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- 2024/11/16
パワー・サプライ
エフェクター・ファンのバイブル『THE EFFECTOR book』(シンコーミュージック刊)。最新刊のVol.51ではパワー・サプライを大特集! ここではその中から“現行パワー・サプライ試奏分析”を紹介します。ぜひ購入の参考にしてください!
エフェクターにとってなくてはならない最も重要な要素、それは“電源”にほかならない。そもそも電気を供給しなければエフェクターは動作しないばかりか、意外にもどんな電気を供給するかによって音色に大きな差が生じるのである。特にアナログ回路で構成された歪み系エフェクターではそれが顕著。良質な電気を供給してやると、回路が本来的に備えたポテンシャルが一気に開花するのは、疑いようのない事実と言えるだろう。
ここでは、現在販売されている数あるパワー・サプライの中から7台を厳選。すでに高い評価を得ている定番、発売されたばかりの最新式、ユニークな機能を備えた個性派など、各機種の個性をあぶり出すため、エフェクターブック執筆陣に長期間にわたってチェックしてもらった。
[Specifications]
●出力端子:9VDC(アイソレーテッド出力/500mA)×2 、 9VDC(ローノイズ・スタンダード出力/100mA)×6 ●入力端子:12VDC(センター・マイナス) ●サイズ:120mm(W)×55mm(D)×35mm(H) ●本体重量:185g ●付属品:専用DC12Vアダプター、DCケーブル(300mm/LL×4、500mm/LL×4)●価格:¥19,000(税別)(問)info@freethetone.com/フリーザトーン
ペダルボード、ツアー・システムの設計・製作でプロフェッショナルから絶大な信頼を得ているフリーザトーン製のパワー・サプライ。もちろん本機は汎用品なので、誰でも手に入れることができる。筐体は軽量かつコンパクトで、強度の面でも万全だ。航空機部品に使用されている日本製アルミニウム合金を採用し、過酷なツアーにビクともしない耐久性を誇る。
出力端子は、どちらかと言えばアナログ・エフェクターに適したロー・ノイズなスタンダード出力端子(DC9V/100mA出力×6)と、比較的デジタル・エフェクターに適した、完全に独立したアイソレーテッド出力端子(DC9V/500mA出力×2)を装備し、最大8系統の電源供給を行なうことができる。このアイソレーテッド出力端子が秀逸で、一部のデジタル・エフェクターが起動時に必要とする一時的な1A以上の電流を供給することが可能で、起動後に必要とされる電流量も500mAまで安定供給し続けることができる。DC9V対応ながら大容量の電流が必要な一部のエフェクターは、パワー・サプライによっては起動しないというトラブルを起こすことがあるが、本機はそうした問題とは無縁だ。
また、スタンダード出力端子は新品のバッテリーに近い約9.8Vの電圧に設定されており、“コンパクト・エフェクターを新しい電池で使った状態”を安定して維持できる(アイソレーテッド出力端子は9V)。ノイズ処理に関しても徹底しており、スタンダード出力端子は2段階のノイズ・フィルターを通過させて大幅にノイズを低減。アイソレーテッド出力端子はそれぞれ完全に独立しており、電気的に絶縁されているため、グラウンド・ループによるノイズが発生しない。
実際に筆者も本機を愛用しているが、不審なノイズやトラブルに悩まされたことは一度もなく、ビンテージ・ファズからデジタル・リバーブまで快適に使用できている。音質に関しても、低価格帯の製品と比較した場合、プリッとした張りとキラリとしたプレゼンス成分が感じられ、弾いていて心地よい。ギタリスト、ベーシストが求めるものを過不足なく形にした逸品である。 (井戸沼尚也)
[Specifications]
●最大出力:2,000mA ●出力端子:9VDC(500mA出力)×6、9/12/18V(800mA)×2 ●入力端子:DC12V ●スイッチ:A(18/12/9V)、B(18/12/9V) ●サイズ:140mm(W)×70mm(D)×30mm(H) ●本体重量:238g ●付属品:専用DC12Vアダプター、DCケーブル×8、ボルテージ昇圧用Yケーブル×1、分配用Yケーブル×1 ●価格:¥13,500(税別) (問)03-6240-1213/フックアップ
筆者は、“VA-08 Mk-II”をすでに2年ほど愛用している。カール・コードを偏愛する筆者は過去に“VPC Professional Curl Cable”を使っていた時期があり、バイタル・オーディオ・ブランドに信頼感を抱いていたことが購入を考える最初のきっかけだった。他社製品との比較を経て導入に至った主な理由は以下の通り。
