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- 2024/11/16
ピックアップ解析実験
「昔デジマートにさぁ、地下実験室ってあったじゃん?」
「あー……あった、あった」
「それで、今度ピックアップに関する実験をやるらしいよ」
「ふうん。まぁ確かにピックアップって、試奏できないし買ってみないとわからんからな」
というわけで、いろいろと試してみました。
お久しぶりです。連載が止まってから約3年振りの地下実験室・特別編、今回のお題は「ピックアップ」です。
実はこれ、以前からやりたかったテーマでした。だって、リプレイスメント・ピックアップの説明でよくある「アルニコ・マグネットの●●なサウンドが〜」とかを読んで、アルニコ・マグネットの音のイメージ、できないんですもん……。
私は、もちろんアルニコ・マグネットのPUが搭載されたギターも、セラミック・マグネットのPUが搭載されたギターも弾いたことがありますが、それぞれ異なるギターですから、音の違いがピックアップや、ましてマグネットに由来するものなのか、正直わかりません。アルニコ2とアルニコ4はどう違うのか? 4は? 5は? 実際どんな音なんでしょう?
私 ──「ピックアップの実験、できませんか?」
デジマート・マガジン編集部(以下、デ)── 「内容次第かと思いますが……」
私 ──「結構、手間がかかると思うんですけど、ピックアップのマグネットだけを交換して音をチェックしたり、ワイヤーの巻数や巻き方を変えたピックアップをいくつも用意して、音の違いを確かめられたらなぁという感じです……」
デ ──「なるほど……では、それができそうな方に相談してみます」
軽い感じで提案してみたものの、事前の準備が大変なことになりそうです。大丈夫かなぁ……。
────── 後日 ──────
デ ──「手伝ってくださるそうですよ」
私 ──「ええ? どなたが?」
デ──「フリーダム・カスタム・ギター・リサーチの深野真さんです」
おおーっ!!
フリーダム・カスタム・ギター・リサーチ(以下、フリーダム)といえば、ギター、ベースはもちろん、オリジナルのピックアップも開発・販売している国内有数の工房じゃないですか! 以前、ある取材で深野さんにお話を伺った時に、知見が深くてすごい方だなぁと思った覚えがあります。
深野さんに協力していただけるなら、やれる気がしてきました!
それではピックアップ解析実験
始めるよー!!
◎ノーブランド STタイプ
(半田付け作業なしで、クリップでピックアップを結線できるよう改造されたギター)
◎ハンドメイド・ケーブル
◎フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
◎SHINOS & L ROCKET (アンプ)
◎フリーダム特製 実験用ピックアップ各種
※セッティングについて
■ アンプのセッティングは、すべて同じです。
■ 今回の実験は手弾き演奏です。
■ 本動画の視聴はヘッドフォンを推奨しております。
ここでは、1つのピックアップのマグネットだけを交換して、音がどのように変わるかを見ていきます。ピックアップの仕様は、次の通りです。
巻線機を使ってコイルのターン数を5,000(ハムバッカーなので×2、1万回です)、テンションは4(通常のテンション)で巻き、ポッティングは無しのピックアップをベースに、マグネットだけを交換していきます(市販のピックアップの多くはポッティングされているためマグネットだけを交換することが難しいようですが、ここではマグネット交換を前提にポッティング無しのピックアップを用意していただきました)。
ピックアップ交換の際には、もちろんピックアップの高さ(弦とポール・ピースの距離)も測定して揃えていますから、機材面で音に影響するのはマグネットの違いだけです。
試奏中に手元のボリュームを落とすところでは、毎回必ず5の目盛のところまで下げ、それ以外は全開で統一しています。
最初は、セラミック8という最大磁力105mT、最小磁力99mTのマグネットを試してみます。よく、「モダンなロックに合う、パワフルなセラミック・マグネットを採用したピックアップ」というような文言を見る気がしますが、どうなんでしょう? 早速、音を聞いてみましょう!
……えー、最初のマグネットなので、正直特徴がわかりません(笑)。まぁ、こんなものかと思いつつ、とりあえず次に進みます。
次は、アルニコ2です。最大磁力が96mT、最小磁力が82mTと、セラミックより磁力が弱いんですね……。では、音はどうなのか、聞いてみましょう!
あ! セラミックより少し音が軽く、歪みも弱いですね。ちょっとローが弱く、重心が上のように感じます。また、ローの輪郭もはっきりしないように感じましたが、いかがでしょう?
アルニコ3は、アルニコ2よりさらに磁力が弱く、最大磁力が78mT、最小磁力が63mTです。よりクリアなマグネットだという評判ですが、私はアルニコ3より少しグチャッとしたローの成分があるような感じがします。歪みもやや強いのは気のせいでしょうか?
続いては、アルニコ4。最大磁力が122mT、最小磁力が100mTと、ここまででは最もパワフルなマグネットです。
あ、これは良いですね! 私は好きです。歪みの量がほどよく、歪みの質もクリーミーな感じがします。手元のボリュームを落とした音も、張りがありますね。各帯域のバランスも良いですし、ローの輪郭もはっきりしています。1弦の伸びも良いですね。
最後は、アルニコ5。本日のマグネットの中で、最も強い磁力を持っています。最大磁力が146mT、最小磁力が120mTです。これも良いですね。結構歪むのに、低音域の輪郭がはっきりしていて、ボリュームを落とすとすごくクリーンになります。
ここまでチェックして、セラミックの音を再確認すると、パワフルなんですけど、やや平面的な音かなという印象を持ちました。
皆さんは、どう感じましたか? 正直、アンプをもっと歪ませたり、もっとクリーンにすると、また印象が違うかもしれません。最も違いが聞き取りやすそうなセッティングにしようと留意したのですが、それが必ずしも良い音にはならないということ、そのセッティングが有利に働く場合、不利になる場合があることは、頭の片隅に入れておいてください。
ここでは、ピックアップの基本的な条件を統一し(マグネットはアルニコ5、ポッティングなし、コイルを巻く際のテンションは4/普通)、ワイヤーの巻数だけが違うピックアップを用意して、そのサウンドの違いをチェックしています。
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つづきの実験は
↓ こちらでお楽しみくださいっ ↓
「ギターの音は変わるのか?」を大命題に、井戸沼室長があらゆることに体当たりで実験する本連載企画「デジマート地下実験室」がついに書籍になりました! 特に人気の高かった22本の記事に加え、今回の「ピックアップ検証実験」完全版も収録。 もちろん本書内の企画はすべて動画対応。スマートホンやPCを使って、実験の模様を視聴することができます。 動画で音を実感すれば、企画の面白さも倍増間違いなし! また、書籍ならではの味わい深さもお楽しみいただけるはずです!
ギター・サウンド地下実験室
著者:井戸沼 尚也
定価:1,800円(税別)
仕様:A5判 / 272ページ
詳細はこちら
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
1日5回デジマートを見る、機材大好きのギタリスト/レビュアー/ライター/ワウペダル奏者。大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。 インスト・ファンク・バンドZubola Funk Laboratoryのメンバー。 2019年3月より、ドラムとギターのみの変態インスト・バンド「Ragos」を始動。