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- 2024/11/16
KLON CENTAUR
いつだってオーバードライブのことばかり気にしている“ディーパーズ”の皆さんには周知の事実だと思いますが、CENTAUR(ケンタウルス)は“オーバードライブの王様”に間違いありません。40才を過ぎてオーバードライブの魅力に目覚めた遅咲きのディーパーズ(筆者)が送る渾身のCENTAUR特集は、かなり濃いめの決定版です。リラックスしてお付き合いください。
今回、我らディーパーズが刮目するのはKLON CENTAUR(ケンタウルス)。言わずと知れた、世界的に有名な“オーバードライブの名機”であります。
今回のトピックはふたつあります。ひとつは「ケンタウルスを名機と言わしめている理由とは、一体何なのか?」。もうひとつは「ケンタウルスはペダルボード内でどんな役割を果たしてくれるのか?」。
名機と呼ばれるには所以がある。名機と呼ばれるには個性的な使い方がある。そのふたつを軸にケンタウルスを検証していきたいと思います。
今回の動画制作において、Deeper's Viewでケンタウルスを取り上げるのであれば、やはり“マニアの皆さん”に力を借りなければなりません。ひと声「お願いします」とご連絡すれば……あれよあれよと貴重なペダルが手元に集まります。というわけで、“その筋の皆様”のご厚意により素晴らしい個体をご紹介できることになりました。
なお、今回は“ゴールドのケンタウルス縛り”となります。「なぜゴールドだけなんだ? シルバーはないのか?」という皆様からの声に対しての明瞭な回答は、“奇しくも”同時期に特集号が発売となったTHE EFFECTOR BOOK誌上にてご確認いただけると思います。簡単に言ってしまえば“ゴールドとシルバーにサウンドの違いは確認できない”ということになるでしょうか。気になった皆様は今すぐ、THE EFFECTOR BOOKを入手してください。
今回のラインナップです。
この強烈なラインナップをじっくりチェックすることで、その全貌が見えてきました。悪いけど、誰にも文句は言わせません。まずは最初期型のサウンドを注意深くチェックします。
シリアル12番の個体に付属していたマニュアルにもありますが、初期のケンタウルスは一般的なオーバードライブ……BOSSやMAXONといった、日本が誇るブランドのペダルのような“歪みを作り出す”用途のほかに、“クリーン・ブースター”としての使用を提案しています。
“クリーン・ブースト”の効果に関しては、MXRのMICRO AMPやtc electronicのIntegrated Preamplifierをはじめ、CENTAUR以前にも“同じように使えるペダル”は存在していたかもしれません。しかしながらケンタウルスは、まったく新しい解釈の“PREAMP/CLEAN BOOSTER”として登場したと言えるのではないでしょうか。
製作者であるビル・フィネガン氏が、4年もの歳月を費やして作り上げたペダル。そのサウンドの特徴は以下に集約されると思います。
特に初期型の歪み感はやや控えめ。GAINを上げるとツイード・アンプ的なドライブ感が確認できます。GAINを時計9時方向あたりにセットすると、それまでのクリーンなエンハンス・サウンドから、いわゆる“ブラウン”な印象……香ばしく、ややミドルが強調されたサウンドに変化します。そのままGAINを上げていくと、アメリカン・サウンドがややブリティッシュなサウンドに変化しますが、この音色の移行がほかのペダルでは“ありえない”感覚で成されます。
さらにGAINを上げていくと、完全にドライブしたサウンドが得られますが、前記した日本製のペダルとは異なる“ギター・サウンドのレンジに完全に一致した”ドライブ・サウンドとなります。いわゆるプレキシ的なクランチ・サウンドではなく、あくまでアメリカン・ツイード・アンプ的なドライブ。しかし、サウンドはブーミーにならず、タイトなまま。この音はほかのペダルではなかなか得られるものではありません。この個性は、オリジナルから現在の「KLON / KTR」にまで引き継がれている、ケンタウルスの“シグネイチャー・サウンド”だと言えます。
そのすべては動画で解説していますが、ケンタウルスは基本的に“気に入ったギターとアンプを持っているミュージシャン”が、特にアンプの個性を引き出せない状況……真空管アンプを持ってライブやRECの現場に行って、音量の関係などからそのアンプが持つ性能を100%発揮できない状況において、“いかにして自身の求めるトーンを引き出すか”という問題をクリアするために作られたペダルだと推測できます。
