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- 2024/11/16
Fender / American Professional Ⅱ Telecaster
アメリカン・プロフェッショナル ──。 2017年に発売した本シリーズは現在、フェンダー・ギターの中で最も多くのギタリストに使用されている主力製品だ。 その新型モデル、アメリカン・プロフェッショナルⅡが発売された。 古き良き伝統を残しつつ、 今のフェンダーが持つ最新技術を駆使。 目まぐるしく変わる現代の音楽シーンに合わせ、さらなる進化を果たしている。 本シリーズのテレキャスター&テレキャスター・デラックス実力を、 井上銘と一緒に探っていくとしよう。
絶えず改良を重ねて生み出した、 現代シーンに対するひとつの答え
2017年に登場し、大きな話題を呼んだアメリカン・プロフェッショナル。もともとはフェンダーの標準モデルとして世界中で大ヒットした“アメリカン・スタンダード”の後継機という位置づけで誕生した。そんなアメリカン・プロフェッショナルはスタンダードの基本設計を受け継ぎながらも、プレイアビリティを現代に合わせてブラッシュアップし、ピックアップに著名なデザイナー、ティム・ショウが開発したV-Modピックアップを搭載。伝統のデザインと革新性を見事に融合させたものに仕上がっていた。そして今回、そのスペックをさらにアップデートして第二世代モデルとして登場したのが、本特集で紹介する“アメリカン・プロフェッショナルⅡ”である。ギターのラインナップはストラトキャスター、ストラトキャスターHSS、テレキャスター、テレキャスター・デラックス、ジャズマスターの5機種だ。
フェンダーには、常にミュージシャンたちの声に耳を傾けながら改良を重ねてきた歴史がある。もちろん、楽器としてのクオリティを極限に高めるためだ。今回も前シリーズをリリースしてからの約3年間、フェンダーはアーティストたちとの密接なコミュニケーションを通じて数々のフィードバックを得てきた。そして良き部分は残し、改良点は徹底的に追求した。それは今回のスペックを見ても明らかだ。ディープCシェイプのネックや9.5インチR指板などの人気の仕様はそのままに、本シリーズに合わせてボイシングを細かく調整したV-Mod Ⅱピックアップや、従来以上にスムーズな弾き心地を実現したネック・ヒールなどを実装。さらに注目すべきは、プッシュ操作によって+αの音色が得られるトーン・ ノブである。そのサウンド効果はモデルによってさまざまだが、例えばストラトキャスターならばフロント・ピックアップが常時オンとなり、幅広いトーン・オプションが選択可能となるのだ。
また、カラーリングの豊富さにも注目したい。近年はリアル・ライブだけでなくネットでの映像配信も盛んになってきているが、その数はあまりにも膨大だ。 熾烈を極めた競争市場で生き残るためには、視覚的な要素も無視できないだろう。そこで今回、新たに用意されたマイアミ・ブルーやマーキュリーなどのスタイリッシュなカラーは、現代シーンを生き抜こうとするプレイヤーにとって一助となるはずである。
多様化し続けるシチュエーションにおいて、信念を持って活動するミュージシャンたちをサポートするべく進化を遂げた本シリーズ。今こそ、この柔軟な演奏性と瑞々しい音色を体感してほしい。
ピックアップにはV-Modをアップデートした“V-Mod Ⅱ”を搭載する。新たにボイシングを見直し、ダイナミクスと音色をチューニング。芯のあるサウンドを創出可能だ。各モデルはそれぞれ特徴に合わせて微調整が行なわれ、どのPUポジションでも最適なトーン・バランスを得られるようになっている。ストラトキャスターHSSとテレキャスター・デラックスには、V-Mod Ⅱダブル・タップ・ハムバッカーを搭載する。
各モデルのトーン・ノブにはプッシュ・プッシュ式のトーン・ コントロール・スイッチが搭載され、押すと+αの音色を得ることが可能だ。その音色効果は各モデルによって違うが、例えば3シングルコイルのストラトキャスターの場合、フロント・ピックアップが常時オンとなり、ストラトキャスターHSSならばハムバッカーのコイル・タップとなる。バッキング〜ソロなど、ボタンひとつで多くのプレイ・スタイルに対応できる。
