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COLORSOUND POWER BOOST & OVERDRIVER 〜最初期のプリアンプ・ペダルを知る

COLORSOUND POWER BOOST / OVERDRIVER

いつもアンプライク・ペダル(ところでアンプライクってなんなのでしょうね?)のことばっかり考えているディーパーズの皆さんであれば、1960年代後期に登場した最初のプリアンプ・ペダルのサウンドも知らなくちゃ...... ということで、今回はSOLA SOUNDが制作を担当したCOLORSOUNDブランドの"POWER BOOST"そして"OVERDRIVE"を紹介します。30分の動画と共にお楽しみください

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POWER BOOST

 COLORSOUND "POWER BOOST"は1969年に登場したと言われています。すでに市場で人気を博していたTONE BENDERファズ(いわゆるTONE BENDER MKIII)と同じ筐体を持ったこのペダル。それまでと同じくSOLA SOUNDデザイン/制作であることは変わりませんが、このPOWER BOOSTをはじめTREMOLOやWAH/SWELLシリーズの登場以降、ブランド名として「COLORSOUND」を冠して、かなりのペダルやアンプ(ピックアップもあったとか?)を市場に投入していきます。

ペダル好きなら一度は憧れるオレンジ色の筐体

 このペダルの基板を見れば、それ以前のゲルマニウム・トランジスタ3石ファズの基本回路をベースにしていることが想像できます。ちなみにCOLORSOUNDのエフェクト・シリーズはゲルマではなく、シリコン・トランジスタを使用している点がポイントでしょう。このPOWER BOOSTもシリコン・トランジスタを使用しています。

特徴的なBC169Bトランジスタ。トップに端子が突き出ているのがわかるだろうか

 POWER BOOSTのベーシック・デザインはトランジスタ3個を使用し、名前こそ“BOOST”ですが、どちらかといえばプリアンプ的な要素が強いペダルに仕上がっています。POWER BOOSTは“TREBLE”と“BASS”という独立したトーン・コントロールを備えていますが、このEQの操作感は非常にアンプ的で、“TREBLE”はギター・レンジを、“BASS”はベース・ギター・レンジを調整しているイメージです。実際に当時の広告には「NEW PRE-AMPLIFIER WITH TREBLE AND BASS BOOST」というキャッチ・コピーが添えられています。ということで、世界最初のフット・タイプ・プリアンプが、このPOWER BOOSTだと言えるかもしれません。ちなみに、以前ディーパーズ・ビューで紹介したARBITER TEBLE BASS FACEは、このPOWER BOOSTよりも前に市場に存在していますが、あちらはこんなに激しいブースト効果は産み出しません。

印象的なRayrexコンデンサー。抵抗も一部にカーボンを使用したりと、この時代特有のパーツ群が興味深い

 このペダルは当時、イギリスだけでなく、ヨーロッパ諸国やアメリカでも爆発的にヒットしたと言われています。その理由を考察してみると、当時はまだギター用/ベース用といったように、楽器に合わせたアンプというものはそれほど多く存在していなかった……もちろん、MARSHALLにSUPER LEADとSUPER BASSが存在したように、ギター向き/ベース向きのアンプはありました。FENDERにもBASSMANというベース向けアンプがありました。でもギタリストも(というかむしろギタリストが)BASSMANを使いますし、MARSHALLのLEADもBASSも、回路的にはほとんど同じ(例えばジミー・ペイジはMARSHALLはSUPER BASS、VOX ULは4120というベース用のアンプを選んで使っていた)でした。もっと言ってしまえばMARSHALLのアンプ回路のルーツはFENDER TWEED BASSMANですし……。

 また、当時(1960〜1970年代)のテレビ収録などで確認できますが、楽器が違っても「同じ種類のアンプ」を使うことが常だったと言います。例えば1969年のツェッペリンのTVショウ「Dazed and Confused」の動画をみてください。ペイジもジョンジーもWEMのアンプを使用しています。ジョンジーはERもしくはPAヘッドを使用し、ペイジはひと回り大きなカスタムのPAヘッド(4チャンネル入力?)を使用しています。いずれにせよPA用(EQが楽器問わず兼用)のアンプです。アンプが違っても、実際に違うのは出力くらいで、プリアンプ回路はほとんど同じだと言えます。

 このように、アンプのラインナップにギター用もベース用もない場合、ギターを「ギターらしく」ベースを「ベースらしく」聴かせるにはどうしたら良いか? 簡単です。楽器の特性に合わせたプリアンプをアンプの前にかませば良いんです。

POWER BOOSTの基板全貌

 すでに1965年に登場していたDALLAS RANGE MASTERや、VOXアンプの「TOP BOOST回路」のように、ギターや「リード・プレイ」に特化したサウンドを作り出すためには、ミッドからトレブルを強力にブーストしてやれば良い、という事実。当時のミュージシャンからの要望で、楽器製造メーカーはそういった効果を持つ楽器を作り始めたと考えられます。当然、ベーシストもこの「BOOSTER/PREAMP」の恩恵を求めたに違いありません。というわけでギタリストには高域用、ベーシストには低域用のEQ+レブル(ブースト)という「機能」を持って登場したのがこのPOWER BOOSTだったと推測できます。当時イギリスのとあるバンドではギター2人とベーシストの足元にそれぞれPOWER BOOSTを置いていたと言います。なるほど、それなら全員が同じ種類のアンプを使うとしても、ペダルの設定でサウンドの住み分けができそうです。

