AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Chase Bliss Audio
アート的な音響と先鋭的なデザイン。そんな他を寄せ付けない独創的なペダル作りの道を突き進むのが、米ミネソタ州で生まれたチェイス・ブリス・オーディオだ。“デジタルの操作性で、アナログ回路をコントロールする”というスローガンのこのブランド。特異なコントロールや複雑なモジュレーションによって生み出されるサウンドは、“まだそこにない風景”を描き出す。今回は、この型破りなブランドのペダルをご紹介。サウンド追求のさらなる夢を、我々ギタリストに見させてくれるはずだ 。
アメリカはミネソタ州ミネアポリスを拠点とするChase Bliss Audio(チェイス・ブリス・オーディオ)。2013年に同ブランドを創業したジョエル・コルテは、大学でデジタル・プログラミングを学び、のちにペダル・シーンの異端児=ザッカリー・ベックスのブランド、Z.Vexに在籍することでエフェクター製作を身につけた。ジョエルの足跡はそのまま、チェイス・ブリス・オーディオのポリシー、“DIGITAL BRAIN,ANALOG HEART”、つまりアナログ・サウンドのデジタル・コントロールというコンセプトにつながっている。ちなみに“チェイス・ブリス”というブランド名だが、これは亡くなった彼の兄の座右の銘である“Follow Your Bliss.(あなたの至福に従いなさい)”と、兄の名前チェイスから取られた。チェイスは偶然にも“追う”という意味にも取れ、ジョエルがどんな理念を持ってペダル製作に臨んでいるかがうかがえる。
15年からフルタイムでエフェクター開発・製作を始めたチェイス・ブリス・オーディオは、Warped Vinyl mkI(コーラス/ビブラート)を皮切りに意欲的なモデルを次々と発表。中でも特に目を引くのが、他ブランドとのコラボの多さだ。例えばPreamp MkII(オーバードライブ/ファズ)のプリアンプ部を設計したBenson Amp、Mood(ディレイ/ルーパー/グラニュラー)に関わったDrolo FXとOld Blood Noise Endevors、Brothers(オーバードライブ/ファズ/ブースター)に携わったResonant Electronic Designなどが名を連ねる。群雄割拠のペダル・シーンで、命とも言えるサウンドを各社が惜しみなく提供してくれているわけだが、ジョエルの人脈の広さはもちろん、人柄がいかに信頼されているかがわかるだろう。
もうひとつ、多くのモデルで採用されているdipスイッチにも触れておきたい。コンパクトで多機能を実現するこのスイッチだが、実態は非常にシンプル。半分はrampツマミ(本体搭載のユーティリティ・ノブ)やエクスプレッション・ペダルに何のツマミを割り当てるか、もう半分はそれらの動作方向の設定となる。ほかにもスイッチやモードの機能変更なども選択できるわけだが、言ってしまえばいかに操作を簡略的にまとめるかの下準備。実際、各製品に慣れてくると、“ここがこうだったら……”という欲が出てくるが、それらはこのdipスイッチでほぼ解決できるものだ。これもまた同社らしい提案と言える。 確かにとっつきやすいとは言えないモデルの数々。だが、それらの偶発性も含めた可能性は広く深いのだ。一度その魅力を味わえば、離れられなくなるだろう。
感覚的に扱えて、 クリエイティブなもの
──普段、製品作りはどのように進められていくのでしょうか?
コラボレーターの有無や製品の特徴によって、大きく事情が変わるんです。最近ではスコット・ハーパー(YouTubeチャンネル“Knobs”の運営者)と、サウンド・デザインで多くのコラボを行なっています。コラボすることで、私では考えつかなかったコンセプトやアイディアへとつながっていきました。進め方としては、私はスコットにベーシックなアウトラインや枠組みを提案し、それに対して彼がどう組み立てるのかを見る、という流れですね。
──今年発売の新オーバードライブ、Preamp MKIIの開発の経緯を教えて下さい。ベンソン・アンプをコラボ相手に選んだ理由は?
ベンソン・アンプのクリス(・ベンソン)はサウンドそのものや、それを周波数帯毎に分析するための優れた耳を持っているんです。でも何よりも、私はクリスを人として愛している、ということが大きいですね。彼とはビジネスの内外を問わず良き友となったし、彼の理念、デザイン、すべてにおいて恋に落ちているのです。
──Preamp MKIIの大きな特徴は何でしょう?