ネック・シェイプはアメリカン・プロフェッショナルで採用されたディープCネックを継承。アメリカン・スタンダードなどに採用されていた“モダンC”と、ビンテージ系テレキャスターなどで使われた“Uシェイプ”の中間的な握りとなっている。モダンCの滑らかなショルダーと、U シェイプのがっしりとしたグリップ感を両立させているのだ。指板エッジもていねいにロール・オフ処理されており、弾き心地も良好である。
ネックの仕上げは“スーパー・ナチュラル・ネック・フィニッシュ”を採用。今回のアメリカン・プロフェッショナルⅡ用に新開発されたもので、サテン・フィニッシュほどサラサラしておらず、グロス・フィニッシュほどツルツル感がない絶妙さである。例えるなら、サテン・フィニッシュのネックを適度に弾き込んだ自然な手触りと言えるだろう。新品特有の違和感もなく、すぐに手に馴染んでくれる。
高音弦側ジョイント・ブロックの角を落とし、ハイ・ポジションへのアクセスを容易にしたネック・ヒール。アメリカン・プロフェッショナルⅡでは人間工学の見地も取り入れながらカット形状を見直している。そのうえで角を丸く滑らかに仕上げることで、前シリーズよりもさらに演奏性を高めているのだ。ハイ・ポジションでのソロはもちろん、コードを弾く時もストレス・フリーなフィンガリングが可能となる。
トレモロ・ユニットもグレードアップを遂げた。ストラトキャスターのトレモロにはコールド・ロールド(冷間圧延成型式)のスチール・ブロックを採用。サステインを豊かにし、なおかつ音の明瞭度やハイエンドのきらびやかさを高めている。ジャズマスターには新開発のポップイン・アーム式パノラマ・トレモロ・システムを搭載することで、従来よりも扱いやすく、圧倒的な安定性を獲得。アーミングも悠々自適に行なえる。
ブロードキャスターや初期テレキャスターなど、古くからフェンダーで使われてきたパイン材。本シリーズでは一部のモデルで、そのパイン材をボディに使用したモデルがラインナップした。ロースト加工を施しており、温かいサウンドと伸びやかで甘いトーンが特徴だ。くっきりとした杢目は見た目のインパクトも十分で、その“渋さ”はステージや映像で目を引くこと間違いなしだろう。
テレキャスターの伝統を受け継ぎながら、サーキットとパーツにアレンジを加えた新型モデル。アルダーのボディなど、使用材のスペックはストラトキャスターと同様だ。ピックアップには、V-Mod Ⅱシングルコイル・テレキャスターを2基マウント。トーン・ノブのプッシュでは、フロントとリアがシリーズ(直列)配線となり、太くて甘いサウンドを得ることが可能だ。注目はトップロード/ストリング・スルー・ブリッジの採用にある。弦の張り方をボディ裏通しにするか、ブリッジ・プレート後方の穴から通すか、各弦で選択可能となっているのだ。弦の張り方の違いによるテンション感とイントネーションの差を体感したり、高音弦と低音弦で張り方を変えてもおもしろい。ちなみに、もともとテレキャスターの弦は裏通し方式で、58年後期にトップ・ローディング方式に変更後、早くも59年中期には裏通しに戻る、という歴史がある。その一瞬の変遷をとらえてモダンに再現してみせた本器は、まさに伝統と革新が体現された1本と言えるだろう。
【Specifications】●ボディ:アルダー、ローステッド・パイン(シエナ・サンバースト、バタースコッチ・ブロンド、ローステッド・パイン) ●ネック:メイプル ●指板:メイプル/ローズウッド ●フレット:22 ●スケール:648mm ●ピックアップ:V-Mod Ⅱ Single-Coil Tele×2 ●コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター、プッシュ・プッシュ・スイッチ ●ブリッジ:3サドル・トップロード/ストリングスルー・テレ with コンペンセイテッド・ブラス・“バレット”・サドル ●ペグ:フェンダー・スタンダード・キャスト/シールド・スタガード ●カラー:【ローズウッド指板】3カラー・サンバースト、オリンピック・ホワイト、ミスティック・サーフ・グリーン、マーキュリー、ダーク・ナイト(写真) 【メイプル指板】3カラー・サンバースト、ブラック、マイアミ・ブルー、シエナ・サンバースト、バタースコッチ・ブロンド、ローステッド・パイン
トラッドなテレキャスに+αできるイメージ。
