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- 2024/11/16
ソフトウェア音源
歴史的名曲のバック・トラックを、電子楽器やソフトウェアなどで完コピする連載「名曲完コピ倶楽部」。今回はマルチ・シンガー・ソングライターNOROさんによるカイリー・ミノーグ「ラッキー・ラヴ(I Should Be So Lucky)」です!
※アップロード先として音楽SNSアプリ“nana”を使用しています。
オーストラリア出身のカイリー・ミノーグのセカンド・シングル。80'sのユーロ・ディスコを代表する曲のひとつで、プロデュースはイギリスの音楽チーム“ストック・エイトキン・ウォーターマン”が担当。Hi-NRGやユーロビートの要素をふんだんに盛り込んだ、ポップでダンサブルなサウンドが特長的です。皆さんも一度は耳にしたことがあるのでは? 日本でもTommy february6や、mihimaru GT、E-girlsなど、多くのアーティストがカバーしています。
私がまだ自分の作品をリリースする前、この曲の「歌」をコピーするお仕事をしたことがあります。今回せっかく「完コピ」という企画にお声がけいただいたので、今度はオケをやるしかないと思ってチャレンジしてみました。あとで伴奏に歌を乗せてnanaにアップしてみようかな(笑)。
今回の制作にあたっては、まず原曲をSTEINGERG Cubase Proに取り込み、何回も聴いて丁寧に打ち込んでいきました。ひと通り完成させた後、クオンタイズをかけて各パートをオーディオに書き出したのですが、発音のタイミングがそろい過ぎて不自然な部分があったので波形編集機能を使って調整しました。
メインで使用したのは、24種類のビンテージ・キーボードがエミュレーションされたソフト音源バンドルArturia V Collection 7。原曲では、これらの元となるハードウェア機器が使われているわけですが、今ではそれらがコンピューター1台で再現できてしまうという……。良い時代になりましたね!
レジェンド・シンセサイザー/キーボード24種類が集約されたソフト音源バンドル。本バージョンには新たにCZ V、Mellotron V、Synthi Vの3インストゥルメンツが追加された。
最初にAnalog Lab 4を使って音色を選びました。このソフト音源はV Collection 7のプリセットから6,000種類以上がまとめられ、カテゴリ検索によって目的の音色を素早く見つけることができます。また、ロード時間が短くサクサクと音を選べるので、わざわざ音選びのために24種類すべてを立ち上げる必要がありません。もちろん音色のフル・エディットも可能なので、片っ端からプリセットを聴いて原曲に近い音色を選んだ後、効率良く理想の音色に近づけることができました。
今回最も多用したのはFairlight CMIを再現したソフト音源CMI Vです。このシンセの音色作りは、サウンド・ライブラリの中からいくつか選んでブレンドするタイプ。足りないニュアンスを追加してミックス・バランスを調整していけるので、直感的な作業ができました。
難しかった音色作りは、楽曲の中で目立つブラス、ストリングス、スネアですね。ブラスはCMI Vで5つのホーン系の音色を調合し、ストリングスはMINI V(Moog MiniMoogを再現したソフト音源)を使っています。
ベースには2種類のソフト音源を使用。8分音符を刻んでいるのがCZ V(CASIO CZシリーズを再現したソフト音源)、裏打ちのゴリゴリしたベースがDX7 Vです。
スネアはIK Mulitimedia SampleTank4のLinn Drum系のサウンド・ライブラリを使用し、ソフト音源のエフェクトで加工&オーディオに書き出した後、Cubaseのオーディオ・ピッチ機能でキーを下げて音を太らせました。
膨大なサウンド・ライブラリやエフェクト、MIDIパターン、ループ素材などを含んだマルチ・ソフト音源。音色、スタイル、ジャンル、雰囲気などからすばやく音色を絞り込むことが可能。
ちなみにキックはCMI V、ハイハットはSEM V(TOM OBERHEIM SEMを再現したソフト音源)、シンバルはSampleTank4を使用しています。
一番の難関だったのはミックス作業です。初めはステレオでオーディオに書き出してから、“nana”のアップロード条件「16ビット/44.1kHzのモノラル」に変換していたのですが、原曲と聴き比べたところ、音量感が出ておらず……。そこで、思い切って作業を引き返し、Cubase Proに標準搭載されているStereo Enhancerを使って各トラックをモノラルにしてからミックスし直しました。
リバーブと音の微調整には、WAVES Manny Marroquin Signature SeriesのReverbとTone Shaper、Distortionを使いました。このReverbは、リバーブ感の調整が簡単でコンプもEQも1つで調整できるのがとても便利です。またTone Shaperは、微妙なEQのニュアンス調整に役立ちました。
ミキシング・エンジニアのマニー・マロクィンが使用するEQ、リバーブ、ディレイ、ディストーションなど6種類のシグネイチャー・プラグインを収録。
マスタリングにはSteinberg WaveLab Proを使用しました。過去に使っていたバージョンでは、リミッターやレベラー、EQなど、複数プラグインを使っていましたが、最新バージョンに搭載されたプリセット・プラグインMasterRigを1つ使うだけでそれらの調整が可能でした。
また、オリジナル音源との比較には、スペクトログラム表示を見比べて、音量感が薄い帯域を確認したり、MeldaProduction MAuto Equalizerを使って比較したい音源のEQをスキャンして、結果を見比べる時に大変役立ちました。
長い歴史を持つオーディオ編集&マスタリング・ソフト。Cubaseとの連携も可能で、制作からマスタリングまで一貫したワークフローを実現している。
ちなみに今回使用したオーディオ・インターフェースはRME Fireface UC、モニター・スピーカーはGenelec 8330APです。解像度が高く、低域もしっかり聴き取れるので、ひとつひとつの音が作りやすい! 買って良かった逸品です。
DAWを使った楽曲制作は、シーケンサーとプラグインをパズルのように組み合わせるように直感的に作ることもできますが、こだわり出すとなかなかの根気が必要です。それに、作業している時って主観的になりやすいので、一度完成したかな?と思っても、後日聴いてみると改善点に気付いたりするものです。“nana”のようなSNSに作品をどんどん発表して、いろんな感想や意見をもらうというのも良いかもしれませんね!
それに完コピって、楽曲制作や打ち込みのスキルアップにとっても役立ちます。私もこの企画のおかげで、今まで使ったことのないプラグインを試すことができました。DAW初心者の方も、こんな感じで好きな曲のコピーから始めてみてはいかがでしょうか? レッツ・エンジョイ打ち込み!
NORO(のろ)
フリッパーズ・ギターなどを世に送り出した牧村憲一氏エグゼクティブ・プロデュースの元、2007年に1stソロ・アルバムをリリース。収録曲は仏映画「DREAMLAND」の挿入歌としても抜擢された。その後はステフ・ポケッツなど海外アーティストとのコラボレーションも行ない、共同プロデュース曲「Round&Round」がJAL国内線の洋楽ヒット・チャンネルに掲載されるなど実績を残す。2016年に生楽器をフィーチャーした4枚目のアルバム「Je T'aime」をリリース。そのほか、映像作品への出演やデザインなども行なっている。