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- 2024/11/16
シンセサイザー
みなさんこんにちは。FOMISの内藤朗です。今回は、最近ソフトシンセでよく見かけるウェーブテーブル音源について解説していきたいと思います。
ウェーブテーブル音源と言えば、1980年代初期に発売されたPPG Wave 2.2や2.3が有名ですが、この音源の大きな特徴は、オシレーターから出力される波形にあると言えます。
例えばアナログ・シンセやPCM音源シンセなどの多くのモデルでは、1周期のオシレーターやサンプリング波形を元にして音作りを行ないますが、ウェーブテーブル音源では複数の1周期の基本波形を1つの波形であるかのように連続変化する波形(ウェーブテーブル)を有している点が異なります。
ウェーブテーブルは、順に並べられた基本波形は順番に再生するだけでなく、任意の位置の波形だけを使用したり、任意の範囲を繰り返すなど、その再生順番を自由に設定できるものが多く、1つのウェーブテーブルだけでもそれを元にした波形バリエーションを豊富に出力可能です。
また、ウェーブテーブル・シンセでは、プリセットのウェーブテーブルを使用してエディットを進めていくものが多いのですが、モデルによってはウェーブテーブルを自分で作成可能なものもあります。
ウェーブテーブル音源ならではのサウンドを活かした音色作りのポイントは、その名のとおり「ウェーブテーブル、あるいはそれに相当するセクションの設定」です。ここをしっかり設定しておけば、以降の調整はフィルターやアンプ・セクションといったアナログ・シンセの音作りのノウハウがそのまま生かすことができるのです。
ここではウェーブテーブル音源のサウンド・メイクについて、ソフト・シンセ“XFER Records SERUM”を使って解説してみます。それではさっそく、オリジナルのウェーブテーブルを使って“シンセ・パッド系のサウンド”を作ってみましょう。
SERUMのデフォルト状態では、ウェーブテーブルにシンプルなノコギリ波が1つ選ばれています。それでは、この波形表示の右上の鉛筆マークをクリックしてウェーブテーブル・エディター画面を開いてください。
エディター画面には、ノコギリ波が大きく表示されており、その下部にも同じ波形が1つ表示されているのが確認できます。
下図のように+印部分をクリックすると、ノコギリ波の後ろに同じ波形が1つ追加されます。
大きく表示されている波形の左側のドロー・ツールを適宜使用し、グリッドに沿ってクリックすると波形を変えることができます。
これを繰り返して、ひとまずここでは8個の波形で構成されるウェーブテーブルを作成しました。ここでいったんエディター画面を閉じます。
しかし、この状態で鍵盤を演奏しても8個の波形を連続的に変化させることができません。現在は、8個の波形のうちWT POSで選択されている波形のみが再生しています。
しかし、ウェーブテーブル音源の醍醐味は、何と言っても複雑に変化するサウンドです。その方法について解説していきます。
先ほど作成したウェーブテーブルをLFO1を使って変化させてみましょう。
図のようにLFO1のモジュールの十字マークをドラッグして、オシレータセクションのWT POS(ウェーブテーブル内の波形の位置)上でドロップします。こうすることで、「WT POSをLFO1でコントロール」=「8個の波形をLFO1で切り替えられる」わけです。
さっそく音を出してみると、波形変化していくのが分かりますが、切り替わるポイントが少し気になるかと思います。このような場合には、もう一度エディター画面を表示し、Morphメニューでモーフィングを設定しましょう。連続変化がなめらかな感じになるはずです。
今回は基本的な音作りのプロセスを紹介しているため、オシレーターは1基のみ使用していますが、SERUMに搭載されているもう1つのオシレーターを使えばさらに凝った音作りが行なえます。余力があったら試してみてください。
それでは、フィルターやエンベロープ・ジェネレーター(=EG)を設定してイメージに合うサウンドに仕立ててみましょう。SERUMでは3基のEGを装備しており、いずれも変調先を自由にアサインできます。これらの使い方を自分で把握していれば、どれを使用しても良いのですが、EG1はVCAにあらかじめアサインされているので、そのまま活用した方が最初はわかりやすいでしょう。