おもしろいのが、シリアルが若い個体から後期型に移行するにつれて、サウンドに微妙な変化が生まれている点にあります。しかしながら、今回チェックしたすべてのケンタウルスで共通して言えるのが、“小音量で演奏しなければならない環境で”ギター・サウンドを変化させないまま、ビッグな音像、パワー感、そして“スモーキーなテイスト”を加えてくれるという、いわゆるクリーン・ブースト効果です。その効果もバージョンによってやや異なりますが、中でも初期型はいわゆる“枯れた音”を持っていると思います。
当初、ビル・フィネガン氏が自身の思い描くサウンドを生み出すペダルをデザインし、ケン・フィッシャー氏などの意見も取り入れながら製作/チューニングしたとされる“ビンテージ・アンプの友”ケンタウルスですが、実際に市場へ投入したあとも、たくさんの顧客からのフィードバックを踏まえながら、よりギターマニアの要求に応えるべくブラッシュアップを続けました。その結果、後期型ではさらなるゲイン・アップやコンプ感、低音のパワー感などが追加されたのではないか?と私は考察します。今回シリアル・ナンバー12番の個体を提供してくれた坂本氏は、実際に一般の顧客としてビル・フィネガンとメールなどでやり取りをしていたという話ですが、その時にも「どんな音楽を好むのか?」というようなディスカッションがあったそうです。
ケンタウルスのバージョンによる“音の違い”は確かにあります。しかしながら、どのバージョンでも“ケンタウルスに求めるサウンドが100%得られます”。これこそが名機の証と言えるのではないでしょうか? たぶん今回の動画で、多くの皆様が初期型ケンタウルスの魅力的なサウンドに驚かれると思います。それと同じように、多くの皆様は、後期型の音の素晴らしさにも驚かれると思います。つまり、そういうことではないでしょうか?
個人的にはクリーン・ブースト目的で使う場合は、どの時代のケンタウルスを使っても狙い通りのサウンドが得られると思います。ところがケンタウルスを“純粋なドライブ・ペダル”として使用する場合は、より歪み感が増した近年のモデルのほうが向いていると感じます。極端な言い方をすれば、初期はシングルコイル向き、後期はハムバッカー向き、というようなイメージもあります。あくまで、極端な言い方をすれば、です。このことに関しても動画で見解を述べておりますので、ぜひチェックしてみてください。
ここまでケンタウルスの素晴らしさをかなりリキんで書いてきましたが、ソレだけじゃないのです。アンプをプッシュした際の心地よさ、単体での素晴らしい歪みサウンドだけでなく、その他のペダルと組み合わせた際に、より強い個性を発揮します。
今回はケンタウルスの前段に「CULT / “MAXON OD-820 Secede from T.S. mod.”」、「Electro-Harmonix / BIG MUFF」を接続した場合、そしてケンタウルスの後段に「Ibanez / TS10」を繋いだ場合の、”with CENTAUR”のサウンドチェックを行ないました。
CULTのOD-820 MODはクリーン・ミックス機能を備えています。オリジナル状態のOD-820が持つ、特徴的な“クシュっとした”歪みを生かしながら、ギター・サウンドの“芯”をブレンドすることで、絶対的な音の太さを得ています。このOD-820の素晴らしさを維持しながら、小音量でも良い音を得ようとした際に完璧な回答をくれるのが、このセットアップです。もちろん、OD-820以外のペダルを繋いでも、同じように素晴らしいサウンドを生み出してくれます。
1st(……の2ndバージョン)BIG MUFFのサウンドは、クリーミーで倍音を多く含むサウンドです。しかしながら、その倍音ゆえにバンド・アンサンブルの中では、“なかなか音がヌケてこない”ペダル/サウンドだと思います。もちろん、ある程度HOTな真空管アンプに合わせることで、BIG MUFF単体でも素晴らしいサウンドは得られます。しかし、例えばギタリストがそれほど主張できない「歌モノの楽曲」でそのサウンドを得ようとすると……“大音量が前提のサウンドメイク”は、なかなか難しいと思います。
