Positive Grid Spark LIVE meets Toshiki Soejima & Naho Kimama
- 2024/12/13
テープ・エコー・シミュレーター
エフェクター・ファンのバイブル『THE EFFECTOR book』(シンコーミュージック刊)。最新刊のVol.52ではテープ・エコーを大特集! ここではその中から“ 現行テープ・エコー・シミュレーター試奏分析”を紹介します。ぜひ購入の参考にしてください!
記録媒体として磁気テープを使用したテープ・エコーは、緻密に構築された機械的な特性がゆえに、経年変化に弱い。そのため現在残っている実機は機構的なダメージを負っていることが多いのは知っての通りだが、それが音色にも大きな影響を与え、独特の訛りを持った“ビンテージ感”を生み出している。
そんなテープ・エコーがここにきて市場で大高騰している。しかもそれは世界的な傾向である。その理由は、ステイホームが推奨される昨今の特殊な状況に求められるかもしれないし、もしかしたらメロウな音楽の流行がそれを後押ししているのかもしれない。その要因を完全に特定することはできないが、少なくともいま、世界中のプロ/アマチュアのミュージシャンがテープ・エコーの音色を手に入れようと躍起になっていることだけは確かである。
そんなテープ・エコーが入手困難になる一方、動作が安定し、安価で手に入るのが“テープ・エコー・シミュレーター”だ。現代の優秀なエンジニアたちが、先進的なテクノロジーを駆使してその独特な“ビンテージ感”を再現している。そこで、ここでは、現行テープ・エコー・シミュレーター11機種を徹底検証してみた。ぜひその実力を知ってほしい。
[Specifications]
●コントロール:Time、Repeats、Mix、Depth、Shape、Rate ●スイッチ:ON/OFF ●端子:Input、Output ●サイズ:64mm(W)×121mm(D)×57mm(H)●電源:9VDC ●価格:オープンプライス(市場想定税込価格:28,600円前後)(問)0570 -056 -808 /ヤマハミュージックジャパン
アースクエイカーデバイセスですから、やはり単なる再現に留まりませんでしたね。温かくて太いテープの質感やビンテージ風の響きを再現するには、アナログ方式を用いる方がわかりやすい形に仕上がると思うのですが、本機“Space Spiral”にはデジタル方式が採用されています。一聴しただけではデジタルとは判別できないほど、まろやかな音色にチューニングされていますが、アナログと比べるとかすかに輪郭がはっきりとしていて、その絶妙な硬さに“Echoplex”独特の音抜けに肉薄するニュアンスを感じずにはいられません。“Echoplex”は太さがまず注目されますが、抜けの良い芯の硬さがあるからこそ、太さが活きてくるのだと思います。そして強力なモジュレーション機能も本機の大きな魅力でしょう。テープ・エコーのテープが伸びた状態を再現する“DEPTH”を深く設定すれば、とんでもなくサイケな音色を簡単に生成可能。しかも“MIX”で薄く馴染ませてやればポップスにもハマる素直で使いやすい音色にまとめることができます。なによりもバンド・アンサンブルで使えることを念頭においた設計に同ブランドならではの色を感じますね。(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Rec level、Mechanics、Time、Repeats、Echo Level、Low Cut、Wear、Spacing、Spring ●スイッチ:ON/OFF、Favorite、Tap、Type、Speed、Playback、Feedback ●端子:Left In、Right In、Left Out、Right Out、Exp、MIDI In、MIDI Out、USB ● サイズ:177.3mm(W)×114.3mm(D)×44.5mm(H) ●電源:9VDC ● 価格:オープン・プライス(市場想定税込価格 49,500円前後)(問)pedal@allaccess.co.jp /オールアクセスインターナショナル
