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- 2024/11/16
シンセサイザー
みなさんこんにちは。FOMISの内藤朗です。今回のテーマは最近のソフトシンセでもよく目にする“アディティブ・シンセシス(加算合成)音源”です。音作りに理解に欠かせない倍音についても併せて解説していきますので、音作りの一助となれば幸いです。
アディティブ・シンセシスは、“あらゆる波形はサイン波の合成で表すことができる”という理論に基づき、オシレーターの倍音成分の含有量を任意に設定して音を作っていく音源方式です。したがって倍音に関する基本的な知識を身につけることは、アディティブ・シンセシスの理解を一層深めることになります。
基音の周波数の2倍以上の整数倍になる周波数の成分のことを倍音と言います。倍音にはこのような“整数次倍音”のほかに、整数で割り切れない非整数次倍音があります。非整数次倍音は、一般的にノイズとして扱われる雑音や金属音、そして人間でもハスキー・ボイスのような声質に多く含まれています。
昨今のアディティブ・シンセシスを装備するシンセには、複数の音色レイヤーのモーフィングやマトリックス・モジュレーション設定など、多種多様な音作りが可能になっているので、ここではアディティブ・シンセシスの基本知識でもある倍音構成によるオシレーター作成に絞って紹介します。
アディティブ・シンセシスはアナログ・シンセでは出せないようなサウンドが特徴ではありますが、今回はあえてアナログ・シンセのオシレーターをシミュレーションしてみたいと思います。オシレーター以降のエディットはどちらも基本的には同じなので、アナログ・シンセの基本も知っておくと役に立ちますよ。
アナログ・シンセのオシレーターはサイン波、三角波、ノコギリ波、矩形波などがありますが、これらは基音に対する倍音の含まれ方の違いによって、その響きが異なります。ちなみにサイン波はデフォルト状態で出力されるので、シミュレートは不要ですね。
今回はソフト・シンセRob Papen BLADE 2を使って解説していきます。まず最初にBLADE 2の画面左上のプリセット名をクリックして表示されているメニューから“Default Preset”を選択し、デフォルト状態にします。
続いて、BLADE 2の音源の元となるHarmonlator / Additiveセクションを“Additive”にします。
※BLADE 2の機能について補足
BLADE 2では、アディティブ合成の倍音設定を行なうための“パーシャル”は、16個で1セットという単位で扱われます。しかも最大で4セットを組み合わせられるので、合計で96個のパーシャル設定が行なえることになります。各パーシャルでは基音の128倍までの周波数比設定が可能で、緻密な倍音構成が可能なほか、波形自体もサイン波以外の波形も選択でき、より複雑な倍音構成の波形が作成できます。
はじめにノコギリ波をシュミレートしてみましょう。
ノコギリ波はすべての整数次倍音を含んだ波形なので、デフォルトの状態からEDIT MODEを“Tune”にすると、周波数比はパーシャル1が1、パーシャル2が2、パーシャル3が3……と設定されているのがわかります。
続いてEDIT MODEを“Amp”に変更し、各パーシャルの倍音の含有量を設定します。
各パーシャルにマウス・ポインタを置いて縦方向にドラッグするとボリュームが増減できます。各パーシャルからはサイン波が出力されているだけですが、とりあえずボリュームをすべて最大にしてみてください。
確かにノコギリ波的な音色に聴こえるものの、少々高周波成分が耳に障る音質になっています。実はノコギリ波の整数次倍音の含有量は、高い倍音になるにつれて少なくなっているので、各パーシャルの音量を同じにすると、こういう音になってしまうのです。そこで、各パーシャルのボリューム・バランスを次の図のように調整すると、よりリアルなノコギリ波に近づきます。
余談ですが、Sequential Circuits Prophet-5とMOOG Minimoogでシンセ・リードを同様の設定でそれぞれで作成してもその質感が異なりますが、これはオシレーターの波形が微妙に異なることによるものです。アディティブ・シンセシスで波形作成を突き詰めていけば、これらのモデルと似たような波形に近づけることも不可能ではないと言えます(ただし、多くの時間と労力が必要になりますが……)。逆にユーザーそれぞれがこだわりを持ったノコギリ波に仕立てることもできるワケです。
次に矩形波をシミュレートしてみましょう。手順は前述のノコギリ波と同様ですが、矩形波は基音に対して奇数倍の整数次倍音を含む波形です。先ほど設定したノコギリ波の状態から、奇数のパーシャルをボリューム調整します。
もう1つの設定方法としては、EDIT MODEの“Tune”の周波数比をパーシャル1は1、パーシャル2は3、パーシャル3は5……のように設定します。
次に、高次倍音の倍音成分を調整することによって、より矩形波に近い波形が作成可能です。
三角波は矩形波同様に奇数倍の整数次倍音を含んだ波形ですが、矩形波よりも倍音成分が少ないのが特徴です。先ほど設定した矩形波から基音以外の成分を少なくすることで三角波の響きが得られます。