今回のサンプルのように、BIG MUFFの後段にケンタウルスをクリーン・ブースト・セッティングで配置すると、驚くほどBIG MUFFサウンドを“エンハンス”してくれます。もちろん、BIG MUFF独特の柔らかい倍音などは影を潜めますが、それでも十分にアンサンブルの中で際立つファズ・サウンドが得られると思います。この際に、ケンタウルスのTREBLEとVOLUMEコントロールの素晴らしさを体感できます。この効果はBIG MUFFを繋いだ時だけでなく、FUZZ FACEやTONE BENDERなど、ほかのファズでも同じ効果が得られると思います。私の知る限り、良い音のファズ・ペダルの後段に配置できるクリーン・ブースト・ペダルは、ケンタウルスしかありません。残念ながら、多くの“ケンタウルス・レプリカ”では、満足できるサウンドにはなりませんでした。
これは単純に、よくお客様から質問される“ジョン・メイヤー的サウンドメイクに関して”を実践してみただけなのですが(笑)。メイヤー氏は、自身のソロ・バンドなどではTS10を“ややDRIVEを高め”でセットしていますが、デッド&カンパニーなどでは“DRIVEをやや低め”にセットしています。その点で言えば、今回はソロ・バージョンのサウンドメイクということになります。
プレイはさておいて……まず、ケンタウルスで基本となる“ゴツめのシングルコイル・サウンド”を作ります。この時点で、すでにあの音の片鱗が見えてきます。フェンダーの60'sスタイルのストラトキャスター、もしくはPRS SILVER SKYとケンタウルス、加えて調子の良いフェンダー・アンプがあればジョン・メイヤー氏の基本的なサウンドが作れると思います。このサウンドの後段にTS10を加えると、TS10単体では得られない、ミッド・レンジに存在感のある“ヌケるTSサウンド”が得られます。
これはシングルコイル・サウンドのギター・サウンドを、ファズ以外でヌケよく、太く仕上げる手段として“かなり完成されたサウンド”だと思います。本当に弾きやすく、耳障りな帯域を廃しながらギターの個性も殺さないサウンド。ジョン・メイヤー氏のファンだけでなく、多くのギタリストがこの音に魅力を感じる理由が、簡単に理解できました。
今回のDeeper's Viewは、シリアル12番のケンタウルスを知人に見せてもらったことに端を発します。「これは、俺の知っているCENTAURではないぞ……」。ここからすべてが始まりました。さらに時を同じくして、私も少しばかり関わったTHE EFFECTOR BOOKの特集記事……ライター/職者の皆さんのお力添えに加え、貴重なサンプル個体のサウンドを体験/お借りできたことで、今回はケンタウルス・サウンドの“髄”に迫ることができたと思います。
今回わかったことのひとつは、製作者ビル・フィネガン氏の志の高さ。彼は、製作初期の段階から、個体差を持たない極上のオーバードライブ・ペダル製品を作り上げて来ました。個人工房ならではのサウンド/チューニングでありながら、個体差を極限まで抑え、さらに述べ8,000台を超える個体をたったひとりで組み上げた……その誠実な姿勢とサウンドの説得力こそが、名実ともにケンタウルスを“最強のオーバードライブ”と言わしめているのだと思います。また、製作者のエゴだけでなく、ユーザーの意見も取り入れた(であろう)サウンドの遍歴からも、ビル・フィネガン氏の人柄が伺えます(もちろん、会ったことありませんが)。
すべては最上のギター・サウンドのために……誰かから認められる前に、すでにビル・フィネガン氏は自身の中で“極上のサウンドを生み出す法則”をまとめ上げ、それを具現化した事実に、今さらながら驚きと敬意を覚えます。ケンタウルスは、当時のキャッチコピー通りに「PROFESSIONAL OVERDRIVE」でした。20代の頃、このペダルの良さをほとんど理解できていなかった自分を振り返りながら、今回の特集を終えて少しばかり「PROFESSIONAL」の意味がわかった気がします。
ツマミが3つしかない、デカくて、高額なペダル。ケンタウルスは、そのすべてが“誇りを持って作られている”ペダルということが、この長い記事を最後まで読んでくれた皆様に伝わったのであれば幸いです。なお、今回の考察は職者の皆さんの意見も踏まえつつ、まったくもって個人的な意見が多く含まれておりますので、ご了承ください。しかしながら、“クソ長い動画”を最後まで観ていただければ、“ケンタウルス系”ペダルを試しただけではケンタウルスの本当の実力には迫れない、ということもご理解いただけると思います。
というわけで、企画構想1ヶ月を要したケンタウルス特集、お楽しみいただければ幸いです。ケンタウルスを15分の動画で語ることは、私にはできませんでした。次回は短くまとめたいなぁ……と思いつつ、相変わらず長くなると思います。次回のDeeper’s Viewも、どうぞお楽しみに。