ストライモン製品はとにかく使いやすく、しかも使える音が特徴。操作性の良さと、特にアンサンブルで効果を発揮する音色の両立が、プロの最前線から趣味として楽しむ方々まで、広く浸透している理由でしょう。スタジオ機器同等の音色をこのサイズで、この操作感で実現できているのですから、使われないはずがありません。本機もすでにたくさんの方々に愛用されていますよね。ノブの数が多いので、初見の方は難しい機器に感じるかもしれませんが、どれも効きがよく、回せばすぐにそれぞれの役割が理解できるはず。“RECLEVEL”と“ECHO LEVEL”で大まかな音色の方向性を決めたら、“WEAR”と“LOW CUT”で詰めていき、“MECHANICS”や“SPRING”で味付けをする、という手順で進めれば特に問題なく音決めできるでしょう。さらに“PLAY BACK”と“FEEDBACK”によってトリッキーな音色の生成も自由自在。ぜひオリジナルなディレイ・サウンドを見つけてください。そしてオープン・リールの音色を再現しているモデルはあまりないので、一味違ったテープ・エコー・サウンドを求められている方にもぜひ試してもらいたいですね!(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Vol、Feed、Tone、Mix、Time ●スイッチ:ON/OFF、Compression、Modulation ●端子:Input、Output、CV interface ● サイズ:125mm(W)×94mm(D)×49mm(H) ●電源:9 -9.6VD ●価格:オープン・プライス(問)info@lep-international.jp / LEP INTERNATIONAL
荘厳で豊かに広がるアナログ・ディレイ、フェアフィールドサーキタリーの“Meet Maude”をご紹介します。温かさや太さに特徴を持たせたアナログ・ディレイはよくありますが、本機は他とは一線を画すダークで重厚な音色にチューニング。明らかな独自性を感じることができます。これはテープ・ライクなアナログ・ディレイが、どれも似たり寄ったりと感じている方にこそ試していただきたい個性。夜の広大な大地を連想させる、クリアに澄んだ神秘的な広がりを感じる音色に仕上がっています。雷鳴が轟くような発振音にも“大自然”を感じずにはいられません。元からかなりアンサンブルに馴染みやすい音色になっていますが、“TONE”の効きが良いのでアンビエントな演出も可能です。そしてダークな音色をさらに際立たせる“MODULATION”モードはぜひとも活用していただきたいところ。予測不能なディレイ・タイムの変調が加わることで、とても不気味な音像を作り出すことができます。内部スイッチの切り替えにより、エクスプレッション・ペダルやY字ケーブルで他にも様々な音色を操作できるので、自分だけのオリジナルな使い方を必ず見つけられるでしょう!(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Mix、D Time/Ratio、Feedback、Output ● スイッチ:Tap、Bypass、Tape Age、Delay Time、Filter、Modulation、Headroom Adjustment Switch(内部) ●端子:Input、Output ●サイズ:114.3mm(W)×88.9mm(D)×50.8mm(H) ●電源:9VDC ●価格:33,000円(税込) (問)042-519-6855 /アンブレラカンパニー
エンプレスの製品にはいつも、よくこのサイズでこの機能と音質を実現できるもんだと驚かされます。もちろん、この“Tape Delay”もその例に漏れることはありません。モデル名が示すとおり、テープ・エコーに求めるもの全てがこの1台に集約されています。テープ・エコーというと温かみや太さが特徴ですが、そんな個性をわかりやすくするために、大げさな味付けを施した結果、アンサンブルに埋もれてしまう音色を持つモデルもありますが、テープ・エコーの一番の特徴は独特な硬さを持った音の輪郭にあるのではないでしょうか。それらが合わさって、抜けるのに馴染みやすい唯一無二なディレイ・サウンドとなっているのです。本機はそんなテープ・エコーの魅力を完璧に再現。ディレイ・タイムを変えた際のテープ・ヘッドの動きによる音程変化まで再現されているのには驚きました。テープやヘッドの状態の再現度もまさにそのもので、好みの状態のテープ・エコー・サウンドを簡単に作ることが可能です。現物を知っている人にぜひ一度試していただきたいと確信できるので、テープ・エコーに興味を持った未体験の方にも自信を持って勧めることができます。(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Mix×2、Time、Feedback×2、Time1、Time2、Swell Amount ●スイッチ:Bypass、Swell、Alternate Time ●端子:Input、Output、Send、Return ●サイズ:118mm(W)×150mm(D)×62mm(H) ●電源:9VDC ●価格:41, 360円(税込)(問)info@benten-distribution.com/Benten Distribution
