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- 2024/11/16
ソフトウェア音源
歴史的名曲のバック・トラックを、電子楽器やソフトウェアなどで完コピする連載企画。今回は2回目の登場、島村楽器「デジランド」のプロデューサー坂上暢さんによるバグルス「ラジオスターの悲劇」です!
※アップロード先として音楽SNSアプリ“nana”を使用。イントロから約90秒間を切り出して編集しています。
トレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズ(2人は後にイエスへ加入)が在籍した伝説のバンド「バグルス」のヒット曲としてあまりにも有名ですね(作曲はギターのブルース・ウーリー)。「ラジオ・スターの悲劇」という邦題はなかなか洒落ていますが、原曲は1979年にリリースされ、1981年に当時のMTVで最初にオンエアされたミュージック・ビデオで大ブレイクしました。
曲のストーリーは、テレビにより干されてしまったラジオ時代の歌手について歌ったもので、特徴的なドレヴァーのラジオ・ボイスは、ギター・アンプVOX AC30に通したボーカルをEQ処理して生み出されたとのこと。時代を超えて多くの人が一度は耳にしたことがある名曲ですね。なおミュージック・ビデオには、今や映画音楽界の巨匠ハンス・ジマーも出演しているのでぜひチェックしてみてください。
前回と同様に、まずは耳コピでMIDIデータを作成しました。DAWは愛用のMOTU DP10です。
仮打ち込みの段階ではRoland Sound Canvas VAを使用しました。これは本連載のVol.2「OWARI NO KISETSU(終りの季節)」でも紹介されていたRolandのDTM用マルチ音源SC-88Proを元に開発されたソフト・シンセです。
マルチティンバー対応でサクサク使えるソフト音源は貴重な存在なので、Sound Canvas VAは本当に重宝しています。作り込めばこれだけでも良い音になるし、十分原曲に近いクオリティに仕上げる自信もあるのですが、今回は最終的に最新のソフト音源に差し替えてみました。
ちなみに、音源が変わればベロシティ感度や、音色のニュアンスも変わってしまいます。そこで仮打ち込み段階ではノート・データの正確な耳コピに注力して、アーティキュレーションや緻密なベロシティ/ゲート・タイムなどの設定は、別のソフト音源に差し替えた後に行ないました。このあたりのさじ加減は長年のデータ作成で得た経験則です。
それでは、登場パート順にポイントを紹介します。
今回はソフトウェア音源に内蔵されているコンプやEQなどを極力活用し、DAW側のエフェクトは最小限で使用しました。 イントロのキーボードはYAMAHAのエレクトリック・グランド・ピアノCP-70もしくはCP-80、そしてRhodesのエレピを重ねたサウンドだと思われます。
ここではフィジカル・ピアノ音源MODARTT Pianoteq 6の中から、CPサウンドとダイノ・マイ・ピアノと呼ばれるRhodesの改造モデル・サウンドを使用しました。
イントロのダブリングされたベースはフレットレス風のサウンドがマッチすると思い、Spectrasonics Trilianに入っているジャコ・パストリアス風のプリセットを2パート使用しています。モノラルなので分かりづらいかもしれませんが、微妙にタイミングや音程を変えてダブリングっぽく処理しています。
つづいてSolina String Ensembleと思われるシンセ・ストリングスが重なります。ボーカルが入ってからのアルペジオもおそらくSolinaでしょう。ただしリリースが異なるので、今回はRoland INTEGRA-7に収録されている「Vintage 5」をエディットして2種類使い分けています。ファンファーレ風のシンセもINTEGRA-7の「JUNO Brs」をエディットして使用しています(原曲はProphet-5かもしれません)。
ドラムとメインのベースはIK Multimedia MODO DRUMとMODO BASSを使用しました。 どちらもフィジカル・モデリングのソフトウェア音源です(MODO DRUMのシンバルはサンプル・ベース)。原曲ではドラムはほぼドライで、サラッとアンビエントが加わっている感じですが、キックはミドルが強調されてコンプのかかった存在感のあるサウンドですね。
MODO DRUMのプリセット「Rock Custom」をもとに、キックやスネアはアンビエントや被りもほぼカットしてカスタマイズしました。フィジカル・モデリングならではの細かいエディットが可能なマニアックな製品ですが、おかげでかなり近い音になったと思います。
なおドラムやベースは仕上げにiZotope Neutron 3を差し込んでEQなどを微調整しています。
シュワーンという効果音ですが原曲はグリスではなく音色のピッチ・エンベロープでやっているようです。この手のサウンドは意外とソフト・シンセのプリセットに入ってなくて、アナログ・シンセで作ろうかと思ったんですが、DP10にバンドルされているMX4の音がバッチリとハマりました。
効果音の直後に4小節だけ出てくるギターのフレーズはMUSIC LAB REALSTRAT 5です。IK Multimedia Amplitube 4のキャビネットを通し、ショート・ディレイとスプリング・リバーブを加えてみました。ミュートの感じがよくできたかなと思います。
前回同様、WAVES S1 Stereo Imager(Mercury、Diiamond、Platinum、Horizon、Gold、Sound Design Suite 、Power Packなどに収録)を使用して、モノラルとステレオの音場をオン/オフで切り替えて原曲と聴き比べながらミックスを行ないました。nana用に多少派手目にデフォルメしているのはご了承ください。
前述の通り、プラグインは最小限に抑えようと思ったので、EQやリバーブもDP10の内蔵エフェクトを使っています。
なおマスター・トラックにはiZotope OZONE 9を使用しました。マスタリングのプリセットを選び、機械学習技術を利用した目玉機能の一つ「トーナル・バランス・コントロール」で出音をチェックして微調整。これ本当に便利ですのでオススメです。
坂上 暢(さかうえ みつる)
学生時代よりCM音楽制作に携わり、音楽専門学校講師、キーボード・マガジンやDTMマガジンなど、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作を行なう。その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di、JUNO-Gi、Sonic Cell、JUNO-STAGEなど)、音色作成、デモンストレーション、セミナーなど手がける。島村楽器のデジタル楽器情報サイト「デジランド」プロデューサー