こうして実機を購入し、記事制作のための試奏を始めとする様々な場面で使ってきた結果、機能と使い勝手の面で不満を感じたことはない。アイソレート設計の各ポートはシグナル・チェーンに連なるあるペダルの動作が他のペダルに及ぼす悪影響を確実に排除してくれるし、総電流容量=2,000mAのスペックは消費電力の大きいデジタル・ペダルを接続した際にもシステムに余力を残してくれる。12V駆動の製品をレビューする仕事で手違いからアダプターが同梱されていなかった時には、A&Bポートのありがたさを痛感した(笑)。
また、幸いにもそれが発動する事態に遭遇したことはまだないが、ショート保護回路や“FCLC =Foldback Current Limiting Circuit”(電力不足、または過負荷の際に回路を保全する設計)の採用は安心感をもたらしてくれる。
筆者は本機を試奏ルームの床に置いているため、ペダルボードに組み込んだ際のレイアウトの自由度などについては感想を述べられないが、コンパクトなケースの同一側面に全ポートを集中配置したデザインは狭いスペース内の取り回しの良さに寄与するだろう。動作電圧が異なる多くのペダルを併用しつつ、小ささ・軽さと手堅い基本性能を求めるユーザーに最適な製品だ。 (長谷鉄弘)
[Specifications]
●最大出力:1,000mA ●出力端子:9VDC(500mA出力)×4 ●入力端子:12VDC ●スイッチ:なし ● サイズ:86mm(W)×70mm(D)×25mm(H) ●本体重量:110g ●付属品:専用DC12Vアダプター、DCケーブル(5.5mm×2.1mm/LS)×4、3Mデュアル・ロック・ファスナー ●価格:open price(市場想定税別価格:¥13,000前後) (問)0570-056-808/ヤマハミュージックジャパン
定評あるパワー・サプライ製品シリーズ“Pedal Power”は豊富なラインナップを展開しているが、ここで紹介する“Pedal Power X4”(以下“X4”)は最もコンパクトなモデルだ。小規模なシステムにぴったりの省スペース性を実現し、性能的にも同シリーズの名に恥じないスペックを実装している。小型ながら4つの出力端子は全てアイソレートされており、アナログとデジタル・エフェクターが混在したシステムでもノイズの心配が不要だ。各アウトプットは9V、最大500mAの供給に対応し、“X4”全体では最大1Aまで出力可能である。電力消費量の大きい物を含む4台のペダルを接続することを想定しても充分な電力供給量と言えるだろう。
そして、なんと言っても手のひらサイズの小ささと驚く程の軽さ(110g)も大きな魅力だ。せっかく本体が小型・軽量でも電源アダプターが大きかったり重かったりする製品もあるが、“X4”に付属するACアダプターは本体に負けず劣らずコンパクト、大きくそして重くなりがちなシステムの軽量化に貢献してくれる。また、サイズ・重量に加えて本機の形状、特に薄さも高く評価したい。一般的な板状のペダルボードの上面に設置しても場所を取らないばかりか、すのこ式ボードの裏面にも取り付けやすいのだ。例えば、ペダルトレイン・シリーズの最小モデル“Pedaltrain Nano”は裏面にスペースが空いているのだが高さに余裕がないため、厚みのあるパワー・サプライでは設置できない場合がある。その点スリムな“X4”は問題なくフィットするので、特に前述の“Pedaltrain Nano”や近似したサイズの小型ボードを使用するプレイヤーにとっては、魅力的な選択肢となるだろう。
また、“X4”単体での使用は勿論、12V/400mA以上の出力を備えた他のパワー・サプライがあれば、そこから電力供給を受ける形で拡張電源としても使用可能だ。手持ちのパワー・サプライにあと少し出力口を足したい場合にもうってつけ。サイズも音質も妥協せずにクオリティの高いポータブル・ペダルボードを構築したいなら最有力候補のパワー・サプライと言える。 (Jake Cloudchair)
[Specifications]
●最大出力:2,000mA ●出力端子:9VDC(300mA)×4、 9VDC(800mA)or 18VDC(800mA)×1 ●入力端子:18VDC ●スイッチ:Voltage Change SW(9/18VDC) ● サイズ:94mm(W)×39mm(D)×28mm(H) ●本体重量:125g ●付属品:専用DC18Vアダプター、DCケーブル ●価格:¥13,000(税別) (問)03-3862-5041/モリダイラ楽器
