Positive Grid Spark LIVE meets Toshiki Soejima & Naho Kimama
- 2024/12/13
シンセサイザー
こんにちは、FOMISの内藤朗です。今回はFMシンセシスを採用したシンセサイザー(FM音源)のエディット術にフォーカスし、そのポイントを解説していきます。
FM音源のFMとはフリーケンシー・モジュレーションの略で、周波数で変調させるという意味です。つまり大まかに説明すると、FM音源とは「波形を波形で変調させることによって音を作り出す音源」ということになります。
昨今のシンセサイザーには、FM音源がメインの音源方式ではなくても、音作りの機能の一部として搭載されているモデルも少なくありません。FM音源のベーシックな音作りはYAMAHA DX7のオペレーション方式に準じたものが多いことから、DX7での音作りを理解しておくことがFM音源をマスターする近道となります。
もう1つはFM音源は、アナログ・シンセのプロセスと異なる点が多いので「オシレータ」→「フィルター」→「アンプ」のような構成にあまりこだわり過ぎないようにすると良いでしょう。
FM音源は、アナログ・シンセのようにイニシャライズした状態から解説すると、この回だけで収まらなくなってしまうので、ここでは代表的なプリセットをピックアップして解説していきます。解説で使用するFM音源は、YAMAHA DX7をエミュレートしたソフト・シンセのArturia DX7 Vです。
まずは、DX7を代表するオルガン、ROM1A-17 “E.ORGAN 1”を選んでみましょう。
FM音源の音作りで、もっとも重要なパラメーターは“アルゴリズム”です。
アルゴリズムとはFM音源の元となる基本波形(オペレーター)の組み合わせ方で、音色の特徴を決定づける要素と言っていいでしょう。オペレーターとアルゴリズムの数は機種によって異なります。ちなみにDX7 Vは、6オペレーター、32アルゴリズムです。
オーバー・ビュー画面の中央下に、プリセットで使用されているアルゴリズムが表示されています。ここでは、“32番のアルゴリズム”が使用されているのが分かりますね。
このように、6個のオペレーターがすべて横並びになっているアルゴリズムは、オルガンのような音色を作る時に適しています。
このアルゴリズムは、オルガンのドローバーと同じと考えるとわかりやすいでしょう。各オペレーターの音高と音量を変えるだけで、音色にバリエーションが生まれます。
それでは、各オペレーターの音を1つずつ聴いてみましょう。オペレーター(OP1〜OP6)の文字を右クリックするとオン/オフが切り替えられます。
各オペレーターの音を確認してみると、音高の違うサイン波が鳴っていますね。つまりオルガンの音は、音高の違うサイン波の集まりによって作られているというわけです。
このように、サイン波を重ねて音を作ることを倍音加算合成と呼びます。
ちなみに、音高を変更するパラメーターを“フリケンシー・レシオ”、音量を変更するパラメーターを“アウトプット・レベル”と呼びます。
フリケンシー・レシオは、大まかにとらえると値を1.00を基準とし、倍になるごとに1オクターブ上、半分になるごとに1オクターブ下になります。つまり2.00→1オクターブ上、0.50→1オクターブ下となるわけです。また、フリーケンシー・レシオ値は、コースとファインの2パラメーターで構成されています。コースは整数値の設定が行なえ、大まかな高さを設定し、ファインでは小数点以下の数値設定が行なえます。このファインを調整することによって、1.5オクターブ上など小数点以下の細かい設定ができるため、金属的な響きなど非整数次倍音を作り出したい時に有効です。
このプリセットでは、アウトプット・レベルの設定値がすべてボリューム・レベルとなっていますが、後ほど紹介するプリセットのように、アルゴリズムの中のオペレーター次第で音色の明るさなどを調整することも可能です。
次にプリセットROM1A-26 “TUB BELLS”を見てみましょう。
この音はプリセット名のとおりチューブラー・ベルをシミュレートしたもので、80年代中期頃によく使用されていました。アルゴリズムは5番が使用されており、縦に積まれた2基のオペレーターが3つ並んでいます。