一番の特徴は自動的に動くモーター・フェーダーですね。セッティングがどんな状態か、すぐに目で確認できるし、プリセットの保存と呼び出しも可能です。さらにデジタルの操作性も備えており、MIDIやCVコントロールを駆使すれば、多くの可能性を与えてくれるでしょう。また、本機はベンソンの真空管アンプ、Chimeraのプリアンプ回路を元にしていますが、真空管の代わりにJFETトランジスタを用いています。これに加え、パラメトリックなミッド・コントロールも搭載していて、プリアンプの前後のどちらにも配置させることが可能です。このことによってほぼ無限のトーン・シェイピングが可能だし、好みの周波数帯を抽出してプリアンプで持ち上げるといったこともできるんです。
──ブランドの人気機種として、Mood(ディレイ/ルーパー/グラニュラー)、Blooper(ルーパー)、Dark World(デジタル・リバーブ)、Thermae(アナログ・ディレイ/ピッチ・シフター)などがありますよね。これらの特性は?
その4つはかなり実験的な製品ですね。Dark World以外はいずれも、加速、あるいは減速させ、プレイバックで得られるピッチを量子化できる要素を持っています。
──中でもMoodは一番の人気なんですよね?
そうですね。開発時に目指したゴールとしては、“初見でも使いやすく感覚的に扱え、クリエイティブなもの”ということでした。スイッチを一回踏んで“マイクロ・ループ”を作り出すことで、即座に音楽的な操作が可能なんです。マニュアルを読むことなくプレイすることができ、インスパイアされることも多いでしょう。
─ギタリストにどのように使ってほしいですか?
使い方について、私からの要望はないんです。実際、多様なジャンルや音楽的なコンテクストで使われるのを目にしてきたし、それによりハッピーな気分になりましたから。これからも、彼らが求めるものを作り出す手助けをする道具であってほしいと願っていますね。
──今後、リリース予定のペダルがあれば教えて下さい。
今年の後半、Automatone(6つのモーター・フェーダーを搭載したシリーズ)のラインナップに新製品が加わります。メリスとのコラボレーションによるリバーブを搭載したCXM 1978というペダルです。多くのミュージシャンに愛されたスタジオ・リバーブ(1978年リリース)を、ペダルとして実現するというアイディアに我々も乗ることになったのです。そして、サウンドを実験的な方向に進めるという点にとても興奮しています。それは“lofi”というモードで感じ取ることができるでしょう。
まずは、“自動で動くフェーダー”付きという ユニークなオーバードライブ・ペダルを紹介。
チェイス・ブリス・オーディオの新たな挑戦であるAutomatoneシリーズ。その第一弾となるドライブ・ペダルがPreamp MKIIだ。まず目に付くのが、ギター用エフェクターとしては珍しい6つのフェーダーだが、EQ設定が視覚的に把握しやすい点、ピックを持ったままでも微調整がしやすい点でなるほど、と思った次第。この6つのフェーダーは、それぞれモーターで駆動し、3バンク×10プリセット=計30プリセットの各設定に合わせて自動的に動いてくれる。これも、各設定をすぐに視認できるという点で、なかなか練られたアイディアだ。
サウンド面では、まずベンソン・アンプのクリアでワイド・レンジ、かつ太さも持った基本トーンが秀逸だ。GAINの効きはかなり鋭敏で、ゼロからほんの数ミリ上げただけでもクランチ的な太さが出てくる。どクリーンより、クランチ~オーバードライブの使い勝手が良いドライブ・ペダルと言えるだろう。その際に重宝したのが、パラメトリックのミドルEQ。Q幅の選択はもちろん、プリアンプ回路へのプリ/ポスト選択によっても音色調整ができるのはかなり便利だった。そういったアンプライクな音作りに加え、ファズ回路を搭載しているのも本機のポイントだろう。バッキング用のみならず、エクスプレッション・ペダルにTREBLEを設定しておけば、ファズ+トレブル・ブーストといったリード・ギター向きのトーンも難なく得ることができた。もちろんクリーン/ゲイン・ブーストなども設定でき、本機1台で何役もの活躍が期待できるだろう。
本機の心臓部となるプリアンプ回路は、米ポートランドのアンプ・ブランド、ベンソン・アンプとのコラボレートで完成。同ブランドの真空管アンプCHIMERA 30をFET回路で再現したもので、コンプ感の薄いワイドなレンジと、リニアな歪みが特徴だ。
ルックス的な特徴ともなっている6つのモーター・フェーダー。これらが、3バンク×10プリセット=計30プリセットの各設定に合わせて自動的に動く様子は、ギミックと言えばギミックだが、視覚的に確認しやすいということもあって安心感がある。
