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- 2024/11/16
Martin / SC-13E、CTM D-28、OM-28、000-28 VTS
好評連載Martin Times。今年最初となる第37回目は、メキシコ製のRoad Seriesから革新的なSC-13Eを、そしてCTMからD-28/OM-28/000-28のVTSモデルを毎度お馴染み斎藤誠さんの演奏でお届けします! また、マーティン本社にて撮り下ろしたクリス・マーティン4世のインタビュー動画も公開! 限りある資源を使って製作されるアコースティック・ギター。今後の製作や地球環境に対する想いを語ってもらった。
今回はマーティンの“伝統”と“未来”の両方に目を向けさせてくれる4本のラインナップをご紹介しよう。
まずは代表的とも中堅とも呼べるスタイル28の3機種(000、OM、D)。こちらの予備知識として、000サイズのボディはガット弦の時代から存在し、スティール弦用の000-28は1920年から製造されている。1929年に登場したOM-28は、000のボディを利用したマーティン初の14フレット・ジョイントのモデル。D-28は1931年に12フレット・ジョイントのモデルとして登場し、1934年に14フレット・ジョイントに変更されている。今回取り上げるのはそれぞれのカスタム・モデルで、音の要であるトップ材にはVTS加工を施したスプルースを使用。VTS加工では、本来ならスタイル45で使用されるプレミアム・グレードの材を使用するとのことなので、カスタムながらお買い得感の高いモデルと言えるだろう。
そして最後の1本SC-13Eは、カッタウェイ付きの非対称ボディや、高音弦側だけにスキャロップ加工を施したXブレイシング、ヒール部分が滑らかなボルト・オン・ジョイントなど、従来とはまったく異なる発想がふんだんに盛り込まれているのが特徴だ。宇宙から見た地球を象徴する青と白の装飾をあしらったその斬新なデザインは、このギターのためというよりも、むしろ環境保護を含めたマーティン社そのもののこれからの方向性を打ち出したとでも言うべき、真の意味での画期的なものとなっている。
おそらく戦後に発表されたマーティンの中で最も斬新なモデル。上記で触れた部分も斬新だが、最大の特徴は、環境の変化に応じて簡単に(ただし専門の技術者による作業が必用)セット・アングルを変更できる13フレット・ジョイントのネックだろう。その発想は創業時に作られていたシュタウファーの流れを汲むギターのネック調節機構を彷彿とさせる。最もマーティンらしからぬ外観のエレアコだが、むしろそこにはかつてOMやDといった革新的なモデルを生み出したマーティンの本質が表われていると言えるだろう。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:コア・ファイン・ベニヤ ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:トレブル・サイド・スキャロップトX with ノン・スキャロップト・トーン・バーズ ●価格:¥250,000(税抜き)
NAMM Showでも話題になっていて、僕も注目していたんですよ。カッタウェイがあるのでデモはハイ・ポジションを多用する曲にしました。13フレット・ジョイントというのは言われなければ気付かないほど違和感がなかったし、非対称のボディも違和感がなくて、とにかく弾きやすかったです。エレアコなのに軽いのも良いですね。演奏スタイルや気候によって細かく調節できるアコースティック・ギターというのはこれまでになかったわけで、調整で弾き心地がどう変わるのか、とても興味があります。現状はロー・アクションに調整されているので、オグちゃん(小倉博和)みたいなプレイヤーにはうってつけでしょう。
あらゆるアコースティック・ギターを代表すると言っても過言ではないドレッドノートだが、現社長マーティン4世によれば、発売当初は「大きすぎる」、「低音が出過ぎて使えない」など、かなりの不評を買ったという。こうしたエピソードはマーティンの革新性を物語っているとも言えるのではないだろうか。本機はHDではなくDを基本にしたモデルということで、ブレイシングはノン・スキャロップ、バインディングはヘリンボーンではなく、マルチ・ストライプという仕様になっている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:ブラック・エボニー ●ブリッジ:ブラック・エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm) ●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:ノン・スキャロップト・フォワード・シフテッド ●価格:オープン・プライス
普通のD-28よりも低音の抑制が効いていて、コントロールしやすいですね。それに対して1~4弦は音がきらびやかで、「ガリッ」というアタックもしっかり出てくれるけれど、太さもある。僕が「ニール・ヤング弾き」と呼んでいるミュートしながらのコード・ストロークをやっても、低音がボコボコしないんですよね。デモ曲もストロークを多用するものにしましたが、コードのボイシングが明瞭に再現されていると思います。通常のD-28でよく言われるさまざまな問題点が改善されている感じで、ドレッドノートの苦手な僕にとっても、このカスタムはすごく弾きやすいです。パッと見、ごく普通のDニッパチだというのもカッコ良いですよね。