このようにオペレーターが縦に積まれた場合、上を“モジュレーター”、下を“キャリア”と呼ばれ、「キャリアはモジュレーターで変調された音を出力」します。
ではここで、オペレーター3〜6をミュートして、オペレーター1と2のみに注目してみましょう。
オペレーター2のアウトプット・レベルを下げてみると、徐々に丸みを帯びた柔らかな音色に変化し、値が0になるとサイン波になります。逆に上げていくと鐘らしい音色になっていき、最終的にはノイジーで歪んだような音色に変化していくのが確認できるはずです。
今度はオペレーター2のアウトプット・レベルを固定して、フリケンシー・レシオを変化させてみましょう。
同じように鐘のような音色ではあるのですが、フリーケンシー・レシオを上げていくと、線の細い金属的な響きとサイン波の減衰音が分離して聴こえてくるはずです。このようにモジュレーターのアウトプット・レベル、フリケンシー・レシオの設定を調整することは、非常に多くの音色バリエーションを生み出します。これがFM音源の面白さといっても良いでしょう。
このフリケンシー・レシオの設定はモジュレーターのアウトプット・レベル値にもよりますが、キャリア:モジュレータの比率が1:1や、1:2のような整数比の場合には、ノコギリ波や矩形波などのような整数次倍音を含んだ波形になり、比率が1:2.5のようになるとこのプリセットのように非整数次倍音を多く含んだ音が得られます。
また、各オペレーターには、どのノートにたいしても特定の周波数で鳴らす“FIXED(フィクスド)”を設定することもできます。これに設定すると、どの鍵盤を弾いても同じ音高でしか鳴りません。このプリセットでは、オペレーター5をFIXEDに設定して、リアルな鐘の音をシミュレートしています。
次は、ROM1A-1 “BRASS 1”を見ていきましょう。
この音色もFM音源を代表するブラス・サウンドとして有名です。DX7にはプリセット1番に収録され、当時よく使用されていました。アルゴリズムは22番が使用されています。
22番のアルゴリズムは、キャリアのオペレーター3〜5に対し、オシレーター6がモジュレーターとなって変調しています。さらにオペレーター6も自身の出力で変調されるような流れ(フィードバック)になっているので、キャリアに対し、さらに強い変調を与えることができます。
ブラスをアナログ・シンセで作る場合、ノコギリ波を使用するのがセオリーですが、FM音源でもこのフィードバックを活用することで同様のサウンドを作り出すことができます。
オペレーター3〜5
→ フリケンシー・レシオを1.00、アウトプット・レベルを99に設定
オペレーター6
→ フィードバックを最大値(=7)、フリケンシー・レシオを1.00、アウトプット・レベルを80〜85に設定
また、この音色のフリケンシー・レシオの設定は、オペレーター3〜6がすべて1.00になっていますが、オペレーター1と2は音に厚みを出すために、1オクターブ下となるよう両方とも0.50に設定されているのもポイントです。
さらに、オペレーター1と2のフリーケンシー・レシオをそれぞれ1.00にすると標準的なブラス、また、それぞれを2.00にするとオクターブ上のサウンドが重なって目立つ音色になります。
ROM1A-11 “E.PIANO 1”は、DXエレピとも呼ばれるほど有名なサウンドです。FM音源を語るには外せないプリセットなので是非ともポイントを押さえておきましょう。
この音色の特徴は
・金属的なアタック音
・程よいデチューン&コーラス感
・タッチの強弱による音色変化
という3点に集約されていると言えます。
また、使用されているアルゴリズムは、ROM1A-26 “TUB BELLS”と同じく5番です。
金属的なアタック音はオペレーター1、2で作られています。キャリアとモジュレーターのフリーケンシー・レシオの比率は、大きくなるほど金属的な響きが作りやすいことから「オペレーター1の1.00に対してオペレーター2は14.00」と、比較的高い値になっているのがわかります。オペレーター2のフリーケンシー・レシオによって金属的なアタック部分のサウンドが変化してきます。