エクスプレッション・ペダルの設定やMIDI機器との連動も、本機の現代的有用性を示す点。特にEXペダルは、各パラメーターの操作などに便利で、クリーン/ゲイン・ブーストはもちろん、ミドル周波数帯を動かすことでワウ的な効果を得ることもできる。
本機の基本的なドライブ回路はFETだが、フェーダー下のスイッチにより、シリコン/ゲルマニウムによるクリップ方法の変更が可能。また、Q幅と接続位置が選べるパラメトリックのミドルEQ、2種類のファズ回路など、多彩な音色を得ることができる。
トランジスタやダイオード、アナログEQが生み出す多彩な音色設定を、デジタル・コントロールするのが本機、そしてチェイス・ブリス・オーディオの真骨頂。ミドルEQのプリ/ポスト選択など、機器のつなぎ替えが必要な変更も実現してくれるのが強みだ。
続いて、現在人気が高い4機種を紹介しよう。ブランドの真骨頂とも言える“偶発性”や“即興性”の高いペダルだ。
ルーパー+空間系エフェクト+αとでも言うべき一台。右一列のノブとスイッチがルーパーで、左一列が空間系エフェクトという構成となっており、3つのモードのループに左側でエフェクトをかけるという見方がわかりやすいだろう。ただ、①入力のみ、②ループのみ、③両方と、エフェクト送りを選択できるため、何をどう彩るかの選択肢は無限に広がる。昔懐かしい雰囲気としては、ループの再生時間をストレッチするSTRECHモードのループに、SLIPで逆再生エフェクトをかけたパターンで、サイケ/プログレ的なサウンドが楽しめるが、より即興性を楽しむならENVループ・モードだろう。これは自動録音されているループに、割り込む形で新たなフレーズを加えることができるモードで、プレイを止めるとループが通常再生に戻るというもの。文章ではわかりにくいが、ひとりでコール&レスポンスをしているような感覚で、バッキング(ループ)にその都度思いついたフレーズを合わせていくことができるわけだ。CLOCKをはじめ各ツマミの設定が重要だが、ハマるモードだ。
もはや楽器のひとつ、新たなパフォーマンス・ツールのひとつと言えるルーパーだが、本機はそのループ・プレイの可能性をさらに拡張する1台だ。機能としてはシンプルで、一般的なループ、エフェクト付加モード(ADDITIVE)、サンプラーがメイン。だが、通常ならルーパーにプラス各種エフェクトが必要になるようなプレイも1台でこなしてくれるのが本機の特徴だ。その要となるのが、ワウフラッターやピッチの揺れなどアナログ感を足すStabilityと、筐体前面のスイッチでオン/オフする6つのMODIFIERSだが、ループの再生速度や再生方向を変化させるSmooth SpeedやFilterなどは、単音リフやハーモニーのループに加えるとシンセ的であったりエスニックな雰囲気が出せたりと、かなり楽しい機能。ちょっとしたオブリやリフに使ってみたところ、シタール的なサウンドも出すことができた。さらに、ループ・パターンを解体し、ランダム/規則的に再生するScramblerも注目。偶発的な、これまでのルーパーの使い方ではできなかったようなパターンを生み出すことも可能だ。
漫画や映画でおなじみであるローマの公衆浴場からモデル名を採った、アナログ・ディレイにハーモナイザー機能+αを追加したモデル。BBDを使用したディレイ部分は2ステップとなっており、それぞれ4分・付点8分、8分でサブディビジョンを設定できる。また、dipスイッチによってディレイ音にモジュレーションをかけることもでき、まず優秀なアナログ・ディレイとして楽しめるだろう。これだけでも複雑な跳ね返りが楽しめるのだが、通常モードの場合、INT 1&2ツマミでディレイ音のピッチ・シフトを設定できるのが本機のポイント。例えばINT 1を4度上、INT2を5度下などに設定しておけば、単音リフでもハーモニーを伴ったディレイ・リフ/フレーズに変化するわけだ。ピッチ変化も、GLIDEツマミによって遅めのポルタメント・ベンド的な設定にすることもできるほか、シーケンサー的な使い方やワーミー的効果を得ることも可能。コードや速いフレーズの場合、INT 1&2ツマミの設定などを工夫する必要があるが、これらの効果を前提とした曲/フレーズ作りなどもできそうだ。
チェイス・ブリス・オーディオ初のフル・デジタル・エフェクターとなるデュアル・チャンネル・リバーブ。右列のWORLD(W)が通常のリバーブ部分で、スプリング/プレート/ホールの3タイプを選択できる。このリバーブ自体も非常に質が高いもので、まず購入選択肢となり得るのだが、さらに興味深いのが左列のDARK(D)部分。こちらはMOD/SHIM/BLACKという3モードの効果を加えることができ、アナログライクなMOD、オクターブ音を混ぜるSHIMなども実用的だが、イチ押しは残響をフリーズさせるBLACKだ。しかもたんなるループではなく、入力信号の強弱に応じて新たなフリーズ音を重ねていくことができるのがポイント。例えば、低いパワー・コードに異なる音域で違うボイシングを重ね、さらに高い音域でノートを積んでいくと、まるでシンセのような重厚なオーケストレーションを生み出すことも可能だ。両チャンネルはパラレル、WからDへ、DからWへと接続順も選択でき、上記のような音像を背景にメロディを弾くというようなこともできる。
