから、じゃあやってみようと。それに実は、Black SmokerってFUTURAの原型となるギターを試作したところからスタートしているんですよ。製品としてはSIGMAやDELTAを作ってきたので、今は“トラッドなギターを作るブランド”というイメージがあると思うんですけど、オリジナル形状のギターを打ち出していくのはブランドを立ち上げた当初からどうしてもやりたかったことなんです。もちろん今後もSIGMAやDELTAは同時に製作していくんですが、より思い入れがあるのがFUTURAと言えるかもしれないですね。
──では本当に満を持しての発表だったんですね。
そうなんです。その代わり一番難しいところを攻めているなとは思います。2ハムのギターと言うと、どうしても比較対象がレス・ポールなどになってくると思いますから。
──そうしたギターと比べて、FUTURAの独自性とは?
さっきもお話ししたように、若いプレイヤーが作っていく現代の音楽シーンについて行っているということ。あと、日本人の声に合った楽器だと思います。例えばレス・ポールなどは、どうしてもアメリカ的な発音の楽器だと感じるんですよ。英語よりも日本語のほうがはっきりと発音するので、合う帯域も違うんです。でもBlack Smokerでは日本的な発音のギターを作っているので、日本人の定位やボイシングにハマりやすい。そこは常に突き詰めたいと思ってますね。
──“ビンテージの再現を目指す”、という考えではないということですね。
FUTURAに関してはまったくないです。やっぱりビンテージの音は新品のギターでは絶対に出ないですからね。それは僕らが追求することではなくて、最前線を追いかけて未来の音楽を作るギターになればいいなと思っています。
続いて、Black Smokerの工房内部に迫ろう。高品質なギターの数々がどう作られているのか、写真とともにレポートしていく。
シニアビルダーの黒岩氏とマスタービルダーの柳澤氏、この2人がこれまで培ってきた技術と経験のすべてを注ぎ込んで作られるBlack Smokerのギター。どのような工程で製作が進められていくのか、工房を訪ねて話を聞いた。
まず、使用する木材の仕入れと選定、そして木工加工全般は黒岩氏の担当。材の選定は最終的に良質なギターになるかどうかを左右し、目利きの力が問われるところだ。アルダーやアッシュ、マホガニー、ローズウッドといった一般的な材のほか、コアやバール、マーブル・ウッド、ユーカリ、ココボロなど珍しい材を積極的に使用するのもBlack Smokerの特徴であり、木の種類によっては加工の難易度が高いものもあるという。
こうした材をバンドソー、カンナ、ベルトサンダー、ラジアルソー、NCルーターといった様々なマシンを使ってボディやネックの形に形成していく。“うちにある機械は古いものばっかりなんですが、昔から長年使って手に馴染んでいるのでやりやすいんですよ”とは黒岩氏の談。取材時には実際にいくつかの工程を実践してくれたが、手際良く正確に作業を行なっていく様子はその言葉通りの歴史と技術を感じさせるものだった。
加工された木材が次に進むのは塗装の工程。かつては黒岩氏が自身の手で行なっていた時期もあったそうだが、現在は工房の近隣である長野県松本市のサイトウカラーワークスが一手に担っている。代表の齊藤氏は黒岩氏と同じ大手メーカーでキャリアを積んだ経歴を持ち、Black Smokerの2人も“仕事が早く正確で、想像以上の色に仕上げてくれるんです。単なる外注業者ではなく、塗装技術のブランドだと考えている”と絶大な信頼を寄せる人物。ある意味、Black Smokerにおける第3の職人とも呼べる存在だ。DELTAやSIGMAの鮮やかな発色、そして杢目を活かして塗装されたFUTURAの美しさ、その魅力を支えているのが齊藤氏というわけである。
塗装は1本につき1ヵ月~1ヵ月半を要し、再びBlack Smokerの工房に戻って最終的な組み上げに入る。ここを担当するのがマスタービルダーの柳澤氏だ。ボディやネックへのハードウェア類の取り付け、電装系統の装着、バフ掛け、ネックとボディの合着などの工程を経て、エレクトリック・ギターとしての完成形を見るのである。また、2020年から始まったTRAD MASTER SERIESにおけるエイジド加工も柳澤氏の仕事だ。
こうした一通りの工程を取材する中で印象的だったのは、Black Smokerの2人とサイトウカラーワークスの齊藤氏の間にある強固な連帯感だった。1本1本妥協なく最高のギターを作り上げるという強い目的意識を共有し、各分野のスペシャリストが惜しみなく技術と信念を捧げることでBlack Smokerのギターが形作られていくのだ。
ブランドの思いが込められた渾身のモデル=FUTURA。ここでは材が異なる3本を、土屋浩一による試奏とともに紹介しよう。
ビンテージ・サウンドの踏襲ではなく、最前線の音楽シーンを追いかける。FUTURAはそうした明確なコンセプトを持って設計されたギターだ。
