アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
オーディオ・インターフェース
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの企業がテレワークを導入し、オンライン需要が高まる中、音楽業界においても“ライブ配信”が注目されています。そこで今回のいっちーのデジタル・デジマートは“ライブ配信で必要な機材”について特集します!
目次
配信方法について
音響機器
映像機器
新型コロナウイルスの感染拡大は、音楽業界に大きな打撃をもたらしました。3密を避けられないライブハウスは休業を強いられ、そこで演奏を行なう予定だったミュージシャンは活動の場所を失っています。現在緊急事態宣言は解除されたものの、従来どおりに音楽活動できる見通しが立っていないのが現状です。
そこで注目されているのが“ライブ配信”です。すでに多くのアーティストがYouTube Live、Instagram、Twitchといった配信プラットフォームを使って音楽活動をはじめています。収益化に関してはまだ手探りな状況ではありますが、ライブ配信は今後の新しい音楽活動として重要な手段になっていくでしょう。
配信はパソコンやスマートフォンを使って誰でも簡単にできます。配信プラットフォームのアカウントを作成し、配信開始のボタンを押すだけ。まずはやってみましょう!
配信に慣れてきたら、音響/映像機器を充実させて、配信コンテンツのクオリティを徐々に上げていきましょう! その際、音と映像の信号は、それぞれでまとめてパソコンに集約させると、信号の流れが明瞭になって何が足りてて何が足りないかが分かります。
また、スマートフォンのアプリや周辺機器は、パソコンに比べればまだ多くはありませんが、最近のスマートフォンは高性能なカメラを搭載しているので、あとは音響機器を追加するだけでも配信のクオリティがアップしますよ!
これ以降、iPhoneで使用可能な機器がいくつか登場します。これらとの接続には、一部の製品をのぞきApple Lightning-USBカメラ・アダプタが必要です。また接続する機器本体にも電源供給が必要な場合が多いので製品仕様の確認をお忘れなく!
プラットフォームによって、配信可能な映像の仕様、集まるユーザー層など、さまざまな特徴があります。また、有料配信や投げ銭システムなどによる“収益化”の有無については、特に今後の音楽活動において重要なポイントとなるでしょう。
配信ソフトを使用すると、パソコン内外からの映像や音声などの素材をリアルタイムに編集して配信に乗せることができるので、コンテンツの充実度が大幅に変わります。
配信ソフトは有料/無料を含めてさまざまですが、無料で多くのユーザーに利用されているOBS Studioがあれば問題ないでしょう。
OBS Studio https://obsproject.com/
OBS StudioはMac/Windows対応ですが、Macの場合、内部の音声(音楽ソフトなど)の配信がシステム上できないので、フリー・ソフトの“LadioCast”と“BlackHole”を使って音声のルーティングを変更するか、または後述する“ループバック機能搭載のオーディオ・インターフェース”が必要です。
また、スマートフォン用配信アプリでは、iOSアプリのSwitcher Studioが有力候補ですが、月額39ドル〜のサブスクリプションということもあり、まだまだハードルが高い印象。今後、OBS Studioのようなアプリの拡充を期待したいところです。
それでは次に、配信で必要な機材について音響機器、映像機器の順に紹介していきます。
高音質で配信するなら“オーディオ・インターフェース”は必須です。基本的にはパソコンに接続しますが、スマートフォンと接続できるタイプも増えています。
現在、配信プラットフォームは多チャンネル入力に対応していないので、例えば、複数のマイクや楽器を使用するために多入力のオーディオ・インターフェースを用意しても、内部にミキサー機能を持っていないと、インプット1、2に接続された音声のみが配信されてしまいます(モノラル配信のプラットフォームでは、インプット1のみ、もしくはインプット1+2が配信できるようです)。
そのため、複数の音声を使用する場合は、ミキサーなどであらかじめ2ミックスにまとめておく必要があります。したがって、配信のために使用するオーディオ・インターフェースは、2系統程度の入力で十分です。オーディオ・インターフェースが搭載されているミキサーだとさらに便利です。