MXRの“Mini ISO-Brick”は、小柄なボディの高品質なパワー・サプライだ。同社の高性能サプライ、“ISO-Brick”をコンパクト化したモデルであり、電源周りをスッキリまとめたいギタリストにとってうれしい1台となっている。最大の特徴は、このサイズでありながら完全にアイソレートされた出力を備えている点。例えば、デジタルのディレイと、アナログのオーバードライブを同じパワー・サプライから給電する場合、アイソレートされていないサプライではアナログのペダルに電源を経由する形でノイズが乗ってしまうことがあるのだ。また、クラシックな回路のファズを繋ぐ場合にも問題は起こる。独立型でない場合、他のペダルとの間でグラウンド・ループが発生し、音が全く出なくなってしまう事態に陥りかねない。そのため、通常であればアダプターを分ける必要があるのだが、アイソレートされたタイプであれば1台であらゆる機材に電源を供給することができる。独立型のパワー・サプライには大型のものが多く、限られたペダルボードのスペースを占有してしまうのだが、“Mini ISO-Brick”であれば、最低限のスペースで、安定した電源を供給することができるはずだ。
また、小型であっても出力は充分。このサイズで最大2000mAの電力を賄うことが可能であり、5口ある出力のうち、1口は9VDC(800mA)と18VDC(800mA)をスイッチで切り替えることができる。これなら、より大きな電力を必要とするデジタル・エフェクターにも対応可能だ。
“Mini ISO-Brick”はノイズ対策としても高いパフォーマンスを発揮してくれる。今回の記事を書くにあたり古今東西のパワー・サプライをテストしたのだが、中には他と比べてはっきりとしたノイズが乗ってしまう機種もあった。しかし、この“Mini ISO-Brick”に関しては全く問題がなく、最もノイズが少ない機種のひとつであった。電車移動が多い現代のギタリストにとって、ペダルボードのコンパクト化は常に悩みの種。“Mini ISO-Brick”はそんな悩めるギタリストにとっての、救世主となりうる1台だ。 (BENIMARU)
[Specifications]
●最大出力:1,000mA ●出力端子: 9VDC×10 ●入力端子:USB Micro B×1 ●スイッチ:なし ● サイズ:39mm(W)×98mm(D)×34mm(H) ●本体重量:220g ●付属品(“All In One Pack”のみ):専用DC5V USB Type Aアウトプット、DCケーブル(One Control Noiseless DC Cable 150mm/LS×1、300mm/LS×3、500mm/LS×3、700mm/LS×3)、USBケーブル ●価格:open price (問)info@lep-international.jp/LEP INTERNATIONAL
パワー・サプライの新たなスタンダードと言っても過言ではないほど、多くの方の足下を支えている“Minimal Series DC Porter”、かく言う僕も普段から愛用しているひとりです。ミニ筐体ペダル界隈を牽引するブランドだからこそできた、小さいだけで終わらない、実用性の高さと音質の良さを両立させているのが魅力でしょう。とは言っても、まずはこの小ささを特筆せずにはいられません。フットワークの軽さを求める場合、エフェクターへの電源供給をACアダプターからの分岐配線(ディジーチェーン)にしている方も多いと思いますが、本機はもしかしたら、そのために使うアダプターよりも小さくて軽いほど。僕も以前は、簡単な状況においては分岐配線で対応していましたが、今では本機で組み上げたペダルボードを運用しています。フットワークの向上はもちろん、分岐配線の余ったプラグがショートするようなトラブルもなくなり、利便性の高さを強く実感しました。
でも、ただ小さくて軽いという理由だけで使っているわけではありません。現場で使うものですから、音質も問われます。本機はUSB経由で電力を得るのでコンセントにも繋げますが、モバイル・バッテリーからの電力供給が可能な点もミソ。エフェクターは電池駆動が最もクリーンな音色で鳴るのは周知の事実ですが、それをさらに大容量で実現できるというわけです。この効果は特に、デジタル・エフェクターを繋いだ際に顕著。驚くほどノイズレスになります。デジタル機器由来のノイズに悩まされている方はぜひ試してみてください。そして当然ながら、音色も電池ライク。中域に立体感が現れるものの、輪郭がぼやけないよう膨らみが絶妙にコントロールされているので、ノイズレスでクリーンな音質も相まって低音弦が濁ることはありません。現代のアンサンブル事情にマッチした定位をノイズレスかつ有機的な音色で奏でる、それをこのサイズで実現してくれている点が実にありがたい。おかげで、今では分岐配線の上位互換としてだけではなく、本番用のメイン・ペダルボードでも大活躍してくれています。 (坂本夏樹)