JPTR FXの“Fernweh”(フェルンヴェー)、久々に挑みがいのあるモデルに出会いました。初見ではなかなか思い描いた通りに動作せず、だからこそ偶発的に飛び出してくる音色にワクワクします。ブランド側はノブに関する説明を敢えてしないポリシーらしく、なんと僕が読んでいた説明書は代理店の方が解読して手書きで記してくれたもの。そんなミステリアスな本機がどんな製品かというと、2つのディレイ・タイムの掛け合わせを2パターン切り替え可能で、ディレイ・タイム2にはセンド・リターンを介してディレイ音にエフェクトをかけることができ、“SWELL”スイッチによって好きなタイミングで発振させられるというユニークな仕様。動作さえ理解できれば、どの効果もとても面白く、しかも意外と使いやすくまとめることができます。テープ・ライクなアナログ感を備えた、アンサンブルに馴染みやすい音色によるところも大きいでしょう。“SWELL AMOUNT”で“FEEDBACK”とは別に発振寸前のフィードバックを調整できるのも他にはない良いポイント。この面白さは体験すれば必ず虜になるので、見かけたらぜひ試してみてください!(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Mix、Repeat、Delay、Tone(内部)、Rate(内部)、Depth(内部)、More(内部)、Light(内部) ●スイッチ:ON/OFF、Mod ●端子:Input、Output ●サイズ:64mm(W)×118mm(D)×57mm(H) ●電源:9VDC ●価格:41,800円(税込)(問)052-711-3311/荒井貿易
”Utopia”というモデル名通りの優しい音色のエフェクターです。アナサウンドならではの見た目も音色にとてもマッチしていますね。昨今のディレイは多くのノブで細かく調整できる仕様が多いように思います。本機も裏蓋を開ければモジュレーションやトーンなどを細かく調整するトリマーにアクセスできますが、表面にはディレイ操作に必要な最小限のノブが配置されているのみ。限られた時間の中で素早く音決めする必要がある際など、迷わずに済むのが有難いですね。内部トリマーを細かく調整せずともテープ・ディレイに求める音色が充分に得られるので、テープ・ディレイ入門機としてもオススメです。音色に関しては、淡く滲むような減衰にモデル名から連想する優しさを感じ、テープ・ライクなアナログ感が特徴的。内部で調整できる“TONE”もフィルターというよりも、“減衰のにじみ”に効くようになっているので、リバーブ的使用にもうってつけです。簡単な操作でテープ独特の質感や柔らかい空気感が得られ、内部トリマーで深く突き詰めることもできるので、幅広く多くの方々に楽しんでもらえるディレイだと思います。(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Slap、Mix、Repeat、EQ、Boost ●スイッチ:Slap、Boost ● 端子:Input、Output ● サイズ:122mm(W)×66mm(D)×40.6mm(H) ●電源:9VDC ●価格:open price (問)support@kyoritsu-group.co.jp /キョーリツコーポレーション
機能が研ぎ澄まされているからこそ、その機種でしか成し得ない音色があります。JHSペダルズの“The Milkman”は、そんなロマンに溢れたエフェクター。ディレイ・タイムは最大約240msec、最大リピート数は約4.5回と、スラップ・ディレイに特化したモデルです。これは最終段で僅かな余韻を加味することでアンサンブルへの馴染みを良くしたいときに最適な個性。リバーブの代わりにショート・ディレイを使っている方にもおすすめできます。そのかすかな余韻こそが全体の音色キャラクターを大きく左右するので、そこに焦点を絞ったモデルを出してくるあたり、さすが機能に定評のあるJHSペダルズですね。ミュージシャンの好奇心からくるクリエイティビティをくすぐります。そしてもうひとつの機能、“BOOST”モードとの併用がこれまた楽しい。派手なモジュレーションがかかるからではなく、単純に弾いていて楽しくなる帯域をガツっと持ち上げてくれるから。スラップ・ディレイと併用してさらなる音の作り込みに使うも良し、単体でブースターとして使うも良し。ミュージシャンなら誰もが好きになってしまう音色が詰め込まれています。(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Repeats、Mix、Preset、Depth、Time、Speed ●スイッチ:Engage、Tap ● 端子:Stereo In、Stereo Output、Exp、Remote、MIDI In、MIDI Out ●サイズ:150mm(W)×125mm(D)×58mm(H)●電源:18VDC ●価格:29,800円(税込)(問)0476-89-1111 /サウンドハウス