“雑談配信”と呼ばれるトーク配信には、最適化されたオーディオ・インターフェースが用意されています。機種によってはエフェクトや効果音のポン出し機能などを装備し、まるでラジオDJになったかのような気分で配信が楽しめます。※FacetimeやSkypeなどの電話アプリでは使用できない機種もあります。製品仕様を確認してください。
入力端子:マイク(XLR/標準)、LINE(ステレオ・ミニ)
ループバック機能:なし(専用アプリで動画/音声ファイルは再生可能)
対応配信プラットフォーム:TwitCasting、Facebook Live、Twich、YouTube Liveなど
その他:スマートフォンのみ使用可能。専用アプリ必須。
専用アプリとコントロール・ボタン付きオーディオ・インターフェースの組み合わせによる、スマートフォン専用機材。マイクにリバーブが使用できるほか、映像ファイルや効果音の挿入、さらにはスマートフォンをもう1台使って2台目のカメラとしてアングル切替ができるなど、かなり本格的なライブ配信ができます。ちなみに音声は内部でモノラル・ミックスされる仕様です。
入力端子:マイク/楽器(XLR/標準)×2、LINE(ステレオ・ミニ)
ループバック機能:あり
その他:iOSデバイス接続時に制限事項(PONキーが機能しないなど)あり
2系統のコンボ入力端子はハイ・インピーダンス入力に対応し、ギターやベースの接続も可能。また効果音をポンだしできるPONキーや、エフェクターも搭載しています。また同シリーズには、無指向性のコンデンサー・マイクとコンボ入力端子(ハイ・インピーダンス入力非対応)を1系統搭載したUS-32Wもラインナップ。
入力端子:マイク1(XLR)、マイク2(ミニ)、LINE(ステレオ・ミニ)、Optical
ループバック機能:あり
その他:Mac、スマートフォン非対応
ゲーム実況などのEスポーツ市場にも向けられたWindows専用の配信向けオーディオ・インターフェース。TC-HELICONならではのボイス・エフェクトを生かしたユニークな配信が可能です。4つのパッドに3バンク分のサンプルをアサイン可能なサンプラーを搭載し、ムービング・フェーダーのミキサー・セクションには、音声を自由にアサインすることができます。同シリーズにはオーディオ・インターフェースとミキサー・セクションに特化したGO XLR Miniもラインナップしています。
入力端子:マイク(XLR/標準)、ギター(標準)/ライン(標準ステレオ)、ライン(ステレオ・ミニ)
ループバック機能:あり
2イン/2アウトのUSBオーディオ・インターフェース機能を備えた3chミキサー。リバーブなどのエフェクトも搭載し、マイク入力用のチャンネル1には放送局のカフ・ボックスを想起させるロング・フェーダーを装備しています。
雑談配信をシンプルに行なうなら、以下のようなオーディオ・インターフェース一体型マイクを使うのも手段のひとつです。これらはビデオ会議などのビジネス用途としても人気があります。
IK MULTIMEDIA iRig Mic Cast HDは、パソコンとiOS/Android5以降(動作条件はメーカー・サイトにて)とケーブル1本で接続可能。しかも指向性をフロント、リア、両方が選べるので配信する対象によって切替ができます。オシャレな球体デザインでスタンド付きのSHURE MV5は、パソコンとiOSに対応で専用ケーブルも付属。ボイス/フラット/楽器の3種類のDSPモードを搭載し、音声ソースに合わせた収音ができます。
マイクを使ってステレオ配信するには、マイク2本とオーディオ・インターフェースが必要になりますが、もっとシンプルな機材で簡単に配信することもできます。
ライブ収録に便利なビデオ・レコーダーZOOM Qシリーズは、なんとWebカメラ/USBマイクとして使用可能! パソコンと接続するだけで映像も音声もカバーできます。ちなみにiOSと接続した場合はUSBマイクとして使用可能。すでにお持ちの方は試してみてください。
これはiPhoneに限りますが、Lightningコネクターに直接取り付けられるiOSデバイス用ステレオ・マイクを使うと、手軽に臨場感あふれる配信ができます。これらは【事例 1】の雑談配信やビデオ会議などでも使えますね。
ZOOM iQ7は、ステレオの広がりを自由自在に調整できるMSステレオ・マイクで、iPhoneを縦横どちらで使用しても正しいステレオ定位をキープする回転機構を装備しています。またSHURE MV88は、マイクを傾けたり回転させたりして収音する向きを変えることが可能。また、ビデオ収録に特化したMV88+ Video Kitは、マウント・キットやスタンドがセットになっています。