オリジナル形状のボディは抱えた時のフィット感に優れ、丁寧なバック・コンター加工と相まって、立っても座っても抜群のプレイアビリティを実現。ハイ・ポジションの演奏時もストレスがなく、24フレット仕様ならではのメリットをスムーズに活かすことができる。サウンド面でのポイントはオリジナルのハムバッキング・ピックアップだ。クリーンからドライブまで、クリアで歯切れの良いサウンドはアンサンブルの中でのギターの立ち位置を明確にしてくれる。ブリッジやペグといったパーツは評価の高いゴトー製に統一され、チューニングに関する悩みは生じないだろう。
こうした基本仕様はモデル共通だが、様々な木材を採用し、音やルックスの違いを楽しめるのもFUTURAの大きな特徴だ。本モデルの場合はアルダー・ボディに、トップ材としてユーカリを採用。ギターに用いるのは珍しい材だが、独特な杢目の美しさ、そして優れた出音バランスはジャンルを問わず薦められる。
KOUICHI'S IMPRESSION
アンプ直の状態で何も足す必要がない。
まずクリーンがすごくキレイですね。普段はストレートなクリーンよりも少しクランチ気味のほうが好きなんですけど、思いのほか長い時間クリーンのまま弾いてしまいました。アンプ直でも気持ち良いので、エフェクターを足さなくてもいいと言うか、むしろ何も足したくないなと思います。普通はアンプ直だともう少し弾きづらさを感じるんですが、それがないんですよ。トップ材がユーカリで少し珍しいですけど、音はすごくオールマイティでバランスが良いです。特にセンター・ポジションが好きで、コードも各弦が均一に鳴ってくれるし、アルペジオを弾くともう最高ですね。
アッシュ材ボディに、ユニークな杢目があらわれたマーブル・ウッド・トップを組み合わせた本器。特にリアとフロントPU間の模様が特徴的だ。基本的な仕様は前項の個体とほぼ同じだが、ゼブラ仕様のPU、ブラックに統一されたハードウェア類、ヘッドの黒塗りなどルックス面で差異がある。また電装系にもやや違いがあり、本器と右ページの個体はフロント側のハーフ・ポジションでフロントPUがパラレル出力となる仕様。このようにBlack Smokerのギターはどれも1点モノの性質があるため、気に入った仕様の個体はすぐに試奏するべきだ
KOUICHI'S IMPRESSION
暖かい音なのでクランチが気持ち良いです。
個人的に茶色系のギターが好きというのもあるんですが、この色はかなり好きです! 音のほうは思ったよりも暖かくて丸みがある印象。低音もよく出ているので深みを感じますね。クランチくらいの歪みにするとその深みがわかりやすいし、ハイゲインにして低音弦をブリッジ・ミュートした時の“ズンズン”する感じも強いです。でもイヤな太さではなくて、音の厚さという印象かな。アンプ直で十分というのはほかのFUTURAとも共通していますが、このギターは特にクランチで単音フレーズを弾くのが気持ち良いですね。ちょっとオシャレな、ジャズ寄りのプレイをするのにも合いそうです。
ラズリ・ブルー・カラーにAAAAAフレイム・メイプル・トップの美しさが映える1本。ボディ・バックはアッシュだ。本器は左ページのFUTURAと近いスペックを持っており、両器ともボディ裏がサテン仕上げ(前項のFaded Lazuli Blueの個体はツヤ出し仕上げ)である。また、コンデンサに“-鵺- Device[Nuvola Nera]”を採用している点もこの2本の共通仕様。これはBlack SmokerとOvaltoneがコラボレーションして作られたコンデンサで、FUTURAとのマッチングを考慮して音色がチューニングされている。
KOUICHI'S IMPRESSION
歪ませたパワー・コードに説得力がありますね。
立ち上がりがハッキリしていてクリアです。軽いタッチで弾いても全部の音を拾ってくれる感じ。それに今回試奏した中でも、強く歪ませた時のパワー感やローの迫力は一番だと思います。パワー・コードの説得力がすごいし、暴れてくれるからロックなサウンドに向いている印象です。材の違いでこれだけ音が変わるのは面白いですよね。あと、3モデルとも共通してクリーンがキレイなのが素晴らしいです。クリーンが良いってことは必然的にほかの音も良くなるので、どんなジャンルでも使えるんですよ。“1本でなんでもやりたい”ってタイプのギタリストには間違いないモデルだと思います。
オーソドックスなTLタイプのDELTA。ただし、22フレット仕様やボディ裏に施された軽めのコンター加工など、随所にプレイアビリティ向上のための工夫が施されている点がポイント。TRAD MASTER SERIESの1本としてエイジド加工が施されており、写真のものは軽めの“Light Aged”だ
こちらはSTタイプのSIGMA。本モデルはピックアップがSSH配列だがSSS配列もラインナップされている。写真の個体はネックにカーリー・メイプル、指板にココボロ材を採用した特別仕様だ。Black Smokerのギターはどれも1点モノに近いため、気に入ったカラーや材の1本を見つけたら逃さないようにしたい
本記事は、8月12日(木)に発売されたリットーミュージック刊『ギター・マガジン 2021年9月号』にも掲載されています。表紙巻頭特集は「追悼 寺内タケシ エレキの神様よ、永遠なれ。」。ぜひチェックしてみてください!
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