他メーカーではあまり見ない、かけ合わせ効果やユニークな機能を持たせた設計が特徴的なピグトロニクスによるテープ・エコー系は、タップ機能とフィルターを搭載することで創造性の幅を大幅に広げたモデル。同社の製品は、特に海外ミュージシャンのペダルボードでよく見かけるように思うのですが、多機能性はもちろん、それらの効果を支える基本となる音質の良さが最前線で活動するミュージシャンに愛用されている理由でしょう。この音質の良さがあるからこそ、搭載されたフィルターが効果的に作用していると感じました。素のエフェクト音だけでも、誰もが「これぞアナログ」と感じる温かみとふくよかさを堪能することができますが、フィルターを加えていくことで、さらに立体感が増します。ノイズの少なさも含む音質の良さは定位の安定感につながる大事な要素であり、定位が安定しているからこそ、動きのある立体感を演出することができるのでしょう。音質
ばかりに言及してしまいましたが、フット・スイッチでのプリセットの呼び出しが快適で、選択されている音色の視認性もとても良いので、ライブで大活躍してくれることも間違いありません。(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Delay mix、Delay、Repeats、Tone、Rate、Depth ● スイッチ:Bypass、Tap Tempo、Sub Division ●端子:Input、Output ●サイズ:88.9mm(W)×114.3 mm(D)×38.1mm(H) ●電源:9-18VDC ●価格:41,000円(税込)(問)info@musette-japan.com /ミュゼットジャパン
サウンドは間違いなくアナログで、でもこのリニアな操作性はデジタルだからこそ。ワンプラーの“Faux Tape Echo V2”は「ハイブリッド」の意味を正しく体感できるモデルと言えます。ブラインド・テストすると、いや、知っていたとしてもデジタル制御されている機器から発せられる音色とは思えない、オーガニックで有機的なアナログ・サウンドに驚くでしょう。ノイズレスでありながら、オリジナルのテープ・エコーがかすかにオーバーロードしたときのような絶妙なサチュレーションを感じ、僕も初めて試したにもかかわらず、調整や修理をしながら長く連れ添ってきたような親しみを覚えました。「欲しい帯域に想像したまんまの音色でスッと収まってくれる個性」と言えばわかりやすいでしょうか。とてもアンサンブルに馴染みやすいチューニングが施されています。ビンテージのアナログ・ディレイにも同じ雰囲気を感じる製品はありますが、本機はそんな音色をデジタル制御のタップ・テンポで扱える点が最高。ビンテージ楽器のような有機的な音色を完璧に制御できる、現場で最も求められる総合力に、高い次元で応えてくれる製品と言えるでしょう。(坂本夏樹)
[Specifications]
●コントロール:Echo Sustain、Mod、Rec Lev、Mix、Echo Delay ●スイッチ:ON/OFF、Bypass Mode(内部)、Gain(内部) ●端子:Input、Output ●サイズ:65mm(W)×112 mm(D)×49mm(H) ●電源:9 -18VDC ●価格:オープン・プライス(問)info@lep-international.jp / LEP INTERNATIONAL
創業者ニコラス・ハリスの訃報から数年が経過したが、彼が生前に心血を注いだ“Belle Epoch”は、新生カタリンブレッドとなった今でも不動の人気を誇っている。“Echoplex EP-3”サウンドを謳うだけあり、残響を包み込むロー・ファイで丸みを帯びた嫌味のない光沢が、ギター・サウンドによく馴染む。面白いのは、テープ・ヘッドへのヒット強度をトレースした“REC LEV”コントローラー。最初のフィードバックを意図的に“汚す”ことによって、まるでディレイ音全体のサンプリング・レートを落としたかのような空間演出が可能となる。同時に“ECHO DELAY”を動かしてやれば、自然な「ラグ」とともに、実際に“EP-3”の可動ヘッドを動かしたときと同じ、不穏なラビング・ムーブも思いのままだ。ドライ・パスには、1970年代のロック・シーンには欠かせない“Echoplex”のプリアンプ・トーンを再現。エフェクト・オン時のドライ・シグナルはもちろん、トゥルー・バイパスを選択しない“TRAILS”モードのエフェクト・オフ(バイパス)時にも有効であるため、システムを選ばずあの野太いフィールを堪能できる。(今井 靖)