ライブやフィールド・レコーディングなどで活躍するハンディ・レコーダーの一部は、オーディオ・インターフェース機能を搭載しているのでUSBマイクとしての使用が可能です。こちらもビジネス用途として人気があります。
アコースティック・ギターを使った弾き語りなどの配信は、【事例 2】の方法でもできますが、それぞれのパートをマイクで収音すると、さらに良い音像で配信できます。
この時、気を付けたいのがオーディオ・インターフェースへの音声入力です。配信プラットフォームの音声がステレオの場合、インプット1、2にそれぞれマイクを接続すると、ボーカルとギターの音声が左右で分かれて出力されることがあります。
このような問題は、配信ソフトでモノラルにダウンミックスすることで簡単に解決できますが、スマートフォンからの配信では設定できない場合があります。そこで、さまざまな環境に対応するには、ミキサーを使って2ミックスした状態でオーディオ・インターフェースを経由して、パソコンやスマートフォンへ音声を送るようにします。この時エフェクターも用意できると良いですね。
前述のオーディオ・インターフェース搭載ミキサーYAMAHA AGシリーズは、空間系エフェクトとギターやベース用にアンプ・シミュレーターを内蔵しているので、弾き語り配信にも活用できます。
入力端子:マイク(XLR/標準)、マイク/ギター(XLR/標準)、ライン(標準ステレオ)、ライン(RCAステレオ)、ライン(ステレオ・ミニ)
ループバック機能:あり
AG03と同シリーズの6chミキサー仕様。2つのマイク入力端子のうち、1つはハイ・インピーダンス入力対応でギターやベースが接続できます。またステレオ入力は2系統でシンセサイザーやオーディオ機器を接続しやすい端子を装備。AG06のボリューム・コントロールはすべてノブになっているので、多入力ながらもコンパクトなのが特徴です。
無観客ライブなど、ライブハウスで配信する場合は、PAから2ミックスをもらうのが一番シンプルで確実です。これならオーディオ・インターフェースを用意するだけで音周りの環境はバッチリですね。
リハーサル・スタジオや音響機器が整っていない場所からの配信は、以下のようなオーディオ・インターフェースと豊富なエフェクトを搭載した多チャンネル・ミキサーがオススメです。
リアルタイムに操作しやすいのはもちろんのこと、各チャンネルにコンプレッサーを搭載するモデルや、SDカードやUSBメモリーにマルチトラック・レコーディング可能なモデルなど、さまざまな特徴があります。
DAWやDJソフトを使った演奏を配信する場合、音楽ソフトと配信ソフトを1台のパソコンで同時に立ち上げると負荷が大きくなってしまいます。快適な配信を行なうためにも、パソコンとオーディオ・インターフェースはそれぞれ用意したほうが良いでしょう。
そんな時に便利なのが、Pioneer DJ製のDJミキサー、DJM-V10、DJM-TOUR1、DJM-750MK2、DJM-450です。これらにはデジタルDJで使用するためのオーディオ・インターフェースとは別に、iOSデバイスに音声を送ることができる専用端子を搭載しています。これにより、パソコンを使ったDJプレイをiPhoneから配信することができます。
この時、DJ向け録音アプリDJM-REC(30日間は無料)が必要になりますが、ケーブル1本でダイレクトにiPhoneから配信できるのは非常に便利です。
さらにPioneer DJ DJM-900NXS2、DJM-V10、DJM-TOUR1においては、パソコンを使ったDJ同士がスムーズに交代できるようにオーディオ・インターフェースが2基搭載されています。したがって、このうち1基を配信用パソコンと接続すれば、別途オーディオ・インターフェースを用意する必要がありません。特殊な例ですがこれは便利です!
「配信はループバック機能を搭載しているオーディオ・インターフェースが必要だ」という話を聞いたことありませんか? ループバックとは、外部からの入力音声とパソコンの音声をミックスして再びパソコンへ戻す機能のことです。この機能を使うと、パソコン内の音楽プレーヤーでオケを流しながら、歌って配信することができます。
オーディオ・インターフェースにループバック機能がなくても配信ソフトを使えば可能ですが、Macの場合は前述のとおりソフトが必要なので、Macユーザーはあると便利な機能です。
音響機器のまとめとして、iOSデバイス対応のオーディオ・インターフェースを中心に集めてみました。もちろん配信で使用できるオーディオ・インターフェースはこの限りではございません。ご自身がやりたい環境にあわせて選んでください!
