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- 2024/11/16
ASTURIAS / DOUBLE TOP
アストリアス・ギターは、1962年に九州の久留米市でクラシック・ギターの工房として設立された、国産ギターの老舗です。今回取り上げたアドバンスド・シリーズのダブルトップは、その長い経験と技術があればこそ実現したモデルと言えるでしょう。
モデル名の“ダブルトップ”は“2枚重ねのトップ材”という意味ですが、これは廉価なギターに使用される合板とは似て非なるものです。豊かな音量と反応の良さを実現するために、ギターのトップ材には軽量かつ剛性が高いという、互いに矛盾する特性が求められます。その要求に堪える材として、伝統的にはスプルースやシダーの単板が使用されてきましたが、ダブルトップはそういった天然の素材を超える性能を追求して開発されました。主な材料はシダーですが、通常のトップ材よりもさらに薄くスライスしたものを2枚用意して、その間にノメックス(NOMEX)というハニカム構造(ハチの巣のような六角形の網目状)の薄いシートをはさんで張り合わせ、最終的に単板のトップと同じぐらいの厚さに仕上げます。すると、ハニカム構造のおかげで、内部に空洞を設けたことによる軽量化と同時に、必要な剛性が維持されたトップ材が出来上がります。文字で書くと簡単ですが、シダーの板を極薄に加工し、ノメックスをはさんでビリつきが出ないように張り合わせるのは容易ではありません。アストリアスの技術力があればこそ、この方式が採用できたと言えるでしょう。
また、このモデルでは、トップの上部をわずかに傾斜させてトップ面に対する指板面がやや高くなるようにした、セミ・レイズド・フィンガーボードという方式を採用しています。これによって、ハイ・ポジションを多用する際の演奏性の向上も図られています。アストリアスのダブルトップは、サウンド面ばかりでなく、それを活かすための演奏性も同時に向上させたモデルなのです。
アストリアスのダブルトップを初めて弾いた時はやはり、パワーのある楽器だなあと思いました。クラシック・ギターは生音で弾く楽器で、ホールの後ろまでしっかり音が届く楽器を求めていたので、その点ですごい満足感がありました。しかも、ただパワーがあるだけでなく、高音のメロディー・ラインに音色の変化をつけたい時などに幅広く反応してくれるところも魅力だと思います。音色の点では、もともと高音が伸びやかだという印象もありましたが、メーカーの方もその点にこだわって開発したとおっしゃっていましたね。鳴らし込みによって弾き手の個性に合わせて音が変わってくるところも良いと思います。
あと、このモデルは指板の高音部分がセミ・レイズドになっています。完全なレイズドの楽器もありますが、それだと普通の指板のギターとかなり形が変わるので、慣れるまでけっこう時間がかかるんですね。あ、ポジションが行きすぎてしまった、みたいなこともありますし(笑)。でも、この楽器は“セミ”ということで、弾いた時には普通のギターと比べて極端な違いはないんですが、ハイ・ポジションに行きやすくなっているというのは確かに感じました。
アストリアスのダブルトップはパワーのある楽器なのは確かですが、小さい音を出したい時にもきちんと反応してくれて、ピアノからフォルテまでの幅がしっかりと表現できますし、基本のボディやネックも弾きやすい仕上げになっているので、初めてのダブルトップとしてもオススメできる楽器だと思います。今では国際コンクールでも、同じぐらいの技術だと音が大きくて迫力がある方が上手く聴こえるという傾向があると思うので、コンクールを目指す人にもオススメです。音を出そうと力を入れる必要がなく、軽いタッチで弾けて手にやさしい。奏者に負担がかからないところも良いですね。
価格:¥500,000 (税別)
猪居亜美(いのい あみ)
4歳から父の猪居信之に師事しギターを始める。6歳より勝間恵子氏にピアノ、ソルフェージュを師事。これまでに「名曲リサイタル」や「リサイタル・ノヴァ」、「THE TRAD」などの番組に出演した。2012年より大阪音楽大学にて藤井敬吾氏、福田進一氏に師事。2015年にフォンテックより「Black Star」でデビュー、2019年にキングレコードより3rdアルバム「MEDUSA」でメジャー・デビューを果たす。アルバムはいずれも「レコード芸術誌」特選盤に選出されている。現在は岩崎慎一氏、益田展行氏にも師事し、また後進の指導にもあたっている。第35回ギター音楽大賞グランプリ(第1位)、第2回台湾国際ギターコンクール第3位など、国内外のコンクールにて入賞。現在Youtubeチャンネルの登録者数は5万人を超える。(2020年10月時点)