[Specifications]
●最大出力:600mA ●出力端子:9VDC(100mA出力)×6 ●入力端子:12VDC ●スイッチ:なし ● サイズ:196mm(W)×82mm(D)×66mm(H) ●本体重量:533g ●付属品:専用DC12Vアダプター、Hodos(DCケーブル/300mm/LL)×2 ●価格:¥38,000(税別) (問)info@monocorde.jp/モノコルド
佐賀県に本拠を置くAlbedo(アルベド)は、エフェクター界隈としては新興だが、ピュア・オーディオ機器の設計開発を手がけるエンジニアが立ち上げたブランドということで、音質重視の設計と技術力の高さは折り紙付き。本機はDC9Vを6系統出力(100mA×6)する非アイソレーション・タイプのパワー・サプライで、スペックだけに注目すると標準的な製品のように見えるが、安定化回路に従来製品ではあまり例がないシャント・レギュレーター回路を採用しているのが大きな特徴だ。この回路方式は一般的なシリーズ・レギュレーター方式よりもインピーダンスが低く出力電圧の安定度が高いものの、接続する負荷に拘らず常に最大出力時と同じ電力を消費するのが難点。本機は音質を最優先に考えた結果、多少の放熱と筐体の大きさを許容する形で高品位なシャント・レギュレーター回路と高容量のコンデンサーを採用するに至ったという。また、2本付属するDCケーブル、“Hodos”(ホドス)は高純度OFC芯線による反転同心撚り構造で、接点を無鉛銀入りハンダで仕上げ、プラグ内部を制振樹脂で処理するなど、本体と同じく音質を最優先したこだわりの逸品である。
筆者はまず某オーバードライブのバッファード・バイパスで9V電池を含む数種のパワー・サプライと比較してみた。本機で感じたのは圧倒的な音の輪郭と明瞭度。腰の弱い電源にありがちなロー感の薄さやスピード感の損失、ボケは微塵もなく、本来あるべきであろう音の輪郭とレンジ感を伴って、音像をありのまま出力してくれるという印象だ。それでいて痛いアタック感や硬さはなく、気持ち良いニュアンスで弾ける。その後、コンプレッサーやコーラスなど様々なアナログ・エフェクターでも試聴してみたが、ほぼ共通の印象を持った。恐らくファズや古典的な歪み系など、シンプルなアナログ回路を持つエフェクターほど本機の効能を体感できるだろう。DCケーブルについても比較試聴してみたが、“Hodos”が最も本体の音色キャラクターに近く、「本体の性能を100%発揮する」という謳い文句にとても合点がいった。(河辺 真)
[Specifications]
●出力端子:9VDC(100mA出力)×6、9VDC(500mA出力)×2、Link ●入力端子:DC12V ●スイッチ:なし ● サイズ:197mm(W)×34.2mm(D)×27mm(H) ●本体重量:210g ●付属品:専用DC12Vアダプター、DCケーブル(CAJ DC Cable 2.1)×8、 リバース・ケーブル×1 ●価格:¥12,000(税別) (問)03-3703-3221/オカダインターナショナル
細長い形状と上面右に設置されたボルテージ・メーターが印象的な本機は、ハイ・ゲインのアンプ及びエフェクターを使用する環境を想定して設計されたフィルター回路により、スイッチング電源特有のパルス・ノイズを限界まで低減。クリーン・トーンより歪ませたサウンドの方がノイズが目立つのは当然だが、ハイ・ゲインな音作りを前提にしていることで、よりシビアにノイズ対策へ取り組んでいるのが窺える。コッホやサーなどハイ・ゲイン仕様の機器を多く取り扱っている代理店ならではの視点が反映されていると言えるだろう。
8つの出力ポートは全てアイソレートされており、デジタル・エフェクター/アナログ・エフェクターへの同時電源供給におけるノイズ問題もクリア。付属のリバース・ケーブルを使えばセンター・プラス端子のエフェクターにも対応する。出力ポートの内訳は100mAが6つ、500mAが2つだ。