これまで紹介したほかにも、チェイス・ブリス・オーディオの製品はまだまだある。使い方次第で、無限のサウンドメイクが可能となるペダルをぜひお試しあれ。
モジュレーションを備えたアナログ・ディレイ。ディレイ・モードは20ms〜275msのショート(S)と40ms〜550msのロング(L)で切り替え可能だが、さらに両者を同時使用したBoth(B)モードが新鮮だ。ロング・ディレイ部分がやや滲んだような音色で、非常に馴染む背景となってくれる。モジュレーション効果も、3種の波形の違いにより揺れや膨らみなどの変化が楽しめるだろう。
Tonal Recallの兄弟機で、こちらはロング(L)モードが80ms〜1100msに拡張されている(ショート・モードは変更なし)。こちらもS/L両モードを同時使用したBoth(B)モードが興味深く、ロング・ディレイ部分がさらに滲んだ印象で、素朴ながら奥行きのある残響を生み出してくれる。dipスイッチにより、タップ・テンポ・スイッチの機能を拡張できるのも行き届いたアイディアだ。
Preamp MkIIにも搭載されているアナログ・イコライザーなのだが、もはやプリアンプ/ドライブ・ペダルとしてとらえたほうが良さそうだ。EQ部はBASSがシェルビング型、MIDSが150Hzから4kHzのパラメトリック型、高域はローパス・フィルターという構成で、それぞれ効き幅を3段階で選択できる。ブースター的な使い方のほか、GAIN設定次第ではクランチ以上の歪みを得ることも可能だ。
2チャンネル構成で、それぞれにオーバードライブ、ファズ、ブースターを備えた多機能ペダル。Achはレゾナント・エレクトリック・デザインと共同開発、Bchはオリジナルとなっており、ファズのカラーも随分異なる。これらをパラレル(単体使用も可)、A→B、B→Aといった接続で選択でき、歪みのブッシュやミックスなど多彩な使い方ができる。ブースターのクリーンさも特筆したい点だ。
アナログ・ビブラート/コーラスの本機。MIXの12時までがコーラス、以降がビブラートという効果で、全体的に高品位な落ち着いたかかり具合といった印象だが、揺れ波形の調整ができるWARPは興味深い機能だ。波形の立ち上がりと戻りの変化なのだが、3種の波形選択もあり、エフェクト音を馴染ませることも、逆に主張させることも可。アルペジオなどの表情を決めるぐらい重要な機能だろう。
2/4/6の3段階でフェイズ・シフトのステージ数を選択できるアナログ・フェイザー。コントロール的にはさほど複雑ではないが、特に注目したいのはFORMツマミ。モジュレート波形を変化させるツマミだが、3種の波形の選択次第では、揺らぎが急激に戻るような、リフに転用できそうな効果も生み出すことができる。dipスイッチにより、モーメンタリーでオン/オフさせることも可能だ。
アナログ・トレモロ。ほかのモデルではdipスイッチは応用編という印象だったが、本機の場合、Modeスイッチはオンが必須だろう。これにより、①一般的なボリューム変化、②フィルターで分岐した信号の位相違いによるトレモロ効果、③そのミックスという新たな体験を与えてくれる。RATEとSWAYの設定による逆再生的な音量変化も、リフ的な展開も可能な設定だろう。
すべてのモデルでMIDIによるコントロールが可能なチェイス・ブリス・オーディオらしく、ペダルと組み合わせて使えるMIDI関連商品もリリースしている。そのひとつが本機で、ペダル・ボードでも場所を取らないミニ・サイズのMIDIスイッチャーだ。本機は3バンク×2プリセット&ライブ・モードの切り替えが可能で、Thermaeなどの2プリセット・モデルをより実践的に使用できる。
MIDI関連モデルのもうひとつは、MIDIとTRSプラグの変換ボックスだ。チェイス・ブリス・オーディオ製品ではTRS端子が採用されているが、それらと一般的なMIDI対応機器をつなぐのが本機。もちろん内部設定の切り替えで、一部他メーカー製品のMIDI機能を生かすことも可能だ。
本記事は、8月12日(水)に発売されたリットーミュージック刊『ギター・マガジン 2020年9月号』にも掲載されています。表紙巻頭特集は「シティ・ポップと夏。〜とろける極上ギター・ソロ篇」。ぜひチェックしてみてください!