三角波は元々倍音成分が少ないので、すべてのパーシャルを設定しなくても5~6個のパーシャルぐらいまでの範囲でも十分そのサウンドが得られます。お好みで調整すると良いでしょう。
なお、BLADE 2にはWAVE PRESETのプリセット・バンクPreset 1にシンセ波形の設定テンプレートも用意されています。手早くシンセ波形の状態にしたい場合には、これらを活用すると作業がスムーズに進められます。
Hammond B-3に代表されるエレクトリック・オルガンは、ドローバーと呼ばれるトーン・レバーを9本装備しており、特定の倍音の含有量を設定してサウンドを作り出すため、アディティブ・シンセシスを応用した楽器と言えます。それでは、実際にアディティブ・シンセシス音源を使ってエレクトリック・オルガンのドローバー設定によるサウンドをシミュレートしてみましょう。
まず、Hammond B-3の9本のドローバーは、次のような倍音成分のボリュームをコントロールします。
(低い方のドローバーから順に)
数字の右上に付いている記号“ ' ”は、高さを表す単位の記号で“フィート”と呼んでいます。これをMIDIノートナンバー値:60=C3を基準にして、各ドローバーの周波数を便宜的に鍵盤の音程に割り当てると
となります。
これをBLADE 2上で設定するとパーシャル1から9までの“Tune”設定値は順に1、2、3、4、6、8、10、12、16となります。
続いて、EDIT MODEの“Amp”設定を表示させ、パーシャル1から9までのレベルを任意に設定しましょう。パーシャル1が16'のドローバーに相当し、パーシャル9が1'に相当しますので、疑似的にドローバーを使用したオルガン・サウンドを作成できます。
また、EDIT MODEの“Wave”でパーシャル1〜9までの出力波形を矩形波やノコギリ波に変更すると、Hammond B-3のようなトーン・ホイール方式とは異なるトランジスター回路を使用したVOXやFarfisaなどのコンボ・オルガン風のサウンドにすることもできます。
ここまで設定したら、EGをアタック最速、サスティン最大、リリースなしに設定するとエレクトリック・オルガン音色の原形が作成できます。後はお好みでオーバードライブやロータリー・シミュレーター、リバーブなどを本体内蔵エフェクトや外部プラグイン・エフェクトなどを適宜付加してみると良いでしょう。
XYパッドを使用した波形のハーモニクス・コントロールを行なうHarmolatorモードや、XYパッドで4つの加算波形モーフィングやミックスが行なえるAdditiveモードを搭載するなど、初代BLADEの機能を拡張したRob Papenの最新ソフト・シンセ。アナログ・オシレーターとノイズ・オシレーター・セクションの追加に加え、強化されたアルペジエーター、FXセクションなどを装備し、多彩なサウンド・メイクが可能。
Pigmentsはバージョン3から、アディティブ・シンセシスのハーモニック・オシレーターが追加され、アナログ・モデリングとウェーブテーブル、サンプル/グラニュラーの4つから2つを組み合わせることが可能に。さらにノイズやサブオシレーターとして機能するユーティリティ・エンジンが加わり、サウンドに深みや色彩感をプラスできる。ウェーブテーブルではモーフィング、波形インポートなども可能なほか、自由度の高いモジュレーション・ルーティングによって複雑なサウンド・メイクが行なえる。
ベルリンのプロデューサーErrorsmithとNATIVE INSTRUMENTSの共同開発による同社REAKTORエンジンをベースにしたアディティブ・シンセシス音源。元となる加算合成エンジンは320のパーツで構成され、個々のサイン波のコントロールによってすべてのフィルター、ステレオ・イメージ、リバーブ、ディレイを作り出すなど個性的な機能を持っており、ほかにないユニークなサウンドが特徴となっている。
典型的なノコギリ波や矩形波から特殊な倍音構成を持った非現実的なサウンドまで作成可能なアディティブ・シンセシスを搭載し、FM変調、アナログ・シンセ波形、オシレーター・シンクノイズ波形など10種類のタイプが選択可能なオシレーターを3基装備したデジタル・ポリフォニック・シンセサイザー。また、フォルマントをコントロールして人声の様なサウンドを作成するバウエル・フィルターや、バーチャル・ワイヤーによるパッチング可能なモジュレーション・マトリックスなど、ユニークな機能を搭載し、オールマイティな音作りが行なえる。
内藤朗(ないとうあきら)
活動はキーボーディスト、シンセサイザー・プログラマー、サウンド・クリエーターと多岐に渡る。DTM黎明期より音楽制作系ライターとしても広く知られ、近著に「音楽・動画・ゲームに活用! ソフトシンセ音作り大全」(技術評論社刊)などがある。また、数多くの音楽専門学校、ミュージック・スクールなどでおよそ30年以上に渡り講師を務め、数多くの人材を輩出する実績を持つ。有限会社FOMIS代表取締役/一般社団法人日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)正会員/MIDI検定指導研究会会員。