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- 2024/11/16
“テープ・エコー”インスパイア系ブースター
エフェクター・ファンのバイブル『THE EFFECTOR book』(シンコーミュージック刊)。前回に引き続き、最新刊の“Vol.52 テープ・エコー特集”の中から「現行“テープ・エコー”インスパイア系ブースター試奏分析」を紹介します。購入の参考にしてください!
“Echoplex EP-3”をはじめとするメカニカル・テープ・エコーは古い設計がゆえの副産物として、ギター・サウンドに“太さ”と“締まり”を与えてくれると言われている。好むか好まざるかはともかく、それらの機器が作られていた1960年代末〜1970年代の空気感を加味してくれるのは確かだ。しかし、機械式テープ・エコーのサイズとセンシティブな機構はユーザーの利便性を削ぐものでもある。そこで編み出されたのがプリアンプ分だけを抜き出してアレンジを施したブースト・ペダルである。往年のデバイスが備える“味”を生み出す第一要因と思われるプリアンプにブースト機を加えた機器たち。それはサウンドにビンテージ・テイストを手に加えることができる便利なアイテムと言えそうだ。そんな“味付け系ブースター”の中から5台の注目機種を、井戸沼尚也氏に試奏分析してもらった。
[Specifications]
●コントロール:Gain ●スイッチ:ON/OFF、DIP SW(内部)●端子:Input、Output ●サイズ:89mm(W)×38mm(D)×38mm(H) ●電源:006P(9V電池)/9-18VDC ●価格:20,900円(税込) (問)03-3408-6007/PCI Japan
テープ・エコーの名機、マエストロ“Echoplex”のプリアンプの弾き心地に近いということで、ロング・セラーとなっている“EP Booster”。1ノブのシンプルなブースターだが、9V〜18V対応で、内部に2つのミニ・スイッチ(+3dBのブースト・スイッチとブライト・スイッチ)を搭載しており、実は音のバリエーションが豊かだ。まずはブースト・スイッチはオフ、ブライト・スイッチはオンの状態で、9V駆動で試奏を始めた。本機の良さは、オンにしてからオフにすると分かりやすい。元の音のダイレクトすぎる感じや弦ごとのデコボコした質感が、オンにすることでなめらかにまとまってくれること、そしてオフにすると元の音が弱々しすぎてもはや弾く気にならないことに気づく。続いて、ブライト・スイッチをオフ。この状態だと高音弦の実音は引っ込むが、倍音は出てきて、よりまとまりがよい印象だ。ブースト・スイッチのありがたみは、本機を「音のまとめ役」として使うか、ブースターとして使うかによる。後者なら非常に有用だ。最後に18Vでチェック。音の粒立ちが圧倒的に良くなるので、所有者はぜひ試してみてほしい。
[Specifications]
●コントロール:Preamp、Boost ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:67mm(W)×112mm(D)×49mm(H) ●電源:9VDC ●価格:オープン・プライス (問)info@lep-international.jp/LEP INTERNATIONAL
本機は、“EP-3”のプリアンプ部を抜き出してブースターにアレンジしたというペダル。オリジナル同様に内部電圧を22Vで駆動させ(本機自体は9V駆動で、内部で昇圧している)、最大20dBまでクリアにブーストできる。また、オリジナル同様にスプラグのオレンジ・ドロップ・コンデンサー(NOS)を採用しているのもこだわりのポイント。ブランド内では「マスタリング・ペダル」と呼ばれているらしいが、それも納得の音質で、オンにすると余計な味付けをせずに角が取れ、耳馴染みの良い音がぐっと前に出てくる。まさにマスタリング後の音だ。操作のキモは“PREAMP”ノブで、これはただのヴォリュームではなくプリアンプとミキサー回路を組み合わせたコントローラーとなっており、12時方向までは単純に音量が上がって、それ以降は各帯域の出方と関わってくる。15時方向で最もローが出て、17時方向ではローが落ちてハイが出る。個人的には13時方向がバランス良く感じた。こうして音質を決め、“BOOST”で最終的な音量を決定する。内部にはバッファのスイッチがあるので、長いケーブルを使う場合はオンにすると良いだろう(出荷時はオフ)。
[Specifications]
●コントロール:Volume、Tone、Trim(内部) ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:45mm(W)×92mm(D)×55mm(H) ●電源:9VDC ●価格:13,200円(税込) (問)03-3862-5041/モリダイラ楽器