FM音源のデチューン効果は、アナログ・シンセのようにチューニングを単純にズラす方法とは少し異なります。アウトプット・レベルやフリケンシー・レシオも関係してくるので一概には言えませんが、デチューンの値が大きくなるほど、トレモロやフェイザーのような効果が生まれます。設定の目安は、各オペレーターの対角線上に位置するオペレーター同士の設定値が±0になるようにするの良いとされています。しかしながら、あくまでも目安として考えて、実際は耳で判断して、心地よい揺れ加減に調整してください。
そしてFM音源のエレピである意味一番重要な設定が「タッチの強弱による音色変化」です。DX7は各オペレーターの設定をタッチの強弱(=ベロシティ)でコントロールできたのも大きなポイントで、これのおかげでDXエレピの普及につながったと言えます。
この音色は、キャリアとモジュレーターのペアを3つで構成した5番のアルゴリズムが使用され、モジュレーターのオペレーター2、4、6のベロシティ値は大きく設定され、演奏時における音色変化の幅が広くなります。
また、オペレーター2の強弱はアタック感の強弱に直結しますので、奏でられるサウンドは今風に言えば「エモい」演奏になるワケです。
多少話がそれますが、FMエレピの音色は、アコピの音色とレイヤーしてデヴィッド・フォスター風のピアノサウンドを作ったり、ローズなどのビンテージ系エレピとレイヤーしてハイブリッドなエレピサウンドを作るなど色々と応用が利きますので、ぜひ試してみてください。
最後に、FM音源を搭載したシンセの一部をいくつか紹介します。購入を考えている人の参考になれば幸いです。
AWM2音源のハイブリッド音源ながら、FM音源部には8オペレーター、88アルゴリズムによる新世代FMエンジン“FM-X音源”を採用したYAMAHAのフラッグシップ・モデル。多彩なコントロール・ソースによってサウンドが複雑に連続変化する「Motion Control」を装備し、ライブ・パフォーマンスにも優れている。
4オペレーター、12アルゴリズムながら、各オペレーターにフィードバックを装備するなど、進化したFM音源を搭載した37鍵MINI鍵盤モデルのコンパクトなFM音源シンセサイザー。
可搬性にも優れており、オプションのアタッチメントを使用することでギター用ストラップを取り付けられるため、ショルダー・キーボードとしても活用できる。
6オペレーター、32アルゴリズムの代表的デジタル・シンセサイザーのサウンド・エンジンを再現し、互換性を備えた3ボイス・ポリフォニック・シンセサイザー。最大16ステップのループ・シーケンサーを装備し、フレーズ演奏のほか、ツマミの動きを記憶する“モーション・シーケンス機能”によるサウンドの時間的な変化も表現可能。
数々のビンテージ・キーボードの名機をエミュレートしたソフト・シンセをリリースするARTURIAによるDX7のエミュレート・モデル。
各オペレーターの出力波形にサイン波以外を選択可能な点や、各オペレーターそれぞれでフィードバックが設定できるなど、オリジナルにはないソフトウェアならではの機能が追加されている。V Collectionに収録参加。
こちらはソフト・シンセメーカーの老舗Native InstrumentsによるDX7のエミュレート・モデル。1,200種類以上のプリセット音色、アルペジエーター機能を備えるとともに、4つの異なるサウンド間でのモーフィングが設定可能なモーフ・スクエア機能を装備し、オリジナルの実機では表現できないサウンド演出が可能。Kompleteシリーズに収録されている。
内藤朗(ないとうあきら)
活動はキーボーディスト、シンセサイザー・プログラマー、サウンド・クリエーターと多岐に渡る。DTM黎明期より音楽制作系ライターとしても広く知られ、近著に「音楽・動画・ゲームに活用! ソフトシンセ音作り大全」(技術評論社刊)などがある。また、数多くの音楽専門学校、ミュージック・スクールなどでおよそ30年以上に渡り講師を務め、数多くの人材を輩出する実績を持つ。有限会社FOMIS代表取締役/一般社団法人日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)正会員/MIDI検定指導研究会会員。