本機の大きな特徴であるボルテージ・メーターは500mA出力ポートの電圧を表示するもので、電源供給状態に異常がないかを瞬時に確認できるプロフェッショナル仕様だ。しばらく使用してみたところ、常に9Vを少し上回る数値で安定して表示されていた。一般的なパワー・サプライは通電状態を示すLEDくらいしか光る要素を持たないので存在感の薄いものが多い(それは決して悪いことではない)が、本機はこのデジタル・ボルテージ・メーターがあることで、きっちり仕事をこなしているという主張が感じられると共に、数値が表示されていることで問題なく動作しているのを確認できるので安心感が大きい。高級感のある筐体の質感とメーターが醸し出す雰囲気は、ペダルボードをワンランク上のものに演出してくれるだろう。
DC入力の横には拡張用の“LINK”ポートを備える。ここからもう1台の“DC・DC Station”へ電力供給が可能だ。本機を2台リンクすれば合計16ポート、最大2Aまでの出力を1台の電源アダプターで賄える。大型サイズまたは2台のペダルボードを組み合わせて使用する場合にも相性の良いパワー・サプライと言えるだろう。(Jake Cloudchair)
パワー・サプライ特集を組むにあたって、電源周りの実験を重ねていたんですが……これが相当面白いんですよ! 完全にミイラ取りがミイラ状態(笑)。めっちゃ大変でしたが、個人的にも本気でハマってしまいました。パワー・サプライを選ぶにあたって考慮すべきテーマは、利便性と音色の2つでしょうか。前者に関しては、スペックを参照しながらそれぞれの用途に合わせて選べば良いと思います。デジタル系ペダルを複数台使うのでアイソレート化されたモデルを使いたいとか。搭載された機能と導入目的のバランスをしっかり図れば大きく外れることはないと思います。
問題は後者。こちらはちょっとした底なし沼ですね。エフェクター選びと同様……いや、もしかしたら、もっと深みにハマる可能性があるかもしれません。だって、「どのエフェクターに」「どのパワー・サプライで」「どのDCケーブルを使って」電気を供給するかによって、結果が大きく変わってくるんですから。各種エフェクター沼へ自ら進んで足を踏み入れるドM体質のペダル・マニアにとって、こんなに楽しい世界はないでしょう。
例えば、9.6Vほどを出力するスイッチング電源方式のモデルから、ハイエンドなDCケーブルを経由して、TS系オーバードライブに給電するとしましょう。このパターンに変更したとき、奥行き感が増して軽やかに歪むようになったとの印象を多くの人が抱くと思います。その反面、アタックの感触がわずかに硬くなるような感触もあり、弾きづらいと感じる人がいてもおかしくありません。そうなった場合、例えば安価なDCケーブルに交換すると倍音の暴れが抑えられ、ピックの抜けが良くなる……なんて結果が得られたりもします。反対にリニア方式(トランス型)のパワー・サプライを使う場合、こちらはもともと音が中域にぎゅっと凝縮された濃密な特性を持つことが多いので、ハイエンドなDCケーブルや電源ケーブルが与える広レンジ化の恩恵に預かり、力強さと奥行きが良い塩梅で両立できる……なんてことになったりも。これはいろいろと実験してみる価値があると思います。
とはいえ、エフェクターを別のタイプ(例えば、マフ系など)に入れ替えると、また微妙に異なる結果が待っている点が難しいところ。要するに、パワー・サプライとエフェクターの関係は相性がすべて。DCケーブルなどの周辺機器も含めると、その組み合わせは無限と言って良いかもしれません。それでも理想の音色が得られる組み合わせは必ずあるので、ご心配なく。まずは自分が使っているパワー・サプライの個性を分析し、製品に付属しているものを含めていろいろなDCケーブルを挿してみてください。高額な製品が必ずしもベストというわけでは絶対にありません。あくまで出音で判断しましょう。これはもう試しまくるしかありませんね。もちろん、時間はめちゃくちゃかかります。納得のいく組み合わせを見つけるまでに1ヶ月……いや、3ヶ月ぐらい?
その間、こちらは次号のエフェクターブック(=次の沼)の制作を進めておきますので、それまでには抜け出せるよう実験を大いに楽しんでください! ではまた3ヶ月後の沼でお会いしましょう。(下総淳哉/THE EFFECTOR book)
本記事はシンコーミュージック刊『THE EFFECTOR book Vol.51 ELECTRIC POWER ISSUE 2021』での特集企画「現行パワー・サプライ試奏分析」を転載したものです。本号では「パワー・サプライ」を徹底的に研究。メーカー開発者、販売店、アーティストなど有識者によるコンテンツが満載!「電気とエフェクターの関係」を深く掘り下げています。
項数:112P
定価:1,800円(税別)
問い合わせ:シンコーミュージック
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