ここではVCAのエンベロープをパッド的な変化になるように設定してみました。
続いてフィルターを設定します。ウェーブテーブルにLFOを割り当てるのと同じく、EG2を下図のようにフィルターのカットオフにドラッグ&ドロップでアサインします。
その後EG2、カットオフなどを微調整し、イメージに近づけていきます。これで、シンセ・パッドの全体像ができました。最後に細部調整して仕上げて完成です。
今回のようにオシレータ1基による音作りでは厚みや広がりを表現し辛いのですが、SERUMのようにユニゾン・デチューンが設定できる場合には積極的に活用しましょう。ここでは4ボイスのユニゾンでデチューン感を調整しました。
最後にエフェクトを設定しましょう。エフェクトを設定するには、まず画面上部のビュー・セレクターでFXを選択。そしてエフェクトを選び、各パラメータを設定していきます。今回は広がり感のあるサウンドに仕上げたかったため、コーラス、ディレイ、リバーブを以下のように設定しました。
あくまでも個人的な意見ですが、LFOは周期的に変化させるので、どちらかというとパッドやストリングスのような持続音系音色で使用することが多いです。一方、EGはどちらかというとワンショット的な減衰音系音色に適しているように思います。もちろん、ケースバイケースですので、逆もアリなのですが、1つの目安として参考にしていただくと良いでしょう。
最後に、ウェーブテーブル・シンセをいくつか紹介しましょう。
バーチャル・アナログ、ウェーブテーブルという2種類のシンセ・エンジンを装備し、それらを同時使用可能なソフト・シンセ。ウェーブテーブルではモーフィング、波形インポートなども可能なほか、自由度の高いモジュレーション・ルーティングによって複雑なサウンド・メイクが行なえる。
1990年代に一世を風靡したWAVESTATIONの伝統的なシンセシスを継承&リアレンジしたウェーブテーブル・シンセ。基本波形(サンプル)、デュレーション、サンプル、ピッチを、タイミングを別々のトラックに分離し、個別のコントロールが可能。また、新たな要素となるシェイプやゲート・タイム、ステップ・シーケンサー・バリューも追加され、コードの各音が別々に変化していくサウンドも作り出せる。
Moogをはじめ、SEQUENTIAL Prophetシリーズ、KORG Wave Stationなど、数多くのシンセやソフトウェア開発に40年以上携わってきたJohn Bowenの手によって作り出された超弩級シンセサイザー。Waldorfからのライセンス供与によるウェーブテーブル機能を搭載し、モジュラー・シンセサイザー的な自由度の高い音作りが行なえる。
今回の参考例として使用した、EDM系のサウンドメイクには欠かせない定番のウェーブテーブル・ソフト・シンセ。ウェーブテーブルの編集機能は本文で紹介した以外にもエディットする波形を倍音加算合成によって調整したり、ウェーブテーブル波形の素材として1周期波形のインポートなども行なえるなど、細部にこだわった緻密な作り込みが可能。
PPG直系のWaldorf製バーチャル・アナログ・シンセサイザーながら、オシレータ部には矩形波、ノコギリ波などのシンセ波形以外にウェーブテーブルを持つ。Waldorf Waveをはじめ、Microwave II/XTの全ROM WavetableとPPG WaveのUpper Wavetableなど歴代モデルのウェーブテーブルを使用したサウンド・メイクが可能。
内藤朗(ないとうあきら)
活動はキーボーディスト、シンセサイザー・プログラマー、サウンド・クリエーターと多岐に渡る。DTM黎明期より音楽制作系ライターとしても広く知られ、近著に「音楽・動画・ゲームに活用! ソフトシンセ音作り大全」(技術評論社刊)などがある。また、数多くの音楽専門学校、ミュージック・スクールなどでおよそ30年以上に渡り講師を務め、数多くの人材を輩出する実績を持つ。有限会社FOMIS代表取締役/一般社団法人日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)正会員/MIDI検定指導研究会会員。