初期型のゴム足はとても大きいのであった

18Vバージョンと9Vバージョン

 初期のPOWER BOOSTは9Vバッテリーを直列につないで18Vで駆動していましたが、後に9Vバッテリー単体駆動へと変更されています。なぜ18Vだったのか? それは駆動電圧を上げることで、入力された信号を「歪ませることなく増幅したかったから」だと思われます。

VOX POWER BOOSTの基板全貌

 しかしながらさまざまな初期型POWER BOOSTをチェックしていくと、初期の18V仕様の個体の中に「2つの9Vバッテリーが直列ではなく、並列につながれた個体」が存在していました。私がこれまでに見た個体はWEB上で2件、現物で2件です。このことから「もしかすると、並列9Vの初期型POWER BOOSTというものが存在するのか?」と思ったこともあります。しかしながら、それら「9V電池並列接続個体」は、いずれもバッテリー・スナップが交換されていました。このことから察するに、リペアの際に修理ミスで直列だった接続が並列になってしまった...…と考えた方が良いかも知れません。

が!しかしながら、並列9Vのサウンドもなかなか素晴らしいものでして...…ぜひ動画でご確認ください。

VOX "POWER BOOST"

COLORSOUNDのデザインをそのまま流用している。VOXロゴは別シルクで印刷しているので微妙に色味が違う

 今回の動画で、直列18Vの個体としてご紹介したのがVOXブランドにOEMされたPOWER BOOSTです。非常に珍しい個体で、実際に私が知る限り4、5台ほどしか存在を確認できていません。マニアに言わせればもっと存在するらしいので、おそらく10台は存在が確認できるでしょう。いずれにせよ、たくさんは見つかりません。筐体はVOX TONEBENDER MKIIIと同様、基板はCOLOR SOUNDの初期POWER BOOST同様です。余談ですが、なぜかVOX筐体のPOWER BOOSTは錆びやすいのが特徴です。

このイビツな筐体にグッとキテしまった貴方は重症です

 VOXブランドでは楽器側のジャックにプラグインするタイプのTREBLE BOOSTやBASS BOOST(シルバーの筐体のアレです)が1966年ごろから存在しており、すでに市場ではヒットしていたようです。ちなみに、アンプに挿すタイプは1964年から存在したとか?(VOXって本当に謎が多すぎるのでこれらに関してはここでは触れません。怖いから 笑)

 これらシンプルなブースターがすでに存在していたにも関わらず、1969年ごろにSOLA SOUNDでVOX名義の"POWER BOOST"やVOX "Treble 'n Bass"、そして"VOX TONE BENDER MKIII" ファズを(ごく少数)OEM製作したのは何故なのか? この辺り、もう少し時代背景を含めて考察する必要がありそうです。

RayrexコンデンサーやBC169Bトランジスタなど、COLORSOUNDバージョンとほぼ同じ基板が確認できる

OVERDRIVER

 POWER BOOSTは当時、とてもよく売れたと言われています。しかしながらデザイナー/売り手が目論んだ「プリアンプ的使い方」というよりは、純粋にオーバードライブ/ブースターとして使うミュージシャンの方が多かったのでしょう。音量のブーストよりも「歪み」自体を求めたミュージシャンが多かったと見えて、POWER BOOSTは登場から1、2年後には9V単体で動作する仕様に変更されます。9V単体にした理由は、その方が低い音量設定(VOLUME KNOBが低い設定)でも簡単に「歪み」が得られるからだと思われます。そして、その直後に再度回路に変更が加えられ、製品名が"OVERDRIVER"に変更されます。

ブラックのハンマーライト・フィニッシュにオレンジのプリントが映える

 このOVERDRIVERは筐体やトランジスタを変更しながら、数年間生産されました。このペダルの生々しいドライブ・サウンドはジェフベックの愛用で広く知られ、1990年代にはSOLA SOUNDからオフィシャル復刻品も生産されました。それらは当時のオリジナル・ペダルとはパーツ・チョイスや回路的に異なるものでした。それでも1990年版OVERDRIVER、POWER BOOSTは、なかなかのサウンドを放っており、その「爆音」は1990年代のバンドマン達に愛されていました。

OVERDRIVERの基板全貌。初期型は筐体内が黒く、1973年型後期(このモデル)は画像のように内側が黒く塗られていない。短期間(ロッド違い?)で色々な変更が見て取れる

現代によみがえった正当な"COLORSOUND"ラインナップ

 SOLA SOUND製品の製造元であるロンドンのギター・ショップ「Macaris」では高まる需要を受け、2000年代に入り英国のビルダーStu Castledineとタッグを組み、オリジナル18Vモデルを正確に再現したPOWER BOOST、そしてオリジナル回路のOVERDRIVERの生産/受注を開始。常にオーダーが絶えることがなく、入手までに時間を要するようですが、現在も引き続き生産されています。気になる皆さんは是非、Macarisのサイトからオーダーしてみてください。

 というわけで今回はメジャーなようでイマイチどんな音なのか? どんな用途なのか? わからない皆さんも多かったであろうCOLORSOUND POWER BOOST/OVERDRIVERをご紹介しました。使い出したら本当に癖になるペダルです。各社からもトリビュート・ペダルが出ていますので気になった皆さんは是非デジマートで探してみてください。ビンテージ・レプリカから進化版まで、たくさんのペダルに出会えることでしょう。

このジャックの形状にグッとキテしまった貴方は重症です

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