ジム・ダンロップの“EP101 Echoplex Preamp”をベースに、MXRの“M133 Micro Amp”のブースト・パワーを加えて、小型の筐体に収めたモデル。“Echoplex Preamp”の泣き所であるブースト幅(+11dBまで)が、+25dBまでアップ可能と大幅に増強されている。サウンドに関しては、“Echoplex”直系のまとまりの良さがありつつ、余計な味付けのない素直なブースター・ペダルという印象だ。筐体上部に“VOLUME”、“TONE”の2つのノブを、内部には“Echoplex Preamp”の出力レベルを調整するトリム・ポットが装備されている。出荷時に、トリム・ポットは“VOLUME”ノブを最小にしてオン/オフした時の音量差がないように設定されているようだ。この状態での音色は、色付けの少ないクリーン・ブーストといった感じ。そこからトリム・ポットを上げてやると、音の太さや音量の増加が際立つが、サウンドの傾向が根本的に変わるわけではなく、変に味付けされる感覚はない。素直な音のまま、弾きやすく、かっこよくなるのが本機の優れたところだ。最終的な音色の調整を“TONE”ノブでできるのも良い。
[Specifications]
●コントロール:Mix、Repeats、Rec ●スイッチ:ON/OFF、Loop ●端子:Input、Output、Send、Return ●サイズ:77.5mm(W)×110.5mm(D)×48mm(H) ●電源:9VDC ●価格:オープン・プライス (問)03-3254-3616/神田商会カスタマー・サポート
今回紹介するラインナップの中で、唯一、ディレイ(別売の好みのもの)と組み合わせて使用することを主眼としたモデル。単体でも、原音を角の取れた心地良い音にしてくれるプリアンプ(オリジナルの“EP-3”同様22.5Vに内部昇圧しており、そのクリアさは格別)として使えるのだが、やはりディレイと組み合わせることで真価を発揮する。つなぎ方の基本は、本機の直後にディレイをつなぐシリーズ接続と、本機のセンド/リターンにディレイをつなぐループ接続の2種類。シリーズ接続の場合、本機はシンプルなプリアンプとして機能し、ループ接続の場合はディレイのコントローラー兼プリアンプとして機能する。どちらのつなぎ方でも、アナログ・ディレイはもちろん、デジタルでさえウォームで太いディレイ音に変えてくれる。筆者は一般的なコンパクトのデジタル・ディレイで試してみたが、なじみのディレイが“揺れないテープ・エコー”のような雰囲気になり、非常に面白かった。擬似ワウ・フラッターが付いたテープ・エコー再現系のディレイと合わせたら、その完成度はさらに増すだろう。接続方法を問わず、推奨の位置は歪みの後、ディレイの直前だ。
[Specifications]
●コントロール:Volume、Gain、Tone ●スイッチ:ON/OFF、Thickness ●端子:Input、Output ●サイズ:73mm(W)×122mm(D)×55mm(H) ●電源:9VDC ●価格:オープン・プライス (問)info@lep-international.jp/LEP INTERNATIONAL
米国で、ハンドメイドで作られているモジョハンドFX。本機は“EP-3”のプリアンプ・セクションを元に、あのトーンを簡単に作り出すことができるというペダルだ。独立した“GAIN”、“VOLUME”と“TONE”、それと3モードの“THICKNESS”ミニ・スイッチ(上ポジションでは高域にパンチのあるサウンド、中ポジションではナチュラルなサウンド、下ポジションでは太いボトム・エンドのマッチョなサウンド)を有し、音質はもちろん、操作性にも優れているのが特徴だ。それにしても、本機は今回試奏したモデルの中でも、かなりシブいペダルと言える。豊富なコントローラーでいろいろなセッティングができるが、どのような場合でもその効果はナチュラルかつ絶妙なチューニング。劇的なかかり方や分かりやすい味付けがない分、玄人好みと言えるだろう。例えば、3ポジションのミニ・スイッチは、切り替えてみると効果がわかるが、その変化は比較的穏やかだ。ただし、本機をオフにしてみるといかに良い音に仕上がっていたか、気づくことになる。設定次第ではゲイン・ブーストとしても使えるが、かけっぱなしのプリアンプとして使うのがお勧めだ。
本記事はシンコーミュージック刊『THE EFFECTOR book Vol.52 WOW AND FLUTTER ISSUE 2021』での特集企画「現行テープ・エコー・シミュレーター試奏分析」を転載したものです。本号では「テープ・エコー」を大特集。世界的に高騰する“テープ・エコー”の謎を探ります!
項数:112P
定価:1,800円(税別)
問い合わせ:シンコーミュージック
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