▼ オーディオ・インターフェース一覧はこちら
ループバック機能:あり
イギリスのスタジオ機器メーカーによるコンパクトなオーディオ・インターフェース。入力ゲイン調節を自動で設定できるスマートゲイン・モードを搭載しています。
ループバック機能:あり
DJ機材や電子楽器などとステレオ接続に便利なRCA入力端子を装備。スマートフォンでも使えるループバックや、モノラル配信限定したプラットフォームに対して“モノラル・ミックスを送信できるスイッチ”も搭載しています。
ループバック機能:あり
視認性の高いフルカラーLCDのレベル・メーターを備え、歪みが少なくS/N比が良いクリーンなプリアンプや高級オーディオなどに使われているESS Sabre32 DAコンバーターを搭載しています。
ループバック機能:なし
専用ケーブルでiOSデバイスと直接接続することが可能。同社のDAWソフトStudio One ArtistとiPad用のレコーディング・アプリCapture Duoが付属しています。
ループバック:あり
フロント・パネルで操作できるコンプレッサー/リミッターを搭載した2イン/4アウトのオーディオ・インターフェース。パネル面と上面どちらからも確認できる入力インジケーターを搭載しています。
ループバック機能:あり
2イン/2アウトのシンプルな仕様に高品位なプリアンプとDSPエフェクターを搭載したオーディオ・インターフェース。DSPエフェクターはdspMixFxアプリからコントロール可能です。
ループバック機能:Windowsのみ
筐体デザインは多くの音楽制作機器を手がけたアクセル・ハートマン氏によるもの。現行モデルにはDAWソフトSteinberg Cubasis LEとDAWアプリSteinberg Cubase LEが付属しています。
ループバック機能:あり
テーブルトップ型の2イン/4アウト仕様のオーディオ・インターフェース。iOSデバイスで使用する場合は、単3乾電池2個または別売のACアダプターで動作できます。
オーディオ・インターフェースだけでなく、マイクもヘッドフォンも揃えたい!という方には、バンドル・パックがオススメです。単体でそれぞれ購入するよりお買い得。DAWやプラグインが付属するモデルもあるので、これを機に楽曲制作もいかがでしょうか?
クオリティの高い配信コンテンツを目指すなら映像にもこだわりたい。そんな方にはカメラの液晶モニターの映像をそのままHDMI出力できるHDMIモニタリング・スルーを搭載したデジタル・カメラをオススメします。ちなみに同機能を備える家庭用ビデオ・カメラでもOK。※機種によってはメニュー表示の消去ができない場合があります。
ここでパソコンに映像を送るために必要なアイテムが“ビデオ・キャプチャー”です。さまざま機種がありますが、ライブ配信で使う場合は“ソフトウェア・エンコード方式”を選びましょう。ハードウェア・エンコード方式よりも映像遅延が少ないのが特徴で、Elgato Cam Linkシリーズのようなシンプルなタイプが配信でよく使われているようです。
しかしながらビデオ・キャプチャーは品薄状態で続き入手困難な状態に……。このようなニーズに応えて“デジカメをUSBでつなぐだけでWebカメラとして使えるドライバー”を無料で公開しているメーカーもあります。
現在ドライバーを公開しているメーカーは、富士フイルム、キヤノン、パナソニックですが、デジカメをビデオ・キャプチャーなしで使えるのはありがたいですね。
配信ソフトを使えば、複数のカメラをスイッチングすることができますが、“スイッチャー”を使うとHDMI出力の映像を1系統にまとめられ、映像を曲にあわせて素早く切り換えられます。さらに、Roland VR-1HDやBlacmagic ATEM miniは、スイッチャーとしての機能だけでなく、USB経由でパソコンに映像が送れます。つまりビデオ・キャプチャーは不要。ちなみにVR-1HDは映像も音声も一括管理ができるので、配信はこれ1台でバッチリです。
マルチカム配信のために、すべて一眼レフ・カメラでそろえられると良いのですが、そこまで予算をかけるのは難しい、しかもWEBカメラは品薄状態が続いているので入手しづらい……。そんな場合は以下の方法を試してみてください!
【事例 2】でも紹介しましたがもう一度。ZOOM QシリーズはパソコンとUSB接続することで、Webカメラ/マイクとしても使用できます。しかも音声もきれいに収音できるので配信アイテムとしてかなり優秀です!
スマートフォンをWebカメラとして使える便利なアプリがあります。マルチカム配信用のサブ・カメラとして、またはカメラが内蔵していないパソコンの代用としても活用できそうです。この時、スマートフォンとパソコンが同一ネットワーク上でWi-Fi接続されていることが条件です。
いかがでしたか? 特に配信の音周りは用途によっていろんな方法があることがお分かりいただけたかと思います。これらの情報は日々アップデートしており、配信のノウハウについてはインターネットを介して情報交換されています。常に最新情報をチェックして、トライ&エラーを繰り返しながら理想の配信環境を整えてみてください!
いっちー
学生のころから作曲やDJ活動、バンド活動などの経験を積む。某楽器販売店を経てリットーミュージックに入社。前職では楽天市場内の店長Blogを毎日10年以上更新し、2008年ブログ・オブ・ザ・イヤーを受賞。得意ジャンルはクラブ・ミュージック。日々試行錯誤中。