[Specifications]
●コントロール:Depth、Record Level、Echo Volume、Echo Sustain、Echo Delay ●スイッチ:ON/OFF、Echo Osc. 、Echo Program、Exp Switch ●端子:Input、Output、Exp ●サイズ:120mm(W)×97mm(D)×61mm(H)●価格:オープン・プライス (問)info@lep-international.jp/LEP INTERNATIONAL
コンパクトで手軽な“Belle Epoch”に対し、“Belle Epoch Deluxe”は単なる機能強化の枠を超え、音色や使い勝手をいちから見直したハイ・エンド・マシンだ。その回路はオリジナルの“EP-3”と同じく、22Vでの動作を実現するため、クリーン時の圧縮は“Belle Epoch”よりも圧倒的に少なく、フィードバックが増えるほど残響が深く立体的に広がる印象を覚える。また、プリアンプのトーンにも高電圧駆動由来のオープンなダイナミクスがよりストレートに働くようで、“Echoplex”サウンド特有の高域減退にもかかわらずピッキングのニュアンスは強く維持されるのが特徴だ。6つのタイプの音色を分けるフィルターやモジュレーションもよくできているが、この切り替えがクリックでなくシームレスである点が素晴らしい。複数のリピートのうち、3回目と4回目だけを違うタイプのエコーにしてまた戻す、といった作業を音切れなく直感的に行なえるのだ。さらに、オシレーションによる発振を操る“ECHO OSC.”スイッチやエクスプレッション・ペダル・コントロールといった追加機能を合わせれば、現代的な飛び道具としても完璧な適性を見出せるだろう。(今井 靖)
メカ好き男子(と一部の女子)にとって、テープ・エコーほど萌える機械はありませんよね! この感覚、子供の頃にお気に入りのおもちゃを分解したことがある人なら、わかってもらえるのでは? スイッチを入れた瞬間、突然生命が宿ったかのように躍動し始める機械仕掛けのおもちゃ。その動く様子を眺めながら、「一体どうやって動いているんだろう?」と好奇心を抑えることができず、ドライバーを手にしたことのある人は完全に同類です。恐る恐るネジを外し、バラしたことで知った、デザインされたパーツひとつひとつの形状、それらを組み合わせたアイデアに富んだ機構は、「メカ的なものの美しさ」への目覚めとして、私の中で現在の仕事に繋がっているような気がします。
古いアナログ・エンジニアリングの結晶とも言えるテープ・エコーにも同じ好奇心を抱いてしまうんです。だから、テープ・エコーと対峙すると幼い日の記憶が蘇ってくるんですよ。確かにバラしているときはすごく楽しかったのを覚えています。でも、本当に大変だったのはそのあと。そこから先は完全に苦い思い出です。結局、元どおりに組み立て直すことができず、ぎこちない動きになってしまったお気に入りのおもちゃ。本当は自分のじゃなくて、妹が大切にしていたあのおもちゃ。あとで母親にめっちゃ怒られました(笑)。
テープ・エコーに関しても、ある程度から先までバラしちゃうと、元の音色が出る状態にまで戻すのが大変みたいです。細かい部分をしっかり調整しながら、全体のバランスを整える必要があるんだそうで。それはもう熟練した職人の領域なんだとか。こわいこわい。そう考えると、メカ好き男子がテープ・エコーに近づくのは避けておいた方が良いでしょう。まずは無難にシミュレーターから入るのをオススメします。メカには全く興味ないけど音だけは徹底的に本物を追求したいという人は、実機を購入してみるのも一興かもしれません。ただし、市場にあるものはどれも、過去にメカ好き男子によって陵辱されたことのある個体である可能性は否めないんですけどね(笑)。(下総淳哉/THE EFFECTOR book)
本記事はシンコーミュージック刊『THE EFFECTOR book Vol.52 WOW AND FLUTTER ISSUE 2021』での特集企画「現行テープ・エコー・シミュレーター試奏分析」を転載したものです。本号では「テープ・エコー」を大特集。世界的に高騰する“テープ・エコー”の謎を探ります!
項数:112P
定価:1,800円(税別)
問い合わせ:シンコーミュージック
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