“今日これでギグに行け”って言われても何のストレスもないですね。それほどにネックが手に馴染むのが早かった。ハイ・ポジションでコードを弾くことも多いので、このネック・ヒールの加工もちょうど良いです。僕のように箱モノのギターで育った人間でも、使いやすいなと思いました。サウンドは高音にテレキャスターらしさを感じますね。音のきらびやかさと太さの両方がある。クランチ気味にして、開放弦を混じえたコードを弾いた時の響きが特に気持ち良かったです。シリーズ配線になるこのスイッチもすごく便利。トラッドなテレキャスの音に+αできるイメージです。ソロを弾く時にはかなり使えそうだし、このスイッチが気持ちを後押ししてくれるような感じがしますね(笑)。あと、このダーク・ナイトという色にすごく惹かれます。フェンダーは新しいことに挑戦する時、いつもこういうフックを用意してくれるんですよね。
テレキャスター・デラックスのラインナップも、本シリーズの大きな魅力のひとつだ。ボディやネックの基本仕様は他モデルと同様で、ピックアップは本器用に開発されたハムバッカー、V-Mod Ⅱダブル・タップを2基搭載。フロント、リアのトーン・ノブでは、プッシュによりコイル・タップが可能となり、テレキャスらしいシングルコイル・ライクなサウンドを味わえる。ピックアップ・ポジションをセンターにして各PUのタップのオン/オフを組み合わせたり、そのサウンド・パターンの多さはシリーズ随一だろう。ルックスにも注目で、前シリーズではヘッドが一般的なテレキャスター・タイプだったが、今回はオリジナルの形状を採用。ラージ・ヘッドがよりビンテージ・ライクな雰囲気を醸し出している。ブリッジ・プレートにはテレキャスター同様、トップロード/ストリング・スルー・ブリッジをマウント。また、オリジナルのテレキャスター・デラックスは6連サドルだが、本器ではトラディショナルな3連ブラス・サドルを採用している点も見逃せない。
【Specifications】●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●指板:メイプル/ローズウッド ●フレット:22 ●スケール:648mm ●ピックアップ:V-Mod Ⅱ Double Tap Humbucking×2 ●コントロール:ボリューム、トーン×2、3ウェイ・ピックアップ・セレクター、プッシュ・プッシュ・スイッチ ●ブリッジ:3サドル・トップロード/ストリングスルー・テレ with コンペンセイテッド・ブラス・“バレット”・サドル ●ペグ:フェンダー・スタンダード・キャスト/シールド・スタガード ●カラー:【ローズウッド指板】3カラー・サンバースト(写真)、マーキュリー、ダーク・ナイト 【メイプル指板】オリンピック・ホワイト、ミスティック・サーフ・グリーン、マイアミ・ブルー
このコイル・タップ、すごく使える音ですね。
このコイル・タップ、すごく使えますね。普段のライブではハムバッカーのギターを使うことが多いのですが、いつも音の悩みがあって。ジャジィな演奏から、カッティングなどのグルーヴィなプレイに移行する時、どうしても音が太すぎちゃうんですよ。それをこの1本で解決できるのはうれしい。ライブ中にギターを何本も替えると、演奏に集中できないってことがたまにあったので。タップ自体も音量差がなく、アンサンブルでも抜けてくる音だと思います。使い方も場面によっていろいろあるだろうし、例えばフロントPUでタップして音量とトーンを絞ると、ジム・ホールみたいなこともできる(笑)。あと、このルックスもデラックスの伝統を感じられて好きです。それでいてネック周りのプレイアビリティやボディ裏のコンターなど、細部がアップデートされている。どんなギタリストでもスッと馴染むことができると思いますよ。
本記事は、11月13日(金)に発売されたリットーミュージック刊『ギター・マガジン 2020年12月号』にも掲載されています。表紙巻頭特集は「ギター・マガジン40周年」。ぜひチェックしてみてください!
価格:¥200,000 (税別)
価格:¥200,000 (税別)
井上銘
1991年、神奈川県川崎市生まれ。15才でギターを開始。2011年にソロ・メジャー・デビューし、ジャズ・ギタリストのホープとして注目を集める。2012年からバークレー音楽大学へ留学、2014年に帰国。最新アルバムは2020年発売の『Our Platform』。そのほか、ポップス・ユニット“CRCK/LCKS”の活動など、ジャズに限定しないフィールドで幅広く活躍中だ。