000サイズのボディに25.4インチのロング・スケール・ネックを組み合わせたOMは、1929年に当時の人気バンジョー奏者ペリー・ベクテルから「15フレット・ジョイントのギターを作って欲しい」という依頼を受けて開発された。しかし15フレットは構造的に無理があるということで、14フレットに落ち着いたという経緯がある。VTS加工のトップ材には000モデルよりも小ぶりなピックガードが貼られており、これがOMの特徴のひとつになっている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:ブラック・エボニー ●ブリッジ:ブラック・エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm) ●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:スキャロップト ●価格:オープン・プライス
毎回言っていますが、OMは000に比べてスケールが長くてテンションが強いので、その甲斐あってすごくクッキリとした音が前に飛んでいくのが魅力なんですよ。指は痛いけれどね(笑)。このカスタムは反応がすごく素直で簡単に音が出てくれる感じがしますが、これはVTSの効果なんでしょうね。デモは指弾きで始まる曲にしましたが、それはOMなら弱く弾いても音が前に出るからなんです。でも、それだけじゃおもしろくないだろうということで、途中からストロークのサウンドに変えていますが、どちらの弾き方でも、ひとつひとつの音がクッキリ出てくれるので、弾いていてすごく安心できます。しかしこのギター、良く鳴るしバランスも良いですね。
24.9インチ・ショート・スケールの代表的なモデル。ハイフンで区切られたマーティンの型番の前半はボディ・サイズを意味しており、5や2といった数字が小さいほどサイズは大きくなる。1900年前後にはサイズ0を超えて大型化したために、型番は0の数を増やして対応した。現在では比較的コンパクトとされる000だが、もともとはマーティン最大のモデルだったのである。本機の仕様はスタンダード・シリーズのものを基本に、トップ材をグロス・クリアー仕上げに、ネック材にジェニュイン・マホガニーにそれぞれ変更している。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:ブラック・エボニー ●ブリッジ:ブラック・エボニー ●スケール:24.9インチ(632.5mm) ●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:スキャロップト ●価格:オープン・プライス
000なのにすごく大きな音で鳴るのは、これもやっぱりトップ材の効果でしょうか。プレーン弦の音がワウンド弦の音と仲が良いのは、000本来の特徴なんですよね。ロー・ポジションのGコードを弾いてもプレーン弦が突出しない感じです。セーハするコードを弾いた時なんかには、まとまりの良さがよくわかります。コードをジャカジャカ鳴らして弾き語りする人だとテンションが弱めでコードが押さえやすいこととも相まって、すごく歌いやすいでしょうね。初心者がよくぶつかる「Fの壁」も、こういうギターなら乗り越えやすいでしょう。ベンドを多用するリード・プレイにも良いですね。
今回のカスタム・モデルは、とにかくVTSの勝利という感じですね。全部欲しいです(笑)。D-28は明瞭でバランスの良いサウンドが魅力で、これまでのDニッパチでは躊躇していた方向性の演奏スタイルも試してみようという気にさせてくれるギターだと思います。OMと000は、スケールが1cm違うだけでサウンドのキャラも弾き心地もまったく違うのに驚かされますが、OMは自分の味方だと思うぐらい慣れているので、多少面倒くさいフレーズを入れても安心できます。
今回のカスタムみたいなギターをきっかけに、OMのほうが好きだという人が増えてくれれば嬉しいですね。とはいえ、000は弾きやすくて、弾いているうちにOMより良いような気になってくるぐらい魅力的です(笑)。
SC-13Eは、すべてのことを含めて新しい方向を向いているというのが僕の中では大マルです。マーティン・ファンの中には眉をしかめる人もいるだろうし、もちろんその気持ちもわかる。でも、マーティンの会社には若い人もいっぱいいるわけで、このギターからはそういう人たちのアイディアを結集している感じが伝わってきて、弾く前からワクワクしました。弾いていると違和感はまったくないけれど、見る人にとっては斬新だというのがおもしろい。サウンドのキャラはあくまでもマーティンなんですけれどね。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西 慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したことをきっかけに音楽界デビューを果たす。
1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポート・ギターを始め、数多くのトップ・アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。
2018年4月18日、MARTIN GUITARのラジオCMでお馴染みの「It’s A Beautiful Day」をニュー・シングルとしてリリース。また、本人名義のライブ活動のほか、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務めており、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンドや卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!